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世界の最小単位が、「2人」だと思えた

いつも太陽みたいな笑顔の彼女と、付き合って1年半が過ぎた。

天真爛漫という言葉は彼女のためにあるんじゃないかって思えるくらい、笑顔を絶やさず、周りに癒しを与えられる人。…正直、僕にはもったいないくらいの人。そんな僕の不安も、「あなたが何て言おうと、私はあなたが好きなのよ?」って簡単に溶かしてしまう人。

大学のサークルで、僕らは出会った。4学年で100人以上在籍するマンモスサークルで、その中で自然と僕らは惹かれあった。バドミンドンのサークルだったけれど、ラケットは4回くらいしか握ったことがない。いつも体育館の隅っこでみんなでワイワイ談笑をして、利用時間が終わればそのままいつもの店で、いつものメンバーで、いつものように飲む。

いつものようにサークルメンバーで飲んだあと、なんだかしょっぱいものが食べたくなって、ちょうど次の日は土曜日だったから、彼女と少し古びた小さなラーメン屋に寄った。店内には誰もいなくて、店主のおじいさんは閉店間際に客が入って少し面倒なのか、注文を取るとき以外一言も発さなかった。

「ねぇ、何食べるの?」

「醤油ラーメン。飲み会あんまりご飯は食べられなかったから、大盛りにしようかなぁ」

「え〜。こんな時間に大盛りとか食べたら太っちゃうよ?」

彼女はクスクス笑いながら、でも彼女も醤油ラーメンの普通盛りを頼む。店主に気を配って僕と同じ味にしたのかなぁ、彼女は味噌ラーメンが一番好きなのになぁ、やっぱり優しいなぁなんて思いながらぼんやりメニューを眺めていた。

店主はラーメンを出したあと、閉店準備に取り掛かり始めて奥の部屋に消えていった。

「おじさん中に入っちゃったね」

「こんな時間だからなぁ。食べ終わったら帰ろっか」

なんてたわいもない話の合間、2人とも何も発さなかった一瞬。


世界の最小単位が、「2人」だと思えた。


世界の最小単位は素粒子であって、それは文学部の僕だって知っている世界の常識であって。100歩譲って人間1人が最小単位だとしても、人間2人が最小単位なんてことはあり得ないわけで。

それでも、僕は世界の最小単位が「2人」だと思った。いつも2人でくっついているわけでもないのに、ラーメン屋でのあの一瞬の間、そのときだけは世界の最小単位は「2人」だった。

「2人」の世界はあたたかくて、安心した。一生、この気持ちを忘れられないんだろうなぁって、彼女の顔を盗み見て、苦笑いをした。


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