【レビュー】シナぷしゅマンスリーソング
妻の友人から勧められた「シナぷしゅ」は、テレ東が制作する「民放初の幼児向け番組」であり、「もいもい」や「ヒカリの森シリーズ」を始め、「ビリビリ」「パン工場」「踏切カンカン」「がっしゃん」「もっとみたーい」など知育系のコンテンツを取りそろえているが、わけても人気があるのは当然ながら歌であり、とりわけ毎月変わる「つきうた」(マンスリーソング)は制作陣も気合いを入れているのが伝わり、我が家も楽しみにしている。
2020年度
1. あいうえーお!のうた(2020年4月)
創造神(松丸友紀Pの声で再生)は考えた。「民放初の幼児向け番組」は視聴者から何を求められているのか? 先行するNHKと差別化できる、民放ならではの武器とは何か? 一方で制作にGOサインを出したオエライ方もある程度唸らせる程のラインナップである必要がある。あまり晦渋なテーマでは一見さんたちに一か月保たず切られてしまう・・・
そうしたバランスを勘案し、選ばれたのは五 十 音 表だった。
<ここまで私の妄想です。ちな松丸氏を挙げるのはアナウンサーとして出演(露出)が多いからで、プロデューサー(創造神)は上記リリースの通り5人体制>
と言うわけで初手はカラフルな五十音がAIUEOの唇を象りながら、また時折擬音語や一音名詞の絵を挟みながら歌い上げられる。「歌詞を覚える必要がない」ので口ずさみやすい一曲にもなっています。
転調はナ行から。通常はハ行が後半、と思いがちですがひとつ早いのでお気を付けて。ナ行の転調さえ上手くゆけば、マ行の「ミミ」も上手くハマって無事にヤ行へと滑り込めます。
ただ難点は「わ、を、ん」の後のキメ音が「んーっ!」となっておりイマイチ弾けられないところ。「ん」以外のどの音を乗せてもその音に意味を付与させてしまうので難しいところですが、できればオ段の音でキメたいところ。例えば「GO!」などはどうだったでしょう。
2. 上々-jyou! jyou!-(2020年5月)
「じょう」の脚韻で「友情」や「愛情」など、様々な感情を描写し、子どもたち同士の、あるいは子どもと親とのコミュニケーションの大切さを説く、最初の1か月を乗り切った後のいわゆる「受賞後第一作」のマンスリーソングとしては、こうした教訓話的なストーリーの歌が落としどころだったかもしれません。
3. 雨とココナッツ(2020年6月)
はい、ようやく制作陣の好みの色が出てきました。初見殺しのプログレは、しかし聞けば聞くほどに味の出るスルメ曲。詳しくは後述しますが毎年6月の曲は名曲が多いです。それは4,5月を乗り切った制作陣が手癖をこれでもかと加えて捏ねてくるからとも考えられます。
そしてテーマは雨。(後年の名曲も雨がテーマであり、それぞれに着目するポイントが異なっています。後述します。)
1番では雨の降る様子を、「じとじとはみだして 空がおちてくるよ」と歌いながら、ココナッツが殻からしたたり落ちるかのようなアニメーションが添えられています。そして浸潤する雨が「じめんやまちのけしきかえていく」と、雨を視覚的に解像しています。
2番では雨の降る音や匂いを「色はトロピカル あのにおいも」としてココナッツの連想に繋げたり、カタツムリが葉っぱの上を這う様子をアニメーションにして触覚的な想像力を惹起したり、五感に訴えかける演出が重ねられます。
最後にあふれ出した雨水(ココナッツジュース)が再び殻の中へと格納されていき、あたかもサザエさんOPのような殻の中の人々がその慈雨を美味しく飲んで、また晴れの日へと戻る、というストーリーになっています。これらをプログレらしい転調・転拍子をサビに置きながらテンポ良く盛り込んでいると感じています。
4. にょきの木(2020年7月)
「ヒカリの森シリーズ」から黒ウサギたちが出張して歌っています。タイトルの通り、木がにょきにょきと伸びて大きくなっていきます。7月は成長をテーマにした曲が多いと思います。
「ヒカリの森シリーズ」は石川県在住の切り絵作家名取祐一郎氏が作曲家の妻名取将子氏とタッグを組んで、毎日エンディング直前の枠を占拠して発表している黒ウサギの日常を描いた切り絵アニメーションの人気コーナーです。
なお、非マンスリーソング曲では『ヒカリの森のさんぽみち』という、映像:名取 祐一郎 作詞・作曲・編曲:名取 将子 うた:名取家の子と非常にあざとい作品も発表されています。
5. とっぴんぱらりのぷぅ(2020年8月)
こちらは作詞作曲が志人・アニメーションが最後の手段というタッグの作品。このタッグは後年もちょくちょく出てきますが、透き通ったボイスで韻を踏んだ歌詞が地球を賛美する中で、必ず聴く人間を不安定な気持ちにさせる一節が挟まれて癖になると思います。
名取氏による最後の手段氏評。こういうアーティスト同士の評価を読むのは面白い。
実際、子ども向けコンテンツの制作を通して「アートアニメの美術展」がなされているという見解には同意するところ。
6. OP・PAI・BLUES(2020年9月)
