マーキュリーファー考察 ネタバレ含みます
はじめに
マーキュリーファーを観劇し、自分なりに調べたりメモしたりした結果、私の解釈や考察をまとめます。
舞台の流れに沿って話しますが、舞台の結末まで触れておりますし、ガッツリ根幹に関わる話もしています。
十分すぎるほどネタバレを含みますので、まだ見ていない方、ネタバレしたくない方は必ずブラウザバックをお願いします。
好きなセリフはメモをして見ていたのですが、それ以外のセリフは曖昧な記憶のままなので、ニュアンスだということ、ご了承下さい。
また、完全に個人的な考察になるため、ここは違う、これは舞台の上では違った、などということもあるかもしれませんが、大目に見ていただけると嬉しいです。
登場人物
エリオット(吉沢亮)
ダレンの兄。ローラの恋人。
バタフライの売人。
賢くて口が達者。自分のことを頭がいいと自覚している。仕事が出来る。
ダレンのことをバカにしつつも切り離せない。
ダレンやローラを守るために生きている。
将来の夢は考古学者(確か)だった。
生きるためにバタフライを売り、パーティーをやっている。
ダレン(北村匠海)
エリオットの弟。
バタフライ依存性。
人懐っこくて可愛い。エリオットの言うことが全て。エリオットに完全に依存している。エリオットがいないとすぐに不安になる。
自分の兄、エリオットのことをとても尊敬し、自慢に思っている。エリオットに教えてもらったことだけはスラスラ言えるし、他の人にあたかも自分が元々知っていたかのような口調で説明しはじめる。
頭が悪く難しい話は分からないし記憶も飛びやすい。(バタフライのせいか、過去の怪我のせいか、、)
純粋無垢で、どんな悪人の話でも大真面目に聞く。
心がめちゃくちゃ優しい。(ミノタウロスの話)
情緒不安定になりやすく、自分が出来ないことに対して不安になったり怒ったりする。
ひたすら可愛いので、放っておけない。
ナズ(小日向星一)
エリオットとダレンがパーティの場所に選んだ団地の住人。
2人がパーティーの準備をしている所に突然現れ、エリオットへの尊敬心からパーティーの準備を手伝いたいと言い出し、仲間に加わる。
バタフライをエリオットから買っていた。
知能や喋り方、テンション感はダレンと一緒。
ダレンの親友になる。
自分の家族はもういない。家族の悲しい思い出を抱えている。
ローラ(宮崎秋人)
スピンクスの妹。エリオットの恋人。
ジェンダーレスっぽい見た目だが心は乙女。
真っ赤なドレスにデニムジャケットを合わせる。服の仕立てやメイクができ、パーティープレゼントに対してメイクを施す。
とても丁寧な仕草で物事をこなし、柔らかい物腰で話す。
女性であるため、パーティーの準備だけしたら帰る。本番の時はいない。
エリオットと恋に落ちる瞬間が素敵。
スピンクス(加治将樹)
ローラの兄。姫を愛している。
いつも気が立っていて、口を開けばブチ切れ。姫にはとても優しい。
多分本当はめちゃくちゃ優しくて、心が熱い人。情熱がある人。誰かを助けなきゃ、守らなきゃ、という精神が強い。
パーティーの1番の主催者。パーティーゲストを連れてくる。
姫(大空ゆうひ)
スピンクスがお世話をしている女性。姫はスピンクスのことを"パパ"と呼ぶ。
過去の悲しい出来事が原因か、何かの薬が原因か分からないが、基本的に精神的不安定。過去の記憶はぐちゃぐちゃで、思い出の歌を歌ったり辛い記憶を思い出すと痙攣したりパニックになったりする。パニックになって止められない時はスピンクスによって鎮静剤らしきものを注射される。
自分のことを"姫"だと思い込んでいるうちはご機嫌。シャンパンが好き。
エリオットとダレンの実の母親。
パーティーゲスト(水橋研二)
ゲス。この世の終わりみたいな人間。クズ。
救いようのない悪人。
パーティーをするためにスピンクスに連れられてやってくる。
なぜパーティーをするのか、この人の夢とは、、知れば知るほど気持ちが悪い。
(めちゃくちゃ嫌なこと言っていますが、役者さんは本当に気持ち悪いと思えるほどの演技力ですし、こういう救いようのない悪人がいるからこそ、この愛の話が成り立つ)
パーティープレゼント(山﨑光)
パーティーゲストへのプレゼント。
なぜこの人が"プレゼント"なのかは、後ほど、、
病弱で死にそう。というか、死にます。
パーティーに向けて眠らせていた(多分)が、パーティーが早まったためせっせと起こしているが、とにかく精神不安定で、目が覚めるとパニックを起こす。
公式で出しているあらすじ
ストーリー
ボロボロの部屋に兄弟がやって来る。パーティの準備にかかるが、そこに1人の男が突然顔を出し、「バタフライ」が欲しいので手伝うと言う。しばらくするとローラと呼ばれる美しい人物が現れる。そしてもう1人、このパーティの首謀者らしき男と謎の婦人がやって来る。彼らはパーティのためにそれぞれの役割を、異常なほどの饒舌な会話を交わしながら行う。やがて、パーティゲストがやってきて、パーティプレゼントが用意されるのだが、パーティプレゼントの異変により、パーティは思わぬ展開に…
これだと全く想像できないので、順を追って、、
パーティーとは?
