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人事データ分析、HRアナリティクスの参考書。

こんにちは。くにです。
夏休み期間中ということもあり、本棚の整理をしていました。とても片付いているとは言えませんが、本を並べるといつもすっきりします。

さて、先日はHRアナリティクスに関する記事を投稿しました。ニッチな分野なのでどうかなと思ったのですが、想像以上に多くの方に見ていただいて驚きました。ありがとうございます!

こちらの記事に書いたように、私はここ数年ほどHRアナリティクス、ピープル・アナリティクスに注力してきました。そのため、購入する本も人事関係が多くなっています。

そこで、この記事では、私がHRアナリティクスを学ぶために活用してきた本を紹介してみたいと思います。以前に投稿したデータサイエンティスト本の紹介記事と同様に私自身の試行錯誤の足跡ですので、まとまりにかけるかもしれませんが、どうぞご容赦ください。

人事データ分析をテーマとした本

まず手に取ったのは、人事データを分析を扱った本でした。調査を始めたころはHRアナリティクスというキーワードを知らなかったので、HRテクノロジー全般から調べていきました。その後、自分が携わっている分野がHRアナリティクス、ピープル・アナリティクスという分野ということを知り、サーチの対象を広げていった感じです。

HRテクノロジーで人事が変わる,労務行政研究所,2018

HRテクノロジーの市場や取り組みをざっと調べ始めたとき、まず初めに読んだのがこちらの本でした。HRアナリティクスを含むHRテクノロジー全般を紹介する本で、事例を多く含んでいます。HRテクノロジーというと人事系のデジタルなプロダクトや取り組み全般を指します。このため、本書が取り扱っている幅もおのずと広いものになっています。
SE時代の経験もあり、人事×ITというと人事給与システムをイメージしていたのですが、本書を読むことでそれ以上の広がりあることが分かりました。また、3章以降でテーマ別に事例が整理されており、人事の切り口を大枠で意識できたのも有用な点でした。

なお、本書の第一章を執筆されている岩本先生の最新刊「X-Techビジネス大全」でも、HRテクノロジーの章が設けられています。

人事のためのデータサイエンス,入江崇介,2018

国内の人事データ分析の本として定番と言える本です。最近、同著者らより新しい本「人事データ活用の実践ハンドブック」も出版されました。
ターゲットは人事の方を想定されていると思いますが、この分野に新たに参入するデータサイエンティストの方にも有益です。データ分析経験者の方がこの本を通読すれば、HRアナリティクスにおけるデータ活用の状況や焦点を短時間でサーベイできるでしょう。
採用や研修といった人事領域ごとに、分析の目的とアプローチを例示していいます。分析例はあえてシンプルに書かれているので、エッセンスを学ぶのに適しています。

個人的な感想ですが、Webデータ解析の黎明期に出版された「ビジネス活用事例で学ぶ データサイエンス入門」に近い雰囲気を持った本だと思います。全く異なる分野ですしコード例の有無に違いがあるものの、シンプルな例示でわかりやすく伝える点で似ていると思います。

日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用,大湾秀雄,2017

2017年に出版された人事データ活用に関する本で、現代的な意味での人事データ分析に触れた国内本としては原典に近い本だと思います。人事担当者、エンジニアを問わず、HRアナリティクスに関心がある方はすべからく読んでいる印象でした。
本書では、これまでの人事施策の決定が勘や経験によって実施されてきた問題を取り上げ、データ(ファクト)に基づく意思決定の重要性を説いています。分かりやすいタイトルと内容で、国内企業の人事担当のハートをつかんだ本ではないでしょうか。
Amazonのレビューの中で「これぞといった相関のあるデータが少なく、人事データの活用の難しさを思い知った」というコメントを投稿されている方がいましたが、そういった側面でもリアリティのある内容でした。