育児の特徴の一つは、母体を生物学的にまなざすようになる、という従事者たちのパースペクティヴの変化にあるだろう。本作では「おっぱい」からエロティックなコンテクストを捨象し、赤子に安寧をもたらすゆりかご(偉大なる船)、成長・飛躍の元となるエネルギーを培い溜める土台(さらなる高みを目指すトランポリン)として男女のおっぱいを平等に描いている。微笑む乳首やおっぱいロケットなど絵柄もファンシーである。
7. まっかあっかあき(2020年10月)
河口恭吾が歌っていることが話題。幾何学的な、90年代PC的な、イラレ的な絵面は、いま育児に従事している80~90年代生まれにとっては、こういう絵を、子どもの頃、親が家に導入してくれたパソコンを使って、夢中になりながら描いていたなと、刺さる刺さる。
8. タベタイ(2020年11月)
「セカイをたべたい」と歌いながら世界のグルメを列挙していくだけの曲がどうしてこれほど心に残るのか。それは育児時間の大半を占めるのがおもちゃ遊びでも排泄処理でもなく食に向き合う時間だからなのだろうと思います。人工乳の調乳(粉・湯比率と分量の精確な測定)から始まって、栄養バランスやアレルギーコントロールを加味しながら選別した食材をフードプロセッサーで細断し、時に葉脈を除去するほどの精緻さを以て開始された離乳食が、徐々に包丁で刻むほどの目の粗さを許されるようになり、最終的には味付けの分割のみで大人と同じメニューを食べられるようになっていく。そのように気を配りながら形成したレーションを宥め透かし怒り泣きながら匙で口に運ぶ。大口を開けてくれた時の悦びよ。ウチの子は他児と比べて食は太い(よく食べる)ので、「セカイを食べる」という歌詞を思い浮かべながら、実感を以てそのがつがつむしゃむしゃを眺めるのが幸福である。親が年齢的に多量摂取を困難としてくる中で、子に食事を分け与え、その食べる様子に幸福を感じるという生物学的つきづきしさに感動する。
なお列挙されるグルメには「ペリカンのパン」など東京ローカルの店が出てきてすわ地方軽視かと息巻くのだが、そういえばテレビ東京って東京ローカルだったわ。あと「要一郎さんの唐揚げ」の元ネタの麻生要一郎氏(タベタイ歌手の坂本美雨氏は友人らしい)の記事があったので貼っておきます。
9. ふゆのキセキ(2020年12月)
番組を監修している東京大学赤ちゃんラボが作詞した五十音の数え歌。手間をかけて作っているとは思うが、その歌詞が和風だったからなのか、曲もまた昭和歌謡に寄せており、バリエーションとしては良いものの赤子に向けた曲としてはどうだったか。最後に「ん」がしれっと流れてくるのは面白いです。
10. おくいぞめ(2021年1月)
年中行事シリーズと言って良いのか。お食い初めに鯛を始めとしたメニューを食べる意味合いをテンポ良く教えてくれる。おせちも思わせるので時期的にはぴったり。
11. はるまつワルツ(2021年2月)
春に向けて静かにステップを刻む小春日和の情景を軽やかに描いている前半と、後半の草木虫のワルツの雑多なエネルギーが好対照をなしてまとめられている。
12. Ready to rock’n roll(2021年3月)
これも春に向けた準備を促す、抑制され、発散を待つエネルギーを感じさせる曲。ワルツやロックなど伝統的な調べが、春と子どものアナロジーを効かせながらテーマを乗せる媒介となっている、と比較してみると、本作と1コ前の「春待つワルツ」は、ともに3月の曲として制作されつつ、枠の問題で「ワルツ」の方を2月に送ったのではないか、と感じられます。知りませんが。後年も季節外れな曲がマンスリーソングに設定されることがあり、それは枠闘争に敗れはしたものの制作陣の根強い支持や制作段階でのしがらみ等の理由から復活した曲なのではないかと思いを馳せることが可能です。
歌詞では「ready to go」と脚韻を踏んで「ready to roar」と歌われ、roarとは「轟音」という意味なのだが、轟音の準備するの勘弁してくれwというのが多くの親たちの共通認識だと思います。そのくせ外界から大きい音がすると怯えるからねやっこさん。おまえの声の方がおおきいっつうねん。
13. ひーたんみーたんのマーチ(非マンスリー)
「がっしゃん」に登場する左手のひーたんと右手のみーたんが歌い上げる、インストゥルメンタルverは「がっしゃん」のテーマソングにもなっているマーチである。みーたんの声は創造神松丸友紀Pで、ひーたんの声はテレ東の若手男性アナが代替わりしつつ充てられている。初代の原田アナは実況ベビーのバズをきっかけに教育系スタートアップに転身するなど、シナぷしゅにより胚胎した才能が萌芽している模様を眺めるのも楽しいです。
14. マンマのうた(非マンスリー)
こちらはベビー向け3分クッキングのテーマソング。おいしぃおいしぃのフレーズは、もぐもぐする幼体を眺めながら思わず口ずさみたくなると思います。ウチの鉄板はママの愛すべき時短レシピを3分クッキング調に紹介するネタです。
例)今日は、ママの得意料理、豚バラ炒めを作るよ! 野菜を適当に切るよ! 切った野菜を冷凍豚バラと一緒にフライパンで炒めるよ! 塩こしょうを振るよ! 完成だよ!
