日本のソーシャルレンディング興亡史(前近代まで)
これは「Funds Advent Calendar 2022」11日目の記事です。
僕が所属しているファンズという会社では、いわゆるソーシャルレンディングとか、融資型クラウドファンディングとか呼ばれる投資サービスを提供しています。
このソーシャルレンディングという仕組み、ここ数年はテレビCMが放送されたり新聞に広告が掲載されたりしていて、少しずつメジャーになってきているように思うのですが、日本での歴史は意外と長かったりします。
そしてその中でいろんなプレイヤーが(それこそプレイヤーによっては彗星のごとく)登場して、そしていくつかのプレイヤーはこの世界を去っていきました。
、、、去っていったものはハレー彗星のように戻ってくることはなく、永遠に暗黒の宇宙を彷徨い続けるのでしょうか。
(旧エクスチェンジコーポレーション社(AQUSH)のようにソーシャルレンディング事業は畳んでもPaidyとしてカムバックを遂げたプレイヤーもいるので、わからないものです。)
ここからは、独断と偏見で日本のソーシャルレンディングのプレイヤーの興亡史を、生命の進化よろしくいくつかの時代に分けて追ってみます。
ソーシャルレンディングの先カンブリア時代
2005年頃、イギリスでZopaがマーケット型のソーシャルレンディングサービスを開始します。
マーケット型というのは、借り手の信用情報に基づく格付けが提示され、投資家(貸し手)は借り手の信用情報に基づいて提示された格付けをベースに融資額や金利を設定する、というもので、借り手に有利な金利と金額を提示した投資家が融資を行うことになります。
2006年にはUSでProsperがマーケット型のサービスを、2007年にはLending Clubがサービスを開始しています。
この頃はまだ、インターネットを利用した個人間融資が中心で、Peer to Peer (P2P)Lendingなんて呼ばれていました。まさにSocialなLendingです。
原始ソーシャルレンディング誕生期
このような流れを受け、2008年10月15日、原始的な生命が誕生します。maneo(maneoマーケット社)がついに日本でソーシャルレンディングサービスを開始したのです。
当時のmaneoが提供していたのはオークション型といって、借り手が自分の信用力と資金使途をアピールして、一番低い金利を提示した投資家が貸し出す権利を落札するものでした。一番低いものを提示すると落札できるとか、職業・殺し屋みたい。
その後、2009年には旧エクスチェンジコーポレーション社(現在のPaidy社)によるAQUSHが、2011年3月にはSBIソーシャルレンディングが、マーケット型のサービスを開始します。
ここまでは、個人間の融資をとりつなぐようなサービスが中心だったのですがまだまだ黎明期で、生命の進化でいえば原核生物か嫌気性細菌みたいなもの、第1世代のソーシャルレンディングの姿です。
個人間の融資なので金額は限定されるし貸倒れだって発生します。
このため、日本に登場したプレイヤーは個人向けの融資から軒並み撤退し、企業向けの融資へと転換していくことになります。
maneoの企業向け融資への転換と加速
そして2013年9月、maneoマーケット社の社長に瀧本氏が就任し、事業者向け融資への流れが加速しました。聞くところによると「儲かるソーシャルレンディングを展開するのであれば事業者向けにのみフォーカスすべき」と考えたのだとか。
瀧本氏は一般投資家への見せ方にこだわっていたのか、融資を「案件」と呼んで案件ごとに担当者を設定し、ファンドの募集ページに担当者のコメントを載せていたことも強く記憶に残っています。
また、顧客から資金の預託を受ける口座を「デポジット口座」と呼んだのは、おそらくmaneoが最初だったのではないかと思います。
(ちなみに当初は顧客資金をmaneoマーケット社とは別のmaneoエスクロー社が預託を受けることで分別管理するといった資金決済法に抵触してるんじゃないかと電凸したら担当者タライ回しの挙げ句ガチャ切りされた謎なスキームをとっていたのは趣深い。)
第2世代(たぶん)の登場
同年(2013年)12月5日、日本クラウド証券によるクラウドバンクが、旧エクスチェンジコーポレーションで副社長をしていた大前氏を社長に迎えて事業者向けのサービスを開始。
第一種金融商品取引業者(証券会社)で、当時のグリーンシート銘柄を細々と取り扱っていた旧みどり証券に対して公開買付が行われ、クラウドファンディング専業の証券会社に転換を果たすという、振り返ってみてもなかなか興味深いケースであったようです。この頃のクラウドバンクは新興国のマイクロファイナンス機関に融資をするファンドも扱っていて、資産運用を通じて社会貢献を行うこともアピールポイントにしていたようです。
この社会貢献といった側面を強調していたのが翌年(2014年)6月にサービスを開始したクラウドクレジットです。
