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コルクアートの軌跡 第2話 挫折

第2話 コルクアートのはじまり
     飲食業界での挫折をへて

目次
・家族のこと
・コルクアートのはじまり
・ふたたびレストランの舞台へ
・大腿骨骨折
・飲食業界での挫折をへて

・家族のこと

ワインの魅力に惹かれ、好きなことを仕事にできたことは幸運だったと思います。

しかしながら、ソムリエの業務は突き詰めてみると奥が深く、接客を通して正解のない人と人の関係性や課題を、対話を続けながらより良い状況に導いていくような仕事です。

時に行き詰って息詰まるようなことも数多く起こるのですが、その中で心の支えになってくれたのが家族の存在でした。

僕は30才の終わりに結婚をしたのですが、相手は子供2人いる方で、入籍するときは妻のお腹に赤ちゃんがいました。

それまで友人とのルームシェアから始まって9年ほど
都内を転々と気ままな一人暮らしだったのですが、
いきなり5人での生活が始まります。

好きなことを仕事にできているという自己満足から、家族を養っていかなくてはいけない責任のようなものをここから背負っていくことになります。

その後さらに2人の子供を授かり、僕と妻と子供5人、家族7人になる頃には賃貸では部屋が足りなくなってしまい、妻の実家の倉庫だった3階をリフォームして子供部屋を作り、妻のご両親と2世帯での生活となりました。

ソムリエ仕事もたいへんでしたが、結婚後15年たった今、大家族での日常生活も振り返るとたいへんだったように思います。

・コルクアートのはじまり

20代の前半からワインの仕事を始め、コルクアートの発想を思いついたのが37歳の時、2014年のことでした。

レストランや自宅、ワインイベントなどでワインを楽しむたびに大量に廃棄される瓶とコルク。

眺めているとワインを楽しんだ想い出が蘇ってくる空瓶や、コルクを捨てられずにいるワインファンの方は僕以外にもたくさんいました。

レストランやワインショップでもオブジェとして、無造作に置かれているコルクの山をよく見かけていて「たくさんあるけれども使い道のないコルクで、何か大きな作品を作りたいなぁ」と思うようになりました。

ワインの染みた濃淡を使って、人物画を描こうと決め試行錯誤して1作品目ナポレオンの肖像画を完成させると、コルクを提供いただいた方々も仕上がりに驚いたようで

「廃棄されるだけのコルクからこんな作品が生まれるなんて想像もしなかった!」と、とても喜んでいただけました。記念すべき、コルクアート誕生の瞬間でした。

どのくらいの数が必要なんだろう?
どうやって組み立てればいいんだろう?

制作は簡単だったわけではなく処女作の完成を迎えるには半年以上かかりましたが、このお話は、第4話で詳しくお話します。

・ふたたびレストランの舞台へ

恵比寿の職場では、定期的にワイン会と呼ばれる
レストランを借りてワインと料理を楽しむ食事会を行っていました。

ソムリエがフランス現地で買い付けてきたワインを
料理に合わせて紹介する会でもあったのですが、僕が企画する会ではフランスにゆかりのある人物のコルクアートを展示して会を進行することが多くなりました。

ナポレオンに続いて
グレースケリー
レオナルドダヴィンチ
マルクシャガール
マリアカラス
ココシャネル
レオナールフジタ

など、フランスと関わりの深い歴史の偉人の作品を作り続け、その作品のお披露目も兼ねて、ゆかりのワインとのストーリーも交えながらワイン会を開催していきました。

コルクアートを始めて2年が経ち、作品数も増えてきたところで、原宿にあるレストランの8周年に合わせて8作品を並べて、コルクアートで初の個展を行いました。

そんな活動を続けていくうちに、レストラン側から「ここのソムリエとして働かないか?」とお話をいただき、相談の上8年勤めた恵比寿の会社を退職、
まもなく40歳となるタイミングで、再びレストランの世界へ戻ってきたのでした。

・大腿骨骨折

原宿のレストランは、フランスでミシュランガイドにも載るレストランを展開している日本人シェフの東京店という位置づけで、メインダイニングに大小個室を合わせて100席ほどの広々としたレストランでした。

僕もソムリエとしてのキャリアのスタートはレストランとワインバーでしたが、この10年間ワインの小売りや輸入をメインの仕事にしていて、ワイン会などを頻繁に開催していたものの、レストランサービスへの復帰は10年以上ぶりで、きちんと仕事ができるか不安がありました。