さあみんなで一緒にママの得意料理をネタにしよう!
15. きょうのおやすみ(非マンスリー)
最初に聴いたときは辛気くさい曲だなと思ったんですよ。カーテンが揺れてたからなんやねんと。でもね、なんでもない一日が幼体にとって初めてに満ちた刺激的な体験だということを、奴さんの視点になって思いを馳せてみると、途端に愛おしく、涙の溢れるものと感じられるようになる。カーテンが・・・揺れているね・・・と。奴にとって二度とない初めてをこれからも健やかに積み上げるため、私たちは全力を尽くしているのであると、いつも原点に立ち返らせてくれる素晴らしい曲です。
2021年度
1. そらのライオン(2021年4月)
我が家のシナぷしゅ体験の原点にして頂点。
このnoteも、最初はランキング形式にしようかと思ったのですが、私のランキングでは上位3位以内、妻のランキングでは堂々の1位に輝く曲です。
妻の友人からシナぷしゅを慫慂され、試みにアマプラを確認し、第1話を観る。その後良さそうなので第2話を観る。なんかこの曲毎日出てくるな・・・あ、マンスリーソングという概念があるのか!
駒崎氏のファンシーなアニメーションが表わしているのは、こわそうだけどやさしいダンデライオン、ふわふわ綿毛のライオン、そらのライオンである。KEMURI氏の高音で歌い上げられるサビ、「ライオンうたうBe Yourself!」「ぼくもうたうBe Yourself!」は癖になる心地よさであり思わず口ずさみたくなると思います。
翌年の映画にも登場し、軽快なモグラ叩きのごときチョロチョロ動きを見せてくれた人気キャラクターへと出世を果たしていることについては、我が家としても温かくまなざしているところ。
ウチの子は歯磨きするときこの曲を歌うと大人しくなったので重宝しました。(歯磨き時重宝シリーズはこの後も多いので適宜紹介)
2. これからもヨロレイヒ(2021年5月)
いまなお折に触れて口ずさまされてしまう衝撃的な怪作。アルプスのヨーデル、ヨーレイヒーッはウチの両親(現60代)もよく意味なく口に出していたので日本でも有名な西洋郷土文化というほどの理解でしたが、それを「これからもずっとよろしくね」構文に嵌め込み、「これからもずっとヨロレイヒ」の歌詞を生んだ時点である程度の成功は約束されていたところ、この曲の要諦はそこではなく、展開されるクレイアニメである。丸い地球の上を軽快に走り抜ける棒人間が、何故走っているかというとそれは彼が「昼下がりぼぅっとしてたらあっという間に午後三時、大寝坊友だちに怒られる」と思ってガールフレンドの元へダッシュするクズ男であることに起因する。時にセスナ飛行機の信号待ちをしながら山あり谷ありを彼女の元へ走り続ける彼のシュールな永久機関は、それ自体が一つのミームと化し、後年には四季折々の地球を走る姿や、古民家の様々な箇所をミニチュアになって走り抜ける姿が展開を見せるなど、シナぷしゅの生んだ怪コンテンツとしてすっかり定着している。驚くべきことに映画にも登場するのだが、ヨロレイヒ星を訪れたぷしゅぷしゅが出会う彼の、その登場シーンのシュールさは必見である。
3. あめあめフレー(2021年6月)
低音から導入されるメロディに加えて、歌詞の全てが美しい。個人的ランキングで『そらのライオン』と並んでTOP3に入る名曲。せっかくなので特に美しい導入部を書き写すわ。
次のフレーズ「ざー、どっしゃー」のところで雨水をサーフィンする「かえるのおやこ」の絵は『東京タラレバ娘』のタラレバを彷彿とさせてかわいい。そしてサビで「あめあめふれー、あめふれー」と繋いでいく、完璧な構成である。
前年6月の『雨とココナッツ』では雨という自然現象を「不思議なものとして眺める」透徹した眼差しをテーマにしていたところ、この曲は大人たちが嫌がる雨というものを「たのしいイベントとしてとらえる」子どもたちの感受性を表現している。そう、誰しも雨が降ったとき「ぴちぴちちゃぷちゃぷらんらんらん」と跳びはねてその水滴の音を、その波紋を、その小さな身体を叩く冷たさを楽しんでいた子どもの頃があったはずである。なぜ忘れてしまったのだろう。だけれどこの曲が、そうした記憶を鮮やかに思い起こさせてくれる。素晴らしい体験を、大人こそがさせてもらいました。
4. すくすく(2021年7月)
我らいにしえのボカロオタクたちが歓喜に打ち震える伝説のルカマスターゆよゆっぺの作曲。『Palette』とか『7/8』とかめっちゃ聴いてました。クレジット目にしたときビビったわ。
