プライベートバンキングから学ぶ富裕層の資産戦略とその現実
富裕層と超富裕層の定義と現状
先日、『プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?』、『プライベートバンカー』という2冊のプライベートバンク関連の本を読んだ。野村證券の定義によると、純金融資産が1億から5億円の人を「富裕層」、5億円以上の「超富裕層」と呼ぶとのこと。下記の記事によれば、2011年くらいから過去10年間に渡り、日本の「富裕層」と「超富裕層」の数は右肩上がりに伸びているようだ。
そんな「富裕層」以上を対象に個人の資産形成、投資戦略の立案、そして相続対策までサービスとして提供するのが、金融機関のプライベートバンキングサービス。一般的な投資商品を販売するだけでなく、個人の資産状況や将来のゴールに向けてカスタマイズされた金融サービスを提供してくれる。
投資初心者に向けた資産形成の指南書
『プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?』の筆者はプライベートバンキングサービスを提供するZUUの起業者にして代表取締役である冨田和成氏。
業界についての幅広い視点と「富裕層」以下の層でも参考になる投資術や資産戦略の立て方が紹介されており、「富裕層」ではないが資産形成のために株式や債権を購入している個人にも参考になる情報が紹介されている。コラムなどをはさみつつ、飽きさせない構成となっており、投資を始めたばかりの人も「資産形成の考え方」を学ぶ指南書として参考になるのでおすすめ。
外資系金融の実態と富裕層の現実
『プライベートバンカー』の方の著者は、『石つぶて』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞した清武英利氏。
プライベートバンカーのいろはを説明する冨田氏の作品に対して、こちらは野村證券を退職した杉山智一氏という実在の人物を主人公に据えたノンフィクション。高額なインセンティブで高いノルマに挑ませる外資系金融機関の実情、そしてテリトリーの侵害と横取りという外資系起業あるある、そして顧客の資産を巡った実際の刑事事件、など泥臭いプライベートバンクワールドを見事に描いている。プラーベートバンキング、外資系金融、そしてシンガポールに節税目的で滞在する富裕層の現実をノンフィクションとして活写しつつも、作品を通して「お金があるだけで人は幸せになれるのか?」という大きなテーマも問う力作だ。あわせて楽しめる作品なのでおすすめ。
富裕層の幸福と孤独—「南国の監獄」
『プライベートバンカー』では、1年の半分以上をシンガポールで暮らす(残りは日本などで生きる)生活を5年以上続けることによって、「日本の居住者」から「非居住者」に変身し、相続税ゼロという特典を得るという「5年ルール」という相続税逃れの実態が克明に描かれている。そのうちの一人の下記の言葉が印象的であった。
当の富裕層は英語が苦手で、ローカルの世界には溶け込めず、語学力のせいで当地で仕事もできない。仕事などしなくても、カネがカネを生んでくれる恵まれた環境にはあるが、やること、できることがなく、暇を持て余し、「南国の監獄」とぼやいている。奥さんは、シンガポールに毎月のように来るが、一週間ほどで帰ってしまうらしく、こちらも現地に溶け込む気ゼロ。
アメリカにいると、日本人は大体、「英語習得を早々にあきらめ日本人コミュニティの狭い世界でしか暮らさない層」と「現地のコミュニティに飛び込みアメリカ生活を謳歌する層」に分かれる。どうやら、そういう分類は「富裕層」や「超富裕層」にも当てはまるようだ。お金はあるに越したことはないが、自分で世界を広げようとする素養と能力がなければ海外生活を充実したものにすることはできないのだ。
まとめ
プライベートバンキングの世界は、「富裕層」と「超富裕層」向けのものではあるが、その世界を垣間見ることは自分の資産形成についてヒントをえるだけでなく、「お金と幸せ」について考える良い機会を提供してくれる。良書とも読みやすく、手軽に読めるので、興味を持たれた方は是非。
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