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図書室にいた君と……

太陽の陽がアスファルトを暑く照らす中、キャリーケースを転がしながら人混みを歩く

上京して数年、初めての帰省

駅に着いて一番最初に切符売り場へ向かう

機械を操作して切符を購入をして、改札を通り新幹線のホームへ



黄色い点字ブロックの手前に立ちスマホを操作しながら新幹線が来るのを待つ

LI〇Eに母から連絡が来ており、既読を付ける

内容は、気をつけて帰ってきなさいよとの事だった

心配してくれてありがとう、気をつけて行くよ

と、文字を打ち返信ボタンを押す

初めての帰省の理由は有給を消化するためだった

就職して数年、有給を使っていなかった

なんでだと言われると、普段の休みで満足していたのと有給を多く使ってもし、同僚に差をつけられてしまったらと思ったからだった

全然有給を使わない姿を見て上司が心配してくれて使っていいんだぞと伝えてきて、今回初めて大きな休みを取る事にした

だが、大きな休みが初めてで何をすればいいのか分からず、悩んだ結果帰省することにしたのだった

「帰ったら何しょうかな……」

小さい声で呟くと同時に新幹線がやってくるアナウンスがホームに響く

すると、新幹線がスピードを少し落としながらホームにやってきて、止まる

少しすると扉のストッパーが内側に引っ込むプシューという音が聞こえ扉が開く、手に持っていたキャリーケースを改めて握りしめ新幹線へ乗った



座席の番号を確認して荷物棚にキャリーケースを置き自分の席に着く

スマホをまた出して操作し始める

アプリを開き、地元にまだ友達がいるか確認する

でも、みんな俺と同じで地元を出ていっていた

その中で1人、ある人物のアカウントがないか無意識に探してしまう

もしそのアカウントがわかったとしても、話すきっかけも作れないのに……

結局なにもせずスマホを置く……

「……読むか」

バックに入っていたヨレヨレな本を取り出すと、同時に新幹線が発車するアナウンスが鳴って新幹線が少しづつ動き始めた

そして、あの日のようにページをめくり始めた……












高校2年生の夏

僕は初めての恋をした

それは一瞬で始まって、いわゆる一目惚れと言うやつだった

「はぁ……めんどくさいなぁ……」

不満を零しながらみんなが楽しく話している廊下を歩いていく僕

何故かと言うと別の組の幼なじみであるさくらに頼まれ事をされていたからだ

「部活の話があるからって本を代わりに返して来てってなんだよ、早めに読み終えてすぐ返せば良かっただろうに……なんで僕が」

あまり本を読まない僕が図書室に行くなんて高校生になって初めてと言ってもいいほどだった

「まぁ……昼休み別に他にやることなんてないからいいんだけど」

そんな小言を言っていると図書室の前へ着く

図書室の扉を開け中に入ると、人は全然いなくて数人しか居なくて、返却ボックスに本を置いた



「さて、教室に戻ろうかな……」

扉の方へ歩き始めようとしたその時、窓が空いていたのか風が図書室に入ってくる

何故かその風に呼ばれた気がして、窓の方に振り返った




すると、そこには本を読んでいる……君がいた




胸が高鳴って目を離すことが出来なくなり、思わず息飲んだ

「っ……」

昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴った所で君が本を閉じる

僕はずっと見られてたことをバレたらやばいと思い急いで視線を逸らして図書室を出て教室に戻った

これが僕にとって初めての恋……初恋をした瞬間だった

それから勝手に君を目が追う日々が始まった……




君は僕と同じクラスメイトだった

名前は掛橋沙耶香

2年になって初めて組が一緒になって話す機会はなく過ごしてしていた

だからこそ名前も覚えてなくて、教室に戻ったあと同じ組だという事だけは気づいていたからすぐに名前を確認した

それから僕は何しようか沢山悩んだ

そのうちにわかったことがあった

