輪廻の風 (1)
エンディは飛び起きた。
あまりにも奇妙な夢を見たからだ。
目が覚めると、自分の脂汗の量と息の荒さに驚いた。
宿泊先の小さなホテルを後にし、街に出る。
ボロくて殺風景な部屋だったが、久しぶりに雨風を凌げて屋根のある場所で一夜を過ごせたことにありがたみを感じながら歩き出した。
天気が良く、風が気持ちいい。
昼過ぎまで寝ていたのをもったいなく感じた。
ここは大国、バレラルク王国の端っこにある、自然が豊かで農業と漁業が盛んな小さな田舎町だ。
この少年は散歩が大好きだ。
知らない土地で、見たことのない風景や街並みを眺めながら、考え事をしてフラフラと歩く。
これが楽しくて仕方ないらしい。
「王室に仕える給仕が誘拐されたらしいよ。」「ね、物騒だね〜。」
漁港近くの市場で買い物をしているマダムたちの世間話が聞こえて、ちらっと振り返り、再び歩きだす。
活気のある港町だ。
それにしても、不思議な夢だったなと昨夜のことを思い返し、考え事を始めた。
暗く深い森の中で、目の前に軍服のようなものを着た長髪の男が、剣を右手に持ち立ちはだかっていた。
暗くて顔はよく見えなかったが、その男の佇まいからはただならぬ狂気を感じた。
その男と自分との距離はわずか20mほど、剣を持った状態でずっと体をこちらに向けていて、なんとも不気味だった。
何より、見たこともない服装だった。
エンディは今まで生きてきて、夢の男が身につけていたものを、一度も見たこともなく、聞いたこともなかった。
いや、もしかしたら記憶を失う前に見たことがあるのかもしれないが、いずれにせよ、記憶喪失になってから今日までの4年間では、少なくとも一度も目にしたことのない、不思議な格好だった。
物語は、この夢から始まる。