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円卓 こっこ、ひと夏のイマジン(2014)

なんだろう、観終えたあとの
いっぱい「感じた」感。

まだこの世界に
言葉として定義されていない感情。

それを描くのが小説や漫画、
そして映画の役割とするならば、
この作品は100点満点である。

本作は僕たち大人が忘れてしまった、
しかし確かに感じていた
小学3年生の頃の繊細な世界の見え方を
思い出させてくれる。

主人公こっこ(芦田愛菜)は、
公団住宅に大家族と住む小学3年生の女の子。

発する言葉はドギツめの関西弁。

小学3年生らしく世界に興味津々。

こっこは「カッコええ」ことに一直線。

自分の中でカッコええと感じたことは、
忘れないために宝物としてノートに
書き記して貯めている。

こっこにとって、カッコええとは
単純に「普通」ではないということ。

人と違っていたらカッコええのだ。

ある日、クラスメイトの香田さんが
ものもらいを患い眼帯をしてくる。

こっこは親友のぽっさん(向かいに住む男の子)と「眼帯ってなに!?」と盛り上がる。

↑ぽっさん曰く、「が、眼帯は、か、かっこええからな」。

眼帯がかっこいいっていう感覚。

確かに子供の頃は全員もってたなと
ニンマリしてしまう。

ベトナム難民のゴックん、
在日韓国人の学級委員長朴くんの
普通じゃないステータスもまた
こっこにとってはカッコええ。

朴くんが不整脈で倒れてもカッコええ。

羨ましいから不整脈の真似して倒れてみる。

担任のジビキ(関ジャニの丸山隆平くん)に怒られる。

「うずはら、お前はちゃうやろ」

悪気がないのに人を傷つけてしまう。

世界のルールを一つ知る。

こっこにとってはカッコええだけなのに。

親友のぽっさんは話す時にどもる癖がある。

こっこも真似をする。

こっこにとっては純粋にカッコええのだ。

ぽっさんも戸惑う。

こっこの1番の理解者であるぽっさん。

ぽっさんにとってそれは
「恥ずかしいこと」「隠すべきこと」。

物珍しがるわけでもなく、
本当に純粋にカッコええと思ってることを
理解した時に、初めてぽっさんは、
自分の吃音を受け入れることができた。

またある日、こっこのお母さんに新しく赤ちゃんが出来て家族全員がそのことに夢中になる。

おめでたいのに何かが気に障り、
素直になれないこっこ。

親友のぽっさんがかけてくれる一言。

「う、嬉しなかったら、よ、喜ばんでも、ええ」

素直に喜べない自分に対して苦しんでいるこっこへの男前な一言だ。

この二人の関係性。

距離感が絶妙。

親友なんだなぁと、説明無くして分かる。

2人はこっこのお爺ちゃん石太から
大切な言葉を教えてもらう。

それは、「イマジン」。

想像すること。

自分以外の世界はどう思うのか。
どう感じるのか。
どうしてそうするのか。
そのことについて自分はどう感じるのか。

あらゆる現象がそれぞれに影響を与え、
次の行動に繋がっている。

世界には自分以外の存在があり、
自分もまた他人にとっての自分以外であり、
それぞれが「自分」として存在している。

小学3年生頃になってようやく気づく
世界の「当たり前」である。

イマジン。カッコええ言葉である。

夏の終わり、
ぽっさんが田舎の祖母の家へ
泊りに行っている間、
こっこのもとに
ショッキングな出来事が起こる。

性犯罪者というか狂った芸術家というか。

街の変わり者が近づく。

その造形・動き方。
映画史に残るトラウマシーンである。

ちょっと本当に子供は見ない方が
いいのではないだろうか。

「ご尊顔、踏んでくれはるのん?」

変態ワード全開でクネクネ動きながら
近づいてくるその異常な男に、
こっこは初めて「カッコええ」ではなく
「恐怖」を感じる。

初めて覚えたその感情に
走り逃げるこっこ。

後日、変質者として逮捕されたその男。

親友ぽっさんと2人で見に行き、
帰り道に公園でこっこは打ち明ける。

男の顔を踏んだことを。

それを聞いたぽっさんは
ジワジワと涙を浮かべ、
ぽろぽろと涙をこぼす。

「す、すまんかったなぁ。お、俺がいなかったばっかりに。ホンマに、す、すまんかったのう」

このシーン。

邦画屈指の名シーンである。

ぽっさんの不器用で情けない、
それでいて男の子らしい優しさの
微妙な感情の揺らめきが伝わってくる。

本当にカッコええのは、ぽっさんである。

自分のような者には
言葉で的確に伝えられないので
大筋を書くことになってしまったのだが、
この映画ならではの繊細な視点を
是非ご鑑賞頂きたい。

世界にある大事なもの(例えば「愛」だとか)を描くというよりは、大事なものと大事なものの間を描写しているというか、そのグラデーションを見逃さない観察力、言葉なきものを映像で表現している。

そして100%そのままに映像化させた
行定勲監督。
原作者の西加奈子さん。

本当にすごい。

作中の言葉を使うなら、「カッコええ」。

なぜか何度も観たくなる
不思議な魅力の映画です。


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