エリオットとダレンは、ボロボロの部屋にやってきます。
その目的は"パーティーをする場所を探すため"
パーティーとは、簡単に言えば、"人道から外れた、恐ろしい夢を叶える場所"
もっと噛み砕いていえば、人を残虐に痛めつけることに快感を覚えている(もうこの時点で理解が出来ませんが)人に対して、その夢を叶える場所を提供することです。
パーティープレゼントとは言葉通り、パーティーゲストへのプレゼント。
パーティーゲストはパーティープレゼントに対して何をしてもいいのです。
ちなみに今回のパーティーゲストのストーリー設定は
「ベトナム戦争の中で味方にスパイがいることがわかった。そのスパイを突き止めたので、そいつをめちゃくちゃに痛めつけながら殺す」というもの。
そのスパイ役としてパーティープレゼントが用意されました。
そしてそのスパイは「金色の衣装に身を包んだエルヴィスプレスリー」という設定です。
エルヴィス・プレスリーとはアメリカの昔の歌手。
そのためパーティープレゼントは金色の衣装を着せられ、リーゼントにし、ラヴミーテンダーを歌わされます。
(ラブミーテンダーは、エルヴィスの曲)
ちなみにこのパーティーは、エリオット、ダレン、スピンクス、ローラの4人で準備をしています。
エリオットとダレンの役割はパーティーの場所を準備すること、パーティープレゼントを探してパーティーの日までお世話をすることです。お世話は基本的にダレンがやっています。(ラヴミーテンダー教えてたのもダレン。パーティープレゼントがパニックになった時に落ち着かせるのもダレンの仕事)
スピンクスの役割はパーティーゲストをつかまえることです。いつもはパーティーをやる代わりにゲストからお金を貰っていますが、今回のパーティーゲストに関してはいつもとちょっと違うそうです。(後半に触れます)そしてパーティー中のカメラも担当しています。
ローラのお仕事はパーティープレゼントの衣装を作ることとメイクをすること。人が痛めつけられるところを見れないので、パーティーの準備だけしてすぐに帰ります。
パーティーは何度もやっているようですが、今回、途中でパーティープレゼントが死んでしまいます。
もちろん、死んだ人間なんていらないパーティーゲスト。そこでエリオットやスピンクスがどうするのか、ここで鍵となるのが"なぜパーティーが5日も早まったのか"と"ひょんなことから手伝うことになったナズ"です。
結末を言ってしまうとここからの文章が面白くないので、最後に書きますね。
バタフライとは?
