カラーホイールの補色は”補色じゃない”? ──人の目とデジタルカラーの不思議な関係──
KUAイラストアドベントカレンダー、12月5日はイラストレーションコース研究室の田中先生から『カラーホイールの補色は”補色じゃない”? ──人の目とデジタルカラーの不思議な関係──』です!
こんにちは。京都芸術大学イラストレーションコース研究室の田中です。今日は色の話をしていきます。中学生の頃に「12色相環」を習ったことを覚えているでしょうか?色相と呼ばれる12の色がグラデーションのように円状に配置されているものです。特に普段絵を描く方は「カラーホイール」として認識していると思います。今回はそんなカラーホイールにまつわるちょっと不思議な小話をご紹介します!
カラーホイールは補色じゃない?
色に自信が持てない時「とりあえず補色!」といってカラーホイールの反対の色を選んでしまっていませんか?普段何の気なしに使っているカラーホイールですが、実はカラーホイールにおける「補色」の関係は実際に人間が感じる「補色」とは違うことをご存知でしょうか?
そもそも補色とはなにかというと、色相環において反対に位置する色の組み合わせのことです。デザインなどの配色において用いられることの多い組み合わせで、黄色と紫、オレンジと水色などがあります。例えばカワセミなどは色合いが美しいと言われますが、青色をオレンジという補色の関係を含んでいますね。
「色相環の反対に位置する色の組み合わせ」が「補色」でした。では、実際に比較してみましょう。下の画像の左がAdobe Photoshopのカラーホイール、そして右側がマンセル表色系の色相環です。それぞれ、赤の位置が合うように回転、反転して調整しています。
この画像で、赤の補色(色相環において反対に位置する色)を見てみましょう。Adobe Photoshopはシアン(水色)なのに対して、マンセル表色系では緑になっていますね。
それぞれ色の「色相」を表したものなのに、どうしてこういった違いが生じるのでしょうか?
カラーホイールの仕組み
Adobe Photoshopのカラーホイールがどのようにしてできているのか見てみましょう。コンピューターのディスプレイで色を表現するためには、色の情報を数値として扱う必要があります。実際の処理としては、R(Red - 赤)G(Green - 緑)B(Blue - 青)の3種類の光を0から255の256段階で変化させることによって色を表現しています。テレビなども同じ仕組みですね。
Adobe Photoshopのカラーホイールも同じような原理で作られています。Adobe PhotoshopのカラーホイールはHSB(Hue:色相、Saturation:彩度、Brightness:明度)という3つの数値でできており、色相環に対応する数値がH(Hue:色相)になります。
Hueはカラーホイールにおいて円の角度で表現されており、0度(赤)から始まり、橙、黄、緑、青、紫を経由して、360度で再び赤に戻ってきます。これにそれぞれRGBの値が対応しているわけですね。
実際にAdobe Photoshop上でH(Hue:色相)を変化させた時の値を見てみましょう。下記のGIFはS(Saturation:彩度)、B(Brightness:明度)ともに最大値に設定した時にHを0度から360度まで変化させた際のRGBの変化の様子です。
この様子をグラフにすると下記のようになります。カラーホイールではRGBが断続的に変化して色を表しているのがわかりますね。
このようにカラーホイールは光の3現職の原理を利用しており、このカラーホイールにおける補色の関係性(赤──シアン)を「物理補色」と言います。
一方、「マンセル表色系」など、人間の感じる補色のことを「心理補色」と言います。実際にマンセル表色系における補色をそれぞれカラーホイール上にプロットしてみると、180度から少しずれたようなところにありますね。
人の目は色をどう観ている?
こうした違いはなぜ発生するのでしょうか?
