共感されるプレスリリースに重要な時制
こんにちは、Ubie/マドベの片山です。PRを生業に、自社やパートナーの「関係づくり」を手がけています。
今回はベーシックなテーマとして「プレスリリース」を選びました。その名の通りプレス(報道関係者)向けの公式文書として普及してきたものの、最近ではツールの発達に伴い変容しつつあります。この時代に共感を生むプレスリリースとはいかなるものか、少し考えてみましょう。
原則は“逆三角形”の構造、だけど…
プレスリリースは重要な内容から順番に書く、“逆三角形”が原則とされています。具体的には見出しから書いて、それを端的に表すリードで導き、説明する本文で締めていく。これは途中で読むのを中断されても重要な内容が伝わるようにと編み出された工夫です。
ちなみに新聞も同じように構成されており、基本的に多忙な新聞記者に向けて調整された文書スタイルと言ってよいでしょう。それにしても読まれないことを前提に書くとは、何とも悲しい宿命を背負いし文書ですね……。
「情報(=現在)」の価値が相対的に低下する中で
先述の逆三角形の原則は同一パラグラフ内のみならず、パラグラフ間でも貫かれます。前後のパラグラフに主従関係があり、前を後ろが補強する。その連続で本文が積み重なっていきます。
だとすれば、最初に書くべきはニュース内容です。そこだけ汲み取ってストレートニュースにできるようにしてあげるのがメディア・フレンドリーな文書でしょう。しかし、そのままネタがニュースになる企業であればいざしらず、たとえばスタートアップなどはどうでしょう。「こんなことを始めました」だけではピンと来ないメディアも多いはずです。
そして何より、単なる「情報」の価値が相対的に低下している時代です。早く届けるだけであれば一人称で、PR TIMESなどのワイヤーサービスやnoteなどのコンテンツプラットフォームでも十分。第三者に伝えてもらう価値は何なのか、いま一度考える必要があるときに差し掛かっています。
プレスリリースの焼き写し以上の価値を生み出すには、単に「情報(現在)」だけでなく、3種類の時制を効果的に組み合わせる必要があるのです。
意味をもたらすナラティブは「背景(=過去)」が核
初めて会う人やあまり知らない人にコミュニケーションをとるとき、人はまず何から始めるか?おそらく多くの人は自己紹介だと思います。つまり自分を取り巻くコンテクストを共有しないことには、発する内容の伝達率も低くなってしまう。
これはプレスリリースにおいても同様なはずです。これまではどうも結論を急ぎすぎていたように思います。しかし単なる情報の価値が相対的に低下する中、そこまで急ぐ必要はあるでしょうか。もちろん速報性が何よりの価値になる類のトピックも存在しますが、それらを除けばいかに意味をもたらすナラティブ(語り)になっているかが重要なはずです。
そこで肝になってくるのが「背景(過去)」です。一口に過去といっても様々な種類が存在します。自社にとって、顧客にとって、業界にとって、社会にとって…狭い舞台から広い舞台まで。そしてナラティブなものとするためには相手にとって意味のある舞台を設定する必要があるため、できれば業界やその先にある社会における過去を遡ってみましょう。なぜ私たちがこのニュースを大切だと考えているのか、その根拠を外に求めるのです。
参加してくれる仲間のために「展望(=未来)」で約束
背景に想いを込めて情報にコンテクストを付与したら、仲間づくりの下地は整いました。つづいて重要なのは、参加してくれる仲間との約束です。応援してくれたらどんな「展望(未来)」を実現するか。
ファクト(事実)に基づいて書くプレスリリースの原則と一見すると反するようにも映りますが、プレスリリースは点ではありません。今後のロードマップに置いている別のプレスリリースで回収できる見込みがあれば線として結んでみましょう。そうすればコンテクストの強度はさらに高まります。
この展望をさらっと定型文で済ませてしまうケースは多いですが、ぜひ開発チームや経営陣への「取材」で引き出して厚みを出してみましょう。
プレスリリースが憂鬱だと思う人は多いと思います。まずは自分自身が楽しんで没頭できるナラティブになっているかを考えながら書いてみると、楽しいものになってくるはずです。がんばるPRパーソンにとって少しでもヒントになれば、筆者としてこれ以上うれしいことはありません。