無料のイラスト講座があふれるなかで、なぜ私はオンライン大学で仕事をするのか
KUAイラストアドベントカレンダー12月1日はイラストレーションコース研究室の虎硬先生から『無料のイラスト講座があふれるなかで、なぜ私はオンライン大学仕事をするのか』です!
こんにちは。虎硬(とらこ)と申します。私は京都芸術大学通信教育部イラストレーションコースというところでコース主任をしております。本コースは通信教育なので、昨今のコロナ渦でも通学に比べると影響が少ない授業形態となっています。今日はそんな私の立場から考えた、大学のオンライン講義でイラストレーションを学ぶ意味についてお話します。
絵の勉強、 無料コンテンツで十分?
大学しかり、専門学校しかり、イラストレーションを専門的に学ぶ教育機関はたくさん存在します。一方で動画サイトやブログ、SNSには無料のイラスト講座が日夜公開されています。その数は膨大で、実際にそれらの中には私から見ても良質なものが多く存在します。
ここでひとつの懸念が生まれます。
これだけネットに無料のイラスト講座があるなら、ネットだけで絵を勉強すれば良いんじゃない? わざわざ高いお金を払って学校に行く必要はあるの?
大学教員である私の結論は「自力で情報を得て表現者として成長できるなら、わざわざ学校へ行く必要は全く無い」です。イラストに関して決められた学習のプロセスはありません。無料で公開されている動画で成長できるならそれを活用しない手はありません。大学や専門などの教育機関は学費も高額なのであえてそういった手段をとる必要はないのです。
では、無料コンテンツに溢れた世界で、あえて有料の教育機関である大学に行く意味とはなんでしょうか?
大学の仕事は学習をパッケージ化すること
先に結論をお伝えしておくと、大学が行う重要な仕事のひとつは「学習の手順」を整理してをパッケージ化することだと考えてます。
小学生時代を思い出してみてください。多くの人は漢字の読み書きや算数の概念を理解していなかったと思います。それでも日本の教育は素晴らしく、中学生にもなるとほとんどの人が読み書きや、足し算、かけ算、さらには公民、古典作品の知識を持っています。それは学習指導要領に沿って先生が学習の手順を整理して教えてくれたからです。
これが学校ではなく、教科書を自主的に読む学習方法ではどうでしょう。もっといえば教科書すらなく、誰かが書いた何かの学習トピックが点在しているだけであればどうでしょう。
こういった無数の情報を初等教育の基本的な概念がわからない状態で理解するのは不可能です。これは極端な例ではありますが、イラストの学習についても近しいことはいえると思います。
ネット上にある無料コンテンツというのはコンテキストの無い状態で散らばっています。作った人もバラバラで、なによりも長期的な学習を前提とした内容にはなっていません。その品質も千差万別であり、多数の閲覧数があったとしても内容が間違っていることや、現代的な表現のセオリーに則っていない(または重要な説明を省略している)ケースがあります。
こうした無料のコンテンツを活用するには、学習者自身がある程度のイラストの基礎知識を持っており、自分のスキルに合わせて、コンテンツを探す必要があるのです。
一方で大学の教材は4年間(1年次入学の場合)という学習期間を前提としてカリキュラムを組んでいるので長期的かつ、成長シナリオに沿った設計がなされています。この一連の学習手順を「パッケージ化」と呼んでいます。特に初学者は勉強の入り口でつまづくパターンも多いので、学習の全体像を最初から確認できることには大きなアドバンテージがあります。
フィードバックが成長を生む
また、大学の特徴としては「成績評価」があります。学生からすると嫌な仕組みにも思えるかも知れませんが、これがあるからこそ大学では責任ある教育が担保されています。
イラストの良し悪しは定量的に判断することが難しく、感覚に頼る部分が多い分野です。だからこそ、学習者にとっては「自分が実際に成長できているか」という点を客観的かつ冷酷に判断されることは、非常に重要です。
本コースでは評価(特にイラスト添削)において「学習者自身が自らの課題に気付けること」を第一に評価とフィードバックを進めています。もちろんモチベーション維持としては作品を褒めることも重要ですし、実際に良い点を探すことは必ず行ってます。ただあくまでも目的は表現力の獲得です。適切なフィードバックを行うことで次のアクションが生まれると考えています。
「学び」は浮気しても良い!
色々と書いてきましたが、冒頭でも述べたとおり、ネットコンテンツを悪く言うつもりは毛頭なく、むしろ最大限に活用すべきだと私は考えています。なぜなら学習内容や、教員ですら他に浮気をしても良いからです。
例えば大学の授業であつかった「色彩」について興味を持ったなら、よりそれを深く知れる書籍や動画を探すのはとても健全な学習です。もちろん担当している先生に追加で質問をするのも良いし、さらに専門的な先生に訪ねることもできます。
この時に重要なのは、今の自分がどこを歩いているのか見失わないことです。先に述べたように大学はカリキュラムとしてそれぞれの成長シナリオを設計しています。つまり、大学で学習しつつ、ネットコンテンツをつまみ食いしていくと大きな流れを見失うことなく自身の興味を掘り下げていくことができるのです。
「学校不要」へ一石を投じる
イラストにおいて「学校は不要」という声は本当によく聞きます。私もデザインの大学を出た人間なのでその気持ちは共感できるところもあります。実際に日本の美術系の教育機関では「個性」や「ビジョン」を重視して、肝心の「技術」や「知識」について基本的なことですら教えていないケースも多々あります。
そんな思いを持つ私ですので、京都芸術大学のイラストレーションコースでは、イラスト表現の学びについて一石を投じたいと考え、カリキュラムを設計しました。高いパフォーマンスを持つ専門家が集まった総合的な学習シナリオが描ければ、大学こそが絵を学ぶ環境として最強だと思うからです。
「とにかく堅実に技術と知識を積み上げていくこと」がイラストレーションコースのカリキュラムの基本思想です。
個性はすでに持っていますから、あとは表現するだけです。本気で絵を描く学生の成長を後押しできるような大学を目指しています。
プロフィール
虎硬
京都芸術大学通信教育部 イラストレーションコース
コース主任
https://twitter.com/anofelus
https://anofelus.com/
1986年生まれ。イラストレーター、コラムニスト。現在はピクシブに所属し、イラスト教育事業のプロデュース、マネジメントを行っている。主な制作実績に、バンド「神様、僕は気づいてしまった」メインヴィジュアル、Google+PRイラスト、株式会社アニメイト企業ロゴデザインなど。著書に『ネット絵史(ビー・エヌ・エヌ新社)』、『はじめてでもわかる! イラストでお金を生み出す秘訣(KADOKAWA)』など。
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