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緊急事態宣言の思い出#2 韓国へ「脱出」?

2020年8月に韓国に入国した日本人は総数1275人で、前年比99.6パーセント減。私はそのうちの1人でした(注1)

その年の3月にアメリカから若干無念の緊急帰国をして(注2)、別世界のように日常が動いていた日本も日を追うごとに状況は悪くなっていった。幸い当面の仕事や生活の心配はなかったものの、カフェにもジムにも行けず、友達にも会えず、ただ家でニュースをみながら次の仕事への応募をしたり博士論文を書いたりする生活はあまり楽しいものではなかった。加えて、もともと学位を取ったら日本に戻って来ようとは思っていたものの、日本政府のコロナへの対応や、今後の日本でのキャリアなんかを考えたときに、何となくExcitingな気持ちにはなれなかったのは正直なところ…。将来日本がダメになった時のために、外国にも一箇所生活の拠点やコネクションを維持しておきたい気持ちなどもあり、何となくくすぶっていた春。

5月くらいだったか、翌年4月までの追加の奨学金受給者に選ばれたメールが大学から届いた(注3)。そしてインスタには普通にレストランやカフェにいる楽しそうなソウルの友達。当時スタバすら閉店していた自分の地域からすると眩しく見えた。普通、これだけで韓国行こうとは思わないと思うけど、金銭的目処が立ったこと、語学学校に登録すれば時間はかかるけどビザが降りているらしいこと(注4)、ソウルには既に半年住んだことがあって韓国語も死なない程度には話せて生活の事情もわかっていること、そしてもう長年付き合って信頼できるパートナーが、それまではアメリカにいたけどソウルに移ったこともあり、半年ほど韓国に「脱出」することにした。

そもそもこの状況で、ある程度のお金と時間を投資して韓国に行くのが「正解」なのかは分からなかった。これは私の主観だけど、日本人にとってアメリカに留学でも仕事でも行くのと、韓国に行くってのは、やっぱり違う意味を持っていると思うんだよね。それは英語ができた場合と韓国語ができた場合の仕事の幅の広がりの差とか、もっと感情レベル的なもあると思う。要するに「アメリカはまだしも、韓国なんかに行ってなんの意味があるの?」という極端な、特に上の世代からの反応。それに、日本以上にゲイに対して風当たりが強い国に、同性パートナーがいるから行く、ってことも、あまり得策にも見えない。そして6ヶ月日本を離れることで、逃してしまう仕事のチャンスもあるかもしれない(注5)。

しかし私の場合、ソウルに住むことはメリットもあった。まず、東京の郊外に住むよりも、ソウルの中心部に住んだ方が生活が圧倒的に便利。高くなったとはいえアメリカよりもかなり安い金額で、いいエリアの新築マンションが借りられる。オフィステルと呼ばれる(Office+Hotelの造語)建物が多いんだけど、一階部分がカフェやコンビニなどの店舗で、中層から上層階がオフィスや住居になっている建物は、作りもホテルのようで設備もよく、以前住んだ時ひじょーーに快適であった。そして、AmazonとUber Eatsも参入できないくらいデリバリーのサービスや宅配システムが非常に充実しているし、外食も安く、全く自炊をしなくても困らない。健康を害するような食生活にもならない。地下鉄とバスも市営で非常に安く効率的に動いているので、実はただ生活するだけなら、日本よりも無駄なことに時間がかからない。あとはそこらじゅうに広めのカフェがあり、自習室の文化も日本より発展している。外国人も多いので、日本語と英語ができると、あまり寂しい思いもしなくてすむ。ちなみにパートナーは実家暮らしなので、一緒には住まなかった。笑

そして何より、自分は将来的に韓国に住めそうか、そして住みたいのかを見極めようと思った。

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Study Cafe(読書室ともいう)で仕事。奥の右側の席に、いつも公務員試験の勉強をしている骨太系で地味な男子が。友達になれないかと思ったけどそういう雰囲気ではなかった…。ちなみに日本語とっても上手な職員さんがいてお世話になりました。京大に留学する予定らしい。一度彼の日本人の友達がたまたま来ていて、その人がゲイで友達になった。このTOZというフランチャイズおすすめ。

2年前はラッキーなことに仕事の関係で語学学校に行けたので金銭補助があったし、奨学生としての立場やネットワークもできた。学校以外はほぼ毎日遊んでたのしー、という人生最後の夏休み的な日々だったので、今回はもうちょっとパートナーのことを含め、真面目に今後のことを考えてみる機会にもなるかなと思った。