ピープルアナリティクスの教科書,一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会,2020

2020年に出版された新しい本で、HRアナリティクスおよびデータドリブン人事の定番本と言えそうです。人事的な意義・位置づけ、基盤を含めた仕組み作り、アナリティクスの事例から倫理的な側面まで網羅する本で、大変参考になりました。
多様な事例が載っていることも大きな特徴で、いち早くデータドリブン人事の変革を行っている企業の様子を垣間見ることができます。

データ・ドリブン人事戦略,バーナード・マー,2019

訳本になります。HRアナリティクスは海外が先行していますので、その方向性を学ぶのに最適な本だと思います。細かな方法論を学ぶのではなく、データドリブン人事の目指す姿や方向性を押さえることができます。AI技術の活用についても多くの記載があり、意思決定支援としてのデータ分析の範疇を超えた事例も多くあります。
国内と海外の労働市場・人事制度の相違を考慮して読む必要があるかと思います。また、国内の今の状況と比較すると「少し先」な雰囲気を持つ本ではありますが、ガートナーのHype Cycleに関する記事と並べるとあまり違和感がありません。このため、企業内DXとしての人事変革という目で見た場合も、大いに参考になる本だと思いました。

経営力を鍛える人事のデータ分析30,林 明文 他,2017

人事コンサルタントの方が書いた定量的な人事データ分析に関する本です。ここまでに紹介した本とは若干趣が異なり、人事基幹制度設計や見直しのための人事データ分析という印象を受けました。したがって、賃金設計に関する話題も多く、この点で近年出版されているデータドリブン人事系の本とは異なる特徴を持っています。
逆に言うと、人事部門の方がこれまでどういった目線で組織や人事データを見つめてきたのか、ということが分かる本だと思いました。

同著者らによる「新版 人事の定量分析」では、より詳細な分析例やアプローチを解説しています。

人事業務に関する本

分析者としてHRアナリティクスを実践するためには、やはり人事のドメイン知識を知っておく必要があります。基本的な用語を理解するのはもちろん、人事的な物の見方を自分に刷り込まないと価値を出せないからです。
以下では、データ分析者で人事業務に疎い私が、実プロジェクトで知識を得るために手に取った本を紹介します。

ということで、以下で紹介する本は人事担当者や幹部の方にとっては釈迦に説法的なものだと思います。一方、データ分析を専門にしてきた方がHRアナリティクスに参入する上で、参考になる本もあると思います。

人事の用語は従業員の立場で耳にすることもあり、エンジニアの方にとってもなじみのあるものもありますね。例えば、採用、教育、勤怠、成績など、雰囲気をつかみやすい用語だと思います。しかし、それは従業員としての捉え方であり、人事制度や人事施策の文脈での理解とはギャップがある可能性もあるでしょう。このギャップを完全に埋めることは難しいとしても、できる限り理解する必要があることを実プロジェクト通して痛感しました。

人事担当者が知っておきたい、10の基礎知識。8つの心構え。,労務行政研究所,2020

まず一番初めに読んだのは、こちらの人事担当者向けの入門書でした。「人事の赤本」と言われているようです。Amazonのレビューにあった「人事部門に異動したらまずこれを」というコメントを頼りに購入したものです。全体的に分かりやすく説明されています。
人事部門の役割や年間イベントの解説から始めるため、人事の基本的な仕事内容を把握する上で有益でした。また、採用、勤怠・給与、社会保険、福利厚生などを網羅していて、人事部門の業務の広がりをつかむことができます。

