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BCI GPG を読み解く〜 #8 組織の文化を理解し、これに影響を与える (PP2-1)

(2024/11/16 追記)
この記事は 2018 年版に基づいて書かれています。近日中に現行最新版の Edition 7.0 に合わせて修正します。

今回から PP2 に入ります。PP2 には「Embedding」もしくは「Embedding Business Continuity」というタイトルが付けられています(注 1)。「embed」という単語には「埋め込む」、「組み込む」という意味があり、GPG においては事業継続プログラムを組織の活動に組み込み、定着させるために行うべきことが書かれています。BCM ライフサイクル(下図)でも中心に位置づけられている、とても重要な領域です。

BCMライフサイクル図

事業継続プログラムが組織に「定着している」というのは、例えば次のような形で、組織のいたるところで、事業継続に関する活動が平常時の事業活動の一部になっているということです。

・事業継続に関する演習の予定や BCP の見直し作業などが、各部門の年間計画に含まれている

・定期的に行われる従業員研修プログラムに、事業継続に関する内容が組み込まれている

・各部門の年次予算に、事業継続のための必要経費が計上されている

言い換えれば、事業継続に関する活動が各部門において「当たり前のものとして」行われている状態です。これが PP2 で目指すところです。

PP2 は 2 つのセクションに分かれていますので、今回は前半部分である「Understanding and Influencing Organizational Culture」(組織の文化を理解し、これに影響を与える)という部分をカバーしたいと思います。

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ところで、「組織の文化」とは何でしょうか?

よく「あの会社にはこういう組織文化が根付いている」などと言われますが、「組織文化とは何か?」ということが具体的に議論されることは、あまり無いのではないかと思います。したがって何となく言葉は知っているが曖昧な概念でしかないと思われる方が多いのではないでしょうか(注 2)。

この点については GPG においても同様に認識されていますが、たとえ組織の文化を観察したり評価したりするのが難しいとしても、組織の文化は事業継続プログラムを効果的に組織に定着させていくために重要な役割を担っていると考えられており、場合によっては既存の組織文化を変える必要があるかもしれない、とまで書かれています。

そして、組織文化に影響を与えつつ事業継続に関する活動を組織に定着させていく方法として、次のような方法が例示されています。

・態度や行動を変える。そのためには何らかの行動(もしくはそれをしないこと)が、どのような結果をもたらすかを明示することが役立つ場合がある。例えば、事故や災害を経験した他の組織における成功事例(もしくは失敗事例)から、教訓を得ることもできる。
・組織の戦略的プランを作成したり見直したりする際に、事業継続の観点が考慮されていることトップマネジメントに確認する。
・関連するミーティングの議題に、事業継続に関するものを含める。
・普段使用する業務手順に事業継続計画を組み込む。
・新しい従業員の導入プロセスに、事業継続に関する認識向上のための内容を含める。
・事業継続に関する演習のスケジュールを、休業の予定や業務が比較的忙しくない時期に合わせて設定する。
・サプライチェーン・マネジメントの一部として、事業継続に関する要求事項を確実に組み込む。
・新しい製品またはサービスの計画段階で事業継続の観点を検討する。

なお、これらはあくまでも例示であり、これらを実施すべきかどうかは、組織における事業継続プログラムの成熟度などに応じて検討すべきだとされています。

また、このような活動において事業継続に関する実務者が行うべき、もしくは考慮すべきこととして、次のような記述があります。

・トップマネジメントが事業継続に関して行う業務を効果的にサポートし、勇気づけ、必要な知識や情報を伝える。
・次のような事項を含めて、事業継続に関する認識がどのくらい発達しているかを考慮する;役割や責任の変化、離職率、ビジネスプロセスの定期的な変化、企業の買収やアウトソーシングの度合い
・事業継続に関する演習の対象範囲を決めたり、演習を実施する際に、現在考えられるリスクや脅威に基づいて行うよう考慮することが、事業継続に対する認識を高めたり、態度や行動を変えるために効果的になる場合がある。
・必要に応じて、定期的に実施されている既存の訓練や演習など(例えば火災警報のテスト、避難訓練、その他法律などで義務付けられている訓練など)を事業継続と関連付けたり、事業継続のための活動として位置づける。
・組織の中で、事業継続や組織のレジリエンスに関する理解が深く、かつ影響力が大きい人々によるネットワークを作る。もしそのような人々が、事業継続と関連する他のマネジメント領域(例えば情報セキュリティ、品質、サステイナビリティ、コーポレート・ガバナンスなど)の担当部門にいれば、今後の協業に役立つ。


組織の文化を考慮しつつ、事業継続プログラムを組織に定着させていくための活動は、地道に続けていく必要があり、かつ成果が現れにくいため、担当者のモチベーションを保つという観点でも困難な面があるかと思います。しかも、このような活動を具体的にどのように計画し、実行するかという部分については、それぞれの組織の状況に応じた創意工夫が求められますので、GPG を含む様々な参考書などでの記述も限定的にならざるを得ません。

しかしながら、やり方によっては最小の手間で最大の効果をもたらすことも十分可能であり、実務者の実力が問われる領域であるとも考えられます。ぜひ、皆様の組織の現状や方針に沿って、有効な取り組みを進めていただきたいと思います。


次回は PP2 の後半部分「Competencies and Skills」(力量とスキル)について説明していきます。

[BCI Good Practice Guidelines の入手方法]
BCI の Web サイトから入手できます。BCI 会員であれば PDF にて無償でダウンロードできます。非会員に対しては 30 ポンドで販売されています。詳しくは下記 URL にアクセスしてください。
https://www.thebci.org/training-qualifications/good-practice-guidelines.html

[本稿に関するお問い合わせ]
本稿や GPG の内容、もしくは BCI の活動に関するお問い合わせにつきましては、下記 URL の問い合わせフォーム(合同会社 Office SRC の Web サイト)からご連絡いただければ幸いです。
http://office-src.com/contact

【注釈】
1) 全体の目次や BCM ライフサイクルの図では「Embedding」というタイトルになっていますが、PP2 の扉ページ(27 ページ目)には「Embedding Business Continuity」と書かれています。旧版である 2013 年版では「Embedding Business Continuity」だったので、単に 2018 版に改定する作業での削除漏れかもしれません。

2) 実は組織のレジリエンスに関する国際規格である「ISO 22316」では、組織の文化(organizational culture)は次のように定義されており、GPG でもこの定義が参照されています(出典:ISO 22316:2017)(カッコ内の和訳は筆者)。しかし、このように定義されているとはいえ、組織の文化が実態として捉えにくいものであることには変わりないでしょう。

collective beliefs, values, attitudes and behaviour of an organization that contribute to the unique social and psychological environment in which it operates
(組織が活動する固有な社会的・心理的環境に寄与する、その組織における総体としての信念、価値観、態度、行動)


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田代邦幸 - 合同会社 Office SRC 代表
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