【お話】ほんものの愛コンテスト #3
とろけてしまいそうな、愛
その後も延々と、ほんものの愛をさがすためのコンテストは続きました。ある者は美しい音楽を奏で、またある者は巧みな言葉で愛を表現しました。珍しい宝物を山のように捧げた者もおりましたが、どれもお姫さまのさがしている『ほんものの愛』ではありませんでした。
見物人もだんだんと少なくなり、出場者の中には待っている間に怖気づいて帰ってしまう者もおりました。
とっぷりと日も暮れて、司会者の声にも元気がなくなってきました。
「エントリーNO.35! み、都の人気俳優」
呼ばれて出てきた男は、都で有名な二枚目役者でした。気取ったポーズで挨拶をすると、俳優はお姫さまにウインクしてみせました。
「これ!無礼であるぞ、平民の分際で!」
王さまが眉をつりあげました。
「いいのよ、お父さま。おふれには家柄や身分にはこだわらない、と書いたはずですもの。ほんものの愛はそんなこととは関係ないことくらい、誰でも知っています」
お姫さまに言われて、王さまは口をつぐみました。
「わたしには地位もこのお城もあるのです、同じものを持っていてもありがたくありません。違う世界で暮らしている者がなにを見せてくれるのか、とても興味があります」
そう言って、お姫さまは俳優を見ました。
「さあ、あなたが見せてくれるのは、どんな愛ですか」
「さすがは俺の姫君、話がわかるぜ。そうこなくちゃな」
俳優はぱちんと指を鳴らして、お姫さまのほうへグッと顔を近づけました。
突然のことに驚いたお姫さまは、あわてて顔をそむけました。
「な、なんですか、早く見せてくださいな」
「いいともさ。でも、ここじゃあ、ちょっと難しいかなあー」
にやにやと笑って俳優は言いました。
「ま、出来ないこともないけど?」
お姫さまは観たことはありませんでしたが、俳優が舞台でお芝居をする者だということは知っていました。
「舞台が必要、ということですか」
そう尋ねると、俳優はクククッとのどを鳴らして笑いました。
「そういうことじゃないんですよ。お人払いをしてもらって…さもなくば、お姫さまと別室でふたりきりにしてもらえればいいんですがね」
「別室?」
「そ、ベッドがあれば最高なんだけどな」
ベッドと言われて、お姫さまたちにもようやく俳優が何をしようとしているのか察しがつきました。
顔を真っ赤に染めて、お姫さまは俳優をにらみつけました。
「何を言っているの!?」
「ご存じありませんか、お姫さま。愛の語らいっていうのは二人きりでするものですよ。その道にかけて俺は誰にも負けない自信がある。とろけてしまうような愛の世界に連れていって差し上げますよ」
俳優は自分で自分を抱きしめるようなポーズで、言いました。
ますます顔を赤らめて、お姫さまは言葉を失ってしまいました。
広間に残っていた観客たちは、笑いたいのをこらえているのか頬をひくつかせています。
王さまとお妃さまは怒りに震えて、司会役の大臣を呼びつけようとしました。
「そ、それがほんものの愛だというのですか」
やっとのことでお姫さまは、声をしぼりだしました。
「ほかに何があるというんですか、マイハニー。試してみなけりゃわからないですよ。天にも昇るキモチにしてあげましょう」
俳優はとびきりの笑顔をつくって、お姫さまに手をさしのべました。
その手を払いのけたのは、魔法使いでした。
今日はもうおしまい
「試す必要など、ありませんよ」
魔法使いはそう言って席を立って、俳優のとなりに移動しました。
「な、なんだ、おまえは」
「調子にのるのもいい加減にしろ。博愛主義者だとか言ってへらへら笑いながら、都中で浮名を流してるよね、俳優さん」
そう言いながら魔法使いは、俳優の耳に口をちかづけて
「忘れちゃった? 都でぼくにも声をかけてきたでしょう、いい薬があるから一緒にたのしいことしようぜって」
と、ささやきました。
俳優は魔法使いをみて、青ざめました。
