動け!
最近、何もうまくいってなかった。
どうすればよかったのかたくさん考えてみるが、
私の思考は基本的にめちゃくちゃ自分に都合よくて、物事を自分の捉えたいように解釈していくから、答えは分からない。
この「捉えたいように解釈している」と自分で分かっているところも、私のダメなところだ。
こうなるとドツボにハマる。
自分の思考に対しての嫌悪もすごいし、でも、根本にある「自分のことチョー好き」が邪魔して、どんどん答えから遠ざかっていく。
引きこもってずっと寝ている間にどんどん自体は悪化していって、「何もうまくいっていない」が「最悪かも」に、「最悪かも」が「チョー最悪かも」に、「チョー最悪かも」が「来世はウニとかになりたいな🎵」になる。
私はめちゃくちゃ芸人なので、鬱団子(鬱クワガタ<鬱鳩<鬱団子)になってるとバレると、周りの芸人仲間たちは結構連れ出してくれる。
私よりウニとかになったほうが良さそうな先輩の話をしてくれたり、本当にウニになった話を聞かせてくれたりして、「だからクボは全然詰んでへんよ」と言ってくれる。めちゃくちゃにありがたい。
めちゃくちゃにありがたくて、その先輩方と「デキてたら平場キモそうな芸人ランキング」とか考えてる間は、めちゃくちゃ忘れられる。
「こう言う時は飯食わんとあかんねんで」と言われて、みたことないカロリーの爆弾みたいな飯を食わしてもらっている時に、芸人を続けるか悩んでいる時のことを思い出した。
2019年。大学2回生。私は、割とエリート学生芸人だった。
猫と大福というコンビで週に一度はライブに出続け、規模が小さいとはいえど大学生の大会を優勝したり、プロの芸人さんとたくさん関わらせていただいたり、夢のような時間だった。
でも、最初から、期限付きのコンビ。
平場でろくに動けたこともない、ネタも書いていない私は、当時は勘違いさえもできないくらい、何も持っていなかった。
ずっと自分の無能を自覚され続ける時間は辛いし、向いていない。そう、知っていたし、分かっていた。
「やろうや、一緒にNSCいこうや、お前なんかどうせ一般社会でいきてけへんで。だらしないし汚いし。」
「だらしないは納得いくけど、汚いは納得いかんなあ。」
まだタバコが吸えた鳥貴族で、まだ風呂に入っていた頃の私に、その人はタバコを吸いながらくっちゃくちゃキャベツを食って、私に言った。
「お笑い続けなよ。きっと楽しいよ、演者じゃない僕がいうのも変だけど。」
「私、自分で言うのもアレですけど、自分みたいな女芸人1番嫌です。それになりたくないですもん」
「久保ちゃんがこれを聞いてどう思うかわかんないけど、世の中の人の大半は、久保ちゃんより優しいよ」
「はあ?」
私に大喜利を教えてくれたその人は、割と綺麗なカフェで店の雰囲気を壊すくらいでかい声で笑った。
「お前漫才上手いな!一門に入れてやるよ」
ブルックみたいな見た目で、死ぬまで私を可愛がると決めてくれたその人は、西成のきったない喫茶店で、ルフィみたいなことを言っていた。
「久保ちゃんがどんな選択肢を取っても、私はずっとファンでいるよ」
忙しい中、まだ芸人でもない私が落ち込んでることを察して駆けつけてくれた彼女は、手紙にそう書いてくれた。
もう少し、やってみようかな。
本当に些細な気持ちだった。
卒業するまでは続ける、と家族に話して、なあなあで続けた。養成所にも入らず、ちゃんとした覚悟も決めず。本当にラッキーだったと思う。気がついたら、愛してくれて愛したい人たちに囲まれてしまった。
一緒に売れようなとか、売れたら一緒にこんなことやりたいなとか。
夢みたいなことを、当たり前の未来の話にしてくれて、私たちのライブに、喜んで出てくれて、ヘマしたらマジで注意してくれたあとに「まぁうんこして寝ぇや〜」とか、「お前は本当にダボ」とか、「ほんまにお前ってお笑い頑張ってるだけやな」とか笑いながら、家族みたいにテーブルを囲んでくれる人たちが、今の私にはいる。
大切な人たちに対して、私もちゃんと応えたい。
ラッキーで、ある種、なあなあで始めてしまった物に、いつの間にかいろんな感情が乗っかっていった。
失いたくない。離れられたくない。がっかりされたくない。喜んで欲しい。一緒に笑っていてほしい。誰もいなくならないでほしい。追いつかないと。背中見せないと。いつもありがとう、なのにごめん。必ず、必ずこの恩を返さないと。
恩返しと、結果を出す、をイコールにしてくれるありがたい存在に囲まれて、私は、何を立ち止まっているんだろう。
「クボは結構、感情を大切にすると思うねん。それも素晴らしいことやと思うねんけど、感情って見えへんから。実はな、結構この世の中、行動が全てやねん。やから、責めてる時間、勿体無いかもしれんし、逆にいうたら、ウニにならんでも、これからの行動次第で取り返し、全然つくと思うで。大丈夫、お前なら絶対できるわ」
もらったファンレターを読み返す。
「いつもありがとう!」
こっちのセリフ
「クボさんの考え方も、絶妙に似てないドラえもんのモノマネも大好きです!」
似てないんや。結構似てると思ってた
「大丈夫。何があろうがついていくよ」
ほんまに?何があっても?言うたで
「クボちゃんのこと好きになった自分の感性、めっちゃすこ」
ネットすぎる
「この前同女の友達に会ったんですけど、なんでそんなイメージなんやってちょっとキレてました」
やめてや、勝手に話さんといてや
「生きる気力です」
そうかい、私もお前のおかげで生きてるよ
あの日の、些細な気持ちで、私の人生はガラッと変わった。
今度は感情じゃなくて行動で、見せていくべきなのかもしれない。
私はウニじゃないし動けるから。
うん。来世はウニなんやから。
人間のうちはちゃんと動かんと。
常に持ち歩いているファンレターがビチャビチャになる前に、とりあえず風呂に入って、たまっている連絡を返したのち、一仕事終えたみたいな顔でビールを開けた。