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【Blender】絵描きが3DCGに挑戦!1ヶ月の練習記録を公開

KUAイラストアドベントカレンダー12月11日はイラストレーションコース研究室の虎硬先生から『イラストレーションコース研究室ってどんなところ?』です!


京都芸術大学イラストレーションコースでコース主任を担当している虎硬と申します。最近「Blender」を使って3DCG制作を勉強しています。まだまだ初学者ではありますが、短時間にしてはよく頑張ったかなと思い、練習の記録を公開することにしました。本記事は3DCG、もといBlenderをおすすめする内容を含みます。少しでも興味があればご覧いただけると嬉しいです!

きっかけは学生の声

3DCGを学ぶきっかけは学生の声でした。大学では普段から学生より質問をもらう機会があるのですが、「3DCGを勉強したい」という意見がとても多いのです。たしかに世の中では、3Dを活用してイラストを描く方が本当に増えてきました。特にBlenderは無料のアプリケーションにも関わらず、とても高度なことができます。元々興味をもっていたこともありましたが、学生の後押しをうけ挑戦することに決めました。

序盤の学習日記

避けてきた道

一方で、私にとって3DCGは避けてきた道でもありました。Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorなどのグラフィックツールについてはある程度操作ができますが、3Dとなると急にハードルが上がるイメージがあったのです。

「Z軸ってなに?」
「UV展開とは???」
「そもそもメッシュの操作が難しそう……」
「直感的に触れない、難しさがベジェの比ではないだろう!」
「そもそも3Dよりも手描きの方が美しいのでは?」

出典:著者の心の声

やらない理由を色々挙げていましたが、一番モチベーションが上がらなかったのは「結局3Dを覚えたところで活用する場所がない」という点でした。3Dが注目されていることは知っていましたが、手描きの方がイラストは綺麗に表現できると思っていましたし、背景などパースを活用する場面が少なければ3Dをイラストに活用するシーンはあまりないと考えていたのです。

それでも、学んでいくと見えてくることがどんどん増えてきます。Blenderを学習していく内に「これは絵を描く人にとって必須のツールである」という確証を得ていきます。

絵描きがBlenderを学ぶメリット

イラストを描く人が3D(Blender)を学ぶことは、いくつかの大きなメリットがあると感じました。ざっくり書き出すと以下の3点です。

①対応できる描画モチーフの種類が増える
②ライティング、重力などの物理シミュレーションができる
③さまざまな現象が言語化されており、定量的に制御できる

Blenderのアドオンを駆使して作った習作

まずは、「①対応できる描画モチーフの種類が増える」について、これはわかりやすいと思います。メカ、建物、自然物など自分の脳みそで処理することが難しい複雑なモチーフも、3Dを使うと非常に簡単に表現することができます。例えば螺旋階段などを絵で描こうすると地獄ですが、3Dならすぐに作れます。また無機物ではなく自然物であっても、テクスチャを工夫すればかなりリアルなものを作る事ができます。

次に「②ライティング、重力などの物理シミュレーションができる」について。これは特にBlenderで重宝される領域です。物にどうやって光が当たっているか、布のシワをどのように再現するかなどは、多くの絵描きが頭を悩ませるところでしょう。3Dはこういった物理シミュレーションをツール上で行ってくれます。

最後に「③さまざまな現象が言語化されており、定量的に制御できる」について。これは実際にBlenderを触らないと分かりにくいのですが、グラフィックで表現できるほぼすべての現象に命名が行われているという点です。例えば「なんとなく皮膚っぽい質感」という抽象的な目的に対しても「Subsurface Scattering」という設定があり、各パラメーターをいじれば自分のイメージに近づけることができます。反射光の強さやメタリック感、光の分散具合など、テクスチャだけでも設定できる箇所はもの凄く多いです。検索力さえあればやりたいことをほぼ実現出来てしまうような懐の深さを、Blenderは持っています。

仕事と子育てをこなし、練習時間を確保

さて前置きが長くなりましたが、ここからがこの記事の本題です。Blenderに限りませんが、新しい分野を勉強することは相当数の時間が必要です。私は現在35歳。仕事は中間管理職のようなものであり、予定外のタスクも多いです。1歳と3歳の子供もいるので、保育園の送り迎えや食事、お風呂、寝かしつけなどの普段の家事はもちろん、風邪をひいたときの対応や通院など、さまざまなインシデントも発生します。こういった背景があるので、平日はもちろん、休日でも夜22時にならないと自分の時間は訪れません。

逆にいえば、夜22時からは自分の時間を使わせてもらうように妻と話し、寝るまでの3〜4時間はほぼ毎日Blenderの勉強をしていました。この時の私は自分でもびっくりするくらい集中していて、可処分時間の全てを学習に使っています。残業や育児のトラブルで0時過ぎまで作業をした日も、そこから1〜2時間はBlenderを触るなど、可能な限り3Dをいじるようにしました。

これが、時間があり余っている学生時代だったら難しかったでしょう。縛りの多い今だからこそ、短時間の集中ができたのだと解釈してます。とはいえ、仕事が忙しくなると体調を崩すことも増えてくるので、現在はここまでタイトに学習をしていません。