「なんなら、そのときの話をここで大声で披露してもいいんだけどね?」
「や、やめてくれ!」
「ほんものの愛だなんて、よく言えたな」
凄んだ声で魔法使いが言うと、俳優はあわててその場を逃げ出しました。
「し、失格!!」
その背中めがけて司会者は吐き捨てるように言いました。
「あ、誤解のないように言っておきますが、ぼくは誘われはしましたがこの身は潔白ですよ」
魔法使いがおどけた口調でそう言ってまわりを見ると、観客たちから笑い声がこぼれました。魔法使いはお医者さんのようなこともするし、修理なども得意だったので城下の人々からは人気があったのです。
司会者は気を取り直して、次の者を呼ぼうとしました。
「エントリーナンバー…」
「待って」
黙り込んでいたお姫さまが、立ち上がりました。
「今日はこれでおしまいにします」
怒っているような、疲れているような表情を見て、人々は静まりました。
「明日またここでコンテストの続きをします。大臣、遠方から来てくれた者たちにはお城に泊まれるように取り計らって」
「ははっ」
「明日こそ、ほんものの愛を見せてくださることを期待します」
くるりと踵を返して、お姫さまは広間の奥へと去っていきました。
王さまとお妃さまも、お姫さまを追っていきました。
人々は顔を見合わせて肩をすくめると、それぞれ帰り支度をはじめました。
魔法使いが笑顔から真顔になってその様子を眺めていると、見物人のなかから少年が駆け寄ってきました。
「魔法使いさーん」
それはつい先日、魔法使いがケガを治してあげた少年でした。
「この間はありがとう!」
「どういたしまして。コンテストを見に来てたのかい」
「うん」
嬉しそうに魔法使いに飛びつきながら少年は言いました。
「早くみつかるといいねえ、ほんものの愛」
少年は無邪気に笑います。魔法使いは少し間をあけてから、うなずきました。
「そうだね」
「だってさー、お姫さまはとっても悲しそうなお顔をしていたよ」
「え?」
「見つかったら、きっといつもの笑顔を見せてくださるよね!」
少年の言葉を聞いて、魔法使いの中でなにかが弾けたような気がしました。
けれどそれは一瞬のことで、すぐに消えてしまいました。
魔法使いは少年の頭をなでてから、ポケットからお菓子を出して差し出しました。
「また明日も見にくるのかい」
少年はお菓子を受け取って嬉しそうに笑いました。
「ありがと! うーん、まだわからないけど…もし見つかったら教えてね! おいらも楽しみにしてるからね」
手を振って帰っていく少年を見送りながら、魔法使いは胸のあたりに手を当てました。
なんだったんだろう、いま、ここで弾けたものは。
しばらく考えても思い出せなかったので、魔法使いは帽子をとってクルクルと指でまわしました。
すると広間から魔法使いの姿が消えて、がらんとした広間にはいつの間にか冷たい夜風が吹き込んでいました。
<#4へつづく>
くぅの本日のヒトリゴト 2024.9.13
読みに来てくださって、ありがとうございます。
このお話は、そこまで長くないので、たぶん6回くらいで終わるんじゃないかなと思っています。
話は変わりますが、こうしてnoteをやっていると、コンサルタントをされてる方ってたくさんいるんだなあーって、驚きますね。
もちろん、わたしも出来るだけ多くの人に読んでもらいたいなあーとは思っていますが、
誰も彼もというわけではなくて、
お話の好きなひとと、つながりたい。
共感してもらいたい。
そんな感じかもしれないですね。
こうしてページを設けると言うのは、
お店をひらくことにも似てますね。
まだいまは、ポツンと店番していて…たまーにドアがあいて、だれか覗くけども「あ、こんな感じなんですね、またゆっくり来まーす」ってすぐ帰ってしまう。
商品、少ないしなあー
手にとってもらえるように、がんばろっと
٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
くぅでしたー