米津玄師とAyaseを筆頭にして旧ボカロマスターたちは次々に嚢中の錐として世に出て人口に膾炙し口ずさまれるようになりましたが、こうしてキッズ向けコンテンツに登場すると、その隆盛はついに円熟期に到達したとの感慨も一入です。
さて本作は7月期恒例、「成長」をテーマにした曲で、もぐもぐ食べ、すやすや眠る幼体がすくすくと育っていくという様態を、「幼体の成長」に顕著な(逆にそれ以外の局面で使わないような)擬音語をふんだんに盛り込んだ歌詞でリズミカルに描く前段と、伸びやかに減速し「どこまでも続く空 端っこはどこにある 君が大きくなったとき いつかいつか見つけに行こう」と幼体の素朴な疑問から照射された連続性の中に大人の行動力が胚胎していることを端的に表現した名句で再び最高潮へと向かう後段が交差する作品となっている。
わたしたちは、自分自身だけではどうしても「物心ついた」ときの記憶からしか具有していないゆえに、こどもとおとなの連続性を忘却しがちなのであるが、子を育てるようになってようやく、この目の前の幼体がやがてすくすくと成長し、自分たちと同じ成体へと膨張し変異するのだ、という連続性が、手触りをもった実感として想像できるようになる。そんなことを思いました。
そしてアニメーションは8bit。ウチの長子は7月中旬の回に至るまで、中段あたりでこわくなって泣きわめいていたのですが、下旬からは慣れたのか、目を逸らさずに観られるようになった。そして今では親と一緒になって「すくすく」と口に出すまでに至ったのだから、まさにすくすくである。すくすくのメルクマールとしての『すくすく』。ボカロオタクとしては16bitの『*ハロー、プラネット。』PVなどを思い出しますが、本作はまだまだそこに至らぬ8bit。長子が泣きわめいていた頃、試みにハロプラのPVもYouTubeで見せたのですが、こちらは泣きわめきすらせずに関心を失っていたので、やはり幼体の解像度はまだ8bit程度なのだろう、と制作陣の慧眼に舌を巻いたのであった。
5. ゆめのマサイマラ(2021年8月)
個人的にはあまり刺さらなかった。アフリカのサバンナを鳥の視点のように飛び回るカメラワークで探検するアニメーションと、張りのある声で「いってみたいな夢のマサイマラ」と繰り返す歌詞はキレイに纏められてはいるが60点と言ったところ。文化盗用という批判もあったように、アフリカに対する想像力が貧困とまでは言わないが、表面をなぞったような句に留まっていたのも残念だったか。
6. はてなしはてな?(2021年9月)
志人+最後の手段タッグ2作目。我が家ではこのコンビの作品にファーストコンタクトだったので、正直めっちゃ戸惑いました。ただそこはやはりスルメ曲。押韻を多用した中盤の歌詞が分かると、次は、その次は、と曲が進んでいくのを楽しみに待つようになってしまいます。
地球環境に対する人間の謙虚さを、イデオロギーをできるだけ捨象して描写しようとしたキレイな歌詞だと思います。
妻が、そういえば死んだおじいちゃんが昔、わたしら孫たちに柿の実をもがせながら「全部取り切るな」「けものが取りに来るから」って言ってたわと回想していたのも印象的である。キッズ向けコンテンツを味わうこととは、いまだ知らなかった配偶者の幼年期のエピソードを引き出すトリガーにもなっている、そんな楽しみ方もあるのだと思います。
7. かぞえうた(2021年10月)
我らいにしえのボカロオタクたちが快哉を叫ぶべき名曲。いや、別に作詞作曲・うたのポップしなないで(略称ポしな)がボカロ界隈かと言われるとよく分からない(むしろゲスの極み乙女。とパスピエを足したような印象)のだが、ボカロ好きの後輩もワンフレーズ聴いて好きだと言っていたから傾向は間違いない。曲調も歌詞も、作り方にボカロ風味がふんだんに盛り込まれており、私のランキングにおいては、『そらのライオン』や6月期の名曲群を抑えて1位に位置づけさせていただきます。特にマンスリーソングを通しで聴いていると、前月の志人氏の儚いテイストが終わった後に、刺してくるようにこの曲の若いアンニュイさと透き通った清らかさが適量に混淆したイントロが入るのが最高にテンションが上がります。
1,2,3,4toX,Y,Z ねうしとらう 月火水木金土日
昨日今朝今夜明日明後日に いってらしゃいませ かぞえるあいだに
