20241124 同人小説感想文

 花初そたいさんの『About A Idol Unit』を読みました。あんまりにも感動したので、どう感動したのかちょっと詳しく書いてみたいと思います。書いてるうちに書評みたいになってしまいました。読み違いがあったらすみません。

 最初の三篇はいわゆるモブ視点で、最後の表題作が冬優子視点となる短編集。
 順番が前後するが、最後に収録される表題作「About A Idol Unit」のあらすじをまずまとめると、冬優子は「アイドル」を取り巻く様々な視座に触れるなかで、アイドルに対する憧れ=“火薬の匂い”を思い出すためにストレイライトでライブをやることを提案する。突発的な案だったそれは、先に描かれていた三人それぞれの出会いも奏功し、実現に至る。そのライブの最中、冬優子は“火薬の匂い”をはっきりと感じ取った。歓喜と興奮で今にも爆発しそうな空気を共有し、観客と一体になったストレイライトのステージで、冬優子はアイドルとはなんたるかを確信する──。
 その前に描かれた三篇の登場人物は、元アイドルで、今は音楽メディアに務めている女性・プロのメイクアップアーティスト・現役のアイドル。それぞれが持つ「アイドル」というモノへのイメージはやがて、あさひ・冬優子・愛依と出会い接する中で得た実感に取って代わる。
「アイドルとは?」という問いに対する、「こういうものかな」「こうあってほしい」「こんなもんだ」といった三人の朧げなイメージは、ストレイライトの三人を通して新たな、もしくはより強固な輪郭で像を結んでいく。
 そんな、キャラとの交流によって登場人物の内面が変化していくそれぞれの物語のカタルシスもさることながら、この三つの短編の後、表題作では冬優子の視点から《虚像を実像に変えていくのが、ストレイライトだ。》という確信が語られる。
 この語りによって、イメージ(=観念)から実感へとスライドした事象(イメージが実像を結んでいくまでの物語)を、言葉によって再び観念(ストレイライトが実像を結ぶのだという意識)へと昇華させている。これができるのがまさに小説の強みだと思うのだけど、あまりにも見事に行われているので、脱帽するほかありませんでした。こんなのかなわないよ! 各篇がただ面白いだけでなく、それを最後に別のレイヤーでまとめ上げている。短編集として完璧じゃないですか……?

 すごいのはそこに留まらない。このストレイライトという実像は、ストレイライトの存在だけで象ることはできない。憧れ、期待、興奮──同じ火薬の匂いを嗅いだ観客と一体になることで初めて立ち現れる。だからこそ最後に《実像の大歓声》が会場を揺るがす。観客が、ではないのだ。
 この作品には、モブとネームド、アイドルと観客といった、様々なレイヤーにおける視線の循環がある。この循環が「アイドルとは?」という問いに対する「ストレイライト」という回答を導き出す──同様に観念と実感の循環によって。
『About A Idol Unit』。その通り。これはストレイライトについての短編集だ。

 ……と、こんな感じで読んで自分は「めっちゃおもしろ……!!!!」と思いました。すげ~。

 そしてこれはただただ好きな点なのですが、ライブ中、演者と観客の境界が曖昧になっていくことに冬優子が気づいていく一連の描写に、コールや振り付けなどではない無意識的な連帯を感じてライブハウスが好きな人間として嬉しくなりました。

 あと桃もみじさんが描かれた表紙、the pillowsの36thシングル『About A Rock'n'Roll Band』のオマージュとのことなんですが、背景となる渋谷の街には『LITTLE BUSTERS』『PIED PIPER』『OOPARTS』と思われるジャケットも仕込まれています。これもめっちゃ素敵だと思います。そもそも表紙で有名なアルバムではなくシングルのジャケットをオマージュしようと言うのが(表題作がそれ、というのもあるけど)ニクいですよね。めっちゃ良いな〜。

boothで通販もしているようです↓


いいなと思ったら応援しよう!