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市場創出を狙った新製品のビジネスモデルを考える時の焦点。

最近何かとビジネスモデルについて議論することが多いのですが、このような会話は複雑になりがちだと思います。市場規模がどうとか、アライアンスがどうとか、仕掛けがどうとか。特に市場を創出するような新製品を検討する場合は雲をつかむような話に感じることもあります。

私は不器用なので、この手の議論ではシンプルに「誰に、何を、どのように売って、どう儲けるのか。」の4つの観点でストーリーを整理することを心がけています。

この中で最も重視するのは「誰に、何を」で、ここの焦点がぼやけている間は議論を重ねてもなかなかよいアウトプットにたどり着けません。

一方、「どのように売って、どう儲けるか」はマーケティングとビジネスシステムおよび収益構造を考えることで、ビジネスモデルにおいて大切な観点です。しかし、これらは売り手の目線なのでここばかり議論していると肝心の価値提案に繋がらない話になってしまいます。ただ、会議室で議論しているとこの点ばかりに話が偏る傾向があります。

したがって、新しいビジネスを考えるときには「誰のどのような課題を解決するのか」という問いと真正面から向き合うことが重要になります。

これがなかなか難しいわけですが、この点を少し掘り下げて対照的な2つのアプローチを考えてみます。

アプローチ1: 潜在的な顧客課題を発見し解決する

書籍やWebに堂々と出ている「顧客課題」というのはすでに発見されている課題であり、それに素直に取り組んでも競争の火の海に飛び込むような活動になってしまいます。仮にビジネスモデルを工夫して勝てるシナリオを実現したとしても、新しい市場を創るような活動にはならないでしょう。(これを否定するわけではありません。)

市場を創出するような新製品を考えるときには、未来の顧客と会話して潜在的な課題を発見していく必要があります。これが非常に難しい話で、単に「お困りごとはないですか?」と尋ねても解くべき課題はまず見つかりません。

顧客の潜在的な課題を見つけるためには、丁寧な会話の中から今の顧客の姿をじっくり引き出し、その輪郭を徐々に明確にしながら細部に落ちている問題を拾いあげることが重要になります。
注意深い観察と傾聴――これがビジネスの種を見つける秘訣のひとつではないかと考えています。

とはいえ、こうした会話に本音で付き合っていただける人を探すのも一苦労です。初対面の人に自分の仕事の内容を根掘り葉掘り聞かれるのを嫌がる方もいるでしょう。このため、人に話を聞くときには関係を作り、売り込み要素を排して誠実な態度でインタビューに臨むことが重要になります。また、想定する顧客に出合える場所を探す必要もあります。

こうして苦労して拾い上げた問題が顧客にとって手痛い問題で、しかもコストをかけても解決したいものだったとしたら、それこそが製品で解決すべきことの候補だと言えます。

ただこの段階ではN=1、もしくは少数の意見にすぎませんので、それがボリュームある市場を形成するかわかりません。そこで、リーン的なアプローチで課題/解決フィット、市場/製品フィットを経てビジネスを立ち上げていくことになります。すべてのアイデアが市場に歓迎されるとは限りませんし、試行錯誤の過程で何度もピボットすることになるでしょう。

このように、新しいビジネスの検討というのは地味な活動の積み重ねではないかと思っています。

私の狭いビジネス経験の中で、手つかずの顧客課題を発見したことが過去にありました。その種を見つけたのは未来の顧客との会話の中でしたし、当初に想定していたアイデアとは違うものに着地しました。残念ながらそれは大きなビジネスには発展しなかったのですが、課題の原石を発見し磨き上げて製品にたどり着く経験は大変貴重なものだったと思います。

参考文献:
・STARTUP,ダイアナ・キャンダー,新潮社
・Running Lean,アッシュ・マウリャ,オライリー
・リーン顧客開発,シンディ・アルバレス,オライリー

アプローチ2: 問題の意味付けを変える

一方、拾い上げた問題を直接解決するのではなく、問題の意味付けを変えてしまうような大胆なアプローチも存在します。製品の登場前後で市場構造や人の価値観が変わってしまうようなものです。

分かりやすい例でいうと、ソニーウォークマンや任天堂Wiiがこれに該当するでしょう。ウォークマンは音楽を聴くスタイルを変えてしまいました。また、Wiiはゲーム体験をガラッと変えたことで、それまでゲームに関心がなかった顧客層を取り込むことができました。
一方、製品投入前に潜在顧客がこれらの製品を欲しているわけではありませんでした。したがって、見込み顧客を注意深く観察し傾聴してもこのようなアイデアに到達することは難しかったでしょう。

このアプローチでは市場にまだ存在しない価値観を顧客にぶつけることになるので、リーン的なアプローチとは少し違った戦い方になるのではないかと思います。極端に言えば、提供者は市場のニーズにフィットさせるのではなく、人々に新しい価値を提案し問いかけるのです

したがって、この方向性を目指す場合は目の前の問題を近視眼的に解決することはしないで、その問題を社会の中の一つの点と見立ててより大きな社会の動きや文化の変化を促すことを目指します。まさに問題の捉え方自体を変える活動です。

言葉でいえば簡単ですが、そう簡単にできるものではないでしょう。しかし、上手くいけば非常に大きなインパクトを与えるビジネスになるはずです。そして、市場に対して非連続的なイノベーションをもたらすことになるでしょう。

私もこの考え方を学んでから現場で時々試行錯誤していますが、なかなかよいアイデアにたどり着いていません。ただ、「問題の捉え方を変える」「意味付けを変える」という視点で考え続けていくと、どこかで切り口が変わる感覚を得た瞬間があり、視野を広げる上で重要なアプローチだと思いました。また、このアプローチで考えること自体、非常に楽しいものです。

参考文献:
・デザイン・ドリブン・イノベーション,ロベルト・ベルガンティ,クロスメディア・パブリシング
・ゼロ・トゥ・ワン,ピーター・ティール,NHK出版

「誰に、何を」の重要性

この記事では、新製品を考えるときのアプローチを考えてみました。
観察と傾聴による課題解決アプローチと社会の価値観を揺さぶる提案型のアプローチ。これらは対照的な取り組みではありますが、そのストーリーを語るとき「誰に、何を」という軸は欠かせません。

ということで、新しい製品や新しいビジネスのビジネスモデルを考える場合には、いつでも「誰に、何を」という軸を忘れないことを心がけています。

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