【30分で理解できる】ヒット作を生み出し続けるPIXAR流の企業文化の作り方
こんにちは!のだかつきです。普段はAlgomaticという生成AIのスタートアップでCXOをしています。
僕がデザイン畑で仕事をしようと決意した大きな理由の一つに、PIXARのような環境でものづくりがしたい。また、PIXAR作品のようなプロダクト/サービスを世に出したい!と思った。という理由があります。
両親の影響でトイ・ストーリーやバグズ・ライフをはじめ、様々なピクサー映画やディズニーアニメーションの作品を物心がつく以前から楽しんでいました。さかのぼること十年以上前、僕はある作品に出会います。それは、「カーズ」という映画です。
カーズという映画は、ある天才レーシングカーがレースに勝つという名声や実績だけではなく、身近な友情や愛の大切さに気付かされるストーリー。主人公や主人公の師匠のパーソナリティに強く共感し、自分の心をあまりに揺さぶった結果、一種の虚無感のようなものを覚えた作品でした。(これ以上語ると止まらないので一旦これくらいで。気になる方は見てみてくださいw)
PIXAR映画のDVDの特典映像には、PIXARのスタジオや、スタジオで働く人にインタビューするようなコンテンツがあります。それを観てはじめて、トイ・ストーリーやカーズといった魅力的な作品が人の手によって我々に届けられてるということを実感しました。映画作品なので、人の手によって作られているのは当然といえば当然なのですが、自分には神秘的に写っていたあまり、その人為性を完全に見逃していたのです。
これが理由で、自分はPIXARのようなものづくりがしたい。PIXARのようなクリエイティビティのあふれる環境をつくりたい。と思うようになり、、デザイン会社に入社を決断しました。それが2016年の話です。
今回このnoteでは、これまで、憧れ、研究をしてきたPIXARという会社(あえてスタジオではなく会社と呼ぶ)が、いかに連続的にヒット作を出し続けてきたのか、またそれを普段の仕事に僕たちがどう活かせるのか?を紹介していきたいと思います。
構成としては、PIXARがなぜ強いのか、ものづくりの方法/プロセス、マインドセット、人材、採用 等に触れていきたいと思っています。書いてみたけっか、12000字を超える大作になりました笑 ので、PIXARの前提知識によって、読み方を適宜変えて頂けると良いかなと思っています!↓
では早速、「無限の彼方(本題)へ、さあ行くぞ!」
前提:PIXARスタジオの歴史
まずは簡単にPIXARの歩んできた歴史です。1995年に公開された映画『トイ・ストーリー』がおそらく一番有名ですが、実は設立は1986年、トイ・ストーリーが出来るまでに約10年もかかっています。
設立より更にさかのぼり、元々はスター・ウォーズを作っていたルーカスフィルムのコンピューターアニメーション部門として、PIXARが存在しました。シンプルに1部署でしかなかったんです。
それから1986年に、かの有名なスティーブ・ジョブズがPIXARを買収し、コンピューターを売る会社としてPIXARが誕生。元々設立当時はアニメーション映画の会社でもなかったんです。
そして、当時コンピューターを売っていた際の取引先であったディズニー、そしてディズニーでアニメーションの仕事をしていたジョン・ラセター、その出会いがトイ・ストーリーという映画を生み出しました。
これを転機にディズニーと10年に渡る共同制作契約を結び、10年後の2006年、ディズニーによる正式な買収が決定しPIXARはディズニーの傘下に入ったのです。
トイ・ストーリーを皮切りに、アニメーション界の圧倒的なイノベーターとなったPIXARが、なぜここまで継続的にヒット作を生み出せるのか?はたまた日々の仕事に活かせる点はどこにあるのか?を探っていきます!