このように、数字の歌(『すうじのうた』や『いっぽんでもにんじん』など)、ABCの歌(『きらきらぼし』など)、干支の歌、曜日の歌、暦の歌、四季の歌など、子どもたちが出会う(そして親たちが再会する)「かぞえうた」のエッセンスを切り取ってふりかけたサビはかわいらしく仕上げつつ、メロディパートはみずみずしい。とりわけ「またいつか いつかっていつだろうね」「かぞえれば 少しずつ近くなる」には子どもの純粋さが収斂されている。「またいつか」というすぐれて大人びた言い回しに対して「いつかっていつだろうね」と端的な出力を投げ返すこと、そして「かぞえ」ることでその実現を、願うだけで叶えようとする無力さゆえの力強さが感じ取れる。
まあそんな難しいことを考えずに「わたしはここでかぞえていたい」を8回繰り返しながら上半身を振ってリトミック体操しているだけで楽しい曲です。ウチはアレンジして「わたしはここで叫んでいたい」「わたしはここで悶えていたい」「わたしはここで眠っていたい」「わたしはここで唱えていたい」と幼体の動作を描写するのに使っていました。
そしてこの曲も歯磨き沈静に重宝したシリーズ、それとテンポを落として子守歌にも使えます。
ポしなをサブスクで聴いてハマってしまったのでみんなに聴いて欲しい。
長子は上記『UFOを呼ぶダンス』と、『ミラーボールはいらない』がお気に入りです。
8. みなみのしまのあそびうた(2021年11月)
なんでこの時期なんやろ? が第一感かなと思います。
そしてそれは、2021年3月の項で推測を披露いたしましたが「枠闘争に敗れはしたものの制作陣の根強い支持や制作段階でのしがらみ等の理由から復活した曲」なのではないかと邪推しています。うた:奄美大島のこどもたちなので、お蔵入りにはできないからな。でもどの曲に負けたのか?『すくすく』なら納得だが『マサイマラ』に負けたのなら悔しいね。
とはいえ、語られる南の島の情景は美しい。特に1番の「海の色はルリカケス 太陽の色はアカショウビン」の気合いの入り方は良い。南洋諸島を感じる。これに対して2番の歌詞は森の情景を少し一般化しすぎているきらいがあり大いに不満であった。多摩の森でも変わらんやんけと。なんかこういう詰めの甘さが「文化盗用」の批判を免れ得ない遠因になっているとも感じる。作詞の城南海氏は奄美大島出身のようなので、2番の歌詞はもともともっとマニアックな固有名詞を盛り込んでいたところ、オエライが修正を強要したのではないかと、これも邪推してしまう。
9. よふかしゅ(2021年12月)
最初は長子は嫌がっていましたが、下旬から大丈夫になりました。全編英語歌詞はなかなか攻めており、「エッグノック」という北米文化など親も勉強になりました。「SANTA YOU'RE COVERED IN SOOT(すすだらけのサンタ)」という歌詞のイメージが容易く想起できる、北米っぽい結構の住宅をぷしゅぷしゅが徘徊するアニメーションもよかったです。前年の12月がクリスマスフィーチャーをあえて外していたので、この年は典型的なオリジナルに寄せてきたといったところか。(翌年はまた違ったテイストのクリスマスになる。)
10. ジャーン!(2022年1月)
年が明けて、寒さは残るけれど爽やかに外に遊びに行こう!という前月のマンスリーソングとはガラリと雰囲気を変えた明るい曲。「ちきゅうでおとがなる」といいながら環境音ではなくバイオリン・ピアノ・トランペットと西洋楽器を列挙するドラムメジャー・加藤葵。
我々はこの娘を知っているっ! マンスリーソングどころか年間を通して挿入されていたコンテンツ『じゆうたいそう』に出演していた加藤大樹・加藤晃子親子の、大樹の顔にめっちゃ似ていて同じ名字! そしてインターネッツを叩くと正しく姉弟であることが明かされている。大樹のようにおすわり状態からハイハイに移行させようとして無理をした結果、頭を床にこっつんこしてしまったこともあった。親のエゴだった。反省している・・・
そんな苦い経験を思い起こしながら、当該血縁関係にテンションが揚がった我が家では、サビを
じゃーんじゃーんじゃーんじゃーんじゃーんじゃーんじゃじゃじゃーん
じゃーんじゃーんかとうあおいー
かーとーうーだーいーきーのーあーねー
と替え歌するようになってしまった。
そして、大サビ前は
じゃーんじゃーんじゃーんじゃーんじゃーんじゃーんじゃじゃじゃーん
じゃーんじゃーんかとうあおいー
かーとーうーあーきーこーのむすめっ!