バタフライとは、簡単に言ったら麻薬です。いわゆる"クスリ"
もちろんバタフライなんてものがこの世にあるわけなく、舞台の中だけでの空想のものです。
バタフライには色んな種類があり、「ツートーンの青」は不安を快楽に変えてくれる、いちばんこの世界の"クスリ"に近いもの。「赤と銀のストライプ」は、暗殺幻想。自分が殺されたり、誰かが殺されたりします。
暗殺幻想に関しては、ダレンが勝手に食べてエリオットに怒られていますね。そしてナズに自慢げに自分が体験したことを話しています。
それが「ダラスの脳みそぶっ飛びケネディ」
ダレンとナズが小さな椅子に乗って2人でカポーん!とかいうあのシーンです。
ケネディ大統領が1963年にオープンカーに乗っているところを射撃された、暗殺事件のことを言っています。
ダレンはケネディ夫人の立場になって、ケネディが殺される瞬間を幻想としてみる、(そしてそれが快感らしい)のが、この赤と銀のストライプのバタフライです。
ちなみに暗殺幻想の話をしている時にマリリン・モンロー、ヒトラー、原子爆弾、など色々な話が出てきますが、多分色んな歴史の話がごちゃ混ぜになっているんだと思います。
マリリン・モンローはケネディの元愛人。
舞台の中では「ヒトラーがマリリン・モンローを抱こうとしたから、ケネディが怒ってドイツと戦争を始めた、原子爆弾を落としてドイツ人をみんな中国人に変えた」と話しております。
バタフライはミックスもできるらしく、そんな話もダレンとナズがしていますね。
この舞台でキーとなってくるのが「白のバタフライ」と「黒のバタフライ」です。
白のバタフライは、一番最初のバタフライと言われています。
そして黒のバタフライは、、、わたしはこの舞台を見て勝手に「最後のバタフライ」と解釈しました。
そもそもダレンが言うには、バタフライは昔からあったものではなく、突然現れたものと言います。
では何故バタフライが現れたのか、バタフライがこの世に存在する理由はなんなのか、そしてなぜ、エリオットはバタフライを食べないのか、、
まずは白のバタフライ、バタフライの始まりについて考察します。
ダレンは一番最初のバタフライについて
「白のバタフライが一番最初。見たことある気もするけど覚えてない。砂嵐と関係がある」と話しています。
そしてローラは
「ある日突然、空から砂が降って来た。そしてよく見ると、バタフライの幼虫が混ざっていた。どこかで砂嵐があったんだと思う。自然の怪奇現象だと人は言う。」
と話します。これがおそらく、一般的なバタフライの解釈です。
そしてエリオット。
エリオットは父親にバタフライを食べるな、と言われて育ちます。そのため1度しかバタフライを食べたことがありません。
エリオットは
「ある夜、外からすごい音がした。窓を開けてみると、すごい数の飛行機がやってきた。そしてその飛行機から砂が落ちてきた。そしてその砂にバタフライが混ざっていた。"砂嵐なんでどこにもなかった"」と言います。
このエリオットの話から、バタフライは"人工的に"作られたものだと解釈できます。
どこかの国がバタフライを人工的に作り、そしてエリオットたちの国にばらまいた。
その目的は?
おそらくじわじわと人類破滅へと向かわせるためだと思います。
白のバタフライを含めた最初らへんのバタフライは全部「無敵〜!」と思わせてくれるほど快楽なバタフライでした。そこからバタフライが変化し、暗殺幻想なんて訳の分からないものも出てきて、1番新しいものが「黒のバタフライ」。黒のバタフライは「自殺」です。(自殺だけじゃなくて言い方があったと思うのですが忘れちゃいました)
黒のバタフライを食べると、何もしなくても首の血管が切れ、内蔵が破裂し、頭がぶっ飛ぶそうです。
そしてこの黒のバタフライが既に市場に出回り始めており、クラブで20人集団自殺したなんて話も出てきます。この黒のバタフライを食べると、みんな死ぬのです。みんな死んで、国が滅びていくのです。
おそらくバタフライをばらまいた人達(敵国なのか分かりませんが、、)は、最初は快楽を感じられるバタフライで国民をバタフライ中毒にさせ、段々バタフライが進化させ、最終的には黒のバタフライでたくさんの人を殺すことが目的だったのではないでしょうか、、
(エリオットも「黒のバタフライは綺麗な左右対称だった。まるで誰かが作ったみたいに」と言っていることから、誰かがわざと作ったのではないかと思っているのでは)
そしてそれを理解しているのがエリオットだけ。
エリオットはバタフライの売人なので、その矛盾も苦しいところだと思います。
アヘン戦争とか、ベトナム戦争の枯葉剤散布を想起させるような内容ですね。
もしこの世の中にバタフライがあったら、核兵器なんかよりもずっとたちが悪くて恐ろしい兵器じゃないでしょうか。
ちなみにこれを思うと、冒頭で「1番新しいバタフライを食べた」と離すダレンに対して怒りをむき出しにするエリオットの行動も理解できます。黒のバタフライを食べたのでは?と焦ったんでしょう。
全く関係のない話ですが、私はツートーンの青を貰ったあとの、にっこにこでラリってるダレンがめちゃくちゃ好きです。可愛い、、、
みんなで夕日を、見に行こ〜う!!