【組織のValue】ストーリーという共有の価値観が強みの源泉
結論から言ってしまえば、PIXARには「Story is King」という「ストーリー」を重んじる考え方があり、PIXARの作品の魅力、及びPIXARのスタジオとしての強みの確固たる源泉は「ストーリー」にあると言えます。キャラクターが逆境を乗り越え、新しい自分に出会う一連のストーリーに対して人は惹かれているのです。
わかりやすい事例が、PIXARが会社として立ち上がる前に著者の情報学と物理学の専門家であったエド・キャットムルとジョン・ラセターが初めて共に作った作品の「アンドレとウォーリーB. の冒険」があります。この作品は納期の関係で部分的に未完成なものを出してしまったというもので、技術者であったエド・キャットムルは当時完成しなかったことに大きな悔しさを感じたらしいです。だがしかし観客はもはやそれに気づきもしなかった。一方でストーリーが魅力的で物語に没頭した結果映像技術の差には観客は興味がなかったという逸話があるんです。
ここから言えることは、ある程度の基準を上回ってさえいれば、コアとなるストーリーやコンセプトが魅力が、細部の技術の不十分さをカバーするに足る ということで、これは自分のプロダクトつくりでも参考にしている観点だ。PIXARの言葉に直すと、これが「Story is King」の起源とも言えます。
少し自分語りにはなってしまうんですが、自分もかつてはそのアニメーション技術に惚れ、大学生では画像処理技術を学ぼうと情報画像学科という学科に進学しました。しかしよくよく考えてみると当時のPIXAR作品が自分の心を揺さぶっていたもののコアは「ストーリー」だったんですよね。そのため、ストーリーテリングとビジネスを融合させる経験を求めてデザイン会社でUXデザイナーとして就職する決断をしたわけです。さらに、自分には美しい絵を書くスキルやセンスがあるわけでもありませんでした。ただ、PIXARで大事にされているのは映像技術やイラストレーションの美しさはもちろんのことなんですが、チームや組織の作り方 そして、ストーリーという根幹が存在することを知って自分にもクリエイティブ業界で生きていく道があるかもしれないと思うようになったことで今の自分があります。
また、その標語と同時に「Trust the Process」という標語も存在し、PIXARのコアは「Story is King」を加えて、2つの軸から成り立っています。プロセスを信じろ!というのは、正しいやりかたを追求して、それをやりきれば必ず良いものが出来るという点です。PIXARの優れたバランス感覚は、Story is Kingにあるようなアウトプット至上主義を感じさせつつも、Trust the Processのように、しっかりやれば成果が出る。という過程に対しても称賛する文化から生まれているように感じます。
では、そのような美しい文化はなぜ生まれたんでしょうか?といった問にここから答えていきたいと思います。
【リーダーシップ】エド・キャットムルという天才が、創業メンバーを集め、経営者になるまで
この記事の多くは「ピクサー流 創造するちから 」からインスピレーションをもらっています。そして、本書を読むと著者であるエド・キャットムルというスティーブ・ジョブズやジョン・ラセターとともにPIXARを立ち上げた人がPIXARの強みの根源となる文化つくりに大きく貢献をしていることがわかりました。
エド・キャットムルも、当時はディズニーのアニメーションに憧れていたものの、美術のセンスのなさを感じて一度はアニメーション業界を諦め、美術ではなくなんと「物理学」を学んだらしいです。そこでコンピューターサイエンスを学んだきっかけが逆にPIXARへの道と繋がったのだと思います。
この人がいなければPIXAR自体も存在しなかったと思えるくらいの功績を上げたエド・キャットムルですが、彼がこの世にもたらした奇跡は3つあると思っています。
これらが僕の感じるエド・キャットムルを際立たせる3つの要素です。
エド・キャットムルはテクノロジーの専門からスタートした人材で、そこからクリエイティブやビジネス(マネジメント)に染み出して行きました。これが後にアニメーションの技術とストーリーというクリエイティブ、それらを儲けさせるビジネスを作り上げる起点になったのです。