しかし、コルクアートへの理解があるシェフからのせっかくのお声掛け、力になれることがあればという気持ちでお誘いを受けることにしました。

100席を回すためのチームはキッチン、ホール共に熟練の方々で組織され、予約の多い日にはベテラン配膳の方々のヘルプもあり、まさしくチームでお客様をお迎えするレストランでした。

毎月フランスからシェフが帰国する際は午前・午後・夜とイベントが組まれ、通常営業とイベントを同時にこなしながら、毎日が忙しくもあっという間に過ぎていきました。

そうしてどうにか仕事の感覚を取り戻しながら3カ月ほどが経った、2017年5月21日。

仕事を終えて、終電に間に合わないかもと駅へと急ぐ帰路の途中、車道に飛び出したところに向かってきたバイクをよけて転倒、
打ち所が悪く、腰と太ももの付け根の大腿骨を骨折してしまい、救急車で運ばれました。

・飲食業界での挫折をへて

「全治4か月。リハビリはその後も必要かもしれません。」

麻酔が切れて目を覚ますと、左足上部が包帯で巻かれ何本かの注射針が刺さって感覚がない中、主治医の先生からそう告げられました。

頭の中が真っ白になりながら、かといってどうすることも出来ず、病室で過ごす時間の中で何日かかけて事態を受け入れていきました。

手術から数日してリハビリ専門の病院に移動し、最初は車椅子から、20日ほどたち装具をつけて松葉杖で歩けるようになると退院。

自宅近くの病院で6月から10月までリハビリを行い、装具もとれて松葉杖なしで、ひょこひょこと歩けるくらいになりました。

レストラン側は当初、退院後の復帰も考えてくれていましたが、怪我をする前の自身の仕事のパフォーマンスを振り返って、たとえ怪我がなかったとしても、ここは戦力外だろうと
せっかくのご縁でしたが期待に応えることは出来ず
自己都合で解雇してもらいました。

バンド活動から始まり、レストラン業界では2度目の挫折。40歳になり家族も子供もいる中で、深い自己嫌悪に陥っていきました。

しかしながら、暗闇の中で光は一層輝きを増すということなのか。治療中にただただ打ちひしがれていたわけではなく
「ソムリエ業×コルクアート」という、まだ日本には誰も前例のいない、一点突破の新しい働き方のモデルを、A4ノートにびっちりと書き綴っていきました。

その結果のひとつに、怪我の直前に制作依頼を受けていた元サッカー日本代表監督のフィリップトルシエさんから入院時に正式オーダーをいただき

「家族もいて大変だろうから」と、ほぼ手術入院費に相当する、50万円の金額でご自身の肖像画分を先払いしてくれました。

トルシエさんからのメッセージを見て
病床で天井を眺めながら泣きました。

「退院して体の自由が戻ったら、すぐに制作します」と約束し、退院後、装具をはめたまま制作していたのを覚えています。この感謝は一生忘れません。

以降、トルシエさんとは来日されるとお会いするような関係となり、ご自身がボルドー・サンテミリオンに所有するシャトーに飾るためと、合計で8作品もオーダーいただき、今ではコルクアートの最大の理解者であり作品所有者となっています。

ソムリエだからこそ描けるコルクアートで生きていこう。人生の軸が定まったような気がしました。

・・・第3話につづく・・・

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【8/17】
第1話 体験したレストラン業界・ワインビジネスの裏側
     次々と働き手が去ってしまう理由
https://note.com/kuboblanc/n/n5f4d6001f302

【8/18】
第2話 コルクアートのはじまり
     飲食業界での挫折をへて
https://note.com/kuboblanc/n/n9a499d893a96

How?do you do it.

【8/19】
第3話 コルクが集まり続ける仕組み
     15万個ものコルクが集まったわけ
https://note.com/kuboblanc/n/ne78a17da8fba

【8/21】
第4話 コルクアートの作り方
    気になる?どうやって作っているのか
https://note.com/kuboblanc/n/n83e98bd2d72d

【8/22】
第5話 コルクアートの広め方
    SNS発信の良手・悪手
https://note.com/kuboblanc/n/n858965bc9945

What?did(do) you do it.

【8/23】
第6話 コルクアート70作品の軌跡
    選んだモチーフの理由
https://note.com/kuboblanc/n/nb8f464909db1

【8/24】
第7話 新作のモチーフは 「   」
     イタリアワインのラベルを飾って発売へ
https://note.com/kuboblanc/n/nfec0b36e62d6

【8/31】
第8話 作品を通して伝えたいこと
https://note.com/kuboblanc/n/n41cdbbbdbd86

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