最初の1週間はとにかくチュートリアルをこなす

Blenderは初心者にとって直感的ではない部分が多いです。頂点を増やしてポリゴンを貼ることはもちろん、オブジェクトを移動させるだけでも思うようにいきません。それでも学習を続けられたのは、とにかく再現性が高いという点です。

YouTubeには初心者向けのBlenderチュートリアルがたくさんあります。とにかく簡単そうなものから挑戦して、基本操作を覚えていきましょう。話者と同じ手順を踏めば、同様の成果物を得ることができます。

これは独力で勉強していたイラストでは味わったことがない感覚で、とても面白かったのです。少し操作に慣れてきたら、チュートリアルから自分のアレンジを加えていきます。部分的に色を変えるなど、低レベルなアドリブでも楽しめました。

※参考にした動画は記事最下部に記載

最初に作ったオリジナルのキャラクターモデル

2週目からはオリジナルモデル

学習を進めて2週目には、BlenderのUIの意味や基本操作を理解できるようになりました。この頃からオリジナルのキャラクターモデルに挑戦しています。人物のモデルは非常に難しく、顔がまるで可愛く作れません。当時はモデリング中心で、テクスチャについてはほとんど理解していないので、目などのパーツは顔の表面に浮かせて配置するなどゴリ押しで制作していました。

とにかく下手でも良いので、今自分が知っている知識でゴリ押しで作っていきます。私はものぐさな性格で、逐一調べるということが手間なので、特に初心者の内はモチベーションを下げないことを目標に、手を動かすことを最優先としていました。チュートリアルをこなしていけば新しい知識は勝手に入ってくるので、なにもわからない内は下手に近道を探す方がかえって効率が悪いと考えたのです。

服を意識したモデル

3週目、商業仕事にチャレンジする

Blenderの学習が3週間目に入ったとき、当時受けていた商業案件でも3DCGを使いたいと思いました。簡単なモックを作って担当者に確認したところ、問題無いというお返事が来たので、お言葉に甘えて制作することに。とはいえ3Dをはじめて1ヶ月も経っていない人間です。「初心者なので下手です☆」は許されません。これまでのチュートリアルで得た知識を総動員しつつ、目標にあわせて検索を行い、完成度をあげるように進めて行きます。

神僕3Dデザイン

この時はモデリングだけではなく、テクスチャやノーマルマップといった処理を覚えており、キャラクターモデルにボーンを仕込んでポーズを取らせるということもできるようになりました。3Dでレンダリング(書き出し)したあとは簡単にレタッチで加筆して、なんとか完成。普段受けているイラスト仕事の5倍ほどのコストがかかりました。

それでも3DCGで(ゴリ押しでも)商業案件をこなしたという経験はとても大きな学びになり、見つけた大量の課題とともにそれを克服するモチベーションを得られました。

4週目、キャラクターモデルに再挑戦

3面図から描き起こしたイラスト

1ヶ月目に入る頃には、より難しいことに挑戦しようと欲求が高まります。これまでも何度かトライしてみて上手くいかなかった、ある程度ポリゴン数のあるキャラクターモデル作りを進めて行くことにしました。

ここではかなり忠実にチュートリアルを参考にしてます。とはいえ制作物はオリジナルのキャラクターなので、はじめて正面図と側面図を描きました。仕事でキャラクターデザインをいくつかやっているので、この辺は2時間くらいでさくっとこなしてます(本当はもっと時間かけるべきなんでしょうけど、1秒でも早くBlenderに触っていたいのじゃ……)。

モデリングの様子

素体を作り、髪の毛などを生やしていきます。途中でチュートリアルと比較してメッシュの形が大きく異なったり、変なところが出っ張ったり凹んだりしますが、ここでも「こまけぇことはいいんだよ」精神で進めます。

素体データ

あまりにも地味な作業が続くので、途中で心が折れかけてます。チュートリアルの進行を無視して先にマテリアルの色を設定したら人間っぽくなり、テンションが回復しました。モチベーションは本当に重要なので、まず楽しそうな作業を優先することは全然問題ないと思います。

素体に色を加えたモデル

5週目、モデルの完成

服装を制作

なんやかんやあり、5週目にモデルが完成。このキャラクター単体では約10日(34時間)かかっています。「1ヶ月以上経ってるじゃねーか!」というツッコミもあるかと思うのですが、最初にBlenderに挑戦してから33日目なので許してください。ちなみにこの時点で11月10日です。

このモデルはぱっと見てそれっぽいとは思うのですが、作りは雑です。リグなどを設定していますが、「こまけぇことはいいんだよ」精神が仇となり、少し動かすと指が吹っ飛んだり、服がめり込み、地肌が透けたりします。ですがそれは次の課題にすれば良いのです。なんなら次回で解決しなくても良い。とにかく作り続けることが重要です。

