BCI GPG を読み解く〜 #8 組織の文化を理解し、これに影響を与える (PP2-1)
今回から PP2 に入ります。PP2 には「Embedding」もしくは「Embedding Business Continuity」というタイトルが付けられています(注 1)。「embed」という単語には「埋め込む」、「組み込む」という意味があり、GPG においては事業継続プログラムを組織の活動に組み込み、定着させるために行うべきことが書かれています。BCM ライフサイクル(下図)でも中心に位置づけられている、とても重要な領域です。
事業継続プログラムが組織に「定着している」というのは、例えば次のような形で、組織のいたるところで、事業継続に関する活動が平常時の事業活動の一部になっているということです。
・事業継続に関する演習の予定や BCP の見直し作業などが、各部門の年間計画に含まれている
・定期的に行われる従業員研修プログラムに、事業継続に関する内容が組み込まれている
・各部門の年次予算に、事業継続のための必要経費が計上されている
言い換えれば、事業継続に関する活動が各部門において「当たり前のものとして」行われている状態です。これが PP2 で目指すところです。
PP2 は 2 つのセクションに分かれていますので、今回は前半部分である「Understanding and Influencing Organizational Culture」(組織の文化を理解し、これに影響を与える)という部分をカバーしたいと思います。
ところで、「組織の文化」とは何でしょうか?
よく「あの会社にはこういう組織文化が根付いている」などと言われますが、「組織文化とは何か?」ということが具体的に議論されることは、あまり無いのではないかと思います。したがって何となく言葉は知っているが曖昧な概念でしかないと思われる方が多いのではないでしょうか(注 2)。
この点については GPG においても同様に認識されていますが、たとえ組織の文化を観察したり評価したりするのが難しいとしても、組織の文化は事業継続プログラムを効果的に組織に定着させていくために重要な役割を担っていると考えられており、場合によっては既存の組織文化を変える必要があるかもしれない、とまで書かれています。
そして、組織文化に影響を与えつつ事業継続に関する活動を組織に定着させていく方法として、次のような方法が例示されています。
なお、これらはあくまでも例示であり、これらを実施すべきかどうかは、組織における事業継続プログラムの成熟度などに応じて検討すべきだとされています。
また、このような活動において事業継続に関する実務者が行うべき、もしくは考慮すべきこととして、次のような記述があります。
組織の文化を考慮しつつ、事業継続プログラムを組織に定着させていくための活動は、地道に続けていく必要があり、かつ成果が現れにくいため、担当者のモチベーションを保つという観点でも困難な面があるかと思います。しかも、このような活動を具体的にどのように計画し、実行するかという部分については、それぞれの組織の状況に応じた創意工夫が求められますので、GPG を含む様々な参考書などでの記述も限定的にならざるを得ません。
しかしながら、やり方によっては最小の手間で最大の効果をもたらすことも十分可能であり、実務者の実力が問われる領域であるとも考えられます。ぜひ、皆様の組織の現状や方針に沿って、有効な取り組みを進めていただきたいと思います。
次回は PP2 の後半部分「Competencies and Skills」(力量とスキル)について説明していきます。
【注釈】
1) 全体の目次や BCM ライフサイクルの図では「Embedding」というタイトルになっていますが、PP2 の扉ページ(27 ページ目)には「Embedding Business Continuity」と書かれています。旧版である 2013 年版では「Embedding Business Continuity」だったので、単に 2018 版に改定する作業での削除漏れかもしれません。
2) 実は組織のレジリエンスに関する国際規格である「ISO 22316」では、組織の文化(organizational culture)は次のように定義されており、GPG でもこの定義が参照されています(出典:ISO 22316:2017)(カッコ内の和訳は筆者)。しかし、このように定義されているとはいえ、組織の文化が実態として捉えにくいものであることには変わりないでしょう。