である。
11. べびちゅ(2022年2月)
2月、3月の2か月はなぜかアマプラでタイムシフトができず、TVerで22年度の配信を観るように移行したため、あまり印象に残っていない。そして上記のYouTubeマンスリーソングまとめ動画をよくカーオーディオで流すのだが、そのときはアニメーションが見えないので、アニメーションの印象もない。翌月の『あべこべ』は23年からの取組み「アンコール」で過去うたが取り上げられる中でけっこう登場するのだが、『べびちゅ』はあまり出てこないので、スタッフからも冷遇されているように感じる。
12. あべこべ(2022年3月)
上述の通りこの曲もあまり印象にないのだが、アンコールのおかげで多少は目にしている。すべてがあべこべに倒錯した世界では右が左で下が上で、前に下がり後ろに進むようになるのだが、シュールなアニメーションになぞらえながら、幼体にとっては「右」や「上」といった概念そのものが新鮮で不思議、インプットすべき対象になっていることを改めて思い出させてくれる曲でもあります。
2022年度
1. きみのともだち(2022年4月)
多様性を重視する時代、「色とりどりのくさばなみたいに」世界中の友だちと仲良くしよう!みたいな着想の曲かと思ったら、クリーチャー状の多様性が導入され、そうか、私自身がスピーシズムに陥っていたわ・・・多様性とは人間以外の種も含めて赤子たちに受容されていくべき概念なのだ・・・と目を開かされる。
2. フルーツのマーチ(2022年5月)
幼体の食に向き合った親たちには共感いただけると思うのだが、砂糖を排された食卓において、果物がどれほど便利であるかを初めて理解できるようになる。我が家の幼体は当初バナナを世界一甘い食物として感覚し、熱情の余り皮を剥けるようにまで成長したのだが、労せず皮を剥けるほどに手技が発達した段階においてはすでに、みかん、いちごといった酸味の効いた一群へとプリファレンスをシフトさせるに至っている。「子どもの好き嫌いの9割は食感」とはよく言ったものだが、ゴワゴワの食感を与えるキャベツやキノコ類に対するヘイトを馴致するために、「食べ終わったらみかんやで」「いちごやで」がどれほど重宝することか。そうした果物への興味関心を「こんなにおいしい食べ物が 地球にあってうれしいな」と敢えてやや規模感を倒錯させた歌詞に引きつけながら実感する明るい曲です。なお、鳥たちと果実という地球の恵みを「わけっこできたらな」という着想は志人氏の歌詞と通底して創造神Pたちのメッセージになっているものと理解される。
3. 0%のまほう(2022年6月)
6月は名曲。3年連続クリア。(そしてこれが最後になった・・・)
『そらのライオン』の駒崎氏によるアニメーションなのでそらのライオンが出張で登場しているのかと思ったら、この歌においては彼奴は「くもくん」というポジションを与えられ、「かぜちゃん」と喧嘩することによって雨が降ってくるという世界観になっている。正直天才だと思ったし、いや、「そらのライオン」の時点で奴のデザインにはタンポポの綿毛だけではなく雲要素が含みこまれていたのか、と壮大な伏線回収を受けた気分だ。
前々年の『雨とココナッツ』は雨の日の情景への新鮮な眼差し、前年の『あめあめふれー』は雨の日の楽しさを表現していたと先に記した。この年の本作は、雨をしてキャラクター化された大気の状態の結実であり、また彼らの仲直りを希求する純真な涙として捉えるに至っているというわけだ。
そして、下界の”ぼく”にとって、テレビがしたり顔で述べる天気予報など無視して、0%の降水確率をもってして、傘と長靴を装備してお出かけするシチュエーションだとする着想は前年と同様に。前年の『あめあめふれー』のサビは少々単調であったが、本作のサビはBメロとの対比も際立ち、熱唱したくなる盛り上がりである。
4. Tout est tout pour l'ete ~なつにむかって~(2022年7月)
フランス語のかぞえうた。前月の『0%のまほう』とややテイストが似ているので、連続して聴くと切れ目が分からなくなるきらいもある。
ゴテゴテしたアニメーションだが人気はあったらしく、のちに冬バージョンも制作されている。
5. たってすわって たちうおバンザイ(2022年8月)
