18. 貢献と搾取
事件が起こったのは2015年4月、いや5月。定かではないが、それは起こってしまった、らしい。
主にはWEBでリーマンサットの活動発信とメンバー募集を呼びかけて、当時はメンバー数が40人ちょっと。順調に人が集まっていた。当時は技術と広報であんまり頭数の差はなくて、技術が20人強で残りが広報。立ち上げメンバー5人のうち、技術班に出てたのはM氏しかいなかったので、もくもくと技術班が参考書片手に手を動かしている傍らで、広報のメンバーがあほな話をしながらわいわいやっているという構図だった(うるさすぎて幾度か技術班から苦情がでるくらい)。
当時からミーティングの形式としては、いったん活動全般について話をしたあとは、技術と広報にそれぞれ分かれて(特に交流もなく)、それぞれで話をしてそれぞれ進めていく感じ。
ぼくは技術班で何をしているかどんなことが起こっているのかつゆ知らず、広報班を楽しくやっていくにはどうすればいいかをたたひたすら考えて話をしていた。さいわい、WEBデザインをやってくれるメンバーがいて少しずつHPの構想ができていたところだ。
一方、技術班にはぼくは手が出せないし、できることもないのでいったん班ごとの活動に別れたらあとは何をしているのかは全然わからない。
そして、立ち上げメンバーのM氏が中心になって進めている技術班で事は起こった。
その事件というのは、ざっととりまとめると参加者の一人が「あなたたちは、何の見返りもなしに私や他の専門家が持っている知識や経験を搾取しようとしているのか」とモノ申した、ということらしい。
その言を放ったのは、航空宇宙工学とか宇宙物理学とか、とにかく宇宙開発に関することを専攻している学生だったそうだ。おそらく、その人は自分の持っている知識や経験に誇りに思っていて、ただでそれを使おうとしているぼくらが許せなかったのだろう。
ぼくはその場にいなくてまた聞きになってしまうのだけれど、その時はM氏の大人対応でどうにか収めたらしい。
「何の見返りもなしに知識や経験を使おうとしているのか」と言われたら、そうだとしか言いようがない。
その当時(今もあんまり変わらないだろうけれど)のぼくらには誰にでも門戸の開かれた宇宙開発ができる場、それも道具とか特定のスペースという意味ではなく、人の集まりとしての場、そしてそういう場を作りたいという思いしかなかった。
そもそもリーマンサットは労働を見返りに給料が発生する企業ではないし、知識や知見を生徒に与える教育機関でもないし、生活や世界を少しでも良くする社会団体でもない。
リーマンサットは趣味の団体だ。外から見てどんな崇高なことをしようが、趣味の見返りというのがあるとすればそれは自己満足しかない。
ぼくらは活動に参加してくれる人に「やれ」とは絶対に言わない。力を貸してほしいとお願いはするが、力を貸せと強制することは決してしない。なぜならば趣味だから。
もし力を貸してくれると言ってくれたら、それはとてもうれしい。でも、どの程度の時間や労力を投入するのかを決めるのはその人自身で、ぼくらそれをありがたく受け取るだけだ。
リーマンサットは「趣味で宇宙開発できる場」を提供することしかできない。それ以外を期待されても何もでない。無い袖は振れない。「参加してくれればステキな何かをあげるよ」なんて言うつもりもない。
とあるメンバーが「リーマンサットは究極の暇つぶしだから参加している」と言っていたことがある。それはまさにうれしい至言で、趣味は暇つぶしで生産的な活動とは違う。
もしかしたらリーマンサットの活動に関わることで、人工衛星の作り方とか、はんだ付けの仕方とか、まとまりのない組織を運営する方法を得ることができるかもしれない。けれどそれは、リーマンサットが与えたものではなくその人が自分自身で学び、経験して自らつかみ取った結果だ。
リーマンサットに参加してくれるのは、なんだかよくわからないけれどこの活動に意味を見出してくれた方だと思っている。そうでないというのなら目に見えるものや知識や実績がない怪しい団体に何を求めているのか聞いてみたい。もし「これこれを与えてやるからお前らも何か寄こせ」と言われたら「うちはそういうところではない」としか言えない。
それは打ち上げをして、何百人も集まってきた今でも変わらないと思う。
リーマンサットいう土壌は何かを与えてほしいという人には向かない。けれど、自ら何かを見出し、自ら何かを考えて行動をする人には、それを否定せず、たとえ失敗したとしても称賛できるそんな場所にしたい。ぼくは人工衛星のことはどうでもよかったけれど、そんなことばっかり考えていて、それ以外のことはやってないしするつもりもなかった。
そんなこともありながら、零号機打ち上げまであと3年と四か月。
リーマンサットに興味を持ってしまった方はこちらへ
https://www.rymansat.com/
PHOTO BY NASA
皆さまのご厚意が宇宙開発の促進につながることはたぶんないでしょうが、私の記事作成意欲促進に一助をいただけますと幸いでございます。