好きになるっていうことは、その人のことをもっと知りたいという気持ちのことだった

だから、僕は君……掛橋さんのことをもっと知りたいと思い図書室を通うことに決めた

活字嫌いで本を読むことなんてしてこなかった僕が図書室へ行くことが日課になったことに、幼なじみのさくらは違和感を感じ僕にすぐ話しかけてきた

「〇〇、どこ行くの」

「え、図書室だけど……」

「なんか最近図書室行くようになったけど……何かあったの」

「別にさくらには関係ないだろ」

「何それ、関係なくても教えてくれたっていいじゃん」

さくらは少し不満そうな顔をして僕に話す

「それとも私には言えないことなの」

「言ってもいいけど……多分笑われるから嫌だ」

「えー何それ、酷いっ私笑わないよ」

「いや、笑うね」

「……もしかしてだけど、好きな人が出来たとか」

「っ……」

まさか一番最初に当てられるとは思わず少し反応してしまう

「え、何その反応……待って、もしかして……当たっちゃった」

「……」

僕はここで嘘をついても意味ないと思って縦に首を振った

すると、さくらは一瞬表情が落ち込んだように見えた

でも直ぐに笑顔になった

「えぇーあの〇〇に好きな人が出来たの」

驚いた様子で僕に言う

「ほら、笑ってるじゃん」

「いやいや、これは笑ってるんじゃなくて〇〇に好きな人が出来て喜んでるんだよ」

「本当かな」

「本当だよ、ねぇそれで好きな人誰なの教えてよ」

「それは……秘密」

「図書室にお昼毎日行く……あっ、もしかして沙耶香だったりする」

「っ……な、なんでこれもまた1発で当てるんだよ……」

「えっそうなの、また当てちゃった……ねぇ沙耶香のどこ好きなったの」

「……ひ、一目惚れ、この前さくらに本を返してって頼まれただろ、その時に見た本を読む姿を見て……好きになった」

「あ……そうなんだ、その時に好きになったんだ」

「うん」

「そっか……そうなんだ」

視線を少し落としてさくらが呟く

「……どうした、なんか変だけど」

「え、あいや全然大丈夫だよ」

「そうか、てかそろそろ図書室行ってもいい」

「あ、い、いいよ最近図書室行く理由わかったし」

「そっか、あ、あと掛橋さんには絶対言うなよ」

「ふふっどうかな、言っちゃうかも」

イタズラぽく言うさくら

「本当に、これだけは本当に言わないでくれ」

「冗談だよ、言わないよ約束する……だって私たち幼なじみだもん逆に〇〇の初恋……応援してる、頑張って」

少し微笑んで僕に向けて言う

どこか少し切ない気持ちがあるような目をしていたでも、僕は早く掛橋さんの姿を見たくて教室を出て図書室へ向かった




図書室に着くと掛橋さんは本棚で本を探している最中だった

「あれ……あの本どこだっけ……」

偶然をふりをして覗こうか悩んだが、1歩を踏み出す事が怖くて隙間から見ることに僕はした

少しすると探していた本を見つけたのか本を取り図書室の席に座る

僕は近くにあった適当の本を選び少し離れた席に座って、掛橋さんが何を読んで何を思っているのかを知りたくてチラチラと、掛橋さんの姿を見ながら昼休みを過ごした




少し時が経ち掛橋さんがよく読んでいる本を知った

その全てがヘミン〇ウェイという作者が書いた本だった

僕はそれからヘミン〇ウェイが書く本を図書室で読むようになった

毎日毎日

本なんて読んでこなかった僕

でも掛橋さんが手にして読んでいた本内容が知りたくて図書室の席座り黙々と読んだ

図書室にない本とかもあったため、他のヘミング〇ェイが書いた本をお小遣いで買ったりもした

そんな中で僕は少しだけわかったことがあった、それは……



僕と……掛橋さんは性格が全く違うってこと



掛橋さんはいつも毎日毎日、本を読んで……ヘミング〇ェイの本を読んで面白いと感じている様子だった

でも僕は……僕には掛橋さんのように読む事が出来ず辛い気持ちになることが多かった

「なんでこんなにも性格が違うのに掛橋さんの事を……好きになったんだろう……」

1人でヘミン〇ウェイの本を開きながら呟いた




掛橋さんへの想いに悩んでいる中、結局僕は掛橋さんをより知りたくて図書室を通い続けていた