エリオットとダレンの過去と姫
冒頭、突然ダレンが木の拳銃の話を始めます。
お父さんに木の拳銃を作ってもらった話。
あの話はエリオットとダレンにとって幸せな記憶です。
"昔お父さんが木の拳銃を作ってくれた。名前を掘って、黒く塗って。
そこで俺らはジェシージェームズとして遊んだ。
(ジェシージェームズは有名な強盗団の兄弟)
でも兄貴は、アウトロー(犯罪者)じゃなくて保安官がいいって言った。(エリオットらしいですね)
でも父は「いいよ、なんにでもなれる」と言った。"
庭で2人で撃ち合いごっこをして楽しんだエリオットとダレン。
ダレンはそこから、サウンドオブミュージックの話もします。(ちなみにドレミの歌はサウンドオブミュージックに登場します)
"山の奥でみんなが、ド、レ、ミって歌ってる。父さんがピザを頼んで、4つに分けて、喧嘩しないようにソーセージの数を数えてた。母さんが、ソファで手をふいちゃダメよとふきんをくれた。父さんかこっちで、母さんがこっち。兄貴はどこだっけ、、[アームチェア] そう!アームチェア!部屋を暗くして、テレビのあかりだけ。ピザの匂いと、ド、レ、ミ、、"
そこでダレンは突然、過去に戻ったかのように撃ち合いごっこを始めます。嫌な顔しつつも付き合ってくれるエリオット。
2人はニコニコ撃ち合い、最終的にはダレンが負けます。
そこでダレンが「ねぇ、俺の事どんくらい好き?」と聞きます。
そこで始まるのが「ものすごく愛してる」のセリフ。
このものすごく愛してるは、エリオットとダレンにとってはこの世界を生き抜く合言葉のようなものです。
2人には楽しい家族の記憶があった。
では、どこから歪んでしまったのか。
エリオットはなぜ片足を引き摺っているのか。
ダレンの頭の怪我は誰にやられたのか。
そして姫はなぜああいう状態になってしまったのか。(冒頭にも書きましたが、姫はエリオットダレンの母親です)
その全てが「金槌事件」です。
優しかった父親が突然、子供たちを殺そうと金槌で殴ったあの事件です。
なぜ父が突然そんな行動に出たのかは、詳しくは分かりません。
エリオットの足を金槌でうち、ダレンの頭を金槌で打ち、姫のことも金槌で打ち、最終的に父は自分に火をつけて自殺してしまいます。
しかしダレンはこの行動を「愛されているから俺を金槌で打った」と解釈しています。
姫、エリオットがどう思っているかはわかりませんが、きっとこの3人は「ものすごく愛してる」の言葉を唱え、自分たちは愛されているから殴られたんだ、と何とか愛ある行動だと信じて乗り越えてきたんだと思います。
そう思って、ものすごく愛してるの言葉を聞くと、めちゃくちゃ重たいです。
"ものすごく愛してる。だからお前を追いかける。
ものすごく愛してる。だからお前を掴むんだ。
ものすごく愛してる。だからもっと強く掴むんだ。
ものすごく愛してる。だからお前は悲鳴をあげる。
ものすごく愛してる。だからもっと蹴ってもっと殴る。
ものすごく愛してる。だからもっとなぐってもっと蹴る。
ものすごく愛してる。だからお前は血を流す。
ものすごく愛してる。だからお前をこの手で殺す。
ものすごく愛してる。だから炎になって燃え上がる。"
ちなみに「だからお前をこの手で殺す」は、英語だと「I could kill you」だそうです。could、という単語の重みが凄いですね、、
ちなみに、ダレンがパーティープレゼントをなだめる時にきらきら星を歌いますが、姫もパニックになりながら子供をなだめようときらきら星を歌います。
ダレンがパーティープレゼントを宥めるとき、抱きしめてきらきら星を歌うという行動は、昔母親にそうしてもらった記憶があるのでは?と思っています。
そして細かい話ですが、エリオットが車で流しているエーデルワイスも、サウンドオブミュージックの音楽です。エリオットもサウンドオブミュージックには温かい家族の記憶があるのかもしれません。
エリオットとローラの出会い
金槌事件には続きがあります。
それが、エリオットとローラの出会いです。
エリオットは金槌で足を打たれたため、入院をしていました。(ダレン、姫も同じ病院です)
ある日その病院で暴動が起きます。どんな暴動なのかは分かりませんが、とにかくその暴動から逃げなきゃ、逃げなきゃ、と病院を抜け出します。抜け出した先はぐちゃぐちゃの世界。シマウマが燃えています。足が痛くて逃げられなくなった時、倒れた先がある庭でした。その庭が、ローラの家。
(スピンクスはローラに何があっても窓は開けるな、と言って父を探しに出かけているところでした。)
ローラは窓を開けるなと言われていたが、庭に倒れているエリオットを助け出します。
