高島平・下田流|加水率135%の生食パンでゆさぶってくるパンの概念
「ただ下田流のパンを知ってほしい、食べてほしい」という純粋な思いから、一切の装飾を施さずに看板だけをさげた店舗。
知らなければ通りすぎてしまうほど無垢な外観ですが、評判が評判を呼び、下田流のパンを求めにやってくる方でにぎわいます。
「作った人の意図が読み取れるパン」というポリシーがびしばし伝わる、下田流の精神が注がれたパンがつくられていました。
下田流
下田流の店主・下田鴻さんは、板橋・下赤塚の人気店「BOULANGERIE KEN(ブランジェリー ケン)」にて修業します。
勤務当初、店内でオリジナルパンのポップアップショップができるほど人気を集め、修行時代からパン職人としての頭角をあらわしていました。
ブランジェリー ケンの店主から教わった「パン作りは、常識にとらわれなくていい」という言葉に胸を撃たれ、独自の解釈でおいしいパンをつくりたいという思いから、2021年9月11日に下田流をオープン。
素材の組み合わせや思い描く食感に熱を注ぎ、食べた人を圧倒させるパンを生みだしています。
訪れたのはお盆休み期間の平日8時ごろ。お盆休み後半でさすがに混んではいないだろうと思っていましたが、ひっきりなしにお客さんがやってきて人気の高さをうかがえます。
できたてのパンがオープンにずらりと並んでいました。ベーグルは焼き上がりが遅いので2~3種類しかないものの、ハード系やスコーンなどは準備万端です。
店内からでも厨房の様子がわかり、せっせとパンを焼く店主をはじめとしたスタッフの様子がわかります。
下田流マインドを体感
初の下田流ということで、人気のパンを中心に気になった5点を選びました。
人気No1とのことで迷わずトレーにのせた「下田流生食パン」。ヨーグルトや生クリームなどを含めた、水分量135%の高加水パンです。
食パンとあるものの、手のひらから少しはみだすくらいのサイズ。コッペパンのような見た目から、ふわっと軽い印象でしたが、トングでつかんだ瞬間、ずっしりとした重みにびっくり!
水分がたっぷり閉じこめられた重さを感じつつも、でろんと垂れてしまいそうなゆるさをもちあわせていて、不思議なフォルムです。
発酵バターによってもたらされる奥行きや風味、ヨーグルトや生クリームなどの副材料により、みずみずしくツヤのあるクラムです。
半生のような部分は、ギリギリ形をとどめていると感じさせるくらい、てろんとなめらかな舌ざわり。もはやパンなのか……? と思ってしまうほどでした。
はちみつのような豊かなコクと甘みを感じ、てろんとしたなめらかさからは、プリンを想像させます。ハード系好きのわたしにとって、新感覚の体験です。
下田流のベーグルは、20種類ほどのラインアップです。今回は焼き上がり時間の都合で、一番シンプルな「春よ恋 プレーンベーグル」を購入しました。
パリパリッと心地いい歯ざわりのクラスト、高加水が自慢だけあってしっとり・むぎゅっとしたクラムのコントラストが鮮やかです。
あと少しでも水分が多いと、食べていくうちにべちゃと重くなりそうな、ギリギリを攻めているなと感じました。
ほんのりと伝わる甘みと、小麦の豊かな香りが広がる素朴なベーグル。個性派ぞろいの下田流パンのなかにいると、シンプルなのがかえって際立ちますね。
下田流の「パン ド ロデヴ」は、前田農産のキタノカオリを使用し、加水率110%が特徴です。
リピーター増加中の高加水ハードパンとのことで、ハード系好きなら見逃せません。
パリパリと薄いクラストから、ふわん・とろんな気泡もりだくさんのクラムへ進んでいくのが、パン切り包丁ごしでも感じられます。
下田流生食パンのように、とろんのなめらかな舌触りのクラムです。糸をひくようにしなやかな生地の伸びから、水分量の高さが伝わりますね。
直接鼻を近づけても香りをほとんど感じませんが、噛みしめていくうちに香ばしい風味が広がります。オープンサンドにして食べたい、万人受けするシンプルな旨みです。
わたしはリベイクしたロデヴに、はちみつバターをじゅわっと染みこませていただきました。
明太フランスといえば、バゲットを使用するのが一般的。一方、下田流の明太フランスは、ロデヴを使っているのが斬新です。一度に5~6個購入する方もいるほど、熱狂的な人気を集めるパンと聞きつけました。
自家製の明太子ソースをたっぷりとかけ、きざみみのりとパルメザンチーズをトッピングしています。ひと噛みで明太子の旨みと絶妙なピリ辛が押し寄せ、脳天を貫くようにガツンとした塩味に目を見開きました。思わず「濃いィ!」のひと言がでてくるほどです。
クリーミーな明太子ソースがロデヴに染み、ふにゃりとやわらかで、じゅわじゅわと旨みがあふれてきます。
あごの強さが試されるバリバリの明太フランスも好きですが、あふれる旨みを大胆に感じられるロデヴもありですね。
「下田流」と名のついたパンは、こちらのバケットでラストです。入口付近にディスプレイされていて一度スルーしたものの、やっぱり気になりトレーにのせました。
長さ40cm、太さ5.5cmと比較的細めです。パン ド ロデヴと同じ材料で作られ、水分量が異なると紹介されています。
袋から取りだすと、食欲そそる香ばしさがふわっと漂います。リベイクすれば、ココアのような甘さを含む、カカオチックな香りにきゅんとしました。
噛みしめるたびに甘みと旨みが増していく厚めのクラストに、下田流が得意な高加水が伝わる、もっちりと満足感のあるクラム。ヒキがある食べごたえとふくらむ旨みにより、リベイクしなくても十分おいしい!
リベイクすれば風味が強まり食べやすくもなるので、ぜひ食べくらべてほしいです。
ゴツゴツとした見た目の通り、ほろほろと崩れていきます。全粒粉のプチプチ食感が心地よく、惜しげもなくクルミを使っているのが好印象です。
パサパサせず、口のなかの水分もってかれる感じもありませんが、これといった特徴がないのが正直な感想……。全粒粉の風味が物足りなく、全体的にぼやっとしていて、はちみつの味にムラがありました。
パン屋さんのスコーンは、イギリス式とアメリカ式のどちらにも属さない、パン屋の個性が反映された食感と味わいを楽しみに購入しています。
こちらのスコーンは、ザク・ホロ食感にもかかわらず、次第にしっとりとして余計な水分を感じてしまうのがアンマッチな印象でした。
手探りでみつけだすパンのおもしろさ
バケットやロデヴで下田流の軸を体感しつつ、明太フランスや生食パンで下田流の遊び心を楽しみました。
下田流の精神をびしばし反映しているからこそ、好みがわかれそうな印象です。家族のなかでも好きと苦手がはっきりわかれましたね。
入店した瞬間に「パンが主役!」とわかるレイアウトはもちろん、我流を貫く姿勢に心打たれてファンになるんだなと感じるパンばかりです。
新しいオーブンを導入したり、配合を調整・アレンジしたり、まだまだ進化を続ける下田流に期待がふくらみます。
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