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【お話】ほんものの愛コンテスト #6

黄昏の騎士

 「エントリーNO.103! 黄昏の騎士」
次に広間に入ってきたのは、鎧を身に着けた騎士でした。
かちゃかちゃと金属の重なる音を鳴らしながら、騎士はお姫さまの前まで進み出ると、ヘルム(兜)をはずして頭を下げました。
 「わたしは傭兵として戦をしている国に雇われている者です」
太い声を響かせて、騎士は言いました。
 「さきほどの冒険家の話は、部屋の外で聞いておりました」
騎士は、まっすぐにお姫さまをみつめました。
 「愛するということは、命がけで守るということです」
お姫さまも騎士をまっすぐに見つめ返しました。
 「命がけで、守る…」
 「愛するひとを守るためには勇気と力が必要です。誰よりも強くなければいけません。わたしには、その自信があります」
騎士の言葉を聞いて、王さまが満足そうに頷いています。
 「口先だけではないという証拠をお見せしたいので、ここで皆さんの立会のもと、どなたかと勝負をしたいのですが…。この国で一番強いお方はどなたでしょうか」
不敵な笑みを浮かべて騎士は言いました。
 「面白い!」
王さまが嬉しそうに手をたたきました。王さまは勝負事が大好きでした。
 「衛兵隊長を呼べ! そして一番強い衛兵を連れてこさせなさい!」
浮き浮きとした声で王様は大臣に言いつけました。
 「はっ!!」

 広間の中央で、衛兵の中で一番強い猛者と騎士は闘いました。
勝負はものの1分もしないうちについてしまいました。騎士の圧勝です。
そのあと、衛兵5人まとめて勝負することになりましたが、やはり騎士が勝ちました。
素早い動きと圧倒的なパワー、これでは10人がかりでも適いそうにありません。
 王さまとお妃さまは顔を見合わせて、ホッとしたように笑みを交わしました。
 「なあ姫や、わしたちはこの騎士が『ほんものの愛』の持ち主のような気がするぞ。そなたはどう思う」
王さまにそう聞かれて、お姫さまは困ったように目を伏せました。
反論する言葉が見つかりません。
確かに、愛するということは守るということなのかもしれません。
お姫さまは、もう一人の審査員である魔法使いに聞いてみようと思い、顔をそちらに向けました。
 「ねえ」
魔法使いに話しかけようとして、お姫さまは口をつぐみました。魔法使いの顔はいままで見たことがないくらい厳しい表情でした。
そして、お姫さまの視線に気づいた魔法使いは、あわてて笑顔をつくりました。
 「すみません、ちょっと考え込んでおりました」
 「なにを?」
お姫さまに尋ねられて、魔法使いは笑顔をひっこめました。
 「うーん…ぼくは強いことが愛だとは思えなかったので。でも理由はハッキリしてなくて、悩んでいました」
 「そこが審査員として一番大事なところじゃないの」
じれったそうにお姫さまに言われて、魔法使いはますます困ってしまいました。
そして、こんな提案をしました。
 「王さま、ぼくにも騎士と闘わせていただけませんか。そしたら理由がわかるかもしれませんから」

魔法使いと騎士の闘い

 王さまも、もちろんお姫さまも、そして広間に集まった観客たちもびっくりして魔法使いに注目しました。
だって、魔法使いが強いなんで話は聞いたことがありません。魔法で暴れ馬をおとなしくさせたり、重い物を動かしたりすることはありましたが、今回も魔法をつかうということでしょうか。
 「魔法はつかいません。それはフェアじゃないと思うので」
魔法使いが冗談を言ってるのではないということは、王さまにもわかりました。そして、これがコンテストである以上、合格なのか不合格なのかを判断しなければならないのです。
魔法使いの意見に従ってみようと考えた王さまは、
 「では、騎士と魔法使いの勝負をはじめよ!」
と、命令しました。

 広間の中央に進み出た魔法使いをみて、騎士は眉をひそめました。
なんだこの華奢な男は…。
 「剣がつかえるのか? それとも素手で勝負するのか」
もちろん魔法使いは剣など使えません。
 「素手で勝負します」
呆れた顔で、騎士は鎧を脱ぎ捨てました。鎧の中から現れた騎士の身体は、筋肉に覆われて鍛え上げられていました。
観客たちは顔を見合わせて、魔法使いを心配する言葉を言い合いました。
そんなざわめきの中、闘いは始まってしまいました。

 魔法使いが何回殴られたか、何回床に顔をぶつけたか、誰も数えていられませんでした。
彼はもうヘトヘトでした。それでも立ち上がり、騎士の前によろよろと身構えるのです。
騎士のたくましい腕が振り上げられて、また魔法使いの身体が床に倒れました。
お姫さまは思わず目をつぶりました。
どうしてなのでしょう。
魔法使いが痛い思いをしていることが、お姫さまにもわかるからです。
もうこんな闘いは観ていたくありません。
 「もうやめてください!」
目をあけたお姫さまは、大きな声でそう叫んで立ち上がりました。
 「愛は力ではありません! そんなふうにひとを傷つけることではありません。そんなの、ほんものの愛じゃないわ!」
お姫さまの言葉に、広間中がしずまりかえりました。

 騎士は、床に倒れたまま動けなくなっている魔法使いを助け起こして、複雑な表情になって言いました。
 「おまえを殴るたびに、だんだんわたしの胸も苦しくなってきた。弱いくせに何度も何度も立ち向かってくるお前をみていたら、強いことが愛だというのは間違っているのかもしれないなと思えてきた」
魔法使いは腫れ上がった顔を歪めて、笑おうとしました。
 「ぼ、ぼくが弱すぎるからでしょう…、あなたはとても立派で誰よりも強い騎士です。それは間違いじゃない」
弱々しい声で魔法使いはそう言って、床にへたりこむようにして座りました。
 「ありがとう」
騎士は微笑むと、鎧を身に着けはじめました。
 「失格になったわたしは国外追放だから、もうこの国に来ることはないだろう。ほんものの愛が、早くみつかるように祈ってるよ」
そう言うと、騎士は広間を出ていきました。
広間には気まずい空気が漂っています。
魔法使いは、それを察して司会者に向かって言いました。
 「ぼくはここで審査を続けるので、つぎの出場者を呼んであげてください」
司会者は頷いて、声を張り上げました。
 「本日最後の出場者です!」

<#7につづく>


くぅの本日のヒトリゴト 2024.9.16

 今日も読みにきてくださって、ありがとうございます。
お話もだんだん、クライマックスに近づいてきました。
はたしてほんものの愛は見つかるのでしょうか。

 それにしても、今日も残暑厳しかったーーー。
いつになったら涼しくなるのでしょう。
そのうち、この暑さが恋しくなる冬がやってくるってわかってるけれど。
暑がりのわたしには、いまはこの残暑がツライわ。

毎日、天気予報ききながら言っちゃう。
 「残暑ざんしょ」

・・・言っちゃうよね?


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