足を洗いベッドに寝かせたローラ。
エリオットが目を覚ますと目の前にはローラがいます。そこで2人は恋に落ちます。(駅でハンカチ落としたみたいな恋の落ち方で羨ましいです。)
その出会いが、ローラとエリオットの始まりです。
ちなみにそのつながりによって、スピンクスが(この人は荒々しいけど情に厚いんです)病院から姫とダレンを助け出します。
この時のエリオットは扉が閉まる音だけでビクッとするくらいの精神不安定でした。
話をもう少し進めると、、
スピンクスはエリオットが逆らおうとする度にこの話を出してきます。
舞台終盤、スピンクスに逆らおうとしたエリオットに対しこの時の話を引っ張り出してきますが、そのシーンがまた残酷。
エリオットはその暴動の中、ダレンと姫を病院に置き去りにして自分だけ逃げ出した、というのが事実。でもそれを知らないダレン。
スピンクス「お前の大好きなエリオット兄さんは、自分が安全な場所に逃げる時、お前を連れていったか?」とダレンに問いかけます。
ダレン「俺は、違う病棟にいたんだよ!」
スピンクス「いや、同じ病棟にいた!お前はこいつ(エリオット)の隣、そしてその隣には姫もいた!お前らの母親!でもこいつはお前らを忘れて逃げだした。そんでこの半ボケと姫を、誰が助け出したと思う?」
エリオット「お前だよ、、」
スピンクス「こいつに言え」
ダレンを指す。
エリオット、ダレンに向かって
ダレン「俺はよ、、忘れちまったんだよ、ダレン、、」
ダレンは何も言えずに立ち尽くす。
スピンクス「そんでこの半ボケと姫を誰が助け出したと思う?この俺だよ!床は血でツルツル滑るし、まるで屠殺場だった!そんな中、俺はこいつらを助けるために2度も戻ったんだよ!2度もだ!!」
エリオットに見捨てられたという事実を突きつけられたダレンの悔しさと、その懺悔をダレンの目の前でさせられるエリオット。このシーンはめちゃくちゃしんどいです。
この金槌事件の後の暴動こそ、エリオットとローラ、そしてスピンクスとの出会いです。
ダレンとナズ
この物語でキーとなるのがナズです。
ナズは団地の住人で、バタフライをエリオットから買った過去があります。
エリオットやスピンクスのことを尊敬していて、その気持ちからパーティーの手伝いを始めます。
ナズには、母親と家族を痛ましい形で殺されたという過去があります。(この話めちゃくちゃしんどい)
ナズは、最初は人懐っこくてちょっとウザイキャラなのですか、このナズがめちゃくちゃ可愛くなってくるんですよね。
ダレンとナズのバッコンバッコンはマジで可愛いです。
ダレンとナズの波長が合い、2人は仲良くなります。
そしてその2人を見たローラやエリオットも、ダレンに新しい友達が出来て良かった、とでも言うような眼差しで2人を見守ります。
突然現れた変な人、ナズでしたが、どんどんダレンやエリオット、ローラの気持ちを掴み、愛しくて仕方ない存在になっていきます。
そしてナズが愛しくなればなるほど、この舞台の結末が悲惨なものになっていきます。
ダレンの優しさ
ダレンはとにかく、可愛いです。そして優しい。
ダレンの優しさが1番わかるシーンが、ミノタウロスの話です。
ミノタウロスとはギリシャ神話に出てくる動物のような妖怪のようなもので、頭が牛で体が人間です。
ミノタウロスはラビリンスという迷路に閉じ込められるのですが、そこでテセウスがミノタウロスを倒しに行きます。
テセウスはミノタウロスを倒した後、どうやってラビリンスから出たか、(紐を使った)という話をエリオットとスピンクスがしている中、ダレンは1人だけ着眼点が違います。
ダレン「そのミノタウロスってさ、人間の体をした牛?それとも牛の頭をした人間?」
スピンクス「何が違うってんだよ。」
ダレン「ミノタウロスにとっては全然違うよ!」
スピンクス「こいつ自分で自分が言ってることわかってねえぜ」
エリオット「ダレン、言ってみろ」
ダレン「もしミノタウロスが人間の体をした牛だったら、そのテセウスはミノタウロスを殺してもいいと思うの。でも、牛の頭をした人間だったら、テセウスとミノタウロスは話せたかもしれない。そしたら倒さなくても良かったんじゃないかな。ミノタウロスだって、ラビリンスから出たかったと思うんだよね」
ミノタウロスが人間の心を持っていたのなら、倒すという方法ではなく、話し合うという方法で解決できたのではないか、倒さなくても良かったんじゃないか、という、ダレンの優しい心が現れるシーンです。
基本的にダレンはポンコツだし、エリオットが何言ってるか分からないし、パーティーゲストの気持ち悪い夢の話まで真剣に聞いて信じ込んじゃうタイプです。
