見出し画像

あなたの生まれた日を私は知らない

2006年6月14日、私は自転車で遊歩道を走っていた。
ちょうど愛猫、風太の命日から四十九日目だった。
ベンチなどがあるあたりで人だかりが見える。
そこには大きな切り株のオブジェがあるのだが、その上で二匹の子猫、黒猫と三毛猫が遊んでおり、そばには飼い主と思われる男性が座っていた。
「この子達のお母さんはこの子達を探しているでしょう」
と通りがかりの人が言う。
「お母さんはいないよ」
と飼い主らしき男性は答える。
彼は、子猫たちの里親を探しているということだった。
二匹のうちの一匹である黒猫は男の子、もう一匹の三毛猫は女の子で、彼らは兄、妹の兄弟であるとのこと。
彼らはおじさんの家の庭に袋に入れられた状態で捨てられていたそうだ。
中には彼ら2匹を含め4匹いたのが、他の2匹はすでに亡くなっていて、かわいそうで見ていられなかった、とのこと。

私はその二匹のうちの一匹、黒猫に心が惹きつけられた。
愛猫、風太の四十九日目に、いつも喪服姿の小さな黒猫に出会い、とても強い縁を感じた。
それに自分は子供の頃から、「自分が40才くらいの頃、黒猫と一緒に暮らしている」というイメージが、なぜか良く浮かんでいたのだった(この時自分は30代だったが)。
それでも愛猫を失ったばかりで、自分がこの子の里親になりたいと言えるような気持ちにはなれなかった。
最初、私はその場を立ち去ったのだが、家に帰ってからもどうしても気になる。
あの子にまた会いたい。
しばらくして同じ場所に行ってみると、人がまばらになっており、黒猫の姿が見えず、片割れの三毛猫だけがいた。
私は「クロちゃんは?」
と尋ねた。
里親探しのおじさん曰く、
「クロは<知り合いが欲しいというかもしれないから聞いてみる>という人が現れて、試しに連れて行ってもらっている。その人には、もしダメだったら返していいから、と言ってあるんだけど」
ということだった。
私は胸が張り裂けんばかりに悲しくなった。
どこかで自分のもとに来るのが当然と感じていたのか、とても落胆してその場を離れた。

しかし、その日の夕方になっても気になる。
なぜかあの黒猫が、あの子が気になって仕方がない。
たまらなくなって再び遊歩道に行くと、なんと黒猫子猫がいるではないか。
「あれ?クロちゃんどうしたの?」
と聞いたら
「ダメだって。返してもらった」
とおじさんは言う。
この時は本当に運命を感じた。
「最後の瞬間までこの子のお世話をしますから、どうかこの子をください」
とわたしは頭を下げた。
おじさんは、おもむろにメロンの箱を取り出して、その中に黒猫子猫を入れ、
「とりあえず連れて行っていいよ。様子を見てダメだったら返してくれていいから」
と言ってくれた!

私はその黒猫入りのメロンの箱を抱えて家へ向かった。
これが初めて、私がくうちゃんを抱っこした瞬間だ。
軽くて、頼りなくて、風に吹き飛びそうなその箱を抱いて家に帰る。
母が「何それ?」と聞く。
私は「猫」と答えて自分の部屋にすたこらと向かったことを昨日のことのように鮮明に覚えている。
母は「え?」と言って、私が箱から小さな黒猫を出すのを後ろから見に来る。
「わー、真っ黒!」
と母。
小さな黒猫は出てくるなり大あくびをかました。
全然、警戒している様子はなかった。
彼のこの姿を見て、私は、もう決まった、と思った。
母もその様子を見て
「あんた(私のこと)がいいんなら・・・」
と私に対して言って、そして小さな黒猫には
「うちの子になる?」
と聞いた。
大あくびをしたこの子は早速部屋をうろうろし、愛猫が使っていたトイレに上手におしっこしたのだった。
弟もこの余裕に驚き、
「へー、かわいいね。怖がって隠れて出てこないかと思っていたら・・・(堂々として良く慣れている)」
と上機嫌。
トイレでおしっこしているところを見て笑い、
「わー、何倍だろ、トイレがこの子の6倍くらい大きさがある。この小さいのが6人はいるぞ」
と言って面白がる。

私はこの子を授けてくれたおじさんのもとに行き、家族の許可をもらったので、うちで飼うことができると伝えた。
「最後の瞬間まで必ず責任取りますから、私にクロちゃんのお世話させてください」
と頭を下げると、おじさんは
「クロは幸せだよぉ」
と、ちょっとほっとしたように言った。

程なく、三毛猫の女の子も飼い主が見つかったようだった。
おじさんはほっとしたと同時に寂しいと言っていた。
彼らを拾ってからというもの、ここまで、それこそミルクをあげるというところから育ててきたからだと。
おじさんの家には犬もいるし、雄猫もいて(おじさんいわく、雄なのに母性本能というか父性本能というか、この二匹の子猫の面倒を見てくれているのだと言っていた)、そしてカラス?もいる、ということで、分け隔てなく生き物を愛するかたのようだった。
三つ子の魂百までというべきか、その後、『空太』と名づけられるこの小さなかわいい黒猫は、命の恩人のおじさんの遺伝子を引き継いでいるかのように、信じられないほど優しく(引っ掻いたり噛みついたりしない)、忍耐強く賢く育っていく。

ちゃんと箱座りできるよ!

#猫 #猫と生活  #黒猫 #子猫 #里親

いいなと思ったら応援しよう!