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寄り道とBiscoff / ひるにっき

くどうれいんさんの「うたうおばけ」を読みながら、珈琲を飲んでいる。 

土曜日の夕方、茹で時間が短くて粉っぽくなった素麺から逃げるように近所の図書館にやってきた。
履いた靴下が分厚くて、いつもより靴の居心地が良かったので、思っていたより早く着いた。

目的の著者はくどうれいんさんと星野源さん。理由は、他のエッセイストを知らないから。
いや、もう何人か知ってはいるけれど、今日探していたのはそのお二方の本だった。

結果エッセイ4冊と執筆論的な本2冊の計6冊も借りてしまった。こんなに読めないだろうと思いつつ、借りれるのだから借りてやろうと貧乏性みたいな欲に駆られた。
反省はしている。

6冊をカバンに詰め、図書館を出た目と鼻の先に、珈琲屋さんがあった。
いかにもカフェです、コーヒースタンドです、って雰囲気がしていて今までスルーしていたのだけれども、今日はこれから6冊も読まないといけない。
さわりだけでもどこかで読んでおこうと思っていたこともあり、入ってみることにした。

ドアを開けると、奥にあるカウンターに店員さんが一人ぼーっと突っ立っていた。

特に挨拶はなく、いや、聞こえなかっただけかもしれない。(あとから来た人には挨拶していたし)
まあいいや、別に気にはしていない。

そんな事を考えながらカウンターまで歩くと、店内ご利用ですか、とやっぱちょっと気だるげな感じでお伺いされた。嫌とかではなく、単純に調子悪いのかなと思った。

そうです、と答え、メニュー左上にあるホットのブレンドコーヒーを注文した。
席まで持ってきてくれるとのことで、座って待つことに。

かばんを開き、「うたうおばけ」「虎のたましい人魚の涙」「桃を煮るひと」のなかから、最も古い、うたうおばけを読むことにした。
10ページほど読んだところで珈琲がorigamiのカップに入れられて運ばれてくる。そのソーサーにはBiscoff(ビスケット)が添えられていた。
あ、知ってるやつだ、と思った。

家にもいまBiscoffがいる。少し前に家に泊まりに来た友人が置いていったもので、そういえば2枚入りだった。

今目の前にあるのは1枚入り。

だからどうってことはないけれど、なんだかこのお店との距離が近くなったような気が、勝手にした。

2枚入りも開けづらいと思ったけれど、1枚入りは更に開けづらかった。手がちょっとこなこなする。味はスティックシュガーを焼きましたみたいな、甘いけれどあとから苦味の来る、家にあるのと同じ味がした。

肝心の珈琲は予想外の深煎りで、店構えとは違って喫茶店っぽい物が出てきた。結構好きな味だったし、カップを事前に温めていたりと、かなりいい印象を持った。

1時間ほど滞在し、お店をあとにする。ごちそうさまでしたには、やっぱり返答がなかったけれど、ドアを開けたときにはありがとうございましたといってくれたので、私の声と存在感がなさすぎるだけなのかもしれない。

おばけはわたしだったのかもしれない。なんてうまくもないことを考えつつ、すっかり暗くなった街を歩く。

ひゅーと吹く風に身を縮めつつ、スーパーに寄って今晩の食材を買い込み、帰路についた。

お菓子がついてくる喫茶店はいいお店が多い。このお店も、振り返ってみればいいところがたくさんあった。
音楽は騒々しくなかったし、置いてある器具達にもこだわりが見られた。
ただ私がおばけだったせいで、店員さんが対応しづらかっただけなのかもしれない。

そう思うと、また行ってもいいかなと思えてきた。

珈琲豆屋は何軒もあるのに喫茶店が全然ない変なこの街で、通えそうなお店ができて少し嬉しい気がしている。

鼻歌でも歌っていれば、うたうおばけになれたのにな、と帰ってきてから思ったりした。

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ことよみ|sonohi_no_kibun|
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