フリーランス法に対応した発注書と業務委託契約書を作成するチェックポイント
フリーランス・事業者間取引適正化等法(以下、フリーランス法)が2024年11月1日に施行され、全ての事業者はフリーランスとの取引をする場合には、取引条件について記載された書面を交付する義務が定められました。
発注する側の事業者がフリーランス法で定められた書面の交付を怠り、フリーランスが公正取引委員会に申し立てをした場合には、フリーランス法違反として指導や勧告の対象となり、命令違反は50万円の罰金処分になります。
特に違反事実を公正取引員会のウェブやSNSで公開されると、それはデジタル・タトゥとして残り続けるので、以後のビジネスに深刻なダメージが生じてしまいます。
そのような事態にしないための発注書と業務委託契約書を作成するチェックポイントについてまとめます。
発注事業者の7つの義務事項
フリーランス法では、フリーランスに業務を発注する事業者に対して、以下の7つの義務事項を定めています。
(1)書面等による取引条件の明示
(2)報酬支払い日の設定・期日内の支払い
(3)7つの禁止行為
(受領拒否・報酬減額・返品・買いたたき・購入強制・不当な経済的利益の提供要請・不当な変更やり直し)
(4)募集内容の的確表示
(5)育児介護等と業務の両立に対する配慮
(6)ハラスメント対策に係る体制整備
(7)中途解除等の事前予告・理由開示
これらのうち取引条件に関する事項は公正取引員会が所管し、フリーランスの育児介護やハラスメント問題については厚生労働省が所管しています。
取引条件や買いたたきなどの禁止行為については、公正取引員会が相談窓口となり、違反が認められたた発注事業者については処分対象になります。
契約期間に応じた義務事項と交付する書面
フリーランス法の7つの義務事項は全てのケースで適用されるわけではなく、従業員の有無やフリーランス取引の期間によって以下のような区別があります。
従業員を雇っていないフリーランスがフリーランスに対して業務の発注を行う場合も、発注側のフリーランスに同法が適用され、その場合には(1)「書面等による取引条件の明示」の義務が発注側のフリーランスに適用されます。(フリーランスが発注側になる場合は、義務事項の(1)のみが適用され、その他の義務事項は適用除外になります)。
従業員を有する発注事業者がフリーランスに業務の発注をする場合は、義務事項の(1)(2)(4)(6)が適用され、それ以外の義務事項は適用されません。
(※フリーランス法の対象となる従業員とは「週労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」になり、これ以下の時間のアルバイト等は従業員とはみなされません)。
フリーランスとの取引の期間が1ヶ月以上の場合は、(1)(2)(3)(4)(6)が適用され、同期間が6ヶ月以上の場合は(5)(7)も適用されることになります。
以上のようにフリーランス取引であっても、発注側の従業員の有無と契約期間によって適用される義務事項が異なることは押さえておきたいポイントです。
この中でも義務事項(1)「書面等による取引条件の明示」については、フリーランス取引の全てのケースで適用される重要事項になるので、必ず発注書や業務委託契約書の交付ができるように準備をする必要があります。
また、契約期間の長さによって発注事業者の義務事項が変わることを踏まえると、契約期間が1ヶ月に満たない取引には発注書のみの交付で足り、1ヶ月を超える取引には増える義務事項を考慮した業務委託契約書を交付するという対応が適切となります。
なお、発注書や業務委託契約書については電子メールやSNSメッセージといったデジタル手段による交付も認められており、必ずしも紙媒体で交付する必要はありません。
その発注書面と業務委託契約書を作成する上での要点を以下に解説します。
発注書面の要点
フリーランス法第3条には、フリーランスに業務を発注する場合の取引条件明示義務が定められており、書面にて以下の事項を表示することが求められています。
【フリーランス法第3条の取引条件表示義務事項】
・業務の内容
・報酬の額
・支払期日
・発注事業者・フリーランスの名称
・業務委託をした日
・給付を受領/役務提供を受ける日
・給付を受領/役務提供を受ける場所
・(検査を行う場合)検査完了日
・(現金以外の方法で支払う場合)報酬支払方法に関する必要事項
これらを1枚の紙面に表示すると以下のようなイメージになります。発注書面や業務委託契約書には、様式や文字サイズ等の指定はないため、書式は自由に作成して大丈夫です。
表示義務事項の詳細は以下のとおりです。
・業務の内容
業務委託をする内容について、物品の製造加工委託、情報成果物の作成委託、役務の提供委託に応じた具体的内容を明示しなくてはなりません。
物品の製造加工委託の例
「家具の製造」「農産物の生産」「金属製品の加工」など
情報成果物の作成委託の例
「ウェブサイトの作成」「業務用アプリの開発」「Youtube動画の作成」など
役務の提供委託の例
「SNSアカウントの運用代行」「引っ越し作業」「ピアノ演奏」など
また、クリエイターがコンテンツを納品するようなケースでは、コンテンツの著作権について記載する必要があります。
コンテンツの著作権について、譲渡(買取)形式とするのか使用許諾(レンタル)形式とするのかを記載しなくてはなりません。イメージ例では、著作権については譲渡形式の文言となっています。
・報酬の額
報酬の金額を具体的に明示する必要があります。具体的な金額を記載することが難しい場合は算定方法でも可能です。
・支払期日
支払期日は具体的な支払日を特定する必要があります。支払日が不明瞭な書き方は違法となります。支払期日は60日以内にしなくてはならず、そのルールは次のとおりです。
(a)支払期日を定めなかったとき
物品等を実際に受領した日