(ゲストがストーリーのおさらいすると言い出した時、エリオットは聞きたくなかったがダレンが興味を示してしまったことにより、ゲストのその気持ち悪い夢を再度聞く羽目になり、エリオットがダレンにムカついてるシーンがあります)
でもダレンのその優しさをエリオットはかっているし、何よりもこんな可愛い弟、切り離せないですよね。
エリオットの苦悩
エリオットは本当は考古学者になりたかったのです。
だから色んな話を知っているし頭もいい。
大英博物館からナズが盗んできたアステカの皿を部屋に飾っていると言うので、きっとエリオットの部屋は昔の皿やらなんやらが沢山あるのでしょう。
エリオットはどんな気持ちでバタフライを売り、どんな気持ちでパーティーをやっているのでしょうか。
エリオットはダレンから見たら頭が光るくらい勉強をしていたし、明るい未来を夢みていたと思います。
でも叶わなかった。
この地獄の世界を生き抜くためにバタフライの売人になり、パーティーを続けています。
エリオットの今の1番の苦悩は、黒のバタフライです。
そしてこの世界がもっと悪くなったときに、ローラやダレンを果たして守れるのか、という不安もあります。
黒のバタフライの話をしている時のエリオットの言葉が印象的です。
「世界がもっと酷くなったら、きっと君(ローラ)やダレンを傷つける。俺はもうダレンに話してるんだよ。そうなったら俺がこの手でお前らを殺すって。寝ている間に撃つとかさぁ。そう考えると、ほっとするんだよ。この手にはまだ力が残っているって。自分たちで決めるんだ。辞めることを。自分たちで選ぶんだ。消えることを。」
パーティーの結末
話の時間軸を今に戻します。
パーティープレゼントが用意でき、パーティーゲストもやる気満々、という時に、パーティープレゼントが倒れ、そのまま死んでしまいます。
もちろんパーティーゲストは生きたガキが欲しいので、死んだプレゼントなんていりません。
さてどうしようか、と言う時に、ナズが突然部屋に戻ってきます。(ナズは姫を保護しつつ部屋を離れていた)
そこでスピンクスが「こいつはどうか」とパーティーゲストに問います。
ナズをパーティープレゼントの代わりにする、ということです。
ナズはなんのことか分かりません。
ダレンもいまいち、、
エリオットだけがすぐに察し、止めに入ります。が、スピンクスは本気です。
ナズもダレンもようやく気づきますが、スピンクスは止められず、ナズを殴ります。
うずくまるナズ。止めるダレンとエリオット。
タバコをふかすパーティーゲスト。
ナズはここまで手伝ってきてくれた仲間だし、ダレンの親友です。
エリオットは「こんなやつ(ゲスト)いくらでもいるよ。またダレンと俺で必死に働いて、何とかするから。またパーティーすればいいから」とスピンクスをなだめます。
しかしスピンクスは止まらず。
そこで、何故パーティーが5日も早まったのか、なぜナズを犠牲にしてまでこのパーティーをやらなければいけないのか、真相が分かります。
今回のパーティーは、金銭ではなく"ある情報"を貰うことが交換条件でした。
その情報とは、この街の爆撃の話です。
敵国(多分)からの集中爆撃が始まる、と。
爆撃の後は兵士がやってくる、と。(兵士がやってきてどんなことをするかは、舞台の中で話してます。)
その爆撃から逃げる情報を、今回のパーティーゲストが握っており、パーティーの後にその情報を貰うことになっている。
だからこのパーティーは延期にもできないし、決行するしかない。
自分や、姫、ローラを守るために、どうしても、ナズを殺してまでも、このパーティーを決行しなくてはならない、と、
結局スピンクスには逆らえず、爆撃の話を聞いたエリオットは、ナズを代わりにすることに同意します。
結局パーティーはナズを代役に決行されますが、ナズが死ぬ前にダレンがゲストを撃って、パーティーは終わります。
そしてナズを手当し、みんなで部屋から出ていく、という結末です。
新しい星の話
混乱の中パーティーゲストの死亡をもって終わったパーティー。
エリオットとダレンは部屋の後始末のため、部屋に残ります。
死体を片付け部屋を燃やすのですが、エリオットは完全に魂が抜け、何もできません。
ダレンの問いかけにようやく答えられる程度です。
そこでダレンが話します。
「宇宙探検だ。兄貴が車の中で話してたこと!これをやる間、俺らは宇宙の探検家になるって。俺たちは今、探検している。この新しい星が、人間が生きていける場所か見るために。でも、ダメ。別の星を探さなきゃ。もっと優しくて暖かい星を探すんだ。な、エル、聞いてる?