本作は『おさかなずかん』という非マンスリー曲のシリーズとして。『おさかなずかん』は最初しりとりで魚の名前を紹介していく歌かと思ったら、途中から完全に無視して正しく「図鑑」化していき、折節に挿入される「ひだりひらめにみぎかれい」「いくらはサーモンの息子、ママァ」といった展開の転調もマイペースな作品だったが、確かに続編が制作されておかしくないクオリティであった。オジサンという魚の存在をこの歌から知った向きも少なくないのでは。
さてお魚シリーズはマンスリーソングへと出世魚したわけだが、本作は列挙にわたった前作と異なり、太刀魚という一つの魚にスポットを当てて歌詞を構成している。具体的には「キラキラはマニキュアになる」「立って泳ぐからタチウオ、刀の太刀からタチウオ・・・諸説在ります」「レーダーに映らないからユウレイウオと呼ばれる」といった興味深い特徴を過不足なく取り入れており完成度が高い。そしてCメロではタチウオが更に出世し、「大きいタチウオ・ドラゴン級」と野球の応援歌のメロディで登竜門を突破して中日ドラゴンズになる。マイペースだが憎めない良い曲である。
6. よるのとしょかん(2022年9月)
渋い名曲。たいへん詩的で美しくもある。最初熟聴して歌い終えたとき思わず拍手したもんね。正直子どもの頃に聴いていてもそんなに好きにならなかったと思うが、大人になるとすげぇ渋い名曲だと感じるようになるのではないか。
ウチの風呂場には去年の秋に東京駅のキャラクターストリートで買ったシナぷしゅの五十音ポスター(ヘッダー画参照)と並んで、ちゃれんじぷちが送りつけてきた海の生き物ポスターが貼ってあるのですが、本作を歌いながら、登場する水棲生物を指さして楽しんでいるうちに長子も好んでくれるようになってきたもの。
世界観としては、夜の図書館を足音を立てないように歩いて行くと、かに・マンボウ・たこ・くじら・くらげ・うみがめなどが漂う夜の海のような生物多様性に満ち満ちた幻想的な空間が拡がっているというもの。本を知識の海と喩えるイメージが、「本棚をすり抜ける」ようにして図書館という建物全体へと敷衍されていく様相の中に、「ほのかに薄く漂う」香りは磯の香ではなくキンモクセイだったというのも季節感があって良い。読書の秋の夜の海。中秋の望月の、月明かりとても眩しい夜。
7. 秋田大黒舞(2022年10月)
『おくいぞめ』は中途半端だったが、日本民謡シリーズの続編という位置づけか。本作は秋田県民謡のそのまんまである。とはいえ、キッズコンテンツに民謡を布置し、「若大黒が舞い込んだナァ」と子どもの誕生と成長を寿いできたのはいつの時代も同じであったと思い起こさせてくれるのは仕掛けとしては面白いと感じる。
そしてさらに雅趣を増すのがアニメーションである。大黒や三宝、鯨幕を意識したような虹色の回転などの意匠もともかく、二頭の象さんが相撲を取って鼻先から若大黒が噴き出すシーンをいつも観ながら妻と「問題のシーン!」と言って喜んでいる。そしてまた、東北地方で生まれた若大黒は、必ずしも家の蔵を直截に富ませる家業を継ぎはせず東京に旅立ってバーで一杯やっているのだが、酔いが回るにつれて目の前を走る鉄道が秋田新幹線こまちへと変貌していくのがもの悲しいのである。
8. さんごdeタンゴ(2022年11月)
この曲のタイトルを『コシコシカー』だと思っている向きは一定数いるのではないか(笑)
9. シロクマ トコナツ クリスマス(2022年12月)
前年のひんやりとしたクリスマスに対し、この年のクリスマスはハイテンポの明るい曲調。クリスマスって南半球だと夏なんですよね。たまたま今年のクリスマスに弟がオーストラリアに出張しており、コアラとカンガルーの写真を見せてもらった(全く関係ないepi恐縮)。
10. あたらしいパターン(2023年1月)
この曲は歌詞も確かに「きらいがきゅうに好きになるパターン」「へんなばしょでねむくなるパターン」など子育てあるあるを取り入れて面白いのだが、むしろアニメーションを観て欲しい。「新しいパターン」と繰り返すだけの歌詞を多種多様な表現で彩っており飽きさせない。映像コンテンツとしての完成度を評価すべき作品である。
11. たなごころのたま(2023年2月)
志人+最後の手段タッグ第3作、そして今のところ最終作。最後の手段氏は12月の『グッナっぷ』も担当しているので、ひとり志人氏が降ろされたような格好になっており祇園精舎を感じる。