アニメーションが面白い

ボーンを納れてポーズを付ける

Blenderを学習しはじめる前は思いもしなかったのですが、3Dのアニメーションを作ることは非常に面白いです。モデルさえあれば2Dアニメの何倍もの速さで制作でき、カメラアングルも自由自在です。

ピクサーのような海外のアニメスタジオが3Dメインになることがよくわかります。モデラーとアニメーターを別のラインで運用できることは、制作においては大きなメリットになりますね。またそれと同時に、いかに『トイ・ストーリー』や『アナと雪の女王』などが高度な仕事をしているかがよくわかりました。

回転蹴り
指吹っ飛びぐるぐる
モデルウォーク
頭突き

もっと気軽に3Dを

くあぺん歩行アニメーション

11月後半は多忙やら体調不良やらが続き、学習のペースは落ちました。それでも続けています。学習初期はイラストへの応用を考えていたのですが、もはや3DCGそのものに大きな興味を持ってしまっています。

こちらのアニメーションは、京都芸術大学のキャラクター「くあぺん」です。ア・メリカ先生から上がってきたイラストを見て、モデリングして簡単なアニメーションをつけました。モデリングにかかった時間は3時間、アニメーションは1〜2時間くらいです。これくらいのシンプルなデザインであれば、意外と落書き感覚で作れてしまうのも魅力ですね。

くあぺん3D
くあぺん元イラスト
https://air-u.campus.kyoto-art.ac.jp/news/detail/3098/

今後の展望

ここまで読んでいただきありがとうございました。

10月〜11月は怒濤の勢いでBlenderをいじり倒したのですが、自分でもここまでハマるとは思わず驚いています。今は自信を持って初心者を脱したと言えるのでそれが1番嬉しいですね。「若い方が吸収力が良い」とはいいますが、30代後半でも「これまでの経験がある分覚えも早い」という説を推します。

今後の展望としては、当初の目標に立ち返りイラストの中での3Dの活かし方を挑戦していきたいです。手描きや2Dのようなシェーディングが好きなので、最近話題のグリースペンシルなどの機能も覚えていきたいです。

オマケ:これからBlenderを学習する方へ

Blenderは直近で3.0がリリースされ、非常に盛り上がっています。

最後に、これからBlenderを覚えたい方へ私なりの総括を書いておきます。まず、ある程度デジタルツールに慣れている人であれば、土日フルに使えって勉強すれば基本操作はおおよそ理解できるということ。

リグを仕込んでいる様子。3Dの大きな難関

そして何度も書いてきたとおり、初心者の内は「こまけぇことはいいんだよ」精神で進んでいくといつの間にか問題は解決していきます。この大前提をまずは覚えてください。むしろ下手な状態の作品は残しておいて、上達したあとの楽しみとしてとっておきましょう(技術に差がある方が面白いので)。

大事なのは、とにかくチュートリアルをこなし続けること。初心者の内は、YouTubeの動画チュートリアルで10〜20分くらいで完結するものを探しましょう。動画は10〜20分でも、自分が作るならおおよそ30分〜1時間くらいかかると思います。それをできるだけ短い間隔で作り続けると、おのずと上達していきます。チュートリアル動画は基本的にver2.9以降のものを見るようにしましょう。Blenderは進化が異常に速いので、古い動画だとUIが変わるなど問題があります。

自宅の物置をモデリングして棚を設置できるか検証(実生活に役立つ3D)

また、できれば知り合いやSNSでも良いので、定期的に成果物を公開すること。ちなみに私は大学の研究室の共同チャットに成果物をアップしていましたが、ほとんどリアクションは付かなかったので「反応してよ!」と直接相手にいう痛いおっさんになってました。どうしても人に成果物を見せたくない時は自分しか見ない日記を作りましょう。ブログがおすすめです。成果物はもちろん、現時点の問題点、仮説、解決したこと、参考urlなどをまとめておくと、あとでとても役に立ちます。レッツトライ!

参考サイト・動画

3Dのメモ帳:話が面白い!トピックスが非常にためになります。
Yonaoshi3D:非常に分かりやすい。初心者向け。
3D Bibi:初心向けならまずこれ!短時間にトライ出来る課題が揃ってます。
mmCGチャンネル animetic:しっかりめのキャラモデルの解説が丁寧。
トハちゃんねる:基本操作がわかる方向け、可愛いローポリの解説。
Tom Studio:ハイクオリティなビジュアルを簡単に再現できる。
KMBL:専門的な内容。プロ目線の商用モデル解説など。


プロフィール

虎硬
京都芸術大学通信教育部 イラストレーションコース
コース主任
https://twitter.com/anofelus
https://anofelus.com/

1986年生まれ。イラストレーター、コラムニスト。現在はピクシブに所属し、イラスト教育事業のプロデュース、マネジメントを行っている。主な制作実績に、バンド「神様、僕は気づいてしまった」メインヴィジュアル、Google+PRイラスト、株式会社アニメイト企業ロゴデザインなど。著書に『ネット絵史(ビー・エヌ・エヌ新社)』、『はじめてでもわかる! イラストでお金を生み出す秘訣(KADOKAWA)』など。


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