なお、人事全般の仕事を紹介する本としては、本書の他にも「HR Standard 2020 組織と人事をつくる人材マネジメントの起点」が参考になりました。

新しい人事労務管理 第6版,佐藤博樹 他,2019

勤怠データの分析を中心に実施していた時期があり、その業務的な背景を学ぶために本書を読みました。全体を細かく読むというよりも、国内の労働時間管理の変容を調べるために手にしました。総労働時間の推移や、法律との関連についても詳しく、大いに参考になりました。
本書は2019年の出版ですが、当時盛んに登場していた「働き方改革」の背景を押さえる上でも本書は有用だと思います。いち従業員の目線で見ると、働き方改革とワーク・ライフ・バランスの実現が同義に見えてしまうこともあるかと思います。一方、本書を読むことで、働き方改革は労働管理と生産性の議論の中から生まれたものであることがわかります。従業員のワーク・ライフ・バランスの実現はその結果として実現され得るものであり、経済・人事的な文脈はそれ以上の意味を持つことが分かりました。
こうした情報は、注意深くWebを検索することでもわかることもあるのですが、本書のようなしっかりとした書籍から得られる情報は一段と濃いものになります。

もう10年以上前になりますが、人事給与関連のSEをやっていた時に、労務管理法案の方向性を見極めるのは重要な仕事でした。というのも、労務管理関連の法律に大きな変更があった場合には、勤怠管理や時間外勤務時間数の計算処理に大きなインパクトを与えるからです。当時、時間外勤務時間数の割り増し支給額の取り扱い変更などを盛り込んだ法改正が施行され、労働時間の適正化の方向性が見えていました。その一方で、ホワイトカラーエグゼンプションの議論も進んでいて、相反する動きがあるように見えてSEとしては大いに困惑したものでした。

10年前の議論を今になって考えると、労務管理としての厳格さと労働安全衛生を保ちつつ、現在見えてきたような人材流動化の枠組みを促す議論だったのだと思いました。働き方改革もこうした文脈で眺めてみてようやく腑に落ちたところです。まだ浅い理解ではありますが、このような視点を学ぶ上で本書やこの次に紹介する人事管理全般を論じた本が参考になりました。

人事管理 人と企業,ともに活きるために,平野光俊・ 江夏幾多郎,2018

人事管理全般を網羅した本です。本書ではまずはじめに人事管理の概要と働くことの意味が示され、続く第3章で「システムとしての人事管理」という形で人事管理の全体像を解説しています。ここまでが第1部となります。
そして、第2部では「人事管理のバリューチェーン」と題して、採用、配置、育成、評価といった人事管理業務の一連の流れを示していきます。
本書を読むことで、これらの人事業務をツブツブでとらえるのではなく、ダイナミックな流れとして眺めることができるようになりました。このことは、人事業務担当者やプロの人事コンサルタントの方にとっては当たり前の事実だと思いますが、私には目から鱗でした。

図解 人材マネジメント 入門,坪谷邦生,2020

図を多用した人事本でとにかくわかりやすい本です。上で紹介した「人事管理」や「新しい人事労務管理」は学術的な雰囲気もあるため取っつきにくい面がありますが、本書で概要を押さえた後に読むとわかりやすいでしょう。
本書は人材マネジメント全般を網羅する本で採用、育成、評価、代謝の各トピックの関係性も明確に示しています。
また、各ページを独立で読んでも理解できるような記載になっているので、概要を押さえる上でも最適です。ただし、時間外管理にかかる労務管理については触れられていないので注意してください。

名著17冊の著者との往復書簡で読み解く 人事の成り立ち,海老原嗣生・荻野進介,2018

本書は人事分野の名著を振り返りつつ、戦後から今日に至る国内人事の変容を整理した本です。今の国内企業の人事制度や労働市場がどのようにでき上ったのかを知る上で、有益な本だと思います。
一方、私がこれを手にしたのは、序章の「日本型雇用の本質は何か?」を読むためでした。ちょうどジョブ型制度に関するテーマに取り組みはじめたところだったので、ジョブ型とメンバーシップ型の違いを理解する必要があったのです。
本書を丁寧に読むと理解は深まると思いますが、今のところ詳しく読んだのは冒頭の箇所のみで、後は流しながら読んだ状態です。とはいえ、冒頭の解説は大変わかりやすいもので、日本型雇用形態の特徴と今後移行が進むジョブ型の違いをつかむことができました。また、いち従業員の立場で考えても、自分自身が置かれた状況を冷静に捉えることができて有益でした。