それには人間の目の仕組みが関係しています。
人間の目には、3種類の錐体細胞(色を感じる部分)と1種類の桿体細胞(明るさを感じる部分)があります。このうちの3種類の錐体細胞ですが、実は光の3原色と言われるRGBそれぞれに対応しているわけではありません。特定の範囲の波長の長さに対応しており、それぞれL錐体, M錐体, S錐体と呼ばれます。
これらの錐体が光によって刺激され、その刺激の量によって脳で色として認識されます。
では実際どのように脳の中で色が認識されているのでしょうか?下の図はL,M,Sそれぞれが刺激を受けやすい波長と色の関係を表した図です。
上の図では、L ,M,Sそれぞれが別々の波長において感度の山があることがわかります。この感度の『差』が色の認識には重要です。
まず、L錐体とM錐体の感度の大小によって、その色が「赤」よりなのか、それとも「緑」よりなのかということが決まります。
次に、L錐体とM錐体の感度の平均値に対してS錐体の感度が大きいか小さいかによってその色が「黄」よりなのか「青」よりなのかが決まります。
そしてこの2軸の値によって最終的にどの色に感じるかということが決定されます。
このように赤──灰色──緑の軸(補色次元 a)と青──灰色──黄色の軸(補色次元 b)の2つの軸によって、人間の色覚は作られており、その色の分布をわかりやすく表したのが下の図です。
このような構造を持っているので、人間の心理補色では「赤」の反対は「シアン」ではなく「緑」と感じるのですね。
色を選ぶときはどうすればいいのか?
さて、カラーホイールにおける反対の色が人間の感じる「心理補色」ではないということを解説しました。
こうした人間とコンピューターの色についての若干のズレは「色」に自信が持てないとき陥りやすい落とし穴だと思います。例えば、「色相環の反対の色を補色という」「補色はデザインなどによく用いられる」という知識があり、かつ自分の色選びに自信が持てないとしましょう。すると、自分の色の感覚よりも理論を優先してしまい、それを前述のカラーホイールで実践してしまった結果、「物理補色」で配色されたイマイチなイラストになってしまうということもあると思います。
色を選ぶためにはしっかりとした知識が必要です。下記にいくつか色のレファレンスを紹介します。ぜひ制作の際に役立ててください。
1 表色系を参考にしよう!
表色系というのは色についての研究の過程などで作成された色の規格の一つです。マンセル表色系の他にもPCCSなどさまざまなものがあります。こうした表色系から色を選ぶと良いでしょう。
表色系によって色のまとめ方が若干異なるので、それぞれの色のまとめ方を把握しておくことも大切です!
2 Labカラーピッカーを使ってみよう!
カラーホイールが表示されている部分をカラーピッカーと呼び、Adobe Photoshopでは、カラーホイール表示のあるHSV, HSBの他にLabというカラーピッカーもあります。
これは前述の人の色認識の仕組みをコンピューター上で再現するためのカラーピッカーで、補色を取るという点では非常に有効です。Labのaとbがそれぞれ赤──緑、青──黄の軸に対応しているので、入力された数値の正負を逆転させることで、知覚的に近い補色の値を取ることができます。
ただ、スライダーでの調整になってしまい、扱いづらい部分もあるので、その点はHSVなど他のカラーピッカーを活用しましょう。
3 カラーパレットを活用しよう!
先人の知恵を活用するというのも良いですね。カラーパレットを扱うサイトはたくさんあり、今までデザイナーなどが制作してきたカラーパレットを一覧で見ることができます。
こうしたカラーパレットから、イメージに合うものを選び、それを参考に配色を決めていくと良いですね。
カラーパレットを紹介しているサイトなどもあるので、活用していきましょう!
また、Adobe Colorなど、人間が心地よいと感じやすい配色を自動で提供してくれるサービスを利用してみるのもおすすめです。
まとめ
以上、人の目の構造から、カラーホイールにおいて180度反対の色が人間の感じる「心理補色」ではないということを解説しました!
イラストを描く以上、色とはずっと付き合っていくことになります。例え色に自信が持てない時でも、落ち着いて、表色系やカラーパレットを参考にしながら色選びをしてみましょう。知識をつけることで応用ができるようになっていきます。
それでは!
プロフィール
田中 暁也
京都芸術大学 通信教育部 イラストレーションコース
講師
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