具体的なストーリーとしては、かつてエド・キャットムルは当時のディズニーのメインビジネスであったテーマパーク(いわゆるディズニーランド)の仕事をしないか?と誘われていた時期があります。これはアニメーション映画のマーケット自体が生まれる前の話なので、ディズニー側としては当然の誘いかもしれないのですが、技術者としてのエド・キャットムルのアニメーションに対する強い「こだわり」がその誘いを断らせるに至りました。これは現代のビジネスシーンでも参考になる事例です。端的に言えば「クリエイターの直感を信じたビジネス開発」はイノベーションを生むのではないか?という点にあります。
目先のビジネスチャンスを見据えていたら、エド・キャットムルはテーマパークのビジネスに手を出していたかもしれないが、クリエイターとしてのこだわりがそうはさせなかった。ここから、クリエイターの描く未来像を信じ、やり抜くことが新しいマーケットの創造に寄与するんじゃないか?という示唆に繋がると僕は思います。
そして次に、ジョン・ラセターという鬼才と出会ったことが転機になっていると考えました。具体的には、エド・キャットムルのビジョンに共感し、クリエイターとしての圧倒的な技術を持ったデザイナー(アニメーター)であるジョン・ラセターとエンジニアであるエド・キャットムルの共創を生んだ点がイノベーションにつながりました。身近な例で言えば、デザイナーが創業者メンバーにいるPinterestやInstagram、Airbnbにもその要素が垣間見えます。PIXARの特筆すべき点は、そこにビジネスをドライブするためのスティーブ・ジョブズがいたという点(言ってしまえばチートチームですねw)。以下のツイートにもあるように、今振り返るとBTC(Business Technology Creative)の各接続線にプロフェッショナルが位置している創業チームがいたことが立ち上げにつながったのだと思います。ビジネス担当、クリエイティブ担当、テクノロジー担当という点での専門性ではなく、各創業者が2つの専門性をかけ合わせて線を作り、三角形を形成していた点が特に重要だと捉えています。(下図参照)
※図は Takram 田川さんの図から引用/編集
ここまではなぜPIXARが立ち上がったのか?という話をしてきましたが、現在1000人超を抱える組織にまで拡大していることを考えると、エド・キャットムルやジョン・ラセターを始めとした創業チームが、創業者から経営者になるための進化をしたというのが大きな強みになっていると考えます。
個人商店的なアニメーション製作事務所ではなく、組織として大きくするためのマネジメントや再現性の担保、採用、文化作りなど、元々は経営初心者のメンバー達がプロ経営者となるべく邁進したことでPIXARは巨大スタジオに進化したのです。このマネジメントスタイルに関しても後半でも述べていきたいと思っています。
【組織体制】ストーリーを守り続ける会議体、「ブレイントラスト」
PIXARには、ストーリーのクオリティを守り続けるための「ブレイントラスト」という会議体が存在します。端的に言えば、ブレイントラストは単にスキルや経験的にシニアな経営陣が製作者のストーリーに対してFeedbackをする機会です。しかしこの取り組み自体の本質は「経営陣含めたシニアとメンバーが率直な意見をぶつけ合うことが出来る関係性」を構築したことに妙があると思います。
ストーリーに対するフィードバック会ではなく、ブレイントラストと名付けたことにより、他社のブレインを信頼し、忌憚なき意見をぶつけ合うことが出来る場なんだ。それによって自分の立場が危ぶまれることはないんだ。というメンバーの安心感。これらが相まって場が形成されているように見えます。
つまり、このブレイントラストという取り組みから学ぶべきは特にマネージャーや経営者のような人たちだと思います。
自分たちは腹のうちを見せ、メンバーとフラットにプロダクトに対する忌憚なき意見をぶつけ合える関係性になれているか?また、その場を提供しているか?というところに立ち返ることだ重要なのだと思います。
これらを達成させるためのブレイントラストの重要な点として、2点あります。
①:ブレイントラストはストーリーづくりを自らが経験をし、経験に裏付けられたFeedbackをします。それによって作品のクオリティを上げるためのシニア→作品の製作者に対して最適な情報伝達を行うのです。いわば、ブレイントラストを医者としたときの症状(ストーリーの課題)を解決する役割です。