この当時はまだ適格機関投資家等特例業務というプロ向けのファンドで、一般投資家に対してサービスを提供できるようになったのは同年の11月だったようです。
その後も海外向けの融資を行うファンドという独自色を貫いています。
さらに同年(2014年)9月には、ロードスターキャピタル社によりOwnersBookがサービスを開始しました。
OwnersBookはサービス開始当初こそ不動産担保付き融資ファンドによるソーシャルレンディングでしたが、現在はむしろ不動産投資特化型のクラウドファンディングサービスといったほうが通りが良いかもしれません。実際、融資型のスキームだけでなくエクイティ出資型のスキームに投資対象を広げています。
振り返ってみるとクラウドバンクの新興国マイクロファイナンスファンドやクラウドクレジットのようなファンドはわりとイレギュラーで、一般投資家の投資した資金が毀損しないよう担保付きの事業性融資が好まれるのはそんなに不自然なことではありませんでした。そしてOwnersBookの登場により、「ソーシャルレンディング=不動産事業者に対する不動産担保付きローン債権による運用」という構図が加速したように思います。(後述するラッキーバンクも不動産事業者に対する不動産担保尽きのローン債権による運用を謳っていました。)
興味深いのは、この2013年末から2014年秋に登場したプレイヤーが今も事業を継続しているという点です。
カンブリア爆発
2014年の秋くらいまでは数えるほどしかなかったソーシャルレンディング事業者ですが、2014年末頃から新規参入が相次ぎます。
なお、2014年末頃からとしているのは、信仰上の理由からラッキーバンクを「彗星のごとく現れたプレイヤー(そして消えていった)」としてカウントしておきたいからです。
maneoファミリーの登場
2015年7月、maneoマーケット社によるソーシャルレンディングのプラットフォームの他社提供が始まりました。
第二種金融商品取引業はファンドの販売を「自己募集=自社でファンドの募集・組成を行うもの」と「募集の取扱い=他社が組成するファンドの募集の部分のみを行うもの」のいずれも行うことができるのですが、第二種金融商品取引業登録をしているmaneoマーケット社は、グループ会社であるmaneo社の組成するファンドの他に、グループ外の第三者が組成する融資型ファンドの募集の取扱いを行うことで得られる募集取扱手数料を収益源とすることを企図したようです。融資ファンドを組成しようとしている事業者からしてみれば、自社や自社グループで第二種金融商品取引業の登録を行わないで済むので、金融機関としての態勢整備義務を追わずに済んだワケです。
最終的には10社にプラットフォームを提供し、一部のブロガーやTwitterユーザーの界隈では「maneoファミリー」なんて呼ばれていた記憶があります。サービス名とサービス開始時期はおそらくこんな感じ(俺調べ)。
maneo
LCレンディング(2015年7月-)
ガイアファンディング(2015年10月-)
クラウドリース(2016年2月-)
スマートレンド(2016年4月-)
グリーンインフラレンディング(2016年9月-)
アメリカンファンディング(2016年10月-)
さくらソーシャルレンディング(2016年12月-)
キャッシュフローファイナンス(2017年2月-)
アップルバンク(2017年4月-)
プレリートファンド(2017年12月-)
この頃のmaneoの勢いはなかなかスゴくて、2016年3月にGMOクリックHDとの間で資本業務提携が行われ、2016年10月からはGMOクリック証券を通じたmaneoのファンドの取扱いも行われていました。
それから、2016年8月にはSPIRAL VENTURESの出資するファンドから、2016年11月にはibis(アイビス・キャピタル・パートナーズ)が運営するファンドと池田泉州キャピタルが運営するファンドから、2017年4月にはVOYAGE GROUPとSV FRONTIERが出資するファンドから、それぞれ資金を調達するなど、VCからも期待を集めていたようです。
ほかにもSMBC系のVCからも資金調達をしていました。
かなりの資金を調達する中で態勢整備状況についてもDDを受けていたと思うのですが、本当に、どうしてああなってしまったのかと考えるととても残念な気持ちで胸がいっぱいになります。合掌。
この頃の新規参入組
2014年12月11日、ラッキーバンク(ラッキーバンク・インベストメント社)が不動産事業への融資に特化したサービスを開始。すべての融資ファンドに不動産担保が設定されていることを謳っていました。想定利回りは6〜10%程度でしたから、振り返ってみるとその後で登場するびっくり利回り事業者に比べるとずっとオトナシイ印象を受けます。それでも10%というターゲットは、この業界の当時の利回りの水準との比較ではかなり高めに設定されていました。
融資型ソーシャルレンディングサービスが始まってから長くないタイミングで社長が交代していたので「おや?」と思ったのですが、健康上の理由だったそうです。本当かしら?
