非法曹法学士からのニューヨーク州弁護士 — 受験・登録のハードル

前回、ニューヨーク州司法試験 (NY Bar) の受験体験記を書きました。私のように、企業の法務部員が米国ロースクール (LL.M.) に留学しNY Barを受験するというケースも依然として多いのではないかと思います。しかし、近時、NY Barの受験資格・登録要件が変化しており、とりわけ法学士の方が留学する際には注意が必要になっています。本稿では、主に次の二点について、執筆時点 (2020年1月) までに私が調べた内容等を記します。

法曹資格のない法学士がNY Bar受験資格を得られるかは、現状は予測困難。
・受験資格を得られたとしても、登録にあたり、新要件であるSkills Competency Requirementを満たす必要がある。法曹資格を持たない場合、米国ロースクールによる認証または6カ月間の実務研修が必要。

1. 法学士の受験資格

NY Barの受験資格を米国外(=日本)での法教育によって満たす場合、当地の司法試験の受験資格が得られる法教育(”the educational requirements for admission to the practice of law in a country other than the United States”)を修了している必要があります(Rule 520.6(1)))。なお、法曹資格保有者は、本要件をAdmission Certificateの提出で充足できます。(参考:Foreign Legal Education Handbook

日本では、司法試験改革後、法科大学院の卒業が司法試験の受験資格取得の基本ルートになっています。これに伴い、法学士は、NY Bar 受験資格の充足において、従来からやや不安定な立場にありました。
とはいえ、近年、一部の日本の大学は、法学部卒業者に対しても、上記 Rule 520.6 を満たす法教育を修了した旨の証明書を発行しており、(少なくともウェブ上の情報を眺める限り、)これにより多くのケースで受験資格が認められてきたのではないかと思います。私自身も、卒業証明書等と併せてこの証明書を提出し、受験資格ありの判定を得ることができました。
しかし、私の観測範囲では、この種の証明書を提出したにも拘わらず、受験資格なしの判定をされた方の話もちらほらと耳にしており、残念ながら、現在は予測可能性が低くなっているというのが個人的な印象です。

審査の手続きとしては、BOLEのウェブサイトを経由して審査を申請し、その後に証明書類を大学等の機関から直送してもらうよう手配します。参考まで、私の場合、留学前の4月中旬ごろに母校とのやり取りをすすめ、BOLEへの書類到着が5月2日、審査結果の通知が9月5日でした。
受験資格の有無によってLL.M.秋学期の履修内容を調整する場合、審査結果の受領までに約半年間かかることを念頭に、申請手続きを早めに進めるべきです。

2. 新たな登録要件 — Skills Competency Requirement

ニューヨーク州弁護士の登録要件(Bar Examの受験要件ではありません)として、新たにSkills Competency Requirementが課されるようになりました(Rule 520.18)。LL.M.卒業生については、2018年8月1日以降に卒業した者に適用されます。(Rule 520.18(c))

この要件は、次の5つのPathwayのいずれかで充足されます。

(1) Law school certification of competence in skills and professional values
(2) Law school certification of credit acquisition
(3) Pro Bono Scholars Program
(4) Apprenticeship
(5) Practice in another jurisdiction

Pathway 1, 2は留学先の米国ロースクールによる認証であり、大学によって、LL.M.学生への認証可否や条件が異なります。Pathway 3は特殊なプログラムであり、LL.M.学生にはまず該当しないようです(それ以上の詳細は未調査)。Pathway 4が冒頭で述べた6カ月間の実務研修です。

日本の法曹資格を有し、フルタイムで1年間の実務経験があればPathway 5を満たせます。一方、法曹資格を持たない場合、Pathway 1, 2, 4のいずれかを検討することになります。

(1) Pathway 1, 2: Law School Certification
ロースクールによる認証については、基本的にはJD学生を対象にしたものとして設計されているようで、LL.M.学生が申請できるかは大学によりかなり差があります。ざっとウェブ上の情報を検索してみた限りでは、次の大学の情報が見つかりました。

どちらも適用がない(または明確な言及なし):Harvard, StanfordColumbia, ChicagoNYUUVA
Pathway 1のみ:UCLA, Fordham, GeorgetownUC Davis
Pathway 2のみ:DukeBU