②:①を見ると一見シニアなメンバーが一方通行的に製作者に「指示」をしている座組になりかねないです。しかしブレイントラストの会議では、ジョン・ラセター始めシニアなメンバーが与えるフィードバックに対して、それを採用するか否かは監督やプロデューサー等現場のメンバーに一切の権限を委ねています。
自分の実体験に紐づけて考えてみます。僕自身現在デザイナー7名をマネジメントする立場にいて、彼らの担当する案件のクオリティをアップさせる責任を負っています。がしかし、100%の時間を1プロジェクトに注いでいる彼らよりも数10%の時間しか割くことができない私は当然本質的なFeedbackはできません。ですが、プロジェクトの数をこなしてきた分の直感的な違和感は伝えることができます。なので基本的には僕はマネージャーとしては「一番時間を使って考え抜いている人が偉い」の法則に則って、基本的には「こうした方が良い」はなるべく与えないように心がけています。
また、先程ブレイントラストを医者としたときの症状(ストーリーの課題)を解決する役割と述べました。ここで重要なのは医者ではあるが「患者(ストーリーを作った人)」を対象とするより、「症状(ストーリーの課題)」に目を向けていることです。ここに、「人を責めずにアウトプットを責める」という心理的安全を保つための思想が出ているように感じました。
一つ面白い話が、このブレイントラスト会議には「あえて」スティーブ・ジョブズを呼ばず、本人もそれを了承していました。それはもちろん、スティーブ・ジョブズの発言のパワーが強すぎるからです笑 このことからも、やはり率直でフラットな議論が出来る場を作ることを最優先と考え設計されていることがわかります。このように、必要に応じて、誰を「呼ばないか」を設計するのも、会議のオーナーの責任なのだと実感しています。
ブレイントラストの例から判断すると、PIXARの再現性はストーリーを作るメンバーに権限を委ねて自ら決断する「意思決定」の部分を任せつつ、重要な観点だけはシニアなメンバーから提供し続ける点にキモがあります。そうすることで文化とクオリティを保ちつつ、メンバーの成長も同時に成し遂げているのではないか?を推察します。
この言葉は、プロダクト開発の現場でも言えることです。どのプロダクトやアイデアも初めの段階は駄作。言い切ります、駄作なんです。でもそれを組織やチームで磨き上げていくプロセスこそが、プロダクト開発の面白さなんです。自分も、最初のアイデアは駄作である。と考え、様々な人にぶつけていくことで磨き上げていくことを意識していきたいです。
【多様性】自己表現を尊重する文化を作る
ここまでは、どちらかというと再現性の論点でした。しかし、ここまでいくつもの作品をヒットさせているPIXAR、やはり再現性だけではなく、属人的な自己表現も大切にしているはずだ。という仮説が自分の中にありましたが、調べてみるとやはりそうでした。
具体的には、Disney+にあるこちらの作品の中に出てくる2人のメンバーがいます。
一人目は、2分の1の魔法のストーリーを作った脚本家です。彼の舞台裏には、作品の腹落ちするストーリー作りのアイデアが浮かばず、悶々とする時間を長い間過ごしていたなかという苦労がありました。彼にとってのブレイクスルーとなったのは、彼の原体験である兄との関係性だったそうです。兄弟や父親との関係性をメタ認知をして自己分析し、それをストーリーに落とし込んだ。それがブレイントラスト、PIXAR社員、社会の共感を生む作品を生んだんです。
二人目に取り上げたいのは、セリフのライティングを担当するライターの女性です。あえてなぜ女性と述べたかと言うと、結論から言うと彼女がPIXARの作品のセリフをすべき分析し、男女比を可視化するダッシュボードの起案をした起案者だからです。これによって、PIXARのキャラクターの登場時間の男女比率や、セリフの量の男女比率を可視化することで、性別的に偏った作品になっていないか?といった問題提起をデータドリブンで出来ることになりました。
セリフのライターは映画の全セリフに目を通す存在です。だからこそ、偏り等の違和感を第一に察知することができました。また、それだけでなく組織の文化が背中を押して、可視化するダッシュボードとなるソフトウェアの開発にまで至りました。
その結果、このツイートにあるように、黒人が主人公のソウルフルワールド、女性が主人公のCARS 3、トイ・ストーリー4のボーピープの活躍などが生まれたのです。