2015年11月、トラストレンディング(エーアイトラスト社)がサービスを開始。
公共事業に関わる事業者への融資を謳って独自性をアピールするとともに、取締役に官僚出身者が複数含まれることで信頼性と公共事業との強いパイプの存在を示唆してしていました。
また、ファンドの想定利回りも多くが10%を超える業界最高水準のものであったことや、融資関連の業歴も短くなかったこともあって、一般投資家の注目を集めていたようです。
2016年4月8日、みんなのクレジット(みんなのクレジット社)がサービスを開始。その後、怒涛の勢いで大規模なキャンペーンを実施したり高利回り(14.5%!)を設定したりして耳目を集めます。あっという間にファンドの成立額が15億円を突破しました。
また、人工知能に基づく自動融資審査システムの自社開発を目指す等と、パッと聞くととてもFinTechっぽいことを掲げていたことも記憶に残っています。
余談ですがソーシャルレンディングってFinTechに区分されるようですしファンドの募集から管理に至るあたりはたしかにTechなのでしょうけれど、肝心の融資先開拓や融資審査はハテさてどうなんでしょうか。
、、、おっと誰か来たようだ。
大量絶滅
みんなのクレジット、トラストレンディング、ラッキーバンク、maneoとその兄弟シリーズ、そしてSBIソーシャルレンディング。。。
みんないなくなりました。
このあたりからまったくもってシャレにならない事件がたくさん挙げられることになります。
元本が毀損した投資家の皆様には大変心苦しいのですが、ブラックなユーモアでも交えないと気持ちが沈むので、ご容赦いただければ。
まぁ虚偽表示やら重大な事実につき誤解を生ぜしめるべき表示の多発です。ファンドの募集ページの内容が実態を伴っていなかったり、盛りに盛っていたりしたと認定されたものです。
(その裏側には、審査やモニタリングが適当だったよね、と言われたワケです。)
みんクレ事件
2016年にサービスを開始したみんなのクレジットですが、いくらサービス開始時期の宣伝のためとはいえ、この超低金利の時代に融資ファンドで14.5%を投資家に還元するってさすがに香ばしい匂いしか漂ってこないワケです。「みんなのクレジット側はどうやって儲けているんだろう、おかしいなーおかしいなー」と思っていたら証券取引等監視委員会のWebサイトに検査先としてみんなのクレジットの名前が掲載され*、募集が止まり、2017年3月には行政処分に至りました。
*当時は立入検査が行われるとその事実が監視委のWebサイトで公表されていました。
行政処分の詳細は既に公開が終了していて見られないのですが、以下のようにされています。
2018年3月 ラッキーバンク(ラッキーバンク・インベストメント)への業務改善命令
不動産事業を資金使途とした不動産担保付きのローンでの運用を謳って業界に参入したラッキーバンクですが、2018年3月に行政処分を受けます。
この当初は業務停止命令は伴わず、業務改善命令だけでしたが、関東財務局による行政処分の理由を読むと、貸付先の審査も、担保物権の評価も、一般投資家に対して説明された水準にカスりもしない水準にあったという認定を受けていることがわかります。
翌2019年にはいわゆる集団訴訟の提起と、2018年の行政処分を踏まえた債権保全・回収が投資者保護を考慮していない等として登録取消処分に至りました。ファンドの運用をする者としてのフィデューシャリー・デューティーの観点から不適切と指摘しているのが趣深い。
2018年7月 maneo(maneoマーケット社)への行政処分
maneoファミリーと呼ばれる複数のソーシャルレンディングサービスにプラットフォームの提供を行っていたmaneoですが、2018年7月には再生可能エネルギー事業の開発資金等にファンド資金を支出するグリーンインフラレンティングについて、虚偽表示と態勢構築義務違反を理由とした業務改善命令がくだされます。
特に後者の態勢構築義務違反の部分ですが、ソーシャルレンディング業界に対するFSAのモニタリング重視の考え方を行政処分の中で示したものと考えられます。
結局maneoマーケット社は、この行政処分以降、新たなファンドの募集が事実上不可能となり、また、グリーンインフラレンティングやその他のプラットフォーム提供先でも融資債権の回収が滞る(その内の複数のサービスではファンドの営業者が倒産)に至るなど、一時期、ソーシャルレンディング業界のトップに君臨していたとは思えない勢いで凋落していきました。
2018年12月 トラストレンディング(エーアイトラスト社)への行政処分
公共事業に関連した融資を謳い、また、役員に官僚出身者を揃えていたはずのトラストレンディングですが、2018年12月に虚偽表示を理由として業務停止命令と業務改善命令を受けます。
行政処分の理由を読んでみると、融資先が公共事業に絡んでいたとか、清々しいくらいに嘘っぱちも良いところ!