(b)納品日や作業完了日から起算して60日を超えて定めたとき
納品日や作業完了日から起算して60日を経過する日
・発注事業者・フリーランスの名称
発注事業者とフリーランスのそれぞれの名称を記載しなくてはなりません。ビジネスネームも可能ですが、商号や氏名や番号・記号であって、契約対象の発注事業者とフリーランスが識別できるものを記載しなくてはなりません。
・業務委託をした日
発注事業者とフリーランスのとの間で業務委託をすることに合意した日を記載します。これは年月日を省略せずに記載する必要があります。
・給付を受領/役務提供を受ける日
いつまでに成果物を納品するか、いつ作業を実施するのかを記載しなくてはなりません。
・給付を受領/役務提供を受ける場所
どこに納品をするのか、どこで作業を行うのかを記載しなくてはなりません。
・(検査を行う場合)検査完了日
成果物の品質や数量の検査、作業内容のチェックをする場合は、その検査完了日を明示しなくてはなりません。検査を行わない場合は、この事項は省略できます。
・(現金以外の方法で支払う場合)報酬支払方法に関する必要事項
現金以外の方法で報酬を支払う場合は、その内容を具体的に記載しなくてはなりません。
(例:「報酬はPayPayに日本円で送金するものとし、送金に係る手数料は発注事業者が負担する」など)。
支払方法が現金であれば、この事項は省略できます。
基本的に表示義務事項を網羅していればよく、記載順序等は変えても問題はありません。この発注書に記載する内容は必要最小限度のものになります。
1ヶ月に満たない単発の取引であればこの発注書の内容で足りますが、長期間の取引となる場合は、取引条件を更に詳細に記載し、フリーランス法の趣旨を踏まえて以下の事項も追加することをお勧めします。
業務委託契約書の要点
フリーランスとの取引の期間が6ヶ月以上になる場合は、前述の発注書面の内容を踏まえつつ、(5)「育児介護等と業務の両立に対する配慮」と(7)「中途解除等の事前予告・理由開示」の義務事項を契約書に反映させることが求められます。
「育児介護等と業務の両立に対する配慮」については、フリーランスが妊娠、出産または介護と業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければならず、契約条項に以下のような文言を記載することを検討するとよいでしょう。
※発注者を甲とし、受託側のフリーランスを乙と表記しています。
(育児介護等と業務の両立に対する配慮義務)
甲は、フリーランス取引適正化法第13条に規定されるフリーランスの妊娠、出産、育児または介護についての配慮義務に適正に対応し、乙の申し出に基づいて必要な装置を講じるものとする。
2 乙が前項の申し出を行った場合に、甲が配慮の内容や選択肢について十分に検討した結果、業務の性質・実施体制等を踏まえると難しい場合や、配慮を行うと業務のほとんどができない等契約目的の達成が困難な場合については、配慮の不実施の旨を伝達し、その理由について、必要に応じ、書面の交付もしくは電磁的方法により説明するものとする。
「中途解除等の事前予告・理由開示」については、①6ヶ月以上の期間で行う業務委託 について、②契約の解除または不更新をしようとする場合、③例外事由に該当する場合を除いて、解除日または契約満了日から30日前までにその旨を予告しなければならないとされており、契約条項に以下のような文言を記載することを検討するとよいでしょう。
(契約の解除)
本契約の契約期間が6ヶ月以上となる場合には、甲が本契約を中途解除したり、契約の更新をしないとするときは、解除の日の30日前までに、乙に対する書面(電磁的方法を含む)による通知を行うものとする。当該通知について、乙が理由の開示を求める場合は、甲はこれに応じ理由を開示しなくてはならない。
ハラスメント対策として、以下の文言を契約条項に加えることも検討できます。
(ハラスメント対策)
甲はフリーランス取引適正化法第14条に規定されるハラスメントによりフリーランスの就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備を行うものとする。
2 前項の相談対応窓口は、甲の〇〇〇部〇〇〇課の担当者:〇〇〇とする。
これらはフリーランス法の義務事項を反映させるための文言になりますが、取引の内容によっては他の法令に基づく検討事項も生じてきます。
取り組まれるビジネスの内容に応じた契約条項を盛り込んで、適正に業務を遂行するようにしましょう。
フリーランス法の趣旨に応じた対応を
フリーランス法は、取引の適正化を進める公正取引委員会と、従業環境の整備を進める厚生労働省の2つの省庁が所管する法律になります。
取引条件の適正化と就業環境の整備の法目的は、ビジネスの内容に応じた発注書や業務委託契約書を整備し、それを取引の際に確実に交付していくことで実現していくものです。
本記事でとりあげた事項を網羅して発注書・業務委託契約書の作成を行うことで、発注者とフリーランスの両者が安心して取引を継続できる環境を作り上げることがビジネスの発展につながっていきます。
フリーランス取引に関わる方々の参考になれば幸いです。
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本記事の筆者(行政書士・遠山桂)が作成したフリーランス取引適正化法対応の契約書と発注書面の雛形と解説文書を下記のテキストリンク先ページにて販売しております。
フリーランス新法についてのもう少し詳しい情報についても記載しています。
同法はフリーランスに外注を行う全ての事業者が対象となるため、契約書と発注書面の用意が必須といえます。(フリーランスがフリーランスに対して外注をする場合にも、発注側のフリーランスに書面交付義務が生じます)。
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