【お話】ほんものの愛コンテスト #5
冒険家の愛
「エントリーNo.102! 冒険家」
昨日まではすっかり減っていた観客も、初日より増えたようです。
みんな今日こそは『ほんものの愛』が見つかるのかと期待しているのでした。
司会者に神妙な声で紹介されて、現れたのは真っ黒に日焼けした冒険家でした。
「はじめまして、お姫さま。お目にかかれて光栄です」
たくましい体つきをした冒険家は、深々とお辞儀をしました。
「わたしは昨日まで、海にしずんだ海賊船の宝物をひきあげるという旅に出ておりまして、今朝この国に戻ったばかりなのです」
よく通る力強い声でした。
「これはほんのお土産です」
ポケットから大きな宝石を取り出した冒険家は、それをうやうやしくお姫さまに差し出しました。
「まあ! こんな美しい宝石は初めてみました」
「気に入っていただけましたか?」
お姫さまは宝石をしげしげと眺めて、うっとりと微笑みました。
となりからお妃さまもそれを覗き込んでいましたが、冒険家に視線を投げて問いかけました。
「これが、ほんものの愛だというのですか」
冒険家は滅相もないというように首を横に振りました。
「いいえ、これはお土産です」
白い歯を見せて笑うと、冒険家は少し考えるようなしぐさをしました。
「そうですね、わたしが捧げようと思っているのは『物』ではないのです。未知なる体験、とでも言いましょうか。形や言葉にはできないものです」
冒険家の言葉を聞いて、お姫さまの瞳が輝きました。
この人は、いままでの出場者とは違うようです。
冒険家はそんなお姫さまに微笑みかけました。
「さきほども申し上げたように、わたしは次から次へと冒険の旅に出かけます。それはそれは素晴らしい旅なのです。お望みならば今までの冒険談をお話しますが、とても一日ではお話できるものではありません」
冒険家の話を、王さまたちも観客も静かに聞いています。
「オーロラの谷や、星の降り注ぐ草原、竜が眠る湖…妖精が住んでいる森。お姫さまは行ってみたいと思われませんか?」
お姫さまは、耳を疑いました。
「え? わ、わたしが、ですか?」
「そうです。わたしの冒険の旅に姫をお連れしますから、一緒に不思議な体験や貴重な光景を胸に刻みましょう」
冒険家はキラキラと輝く瞳をお姫さまに向けて、熱く語りかけました。
「大切なのは、かけがえのないものを一緒に分かち合うことなのです。愛するひとには、同じ感動をわけてあげたい。そう思う気持ちこそが、ほんものの愛だとわたしは思っています」
お姫さまは、冒険家の言葉とその瞳に心を奪われているようでした。
そうです、確かに愛とはそういうことかもしれないと思いました。
お姫さまは生まれてから今まで、この国を出たことがありません。冒険家の語る見たことのない光景というものは、とてもとても魅力的でした。
うっとりと夢をみるような表情で、お姫さまは頷こうとしました。
王さまの心配
「その冒険には危険はないのか」
お姫さまを夢から現実に引き戻したのは、王さまの問いかけでした。
「危険、ですか」
冒険家は王さまの厳しい表情を見て、少し怯みました。
「そうだ、そんな誰も知らないようなところに行くのに危ないことはないのかね?」
重ねて尋ねられて、冒険家は気を取りなおして胸を張りました。
「それは冒険ですから。危険とは隣り合わせです。そういう危険を乗り越えて手に入れるからこそ、得られる喜びや感動が素晴らしいのです」
「では、ケガをしたりとかも…」
お妃さまも心配顔になって尋ねました。
冒険家は頷いて、上着を脱いでみせました。その体には大小無数の傷跡が残っていました。
「まあ!」
悲鳴のような声をあげてお妃さまは目をふさぎました。
「これはわたしの名誉の傷です。誇りに思っています」
上着を身に着けながら、冒険家はきっぱりと言いました。
王さまは冒険家に向かって、
「冒険に連れていくことが『ほんものの愛』だと言うが、危険な目に遭わせることも愛の証だというのか」
と重々しく尋ねました。
冒険家は、ハッと我に返って口をつぐみました。
お姫さまの表情からも笑みが消えて、長い沈黙が会場を包みました。
「どうした、答えられぬのか」
王さまが、少し声を和らげて聞きました。
冒険家はそっと息を吸って、
「冒険の旅に出れば、自分の身は自分で守るしかありません。どんな危険が待っているのかも予測できない以上、お姫さまに危険が及ばないとはわたしには言い切ることができません」
苦しげな口調で言いました。
ここでその場しのぎの大言を吐かなかった冒険家を責めることは、誰にも出来ませんでした。
やがて、静まり返った広間に司会者の声が響き渡りました。
「失格!! 国外追放を申し渡す」
<#6につづく>
くぅの本日のヒトリゴト 2024.9.15
読みに来てくださって、ありがとうございます。
くぅです。
『クラスメイトの女子全員好きでした』というドラマが、好きでした。
録画していた最終回を観ました。
ノスタルジーが溢れてて、切なくなったり、ほろ苦い気持ちになったり。
過去と現在がちゃんと繋がっている、
過去があったから現在があるんだよねって思える、そんなドラマでした。
こういうものに、わたしもなりたい(笑)
くぅでした