このように、PIXARには個人の些細な違和感や、個人の原体験を尊重する文化が強くあります。
ある種、両極端に位置するトレードオフのグラデーションを上手く取り扱っているのがPIXARの文化だと捉えられると思います。
【職場環境】コラボレーションをするための環境を整え、チームを強固にする
先述の通り、PIXARは一人の天才によって作り上げられた企業ではなく。また、ハリウッドのように各職種のプロフェッショナル達がプロジェクト単位で集まって制作するわけでもない。つまり「PIXARの中にいる社員達が徹底的に共創出来る環境を整えることで、質の高い作品を継続的に出すことが出来ている」といえる。創業メンバーを中心となってどのようにしてPIXARの文化を守る環境をつくり、育ててきたかをここから説明していきます。
まずは、オフィス環境に目を向けてみましょう。
※ https://blog.btrax.com/jp/pixar/ より引用
バスケットコートはあくまで一つの例ですが、このような形で社員同士が顔を合わせて会話をする環境が散りばめられています。他には、サッカー場や社員食堂、オフィスの中央に設置された大広場等があります。これらは建物全体が、「ぜいたく」ではなく「共同体(Community)」という思想で統一されている(ピクサー流 創造するちから より引用)からなのです。
これは、「オフィス」という実態のあるものが「経営者の思想」を具現化し、「社員の行動」に落とし込まれるというとても良い実例だと思います。
例えばこれは私が働くGoodpatchのオフィスにあるキッチンです。これも共同体を作り上げる場としての一つです。具体的には、「料理」や「食事」という共通の目的をチームで達成したり、知らなかった社員とのコミュニケーションを触発する場になっていたりと、「共同体を生む場」として機能しています。
ただ、誰もがすぐにこんなオフィスを建てられるわけもなく、ましてやこのコロナ渦の中では難しい話なのですが、今すぐ僕たちが取り入れられることは、「共通の目的を持ったチームをつくり、アクティビティをこなす経験をする、させること」だと思います。一緒に仕事をする集団だけではチームではない。個々人の力をただ足したよりも大きな力を発揮せねばチームとは呼べない。そのために、共通の目的や目標を持つ共同体(コミュニティ)を作る癖付けを出来る環境を整備することが重要なんだと思います。
【健康管理】社員の健康を重要視することで、創造性を保つ
トイ・ストーリー2の制作の際に、ディズニーからのトイ・ストーリー2を劇場ではなくビデオだけで出そうという提案を一時的に呑んだPIXARは、当時同時に作っていたバグズライフが劇場公開を見据えていたが故に、クリエイターを1軍(バグズライフ担当)2軍(トイ・ストーリー2※ビデオ 担当)のように暗黙的な階層分けを社員に感じさせてしまう失敗をしています。これを覆すべくエド・キャットムルは再度トイ・ストーリー2を劇場公開するよう交渉し、その許可を得たが、その結果暗黙的な2軍の監督たちでは劇場公開のクオリティを満たすクオリティにならないという心苦しい判断をして、監督交代を決断しました。そして、アニメーション映画にしては超短納期の9ヶ月で最終的に映画を作り上げ、大ヒット作品を生む結果とはなりました。
その反面、この成功はあまりに犠牲にしたもの、大きく2つ。まずは2軍と暗黙的に感じてしまった人材達、短納期で疲弊させてしまったクリエイター達です。この結果からエド・キャットムルは社員のプライベートと会社を融合した「人生」が最も大切なんだという重要な使命に立ち戻り、先述したオフィス環境をはじめとして、様々な社員の健康に気を配る施策を導入しています。
このストーリーから僕が再確認した指針があります。クリエイター組織のキモは「人材」です。そして、人材を大切にするということは何も高い給料を支払うだけではありません。その人材に健康で豊かな人生を過ごしてもらうことが、素晴らしいアイデアや作品につながるのだと思います。
実際の仕事でも、かつてメンバーに対して『「あなたの健康」と「デザインの質」の2つがマネージャーとしての僕の再優先事項なので、それを守るためであればなんでもやります。』と言ったことがあります。自分がどんな立場になろうとも、一緒に働く人々の健康とデザインの質。このバランスを追っていけるマネージャーになりたいなと思わされるストーリーでした。
