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言ってないだけ 【ミュージカルライブ~カルーア~サイドストーリー】

「誰か、これお願い。今日中で。」
聞き飽きた声が背後から響いた。オフィスにいるのは私と同僚3人、そして声の主である上司の5人だけ。他の営業は出払っていて、明らかにその「誰か」は、私たち事務員に向けられたものだった。相変わらず、頼み事をするとは思えない態度である。同僚たちにも聞こえているはずだけれど、みんな示し合わせたみたいに一斉に目を逸らす。ため息が出そうになるのをぐっとこらえて、にっと笑って振り返った。
「あ、対応します。」
「ああ、悪いね、いつも。」
形だけの『悪いね』と、書類を受け取る。笑顔を貼り付けたまま軽く会釈をして、自分のデスクに向き直った。そんなに量は多くないのに、なんだかずしっと重い気がして嫌になる。憂鬱な気分でぺらぺらと項をめくりながら、頭の中で計画を立てた。これを30分で終わらせて、明日までのあの書類をあれくらい終わらせられたら、今日は早く帰れるはずだ。全然、難しくない。大丈夫。私、「頑張り屋さん」やし。

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