住んでみると、コロナに関しては厳しすぎるほどで感染の危険性はほぼない一方、生活自体はかなり制限を受け、2年前に住んだ時とは全然違う経験だった。韓国の2週間の隔離はとても厳格で結構大変。新しい知り合いを作るのはかなり難しい(特に自分が外国人の場合)。韓国語ネイティブに頼らなければいけないことも多かった(ビザの切り替え、最新の情報、規則など)。感染者が増えると途端に施設が閉められ店の営業も禁止されたり、イベントも中止される。面白かったのは、文字通り一時的に韓国に「逃げて」くる人たちがいたこと。アメリカ人はビザなし入国できたので、時差を我慢しながらリーモートワークしつつ生活していたテレビ局勤務の人とかもいた。私みたいに以前韓国に何らかのつながりがある人がほとんどだったけど。

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どうぶつの森で花火大会。日本で買えなかったので、アメリカのAmazonで転売されているSwitch Liteを友達の家に送って、DHLで日本に送ってもらった。時間かかったけど日本で買うより安い。心の恋人クロー。って「人」じゃないか。

結果的に博論は最低限書き上げることができたし、韓国の研究者や大学院生との交流もでき(コロナでアメリカから皆帰国していたので、昔の先輩や同僚と再会もたくさんできた)、以前より韓国語もできるようになった。色々な事情がわかった上で、また日本でもできることを頑張ろうと思えるようになったので、行ってよかったと思っている。あとは、いろんな困難を支えてもらってパートナーとの絆がさらに深まった気がした。これも想定していたけれど、韓国に行けば向こうのほうの立場が強くなるので、その状況だとどうなるかなというのも見てみたかった。

ただ、今回の滞在で、将来的に韓国に長く住みたいというモチベーションは正直低下した。渡韓前、そして渡韓中の私は、結果的に終えることになったアメリカンドリームを韓国で見つけようとしていた。今となってはやっぱり無理があったかな、というのが正直なところ。日本出身の外国人としてやっぱりよそ者だし、アメリカよりも文化的に近くて、西洋のような露骨な人種差別や身の危険性も感じない。食事(長く住むとき重要)も合っている。一方で日本人ゆえの難しさや、うんざりすることもある。特にビザをめぐる問題で本当に苦労して、そのプロセスの恣意性には本当に辟易した。そしてこれは言い訳かもしれないけれど、必死で毎日生きていたアメリカの最初の2〜3年くらいの情熱を、私は韓国には持てなかった。基本的に外国に住む・そこで仕事をするのは容易なことではなく(英語ネイティブは除く)、そのエクストラの苦労をしてまで韓国に住んで得られるものが、パートナーと一緒にいられるということ以外、私には見えなかった。そういうことは行かないと分からないことだったので、その点はよかったと思っている。

そして、自分はOpportunity costというか、何事もやりたいと思ったことはやれるうちにやっておいた方がいい、と思っている。お気に入りのラーメン屋もいつ閉店するか分からないし、友達やパートナーにもいつ何があるか分からない。自分の情熱や体力だって、いつまである程度のレベルを維持できるのかも分からない。今やるより、数年後にやったほうがいいのかもしれないけど、その逆も然り。結局は、仮にそれをやって失敗しても後悔しないか、その責任を自分がとるつもりになれるかどうか。今回の件も、6ヶ月日本に止まっていれば、就職活動が今よりもうまくいってたのかもしれない。でも多分取り返しがつかないほどの程度ではないと思っている。安定した東京のフルタイムの仕事をやめて28歳で渡米した時も、2年前と今回あえて韓国住んだことも、後悔したことは一度もない。

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テンプルステイをしたときに、朝日を見に山上へ。韓国のお寺は禅宗で、色々な背景から本当に世間とは隔絶されたところにある。好き嫌い分かれると思うけどおすすめ。安いし。

これは、コロナの時期にたまたま博論を書くタイミングで、たまたま香港の卒業生が大学に寄付をし、たまたま私にそれが回ってきて、たまたまパートナーの韓国人がその時期に韓国に住んでいて、たまたま全ての仕事がリモートでできた状況で成立した、一個人の期間限定のストーリでした。ちなみにアメリカからの帰国前後とか、初めての緊急事態宣言中の緊張していた記憶ってほぼなくて、この記事を書きながらやっと思い出せるくらい。人間、大変な記憶は忘れるようにできているかなと再確認。

注1:韓国観光公社のデータをJTB総合研究所のHPより確認。注2:これについてはまた別の記事で。注3:香港の成功した卒業生が、アジアからの留学生のためにと大金を寄付して設立された奨学金制度。アメリカの大学に所属していても、永住権や国籍がない留学生は応募できる数も限られていたので、本当に嬉しかった。注4:詳細は省くけど、2年前は一回訪問すれば三日で取れたD4(一般研修)ビザを取るのに3回領事館に行き、6週間くらいかかり、必要書類もコロコロ変わり、本当に真剣さを試されるようなプロセスだった。そしてそれ以上に大変だったのが、滞在中のビザの種類の変更だった。注5:実際にこれは起こった。


 



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