さよなら、人工知能。偽AI企業が蔓延する社会への憂慮。
皆さん、こんにちは。久保家です。
久保家のリビングにはホワイトボードがありまして、毎朝、そこに夫が考えたことを描いて、朝ごはんを食べながら夫婦でディスカッションをしているのですが、その内容をコンテンツとしてまとめてみようというのが、今回の試みです。
本日のテーマは「さよなら、人工知能。」です。
○テクノロジーの三連構造
夫はケヴィン・ケリーが大好きでして、世界中をめぐりながらテクノロジーに関わりつつも、その先にある人間を探求をするような生き方に憧れを持っています。西洋哲学だけでなく、東洋哲学についても深い知見があり、本当に豊かな人だと思います。何より、明るく、楽しい、前向きな未来を描くところが、複雑化する世界におけるリーダーシップとして、素晴らしいと思います。
その著作の最新刊が『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』なのですが、原題は『The Inevitable』であり、ちょっとニュアンスが違うなと感じるところがあります。ケヴィン・ケリーも本書の中で、スティーブ・ジョブズみたいに「Inevitable」「Inevitable」と連呼しておりまして、要するに、不可避な流れが主題だと思うのですが、タイトルを凝ったものにしたくなるのは、日本の編集文化なのかもしれません。翻訳者の服部 桂さんは、自らテクノロジーに関する著作を多数出版されたり、MITメディアラボ客員研究員も勤めていた経歴のある異色の方で、本の中身は、言語の壁を超えて実に素晴らしい内容だと思います。
その『The Inevitable』の前に、人類史上初めてテクノロジーを体系づけて捉え、その根源的な意味を「テクニウム」という言葉で表現し、世界中で話題になった著作『テクニウム』があります。まず、このテクニウムの中に出てくるテクノロジーの三連構造からお話を始めていきましょう。
ホワイトボードをご覧ください。テクノロジーと三連構造と、生命学的進化の三連構造を描いております。
まず、左側の生命学的進化の三連構造は、機能的適応性・構造的必然性・歴史的偶然性の3つです。まず、生命は生きるために環境に適用する必要があります。そして、進化の過程で、そのための機能が備わっていきます。これが機能的適応性。次に、構造的必然性、これは構造が普遍性を持つことから生まれる必然性です。科学者が大好きな領域です。そして、最後に歴史的
偶発性です。エントロピーの法則から考えると、時間が経過する中で起こる物理現象は、すべてが確率的になります。この事象はランダムに発生するので、偶発性の領域になります。いつ、どこでの関係性、つまり、客観的時間を前提とした、空間的な領域に関する事象は、すべて歴史的偶然性の領域に含まれます。
テクノロジーの三連構造を見てください。機能的適当性の部分が、意図的開放性に置き換わっています。テクノロジーの分野では、意図的に情報を開放していくことが自然の流れということになります。学術系の論文が公開されていることや、オープンソースの流れ、インターネットの発展など、個人の知を開放することで、総合的な知(集合知)を組み立てていくわけです。その典型的な例が、人工知能です。
○IT業界が大好きな掛け算思考、AI×○○
シリコンバレーには、「ソフトウェアがすべて食べて尽くす」という言葉があります。
ソフトウェアがすべてを食べつくす。
知能といったソフトがアルミ缶のような固い物の中に組み込まれ、固い物がソフトのように動くようになります。ビットが吹き込まれた物質的な商品は、まるで手に触れられないサービスのように振る舞いだします。名詞は動詞へと変容していくという世界観です。まさに創造の世界ですね。
この流れの中心にあるのが、人工知能(Artificial Intelligence)です。日本のIT業界は掛け算思考が好きでして、新しい概念が出てくると、すぐに「AI×○○」という表現をします。新しいものは大好きなのですが、自ら「創る」ことはあまりせず、新しいものをどれだけ上手に使いこなすことができるかに重点があるように感じます。いわゆる、匠の技術、職人技、エキスパート思考です。
少し、最近の人工知能の動きを少しキャッチアップしてみましょう。
こちらは人工知能を使って農作物と雑草を分けて、ピンポイントで除草するトラクターです。ディープラーニングの技術で、さまざまな雑草や農作物の画像データから学習を行い、雑草だけを除草するロボットを制作したわけです。このような特定の業務をこなすロボットに、ディープラーニングという目の機能を搭載するケースは増えるでしょうね。既存の製造業がプラスαの機能として追加できますので、日本のものづくり企業にとっても大きなビジネスチャンスです。
農作物と雑草を見分けて、ピンポイントで除草ができるようになった。
つまり、トラクターに目が誕生した。