とりわけ、Pathway 2は、実務系教科のみで15単位も履修しなければならず、NY Barの受験要件科目(12単位)も同時に満たすことを考慮すると、事実上、履修科目の自由度が壊滅的になります。Pathway 1は、大学の設ける認証条件によってはある程度の柔軟性を持てる可能性がありますが、やはり、厳しい制約になるかと思います。

(2) Pathway 4: Apprenticeship
Pathway 4では、6カ月間の実務研修によって要件を満たすことが認められています。(便宜上、研修と訳しましたが、Apprenticeshipの意味合いからするに、法曹の監督・指導下で法務実務に携わること全般を指すと考えられます。)
Rule 520.18(a)(4)およびFAQによれば、おおよそ次の条件を満たす必要があります。

米国内のLaw officeにおけるフルタイムの研修であること。有給無給は問わない。
一つの連続した研修で6カ月間を満たすのが原則。複数の研修を積算するには、the Court of Appeals への嘆願が必要。登録申請の期限(Bar Exam合格通知の発送から3年後)までに6カ月間の研修が完了している必要あり。
・現在のところLaw Officeの定義はない。根拠はないが、弁護士事務所、裁判所、企業の法務部、官公庁の法令関連部門などは含まれると推測される。
・米国内のLaw Officeでの研修の機会を確保できない場合、外国のLaw Officeで当地法曹による監督下で行われた研修でも可
・研修は米国ロースクール卒業後に行われたものが原則。ただし、Foreign Education + LL.M.学位による場合、LL.M.プログラムの卒業前に行った研修でも可(ただし、First Law Degreeの取得後に行ったものに限る)。
・監督者には研修実施地の法曹として2年以上の実務経験が求められる。また、オリエンテーション、幅広い業務のアサイン、適宜の指導やフィードバックなどの責任が課されている。これらは、登録申請時に提出するAffidavitにおいて監督者が保証する。(公証は不要)

LL.M.プログラムの卒業後に、米国法律事務所や米国企業の法務部での研修をアレンジできればさほど問題ありませんが、そうでない場合、留学前後の職場にインハウスローヤーの上司がいないと、本要件を満たせません。その場合、Pathway 1または 2 を満たせる大学を選ぶ(前述のとおり履修に難が生じる可能性大)か、NY Barの受験自体を再検討する必要が生じます。

3.  その他の考慮事項 ―― 50時間のPro Bono、他州の受験要件

(1) Pro Bono Requirement
2015年1月以降、NY Bar登録要件として50時間のPro bono(平たく言えば、法律関連のボランティア)も求められるようになっています。法曹資格を持たない法務部員は、日本で公益活動に携われるチャンスが少なく、米国現地でのPro bonoの機会を探すことが重荷になる可能性があります。

(2) 他州の受験資格
NY Barの受験資格・登録要件は満たせない(またはその不安がある)が、米国の弁護士資格にはチャレンジしたいという方は、他州の状況もあらかじめ調査し(かつ必要あらば受験資格審査の申請も行い)、LL.M.プログラムでの履修計画にあたり考慮に入れるべきと思われます。州によって、LL.M.プログラムにおける取得単位数・科目選択の要求事項が異なりますので、秋学期が始まってしまうと、後戻りが困難になる可能性が高いです。

メジャーな州でBar Examの門戸が外国人に開かれているのはCalifornia(CA)、Washington DC (DC)ではないかと思います。

・CA州の特筆すべき点として、CA州のProfessional Responsibility を受講する必要があります。なお、このPRのみを通信教育を提供している大学などもある模様です。 
・DCはUniformed Bar Exam科目から26単位の履修を要求されるというかなり厳しい条件のようです。(Georgetownのアドミッションも、LL.M.学位からDC受験資格を得るルートをおすすめしていません。)

その他、TennesseeやMassachusettsも外国での法教育に基づき受験資格を得られるようです。

なお、ロースクールのアドミッション(留学生オフィス)の多くは、各州の受験資格の情報や、自校のどのCourseが条件に該当するかの情報を持っています。そのため、出願時や入学前の段階からアドミッションに積極的に問い合わせるのも一案です。

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