星ならまだいっぱいあるよ、エル。星は何億、何兆、何千兆とある。そのうちの1個くらい、安心して住めるさ。絶対。1つくらい、絶対。」
このダレンの言葉はエリオットにどのくらい届いたのか分かりません。
そうこうしている間に外では爆撃が始まります。
ダレンがあたふたしていると、エリオットは無心に拳銃を取り出します。
ダレンはそれに気が付き慌てて止めます。
ダレン「何やってんだ、そうじゃないだろう」
それでも届かないダレンの声。
ダレン「なあ、大丈夫だよ、何とかなるさ。いつもそうしてきた、兄貴と俺で。俺に任せてよ、信じてよ。俺たちならできる。拳銃を離せ。そうじゃないだろう。。。
ものすごく愛してる。だからお前を掴むんだ。
なぁ、言えよ。言えって、エル!!
ものすごく愛してる!
どうした!エル!!
ものすごく、愛してる、、
なぁ、言えよ!言えって!」
ものすごく愛してるの言葉も届かず、結局最後はエリオットがダレンに拳銃を向けて終わります。
どうなったのかは、客席に委ねられた感じです。
この舞台を見て、これは愛の話だ、と言われても、1度では理解できないのでは無いでしょうか。
でも考えれば考えるほど、あぁ、確かに愛の話だ、という考えに行き着きます。
歪んだ、愛の話です。
もしこのマーキュリーファーの世界がもっと優しくてあたたかかったら、ダレンは、エリオットは、ローラは、スピンクスは、ナズは、一体どんな人生を歩んでいたんだろうか、と考えてしまいます。
見にこなければよかった、でも見に来てよかった。
宮崎さんが言うように、そんな舞台だと思います。
追記
大千秋楽を迎えた上で、少し追記します。
ダレンは何故発砲したか
この舞台が始まった時、ダレンはエリオットに指示をされないと動けないし、エリオットが居なくなるとすぐに不安になるくらい小心者で臆病でした。
だからこそ、物語の終盤で「ダレンがパーティーゲストを撃つ」という事実は、観客みんなに衝撃を与えたんだと思います。
そもそもダレンとナズの約束は
「この拳銃は2人のもの。何かあった時、近くにいた人がバーン(発砲)ってする」でした。
ナズが殺されそうになった時、1度は体でスピンクスを止めに行くダレンですが、それでは埒が明かないと思ったのでしょう。
引き出しにしまってあった拳銃でパーティーゲストを撃ちます。
ダレンにとって「何かあった時」だったのでしょう。
もちろんナズが酷い目にあっている、という事実もそうですが、ダレンが発砲する瞬間は、エリオットがパーティーゲストに殺られそうになっている時なのです。いつも守って貰っているけれど、初めてダレンがエリオットを守った瞬間だなぁと胸が熱くなりました。(そんな胸を熱くするほど余裕があるシーンでは無いですが、、)
この舞台の2時間の中で、ダレンは兄を守ろうと発砲という選択ができるほど強くなるんですね。
1番最後の「生き延びるんだよ」という言葉にも、成長を感じます。
ちなみに私は北村匠海さんのファンなのですが、彼の「肩呼吸で見せる情緒不安定」な演技がめちゃくちゃ大好きなのです。
ツートーンの青を貰う直前のソワソワした演技も素晴らしいなと思っていますし、何よりナズをパーティープレゼントの身代わりに、という時に、何も反論できずにいますが、ひたすら肩で呼吸しているのです。
どうしようも出来ない憤りや、ナズを犠牲にする恐怖心。十分にパーティーの準備が出来なかっただけでパニックになるダレンのことなので、あんな境遇パニックにならないわけがありません。
それでもただ流れに身を任せることしか出来ず、セリフもない場面ですが、彼の心情を肩の動きとピクリとも動かない表情でよく表現しているなぁと感心してみていました。
また肩呼吸で見せる不安定さは、エリオットがダレンや姫を置いて逃げたという事実をスピンクスから聞かされている時にも見られます。