そんなある日、掛橋さんが図書室にいなかった

普段図書室に毎日いるのに……いなかった

「あれ……どうしたんだろう」

そう考えながらとりあえず来るだろうと思いヘ〇ングウェイの本を取っていつもの席に座った

すると、廊下の方から掛橋さんの声が聞こえた

「あの本読んだよ」

誰かと話してるみたいだった

誰と話しているんだろう、僕は気になって耳を傾け続けた

「お、読んだんだ、それでどうだった面白かったか」

低い声、男子の声だとすぐわかった

「うん、ものすごく面白かった」

「なんか沙耶香と俺好きな本一緒だからさ、絶対面白いって思ったんだよ、沙耶香が面白いって思ってくれて俺も嬉しいよ」

「ふふ、何それまぁでも面白い本教えてくれてありがとう、次なんかオオスメな本とかある」

「おーちょうどあるよ、多分図書室あるから教えるよ」

「やった、ありがとう」

表情は見えなかったけど聞こえた声で分かる……

掛橋さんが、君がその人のことを好きだという事に……




これは後に知ったのだが掛橋さんは片親でしかも兄弟が沢山いる家庭らしい

それで自分のために使えるお金や家での時間があまりなく、好きだった人が好きな本を読んで感想を共有するために毎日図書室で本を読んでたと言う

そう、すなわち最初から掛橋さんが図書室にいるという状況から僕の恋……初恋が叶うことが絶対なかったという事だ

僕は持っていた本を元の場所に戻して僕は掛橋さん達が入ってくる扉とは違うもう1つの扉から図書室を出た

心がズキズキと痛いと感じる

これが……失恋

1歩も踏み出せなかった

話すことも、目を合わせることさえも出来なかった……

……掛橋さんと僕も彼みたいに楽しく話してみたかった

心の中で虚しく呟いていると、幼なじみのさくらが廊下に居て僕を見つけて話しかけてくる

でもその時の僕には……僕の心にはなにも聞こえなかった

「〇〇、どうしたの、ねぇ、ねぇ〜〜。」




……気づいたら家に帰ってきていた

リビングに行きお母さんに話を聞いた

すると、さくらが僕の様子がおかしいと感じ保健室へ無理やり連れていき、体調不良と保健室の先生に診断され早退扱いで、先生が親に連絡を入れ家に帰ってきたところらしい

話しかけてもなにも反応がないためそっとしとこうと部屋に座らせてくれたらしい

「……ありがとう、母さん」

「ありがとう言うなら、さくらちゃんに言いなさい」

「うん、わかってる」

「わかってるなら良かった、それじゃ夕飯まだだからゆっくり部屋で休んでなさい」

「え……あ、わかった」

僕は母さんに体調がおかしくなった理由を聞かれると思っていたので少し驚いた

親の優しさと幼なじみのさくらに感謝の気持ちを感じながら自分の部屋でゆっくりと休みながら気持ちの整理をした

僕は結果、掛橋さんを想うことをやめることにした

手元にある購入したヘミン〇ウェイの本、一瞬捨てようと思ったが愛着が少し生まれ本棚に戻した

すると、母さんの声が聞こえる

「〇〇、夕飯の時間よ」

「はーい、今行く」

僕はそう少し大きな声を出してリビングへ向かった





次の日、僕はさくらに昨日はありがとうと伝え、昨日僕が何故調子がおかしくなったのか説明した

別にしなくてもいいかなって思ったがさくらには話しとこうとそう思った

「そうなんだ……沙耶香好きな人いたんだ、知らなかった」

さくらは掛橋さんと去年同じ組だったらしい

そこで少し話すことがあり下の名前で呼び合う仲になったらしいが今はクラスが違うこともあり、話すことがあまりなくなっていたので知らなかったと言っていた

「ごめんね、応援するって言ったのに何も出来なくて……」

「いいよ、僕だってずっと1歩を踏み出すのが怖くて……怯えていたから」

「……そっか」

「……うん」

お互いに話す空気間を見失い、ただ歩く中でまたさくらが話しかけてくれて、僕とさくらはまた話を楽しくしながら高校へ向かった

そして、僕の初めての恋……初恋は実ることなくすぐに終わったのであった











『次の駅は〜〜。〜〜です次の駅降りる方はご準備してください』

新幹線のアナウンスが聞こえ、目を開ける