【マインドセット】トレードオフが、柔軟なマインドセットを育てる
また、PIXARは恐ろしいまでにバランスの取れた組織のように見えます。
※ここでいうバランスとは、何も問題がなく安定しているというバランスではなく、変化に柔軟で課題に対してすぐに解決する備えがあるという意味でのバランスです。
ここまでのストーリーをまとめていく中で、いくつかそのバランスの取れた柔軟性を持つことができている理由が浮かび上がってきたように思います。
ここまで述べてきたなかで、以上のような3つの逆説が浮かび上がって来たように思います。ここで自分なりに定義をしてみると、バランスの良い組織というのは、トレードオフに柔軟に対応することに慣れた組織なのではないか、とPIXARを調べていて思いました。
マネジメントやUXデザインをしていても、手法を数々インプットする中で唯一解は決死て存在しない。その中で、一見両極端に存在する価値観を組織に同居させることで、「メンバーが、状況によって、拠り所を自分で判断する」ということが出来ている組織に見えました。それが、組織がどれだけ拡大してもヒット作を生み続けることが出来ているんだと思います。
変化の速い環境において創造性の高い仕事をする組織にはトレードオフがつきものです。ここから学べることとしては、チームに対して「変化に柔軟になれ!!」というフィードバックをするのではなく、変化に柔軟になるためトレーニングを日々行う。それは複数のトレードオフを孕む環境で自分で決める経験をすること。させること。そして信念は曲げずとも、目標ややり方は柔軟に変更すること。こうやって細かな意識改革をしていくことで組織自体が柔軟になっていくんじゃないかと思います。
【採用】シンプルなプロセス、強固なカルチャーが良い採用を生む
ここまでの組織を構築してきたPIXARなんだから、採用プロセスもものすごい特別なんじゃないかと思っていました。そしてWeb上で様々情報に触れてみたんです。(記事の例↓)
でも、驚くべきことに、普段自分たちがやっていることと、ほぼ同じ採用プロセスでした。インターンシップ経由での採用・複数回面接を経ての中途採用、至ってシンプルです。募集要項をみても、よくある形だし採用サイトも至って簡素。僕レベルが観測できる範囲では、特別なことはしていませんでした。
つまり、採用に銀の弾丸は存在しない。やはり強烈なカルチャーを受け皿として作り、そこに合う人材、かつスキルの高い人材を入れていく。本質的かつ普遍的な採用をしているんだと感じました。
ただ、やはり強烈な文化を形成できているか?という点に関してだけは僕達も参考に出来るし、ここからの学びは、採用には銀の弾丸は存在しない、ただカルチャーは特別だ。ということです
【まとめ】ヒット作を生み出し続けるPIXAR流の組織/チームを作るための7箇条
ここまで、いくつかの切り口でPIXARという会社を紐解いて来ました。それらを元に、PIXARで行っていることのまとめとして【PIXARの特徴】、またそれらを僕たちがどのようにものづくりに活かすか?を【そこから我々が活かせるであろう考え方】として、まとめてみます。
おわりに:組織文化とプロダクトは両輪だ!
↑のまとめを読んでみても、やはりPIXARは優れた技術を持っているだけでなく、企業の文化に対する意識を高く持っているがために、継続的に優れた作品を出すことが出来ているとわかります。
サービス開発の現場においても、PIXARでいうストーリーのように、コアになる強烈なコンセプトを体現する愛されたプロダクト、そしてそれを生み出し、守り続けるクリエイティブな組織文化、両輪に投資を出来る会社が最強の組織への道なんだと思います。
最後に、エド・キャットムルの大好きな名言をおいておきます。
この記事を読んで、日々のプロダクト開発がより良いものになり、心動かされるサービスが世の中に少しでも増えたら、最高に嬉しいです!12000字の長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!
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参考文献
↓特にこの緑本は超絶超絶おすすめです。
参考動画コンテンツ
Disney+は映画だけでなくドキュメンタリー系もよく見ています。