ともあれ本作はサンドアートをアニメーションにして、初見はトライポフォビアを喚起しそうな胞状奇胎を描く完全な初見殺しなのだが、相変わらず噛めば噛むほど味が出るスルメ曲である。そもそも歌詞が「水」に関係する話ずっとしてるな、という解像度だったところから、「たなごころのたま」って「掌中の珠」やんんけ!と理解し、そうかこれは子どもが着床して胎盤にて生育し生まれ成長し独り立ちするまでの物語なのかと理解したところで急に泣けてくる。「やがて手離れ別れゆくさだめ」に至るまで僅か18年かそこら。しかもそのうちの2年はすでに過ぎ去っている。あっという間だったと振り返る日がいつの日か来るのだろうと思うと泣けてくるのだ。この着想のマンスリーソング、ありそうでこれまでなかったよね。
12. 予感(2023年3月)
春の予感をひんやりとしかし温かく歌い上げる、曲としては良いのだけど、一年のマンスリーソングの〆としてはちょっと弱いかな。
2023年度
まとめ動画は未アップロード(つき歌解説で個別に参照は可能な状態)
創造神Pたちによりアップロードあり次第追記します。
1.AIUEONGAKU(2023年4月)
「広がってく些細なマスターピース」
2.マイマイカー(2023年5月)
ガッタゴ・ゴットンでシリーズ化されるクレイアニメーション。
3.おどってにゅうダンス(2023年6月)
6月は名曲・・・そう言い残して男親は砂になった。
今年のシナぷしゅ一大トピックとしては、ついに映画化したというニュースがあったわけですが、本作は映画オリキャラの緑のタオルの妖精「にゅう」(cv玉木宏)をフィーチャリングした作品で、映画への誘導を図る為のマーケティング要素が強い配置となっている。
まあそんなマーケティングなくても観に行くんですけどね。興行上の取組みとしては、「親も子どもも一律1,000円」「泣きわめいてもオールOK」という仕掛けになっており、親子連れも行きやすかった。(子どもの分もお金を払うことで何らかの免責を付与し、罪悪感を減衰させる行動経済学には拍手である。)とはいえそんなに心配するほどでもなく、我が地元では4~5家族と空いていた。東京は混雑して大変だった模様であるが。
4.みんなのたんじょうび(2023年7月)
シナぷしゅ好きの先輩一家とこの時期に信州旅行したのだが、先輩が「この曲めっちゃいい」と力説していたので多分良い曲です。
「毎日誰かの誕生日」という着想は、幼体が保育園(や、やがては小学校)へと包摂されていく中で実感をもって捉えられるのだと思うが、私自身は夫婦の特別なDEARESTだった存在が、望むと望まざるとに関わらず集団生活の規律訓練に絡め取られて国家による生政治の客体になるプロセスを想起するので、保育園への入園に薄くうっすく傷ついている。人間が組織を編む存在である以上、社会性の涵養の観点からも奴さんは他児の存在から逃れられないにもかかわらず、まだ、もうすこし、もうすこしだけこの父子関係・母子関係に耽溺させて欲しいと願ってしまう、そんな因果な親心なのである。
5.push the button(2023年8月)
韓流アイドル曲テイスト。ぷしゅをpushと掛けて私らしさを歌い上げる歌詞に仕上げているのはワザアリだった。
6.タベタイNO!(2023年9月)
タベタイの続編。壮大さは鳴りをひそめて落ち着いた曲調。
7.あきのおくりもの(2023年10月)
妻がめちゃめちゃ気に入っていた。
8.はこのなかからなにかがでてくる(2023年11月)
食べて食べた先にはうんちがでてくるよ、といったファンシーな歌詞だが、油断してはならない。ラストでそこまで箱から出てきたものが逆再生で箱の中に詰め込まれていく演出があり、長子は当該演出が大の苦手でそのパートだけ椅子から逃げ出していた。
全然関係ないが、地元のロング滑り台で前に並んでいた少年(推定8~9歳?)が下で待ち構えている母親に向かって「滑ってるとこ逆再生で撮って!」と叫んでおり、令和の子育てをビンビンに感じたよな。
9.グッナっぷ(2023年12月)
10.あかるいあかちゃん(2024年1月)
11.ファニーとファンキー(2024年2月)
12.ComingSoon・・・(2024年3月)
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