"Carrying Capacity"を指標に変わるグロース戦略の再考
カウシェ Advent Calendar 2024の22日目を担当します!
はじめに
サービスの成長やユーザー拡大を目指す際、単純に「たくさんのユーザーを集客すれば成功する」というわけではありません。ユーザー基盤を拡大するためのマーケティング施策やキャンペーン、広告投入ももちろん重要ですが、その結果増えたユーザーを持続的に満足させるには、サービス自体の「最大許容範囲」を見極める必要があります。ここで注目すべきが「Carrying Capacity」の概念です。
Carrying Capacityとは
Carrying Capacityは元々、生態学の分野で食料、生息地、水、その他の利用可能な資源が与えられた場合に、その特定の環境で維持できる生物種の最大個体数を示す用語として使われています。
プロダクトグロースの文脈で語られるCarrying Capacityは、サービスが一定の条件下で維持できるユーザー数(DAU)の上限値を示す指標です。たとえ一時的なキャンペーンや広告で利用者を増やしても、サービス自体が抱える構造的な要因によって、最終的にはある水準に落ち着く傾向があります。その上限を把握することで、サービスが内包する持続的な成長力を客観的に示すことができます。
計算方法
Carrying Capacityは、以下の式で求められます。
Carrying Capacity = (1日あたりの新規流入ユーザー数) ÷ (1日あたりの離脱率)
新規流入ユーザー数(inflow):1日あたりに新たに入ってくるユーザー数。
離脱率(churn rate):1日に、全DAUのうちどれくらいの割合のユーザーが利用をやめるかを示す値。
この2つが相対的に安定すると、サービスは特定のユーザー数付近で定常状態に達し、それ以上成長しにくくなります。
具体的なサンプル
例えば、毎日の離脱率が1%で流入数が5,000の場合のCarrying Capacityは500,000DAUとなります。流入数と離脱数が均衡するのが、このラインだからです。
非常にシンプルかつ当たり前の試算ですが、これを可視化して徹底できているサービスはあまりないと思い、この重要性とカウシェでどのような点で有用だったのかを記述していきます。
なぜCarrying Capacityが重要なのか
一時的な施策でユーザー数を増やしても、離脱率が高いままなら、結局は長期的な維持が困難になります。Carrying Capacityを理解すると、「このサービスが現状の実力でどれくらいのユーザー規模を本質的に支えられるのか」が明らかになります。これにより、以下のような意思決定がしやすくなります。
今のユーザー数拡大が「本質的な成長」なのか、「一時的な底上げ」なのかを見極める
離脱率を改善しないまま広告だけでユーザーを増やしても長期安定にはつながらない、といった戦略的示唆が得られる
Carrying Capacity向上のためのアプローチ
Carrying Capacityを改善したい場合、大きく2つの方向性が考えられます。
離脱率の低減
ユーザーが長く使い続けたいと思うサービスを目指します。使い続けてくれているユーザーの解像度を上げ、新規ユーザーの体験改善に繋げる
新規ユーザーが使いこなせるまでの導線を明確化
操作性やUI/UXの改善等による利用ハードル低減etc…
新規流入ユーザー数(inflow)の増加
1日あたりの新規ユーザー獲得力を底上げします。人に紹介したくなるような体験の強化によるバイラル増加
ブランド価値向上により、ユーザーがサービス名を直接探す状況を創出
流入経路ごとの獲得効率改善etc…
この2要素はいずれも重要で、どちらか一方を伸ばすだけでは、やがて限界が訪れます。バランス良く改善することが、Carrying Capacityを実質的に引き上げるポイントです。
ただし、順序はあり、言わずもがな離脱率の改善が先です。
計測と改善のサイクル
Carrying Capacityは、一度計測して終わりではありません。サービス改善施策を実施した後に、
新規獲得施策が有効だったか
ユーザーエンゲージメント改善で離脱率が下がったか
といった変化を追跡することで、Carrying Capacityが実際に上昇しているか確認できます。
継続的なモニタリングとフィードバックサイクルが、サービスを強化していく基礎になります。
成功への道筋
Carrying Capacityを理解せず、一時的な集客施策に依存し続ければ、自然なユーザー基盤を築けず、長期的な収益安定も難しくなります。反対に、離脱率を下げ、様々な流入経路を強化していくことで、サービスは広告に頼らずともユーザーが定着・増加する強固な基盤を形成できます。
カウシェで運用してみての学び
Carrying Capacityは非常にシンプルな概念ですが、意識してサービス運用してみると気づきは大きく、具体的には以下のような内容に貢献してくれました。
サービスの成長限界予測が容易にできるようになった
現状の離脱率と流入数を維持した場合のDAU限界が読めるようになった
これを踏まえて、施策の優先順位を再検討できた
離脱率の0.1pt改善が与えるインパクトの可視化
チームのモチベート観点でも中長期的なインパクトが可視化できるようになったことは大きかった
無駄な広告投資の削減
サービスが本質的に抱えきれないボリュームを無駄に増やしにいく活動をしない意思決定ができた
一方で、離脱率が改善できた後は流入数の増加が与えるインパクトと重要性を理解しやすくなった
今後の展望
Carrying Capacityの視点は、サービス運営を「持続的なユーザー価値創出」という観点から再考させてくれます。
ユーザーが毎日自然とやって来る
今日のユーザーが明日もリピートしてくれる
このような状態を目指すには、現状のCarrying Capacityを把握し、計画的な改善を積み重ねることが不可欠です。長期的な視野を持ち、ユーザー維持と新規獲得の両面からサービスを磨き上げていくことで、より持続的で安定的な成長が見込めると考え、カウシェの改善に取り組んでいきます。
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