そんなことは無い、と反論するダレンですが、エリオットの口から事実を聞いてしまった以上、その事実を飲み込めたのか飲み込めなかったのか分かりませんが、ピクリとも動かずずっと棒立ちになっています。普段ならソワソワ服のあっちこっちを触ったり握ったりしているダレン。ただしそのシーンだけは、ひたすらつなぎの裾を握りしめて動かず、ただただ呼吸が荒くなり、動揺しているのが肩の動きで見て取れました。
天才ですね。
エリオットとダレンは最後どうなったのか
永遠の課題ですよね、、
ちなみに私は、一番最初に見た時は「エリオットはダレンを撃った」と思っていました。
でもあの終わり方だと、どっちにも見て取れるかと思います。
エリオットはダレンを撃ったのか、撃っていないのか、結果は観客に"委ねられた"のだと思ったいます。2時間少し舞台を見た上で、あのシーンをどう受け取るかは、あなた次第ですよ、と。
2時間と少し見ているとあの二人に愛着も湧きますし、どうか、どんなに地獄のような世界でも、ダレンの「何とかなるよ」「生き延びるんだよ」の言葉を信じて、どうか2人には生き抜いて欲しいという願いが生まれます。生きていて欲しいです。
ただ舞台の中で「ものすごく愛してる。だからお前をこの手で殺す」というセリフを愛の言葉だと信じていたり、黒のバタフライの話をしている時に「まだこの手に力があると思うとほっとするんだ」「自分たちで選ぶんだよ、辞めることを。選ぶんだよ、消えることを」とエリオットが言っていたり、"いっその事死んだ方が幸せだ"という考えも否定できなくないのです。爆撃によって無惨な姿で死んだり、兵士によって残酷な扱いをされるくらいなら、エリオットの腕の中で安らかに、眠るように死んだ方が幸せなのかも、、とも思ってしまいます。
このエンド、もしかしたら演者たちにも"撃ったか撃っていないか"の答えは委ねられているのでは?と勝手に思っています。
一番最初に観劇したときは、エリオットはダレンを撃ったと思っていましたが、観劇を重ねる毎にエリオットの様子がどんどん切なくなり、もしかして撃てなかったか、、と思うようになりました。
エリオットが途中から声を激しくあげて泣くようになったり、首を振るような仕草を見せる時があったり、最後ダレンに対する抱擁がどんどん強くなっていったり、、吉沢亮さんの願いがどんどん現れているようにも見えました。"生きていて欲しい"と。(あくまで憶測ですし、本人様がどう思っているかは分かりませんが、、)
そして、北村匠海さん演じるダレンは、初日から大千秋楽まで、「エリオットに最後までしがみつく」という行動でした。1番最後までエリオットにしがみついている、という行動こそが、北村さんの願いなのかなぁとも思っています。"どうか生きていて欲しい"と。ダレンは撃たれずに、最後までお兄ちゃんにしがみついている、それが北村さんの、マーキュリーファーに対する願いであり解釈な気がしています。(これに関してもご本人の話を聞いた訳ではなのであくまでも憶測ですー
(北村さんの代打として池岡さんがダレンを演じていた日がありました。友人から聞いた話なのであまり大きな声では言えませんが、、
池岡さんはラストシーン、ドーン、という音とともにしがみついている腕をダランとさせたそうです。池岡さんにとってのマーキュリーファーのエンドは、そういう解釈(エリオットはダレンを撃った)なのかな、と、、これもあくまで憶測ですが)
エンドがどちらにしても、あの2時間少しの中で起きていた事実は変わりません。ノンフィクションに近いフィクション。今ああいう境地に立たされている人達が少なからずいる、と考えると、どうか平和を、どうか幸せを、どうか少しでも命が失われないように、、という願いは変わりません。
どこかでエリオットやダレン、ナズ、ローラ、スピンクス、姫が生き抜いて幸せに暮らしていることを願ってやみません。
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