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ネット申込が電話勧誘販売とみなされ特商法の契約書不交付で行政処分となった事例(オンラインミーティングによる勧誘)

 ウェブでのオンライン申込は、通常は通信販売契約に該当するため、特定商取引法では消費者のクーリングオフを認めていません。通販サイトで買った商品はクーリングオフできないということです。

 ただしウェブでのオンライン申込がされた場合であっても、Zoom等のオンライン会議システムで商品説明などの勧誘行為があったケースについては電話勧誘販売とみなされ、事業者には特定商取引法による契約書面の交付義務やクーリングオフ対応が求められることになります。

 申込手続きをウェブのフォームやメールで受付していることを理由に、販売事業者がクーリングオフ対応を拒むケースが多いですが、ZoomやLINEで勧誘行為が行われている場合は、訪問販売や電話勧誘販売の規律が適用されることに注意が必要です。

 実際にWeb会議ツールで営業ノウハウのコンサルティング・サービスの販売を行っていた事業者が、電話勧誘販売の契約書を交付する義務に違反したとして消費者庁より3ヶ月間の営業停止の行政処分を受けました。

電話勧誘販売事業者の行政処分について|消費者庁(2024年9月5日)


特定商取引法の電話勧誘販売規律に違反した3つの行為

この事業者の行政処分については、以下の3つの特定商取引法に違反する行為があったと認定されています。

(1)契約を断った消費者に対する勧誘行為(特定商取引法第17条)
(2)電話勧誘販売用の契約書を交付しなかった(特定商取引法第19条1項)
(3)消費者にクーリングオフができないと伝えた(特定商取引法第21条1項)

 この(2)と(3)の違反については、消費者側から契約を解除できる取消権が認められます。

(1)(2)(3)の各違反については、特定商取引法第23条により消費者庁が違反事業者に対して2年以内の業務停止を命令することができるとされており、これに基づいて3ヶ月間の営業停止処分が下されました。

 本件での具体的な違反行為の内容は、消費者庁公表資料では以下のようであったと報告されています。

(1)契約を断った消費者に対する勧誘行為(特定商取引法第17条)

 事業者が消費者に対し、Web会議ツールを用いたオンラインのコンサルティングに参加するためのURLを送信し、消費者が当該URLを利用してコンサルティングに参加した際に、事業者は以下のように告げています。

「今のままだと、成果を上げることはできませんよ」
「うちの教材を使って勉強すれば、できるようになりますよ」
「これは200万円くらいするんですけど」
「ぴったりな研修ですよ」

 これに対し、消費者が「こんな高い教材、買えないですよ」と契約をしない旨の意思表示をしたところ、事業者は以下のような再勧誘を行ったと認定されています。

「皆さん、10年くらいのローンを組んで、毎月3万円ぐらい、払ってますよ」
「みんな、成果が上がって、給料が増えてるんで、繰り上げ返済して、1年から2年くらいで完済してますよ」

 こうした事業者のオンライン上での勧誘によって、消費者は情報端末からネット申込の手続を行いました。

 この一連の過程が通信販売契約ではなく、電話勧誘販売契約であったとみなされ、契約を断った消費者に対する再勧誘行為があったと違反認定されました。

(2)電話勧誘販売用の契約書を交付しなかった(特定商取引法第19条1項)

 消費者はスマートフォン等の情報端末で契約の申込手続きをしていることから、外形的には通信販売契約の体裁となっていますが、上記(1)のようなオンライン上での勧誘行為があったことが認められており、その場合は事業者には電話勧誘販売規律の要件を満たす契約書を交付する義務が生じます。

 本件の事業者は、その電話勧誘販売に対応した契約書の交付をしていなかったことが違反認定されました。

(3)消費者にクーリングオフができないと伝えた(特定商取引法第21条1項)

 本件の契約は、上記(1)のような過程で事業者によるオンラインの勧誘行為を契機として契約を締結したものであり、これは電話勧誘販売契約の規律が適用されるもので、事業者には契約書の交付とクーリングオフ対応が義務化されています。
 それにもかかわらず、この事業者は「この契約は、クーリング・オフできないよ」、「キャンセルできないよ」、「クーオフ や解約はできないんですよ」などと説明しており、これが不実のことを告げたという違反認定をされました。

 以上のように、事業者が自らのビジネスを通信販売契約だと認識していた場合、電話勧誘販売や訪問販売の勧誘要素があると特定商取引法違反としてトラブルを引き起こし、それが行政処分につながるリスクがあります。

 ネット申込で完結するビジネスであっても、特定商取引法で規定される勧誘要素がある場合には、同法に基づいた契約書を用意して運用し、消費者からのクーリングオフの申し出には粛々と対応する必要があります。

アップセル・クロスセルは電話勧誘販売に認定

 ウェブの広告を見て注文(申込)の操作をする契約は、特定商取引法では通信販売に類型され、事業者には取引の基本情報を表示する義務が適用されますが、契約書の交付やクーリングオフは適用除外となります。

 しかし、広告を見た消費者に契約の勧誘をすることを告げずに電話をかけさせる行為(いわゆるアップセル・クロスセル)については同法の電話勧誘販売に該当するとされています。

※アップセルとは、商品やサービスをより上位の高価なものに移行してもらう営業活動のことをいい、クロスセルとは、関連するものを組合せで購入してもらう営業活動のことをいいます。

 つまり、消費者が通販サイトで注文ボタンをタップする形式で申込操作をしたとしても、その操作より以前に事業者がZoomやLINE等で消費者と交信し、勧誘を行う場合は同法の電話勧誘販売のルールが適用されることになります。

SNS勧誘は訪問販売に認定

 ウェブの広告を見た上でのネット申込であっても、消費者の申込操作の以前にアポイントメントセールスがあった場合には、特定商取引法の訪問販売ルールが適用されることになります。

 アポイントメントセールスとは、販売目的を隠し、電話等で事務所や店舗に呼び出し契約させる商法のことです。

 同法では、ショートメール、電子メール、SNSを利用した勧誘行為もアポイントメントセールスに該当するとしているため、LINEのメッセージ交信からカフェに呼び出し、その場で勧誘をして、スマートフォンで申込操作をさせる場合等については訪問販売ルールが適用されます。

 特定商取引法の電話勧誘販売と訪問販売のルールは、ほぼ同じ規制内容となっており、この2つは同じ内容の契約書で対応が可能になります。

 以上の特定商取引法のルールをよく把握し、ZoomやSNSを利用したビジネスについては取引条件の明確化と必要に応じた契約書の交付を怠らないようにする必要があります。

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