「紫式部と安倍晴明」についての忘備録 その1
2024年の大河ドラマ「光る君へ」に安倍晴明の登場が告知されました。
当然というかなんというかなんですが、紫式部が『源氏物語』を書いた頃には晴明はもう老人……というより時期を考えると生きているかどうか?くらいなわけです。紫式部日記に源氏が登場する頃には亡くなってますね。
その一方で、現代のサブカルチャーではその時代に晴明が登場する例がよく見られます。特に関係がある訳ではないですが、人気のある人物を出したい、というのがあるのだろうとは思います。義経、信長、龍馬みたいなその時代の代表格になりつつあるのでしょう。
この晴明の登場について、現代の平安サブカルを考える上でかなり重要な問題なのではないかと思うのですが、あまり先行研究はないようです。そのため、論文という形式にするかはさておき、このテーマについて資料の収集や考察だけは進めて行こうと思います。
最初の段階として、実家にある資料から「晴明と紫式部が同時に登場する作品」をとりあえず収集してみました。記録として使っていきますが、今後なにかこのテーマで研究される方は参考にしてください。
2001年 小説『源氏夢幻抄』
2007年 漫画『暴れん坊少納言』
2008年 舞台『源氏物語千年 紫式部ものがたり』
2011年 映画『源氏物語 千年の謎』
2011年 漫画『源氏物語 千年の謎』
2011年 児童書『時空警備タイムエスパー 警備ファイル002 平安女流作家 紫式部』
2011年 漫画『姫のためなら死ねる』
2012年 漫画『恋のソムリエ 式部ちゃん』
2019年 ゲーム「Fate/Grand Order」
FGO以外は作品の初出年を記入しております。そのため、晴明及び紫式部の登場自体はこれ以降になる場合があります。
また、FGOは現時点で晴明本人は未登場ですが、「紫式部の師としての安倍晴明」という設定は資料として必要になると考えたため記入しました。
また、ツイッターで募集をかけたところ何点か作品を紹介して頂いたのでそちらもメモをしておきます。
出版年未確認(70年代末?) 小松左京「糸遊」
1986年 小説『源氏物語人殺し絵巻』
2014年 漫画 『晴明さんはがんばらない』
2014年 児童書『大鏡』(岩崎書店)
また、清少納言と晴明が登場する例として「華くらべ風まどい ―清少納言 梛子―」もご紹介いただきました。
また、未確認の作品として『清少納言と申します』、紫式部は登場しないが、晴明の孫が登場するという設定をヒントに出来るのではないかと考え、
『少年陰陽師』『平安後宮の薄紅姫』もメモをしておきます。
『日本人なら知っておきたい日本文学』は直接的には関係ないが、晴明が『大鏡』人物として紹介されているので紫式部と晴明が間接的に同時に登場する。
『源氏物語』作中に晴明が登場する例は確認されていないですが、陰陽師が登場する例として『パタリロ源氏物語!』があります。
また、作品まではチェックしていないのですが、源氏物語データの収集中にソーシャルゲームのカードや人物として紫式部や晴明が登場する例があった覚えがあるため、そういった部分で絡む可能性があります。
現時点で収集された資料から言える点としては、以下のようなものが挙げられます。
・小説等のメディアでは比較的紫式部と晴明を同時に出す例は古くからある。しかし、『源氏夢幻抄』では老体の晴明を登場させるために「老人の晴明が若返る」という事件から始めている。この作品のあとがきを読むに、この時代には晴明と紫式部に面識があるという設定はそれほど一般的ではない。
・漫画やアニメといったサブカルチャーでは2010年前後から普通に登場するようになった。この頃には晴明が同時代の人物として当然のように登場することも珍しくない。若い姿であることが多いが、野村萬斎演じる『陰陽師』のイメージであろう。
・若い晴明が登場する理由付けをするケース(陰陽師パワー、タイムスリップもの等)も見られるが、特に理由のない作品も多い。
・2010年頃以降の作品で晴明・紫式部が登場するからと言って両方が登場するとは限らない。片方しか出ないケースも多く、紫式部&清少納言と比べるとそこまで多いということはない。
・1990年代後半~2000年代初頭に『源氏物語』・陰陽師両方のブームが起きている。同時代に『ヒカルの碁』『遙かなる時空の中で』といった作品が作られており、未確認だが妖怪ブームもあるか?平安王朝という舞台がこの辺りで確立した可能性がある。
現在の問題点としては、以下のものが挙げられます。
・晴明と紫式部が同時に登場するようになったのは具体的にいつ頃なのか?また、何がきっかけなのか?
・そもそも何のために晴明と紫式部を無理やりにでも出すのか?史実を踏まえるとこの二人の対面は無理がある。
・近代以前の講談等で語られる晴明像と現代のそれとは一致するか(源頼光、俵藤太といった平安時代のヒーローは現代だとあまり語られなくなっていないか?という比較)
・『源氏物語』と『陰陽師』に共通する点として「物の怪」が挙げられるが、この点が繋がった可能性はあるか。
資料の収集段階であるため、考察や疑問点に間違いやデータのミスがあるとは思います。その点は、今後の研究で明確にしていきたいところです。