その後2019年3月には、さらにたくさんの虚偽表示等がゴロゴロと出てきた結果、ソーシャルレンディング事業者初の登録取消処分に至ります。
2021年 SBIソーシャルレンディングの自主廃業と行政処分
maneoが活動を事実上停止している中で業界のトップに躍り出たのがSBIソーシャルレンディングでした。
その後、一部のファンドでの償還遅延が相次いで報告されていた中で、2021年4月、第三者委員会の設置と事実関係の調査が公表されました。
公表によれば、虚偽表示等、不十分な審査・モニタリングといった、どこかで読んだような内容がここにも。
そして2021年5月24日、自主的な廃業とソーシャルレンディング事業からの撤退が決定されたことが公表されます。
このとき僕はこの業界を離れていましたが、さすがにこのニュースは公表から数時間内に耳に飛び込んできました。マンガかよってくらいに椅子から落ちましたよ、ええ。
その後2021年6月、SBIソーシャルレンディング社に対し、虚偽表示等と実効的な貸付審査及びモニタリングの欠如といった態勢不備を理由とした業務停止命令がくだされるに至ります。
それからの顛末ですが、金商法に規定されている事故に該当するため、対象ファンドの投資家に対し、未償還の元本相当額の補填が行われたようです。(損失の補填は原則として禁止されていますが、事故の場合には一定の手続きを踏むことで例外的に補填が許容されることがあります。)
新生代(新世代のプレイヤーの登場とか何とか)
上記のような行政処分を通じ、芳しくないプレイヤーが淘汰され、それと同時にソーシャルレンディングを取り巻く規制の変化しつつあります。
最初の変化は匿名化の緩和だったのではないでしょうか。
パラダイム・シフト(匿名化の緩和)
一昔前のソーシャルレンディングでは、ファンドを用いた融資について「特定の借り手への貸付に必要な資金を供給し、貸付の実行判断を行なっている場合には、貸付行為を行っているものと評価(貸金業登録が必要)するが、…(中略)…借り手を特定することができる情報が明示されていないこと(匿名化)、複数の借り手に対して資金を供給するスキームであること(複数化)」が要請されていました。
これに対し、2019年3月18日付で公表された「金融庁における法令適用事前確認手続(回答書)」により、事業のスキーム、ファンド事業者(融資事業者)、ファンド販売業者についてそれぞれ一定の要件を満たす場合であれば融資先の匿名化・複数化は不要とされることになりました。
みんなのクレジットやラッキーバンク、トラストレンディングの事例は融資先が匿名化されていたことを奇貨としてソーシャルレンディングを悪用した事例だと整理できるので、この匿名化の解除によって透明性が向上したことは投資家保護の流れとしては好ましいことだと考えられます。
ただ、これらの一定の要件を満たさない場合には依然として融資先の匿名化・複数化は必要とされているあたりはまだまだ要注意なので、あくまで「匿名化の緩和」としか言えないのですけどね。
新たなプレイヤーの登場
手前味噌ながら、僕の所属するファンズ社はFundsという名称でもって2019年1月にソーシャルレンディング事業を開始しています。
他にもたくさんのプレイヤーが参入しています。
購入型クラウドファンディングサービスを提供しているCAMPFIREが2019年にソーシャルレンディング事業に参入してきたのはなかなかのインパクトでした。が、さらに衝撃を受けたのは、8月に発表されたMBOと新体制への移行です。
また、商業手形割引等を行ってきたバンカーズ社が2021年にBankersを本格稼働させていましたが、今年はSBIソーシャルレンディングの事業を引き継いだことに個人的に衝撃を受けました。
おしまい
ソーシャルレンディングという投資サービスが一般化されるにしたがって、これからも規制の見直しが行われていくことになると思われます。
その中で、いろんなプレイヤーが現れ、ある者は残り、ある者は去って行きました。
去っていったプレイヤーにもそれぞれの理由がありました。悪質な不祥事を起こして去っていった者もあれば、事業の継続性に疑問があって去った者もいたかもしれません。
幸いなことに僕の所属するファンズはお客様や株主の皆様からご期待を頂戴し、過去のたくさんの事例から学びながら今もソーシャルレンディング事業を続けられています。
僕らがお客様に、監督当局に、何を求められているのかを常に考えていくことが求められていると思いながら、本稿を締め括ります。