「う、うーん……寝てたのか」

日々仕事ばかりで疲れていたのか眠りに入っていたようだ

どこか懐かしい夢を見たような感覚で、目に入る光が眩しく感じた

手元を見ると読み始めたばかりのヨレヨレの本があり、本を閉じた

次の駅が降りる駅なため、身支度をして荷物棚からキャリーケースを下ろした

最後に忘れ物がないか確認を良くして新幹線の扉の目の前へ向かった

駅に着くと、また扉のストッパーが内側に引っ込むプシューという音が聞こえ扉が開いて新幹線を降りた



「ふぅ、無事に着いたな」

スマホを取りだして母さんにL〇NEを送る

するとすぐに良かったおかえりと返信がきた

改札を出て次に何しようか考えると何故かある場所が頭に出てきた

「……とりあえず行ってみるか」

少し考えた後せっかく帰省したんだし、行くかと思い足を進めた




向かった先は、母校である高校だった

あの時歩いた道は変わらず懐かしい気持ちになりながら歩き高校の目の前に着いた

「ここまで来たけど……どうしょうかな、せっかくだし中にも入れたりしないかな……とりあえず連絡入れてみるか」

スマホを取りだして目の前にある高校に連絡を入れた

すると、すぐに教員の誰かが出てくれた

「あの、自分高校の卒業生なんですけど……帰省してきて久しぶりに来たので無理だったら大丈夫なんですけど良かったら中に入れたりしませんかね……」

「あーそうなんですか、でしたら卒業した事を証明出来るものと生徒達の授業を邪魔しなければいいですよ」

「証明するものってなんですかね」

「身分証明書で構いませんよ、名前と生年月日などがあればデータベースでその年の卒業生に居るか確認できますので」

「そうなんですか、それじゃ今高校の目の前にいますので向かいます」

「分かりました、それじゃお待ちしております」

「ありがとうございます」

お礼を伝え、電話を切る

スマホをしまい、校門を潜り職員室へ向かった

色々の手続きをしてちゃんと卒業生と確認出来たため、来客者という文字が書かれた首からかける名札を渡された



「あの、図書室って行ってもいいですか」

「今の時間なら授業中で生徒は誰もいないのでいいですよ、ただ図書室の先生がいますのでその人に挨拶はお願いします」

「分かりました、それじゃ終わったら名札返しにいきますね」

「はい、お待ちしております」

対応してくれた先生にそう伝え職員室を後にして図書室へ歩き始めた

図書室に行こうと思った理由は自分でも分からなかった

入る前はぶらっと校舎を見るぐらいにしようと思っていたのに、勝手に口が動いていたのだ

行ってもいない事はわかっている

何よりあの時想うことはやめると決めたはずなのに……

でも、体は動き……図書室へ向かっていた

図書室に着き、扉を開け中に入る

受付の所に先生がいると思ったが今は席を空けているようだった



「あれ、いないな……まぁとりあえずあの本を……読むか」

あの時、読んでいた本を探す

「あれ……ないな」

昔置いてあった場所にあの本は無くて、歩き回ると図書室の先生がオススメしている本が置いてあるコーナー的な場所があった

そこに、あの本が置いてあった

「あっ、あった」

図書室の先生この本のこと好きなんだなと思いもしかしたらなんて……少し考えてしまった

「……いや、あるわけないか」

1人呟きながら本を持ってあの時と同じ席に座り本を開こうとした

その瞬間、図書室の扉が開く

視線は自然と扉の方へ向かった

その視線の先に居たのは……







あの時と変わらない君だった







時が止まったような感覚が襲う

すると、窓の隙間から風が入ってきてカーテンが舞った

その風によって開いたばかりの本のページがペラ…ペラペラと1枚……また1枚とめくられる







同時にどこからか僕と君のページが……







めくり始めた音が聞こえた気がした……











図書室にいた君と……


終わり


















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