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契約書を交付してもクーリングオフになるリスクを防止するための注意事項

 ネットで注文した商品が想像と違っていたからクーリングオフしたい。そういう声はよく耳にするものです。

 しかし、インターネット・ビジネスは特定商取引法の通信販売ルールが適用されるため、基本的には一度有効に成立した契約を消費者側から取消しをすることが認められていません。
 そのため原則としてはクーリングオフが適用されることはありません。

 なぜ通信販売にはクーリングオフが認められていないかといえば、訪問販売や電話勧誘販売とは異なり、消費者がウェブサイト等の広告を見て自主的に契約をしていることから、そこには不意打ち性が無く、取消権を認める必要性は低いとされているためです。

また、通信販売は取引条件をウェブサイト等に表示すればよく、返品等についても事業者が定めた規則が優先適用されることになっており、契約書を消費者に交付する義務もありません。

 インターネット・ビジネスを運営している事業者はそのことをよく知っているので、注文確定後のキャンセルはできず返金も認めないという強気の回答をすることも多いようです。

 ただネット通販であっても、状況によっては契約書を交付しなければいけない義務が生じたり、その契約書に書く内容に不備があってクーリングオフが適用されるケースもありえます。

 そのようなインターネット・ビジネスに関わる事業者にとって“落とし穴”となりうる契約書について解説します。

インターネット・ビジネスであっても契約書の交付が必要なケース

 インターネット・ビジネスでは、その契約金額が高額であっても事業者の契約書交付義務はありません。
 それでも以下のようなケースでは訪問販売や電話勧誘販売に適合した契約書を交付する義務が生じることになります。

・セミナーやカフェでのミーティング等で対面による勧誘があったとき

・ZOOM等でオンラインでのミーティングで勧誘があったとき

・LINE等のチャットや通話により勧誘があったとき

 消費者がウェブサイトやSNSで注文手続をしたとしても、それ以前のマーケティング活動として事業者側が対面、ZOOM面談、LINE通話を行っていた場合には、それによって交わされた契約は訪問販売や電話勧誘販売によるものとみなされます。

 そうしたケースでは、事業者には特定商取引法の訪問販売・電話勧誘販売の契約書を交付する義務が生じ、それに対応していない事業者は行政処分や契約の取消(クーリングオフ)の対象になります。

 訪問販売・電話勧誘販売の契約書に記載が必要な義務事項は以下のとおりです。

・商品(権利・サービス)の種類
・商品(権利・サービス)の価格
・クーリングオフに関する事項
・事業者の名称、住所、電話番号、代表者氏名
・契約担当者の氏名
・契約を締結した日付
・商品の名称、商標、製造者名
・商品の形式があるときは、その型番
・商品の数量
・契約内容不適合責任の特約があれば、その内容
・契約解除の特約があれば、その内容
・その他に特約があれば、その内容

 特定商取引法の省令では、契約書面には、書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中に赤字で記載することと、日本工業規格Z8305に規定する8ポイント(官報の文字サイズ)以上の大きさの文字と数字を用いることも義務とされています。
特にクーリングオフに関する事項については赤枠の中に赤字で記載することも義務とされています

 これらの記載義務事項を記載した契約書面は、必ず紙媒体で交付することが求められています。交付の手段は郵送でもよいのですが、PDFファイルでの送信などデジタル形式での交付は認められていません。

※2023年6月の特定商取引法の改正により、契約書のデジタル交付が一部解禁になりましたが、極めて限定的であるため通常は紙媒体での交付が必要です。

【参考】
特定商取引法の契約書面をデジタル交付できる要件(遠山行政書士事務所)

契約書を交付しても不備とされるケース

 筆者は特定商取引法に適合する訪問販売・電話勧誘販売の契約書雛形を販売していますが、こうした契約書を用いても事業者が独自に記入する事項の内容に不備があると判断されるケースもあります。
 その代表例を2つ示します。

(1)事業者の名称や住所が虚偽である場合
特定商取引法の解説によれば、「氏名又は名称」については、個人事業者の場合は戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号を、法人の場合は登記簿上の名称を記載することを要し、通称や屋号は認められないとされています。
 「住所」については、法人及び個人事業者の別を問わず現に活動している住所(法人の場合は、通常は登記簿上の住所)を正確に記述する必要がある。いわゆるレンタルオフィスやバーチャルオフィスであっても、現に活動している住所といえる限り、法の要請を満たすと考えられるとされています。

(2)商品明細が大雑把な場合
 特定商取引法の解説によれば、商品における「種類」については、当該商品が特定できる事項を指し、一般に普及していない表現(専門的用語や学術名)のみでは不十分とされています。
 例えば、住宅リフォーム契約に関する書面交付の場合、工事の内容を詳細に記載せず「床下工事一式」、「床下耐震工事一式」とのみ記載することは不十分であり、そのような記載しかされていない場合は契約書面の不備として扱われます。

 このように適正な契約書雛形を用いたとしても、事業者が独自・個別に記入をする欄に不備があって法違反になることもあるのです。

 以上のようにインターネット・ビジネスであっても、その提供状況によっては特定商取引法に沿った厳密な契約書を交付しなくてはならないケースがあることを認識しておく必要があります。

 インターネット・ビジネスについては、「特定商取引法の通信販売の表示事項」や「プライバシーポリシー」を適正に表示しておくとともに、ZOOMやLINEで顧客対応を行った後に契約に至った場合に備えて電話勧誘販売の契約書を用意しておきましょう。

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 インターネット・ビジネスに関わる方には当ブログ筆者の作成した以下のリンク先の雛型・解説書をご参照頂けると幸いです。

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