こちらは海外のニュースなのですけど、ノイズのあるコアラの写真からノイズを取り除いて、コアラの写真を再現しているわけです。ディープラーニングは、識別するための技術ですが、これを逆にして生成することができるようになったわけです。少ない情報から正確なイメージを描ける技術は実用的ですね。昔は、デザイナーの人がPhotoshop等を駆使して再現していましたが、これからは人工知能がサクサクと生成してくれるようになりそうです。
人工知能で何かを「生成する」ことができるようになった。
東京大学の松尾豊さんも嘆いていましたが、このような人工知能による取り組みは海外勢が優勢になっていることです。日本には、ニューラルネットワークの時代から人工知能を研究している研究者が多くて、理論も実装も海外に引けを取らないはずなのに、実際に行動する人はとても少ないという事実があるようです。
○さよなら、人工知能
正統派の研究者や組織もいれば、それを悪用する人達もいるのが世の常です。こんなニュースが話題になりました。
人工知能だと思ったら、実は人海戦術で処理をしていたwww
ひどい輩がいるものです。AIに何かをさせるには、それなりのデータや時間、開発資金が必要になります。そこで、安上がりな解決策として、人間を使ったわけですね。夫は検証用のソフトウェアでディープラーニングを試して遊んだりしていますが、単純な文字を学習させるだけでも、かなりのマシンスペックを使います。一旦、学習が終わると、そこからの処理は速いのですが、学習コストを考えると、いまの段階では人間がやったほうが安いなと思いました。まさか、それを本当に実行する人がいるとは・・・。
安上がりな解決策は、人間を使うこと。
武邑 光裕さんの「さよなら、インターネット」という本で、中世の時代に登場した印刷が、あらゆる種類のパニックの伝達メカニズムとなり、魔女の狂気や陰謀を広めたというお話がありました。これは現在のインターネットと変わりません。人工知能も、そのインターネットを通じて、フェイクニュースとして流れるようになってしまいました。
印刷は、あらゆる種類のパニックの伝達メカニズムとなり、魔女の狂気や陰謀を広めた。
それは、現在のインターネットと変わらない。
そもそも、人工知能という言葉は、人間と機械がいずれ敵対するという意味で広がってしまった気がします。AI(Artificial Intelligence)に対立する言葉として、IA(Intelligence amplification)がありましたが、こちらも敵対するという位置づけで広がってしまったようです。
そんな中、人工知能(AI)という言葉に別れを告げ、これからは「拡張知能」(extendedintelligence:EIまたはXI)と呼ぼう、という運動が始まりました。伊藤穰一さんが率いるMITメディアラボと米電気電子学会(IEEE)が、新たなプロジェクトを始めたそうです。「人々のためによいことを行う道具」として捉えやすくするとために、名前を変えていこう取り組みです。そういえば、インターネットもいつの間にかやら、クラウドと呼ばれるようになりました。単なる言葉遊びのように思われるかもしれませんが、言葉がもつチカラは底知れません。
○テクノロジーはどこへ向かうのか?
人工知能(AI)という名前が、拡張知能(EI)に変わり、人々がテクノロジーに親しくなろうが、なるまいが、そんなことに関係なく、テクノロジーが向かう方向は変わらない、それは不可避(Inevitable)だと、ケヴィン・ケリーは言います。
テクニウムとそれを構成するテクノロジーは、大きな人工物ではなく大きな過程です。完全な物などなく、すべてが流動的で、唯一大切なのは、その動きの方向性です。この数十億年にわたるエクソトロピー(エントロピーに逆行する流れ)は、安定した分子、太陽系、惑星の大気、生命、知性、そしてテクニウムへと増加していきますが、それは秩序を持った情報の積み重ねとして表現できます。または、積み重ねられた情報のゆるやかな秩序形成です。すべては情報になります。
テクノロジーと三連構造と、生命学的進化の三連構造、いずれも、構造的普遍性と歴史的偶然性は共通として持っています。機能的適応性よりも、意図的開放性のほうが情報の積み重ねが速いという特徴はありますが、いずれも秩序を形成するという目的は同じです。それは生命の本質であり、エントロピーの坂の上ることが生きるということだからです。
いかがだったでしょうか。皆さん(妻)はどう思われますか?
○本日のおすすめ本
テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?
ケヴィン・ケリー (著), 服部 桂 (翻訳)
単行本: 456ページ
出版社: みすず書房 (2014/6/20)
さよなら、インターネット――GDPRはネットとデータをどう変えるのか
武邑 光裕 (著), 若林 恵 (その他)
単行本(ソフトカバー): 248ページ
出版社: ダイヤモンド社 (2018/6/21)