国内人事を取り巻く環境は急速に変化しています。そこに至る背景を深く理解するためにも、本書を注意深く読んでいきたいと考えています。

キャリアに関する本

ここで紹介する本は個人のキャリアに関するものです。企業の人事部門におけるHRアナリティクスとの直接的な関連はあまりないのですが、人事のトレンドを押さえる上で示唆を得られます。もちろん、個人のキャリアを考える上でも有益です。

プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術,田中研之輔,2019

とある人事幹部の方が本書についてお話されていたのを耳にして、重要な本ではないかと思って購入しました。本書では、働くひとの環境変化をどう乗り切るか、ということをテーマとした本です。個人にとってはキャリアの自律性を高めるための示唆を与えてくれます。
ところで、このようなキャリアの自律性や労働市場の変化を訴えかける本は、これまでもしばしば出版されてきました。例えば、「キャリアショック」や「フリーエージェント社会の到来」などがあります。私自身もこれらの本を読んでキャリアの分かれ道で参考にしてきました。これまでの自分自身の選択には後悔はありませんが、これらの本が言うほどに社会の仕組みは変わっていないな……と思っていたものでした。
ところが、本書「プロティアン」が出版されたころになると、風向きが変わってきたように思えます。一斉採用の見直し、定年の延長と役職定年制度の廃止傾向、ジョブ型移行など、周りを見渡し見ると流動的な労働市場を前提とした動きが加速しているように見えます。そういった意味で、この時期にこのような本が多くの人に読まれていること自体に着目すべきだと考えています。

働くひとのキャリアの在り方が変わっていくのであれば、会社の人事制度もそれに合わせて変わっていくでしょう。もしかすると、それは水面下で長年かけて準備されたものかもしれないし、昨今の環境変化で変わらざるを得なかったのかもしれません。
いずれにせよ、人事を専門としている方が本書を読んでいることが、人事制度や人材育成のその先を予見しているように思えます。

働くひとのためのキャリア・デザイン,金井壽宏,2002

本書は、タイトルのとおり、現役で働くひとに向けてそのキャリア設計を指南する本です。目的ベースの積み上げと、偶発性に任せたキャリア論の両方を取り上げつつ、柔軟なキャリア構築方法として「キャリア・ドリフト」という考え方を提案しています。新書と思えないほど内容が濃く、ことあるごとに読み返してきた本でもあります。
本書の特徴として、新卒での就職や転職といった単発のイベントにフォーカスしたものでなく、生涯にわたるキャリアを論じていることにあります。初めて本書を読んだのは新卒で就職した直後でしたが、その後30代・40代と歳を重ねても学ぶべきことがある本でした。

一方、一歩引いて考えると、従業員ひとりひとりに流れるキャリアの時間について想像できる点でも本書は有益だと考えています。自分自身のキャリアの足跡を振り返れば、N=1とはいえそれまでに経験したことはわかります。しかし、今日以降のことは経験したことすらないので実際のところはわかりません。本書を読むことで、従業員がたどるキャリアの流れや葛藤を垣間見ることができるかもしれません。
この点が人事を理解する上でどの程度響いてくるのかわからない面も多いのですが、最近たまに読み返すようになりました。

まとめ

この記事では、人事データ分析・HRアナリティクスの分野に足を踏み入れた中で助けていただいた本を紹介しました。個人的な経験に基づくものですので、網羅的とは言えないと思います。また、まだまだ学ぶべきことも多いことも自覚していて、例えば組織開発に関連する本を調べ始めていますが、まだリーチできていません。
一方、技術的な側面では、データサイエンスに関連する多彩な分野からもヒントを得ることできそうだと考えています。こちらはまだ直観の域を出ていないので、うまく整理できたら記事にまとめたいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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