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2024年11月20日ごろ発売! 『地震学』の詳細目次をご覧あれ

東京大学の井出哲(いで・さとし)教授による専門書『地震学』が、講談社から刊行されます。すでに各書店Webサイトなどでは書誌情報が公開され、予約受付がはじまっています。
Web上の書誌情報には文字数の制限があり、詳しい内容がわかりにくいかもしれません。そこで本記事では、詳細目次各章のイントロの文章を掲載いたします。ご購入を検討する際にご参照いただければ幸いです。


第Ⅰ部 イントロダクション

第1章 地震とは?

 本書では、地震の震源で進行する力学的なプロセスについて、現時点での理解を、なるべく物理学的、数学的に統一的に提示することを目指す。本章では、その準備として、まず地震に関する基礎的な知識をレビューする。地震とは何か? その大きさはどう測るか? 地震波とは何か? 地震と断層の関係は? などの事柄である。また、地震観測や震源決定についての基本的な知識で、必ずしも第2章以降の内容としてカバーできないことについても紹介する。さらに地震活動の多様性や、プレートテクトニクスとの関係、そして近年話題になっているスロー地震について、その基本的な知識を紹介する。これらの内容については、第Ⅳ部で再びより詳細に扱うことになる。

1-1 総合的地球科学現象としての地震
1-1-1 地震動・地震波・震源過程/1-1-2 地震の大きさ——震度とマグニチュード/1-1-3 地震のエネルギーの蓄積と解放——地震のシステム
1-2 地震動の観測
1-2-1 簡単な振動計測/1-2-2 周波数と振幅と計測機器/1-2-3 加速度・速度・変位/1-2-4 地震観測におけるノイズの特性
1-3 実体波と表面波
1-3-1 P波とS波/1-3-2 表面波/1-3-3 実体波と表面波の距離依存性/1-3-4 地球における地震波の伝播
1-4 震源とマグニチュード
1-4-1 震源決定/1-4-2 マグニチュード①——もともとの定義/1-4-3 マグニチュード②─さまざまな定義
1-5 地震と断層運動
1-5-1 地表地震断層と震源断層/1-5-2 正断層・逆断層・横ずれ断層/1-5-3 活断層
1-6 破壊すべりの時間空間的な広がり
1-6-1 破壊すべりの伝播/1-6-2 破壊すべりの速度と継続時間/1-6-3 波動と破壊の伝播
1-7 プレートテクトニクスと地震活動概観
1-7-1 プレートテクトニクス/1-7-2 プレート境界と地震/1-7-3 地震の大きさと頻度/1-7-4 地震の深さと深発地震/1-7-5 本震・前震・余震・群発地震
1-8 スロー地震活動概観
1-8-1 スロースリップ/1-8-2 低周波地震とテクトニック微動/1-8-3 広帯域スロー地震/1-8-4 スロー地震の発生地域/1-8-5 スロー地震のさまざまな特徴

第2章 弾性体力学の基礎

 地震時の岩盤の破壊や変形、地震波動の放射や伝播を力学的に記述するためには、弾性体力学の知識が基本となる。具体的にはひずみ(歪)や応力の定義、弾性体の構成関係や弾性定数、弾性体の運動方程式、波動方程式などである。その記述には、基本的なベクトル解析や微分方程式など、大学教養課程レベルの物理数学が必要となる。弾性体力学は、地震に関する教科書のほとんどで説明されており、専門的に扱った書籍もあるので、本章では簡単な説明にとどめる。すでに理解している読者は飛ばしても問題ない。それでも、本章を一読すれば、本書を通じて用いられる数式の記載方法に慣れることができる。なお、この数式の記載方法は、Aki & Richards(1980; 2002)に準拠している。

2-1 ひずみ
2-1-1 有限物体のひずみ/2-1-2 連続体のひずみ/2-1-3 ひずみテンソル
2-2 応力
2-2-1 トラクション/2-2-2 応力テンソル/2-2-3 応力テンソルの対称性
2-3 テンソルの基底変換
2-3-1 ベクトルとテンソル基底の回転/2-3-2 主値と主軸/2-3-3 テンソルの不変量
2-4 ひずみと応力の絶対値
2-4-1 ひずみの大きさ/2-4-2 地震時の応力変化
2-5 線形弾性体の構成関係——Hookeの法則
2-5-1 線形弾性体/2-5-2 等方弾性体/2-5-3 さまざまな弾性定数
2-6 運動方程式と弾性波動方程式
2-6-1 運動方程式の導出/2-6-2 ナビエの方程式
2-7 一意性定理
2-7-1 変位場決定の必要条件/2-7-2 2つの変位場の一意性/2-7-3 一意性定理の意味


第Ⅱ部 破壊すべりと震源波動場

第3章 表現定理とグリーン関数

 第II部では震源と波動場の関係について説明する。地震時には、地下で破壊すべりが発生する。破壊すべりは周囲の弾性体のエネルギーを解放し、そのエネルギーが地震波として遠方へ伝播し、観測地点で変位・速度・加速度などの地震動として観測される。本章では、この一連のプロセスを、震源近傍のプロセスとそこから先、すなわち弾性体の中の波動伝播のプロセスに分ける。地下の波動伝播については、一般性を考慮しつつも、具体例では無限等方均質媒質中の伝播を検討する。波動伝播を記述するグリーン関数を紹介するとともに、震源近傍のプロセスと波動伝播のプロセスを結びつける表現定理を導出する。この章の内容は、第2章に引き続きAki & Richards(1980; 2002)にならっている。

3-1 地震波動方程式の概要
3-1-1 表現定理の概要/3-1-2 遠地地震波の概要
3-2 グリーン関数
3-2-1 一般的定義/3-2-2 線形弾性体の運動方程式のグリーン関数
3-3 無限等方均質弾性媒質のグリーン関数
3-3-1 Stokes解とグリーン関数/3-3-2 シングルフォースによる変位場
3-4 表現定理
3-4-1 一般的な表現定理/3-4-2 表現定理の説明
3-5 グリーン関数の空間相反性
3-5-1 空間相反性/3-5-2 空間相反性を用いた表現定理の形
3-6 断層面についての表現定理
3-6-1 表現定理の単純化/3-6-2 断層すべりの導入
3-7 複雑な媒質のグリーン関数
3-7-1 1次元グリーン関数/3-7-2 3次元グリーン関数

第4章 モーメントテンソルによる震源の表現

 地震の震源は、モーメントテンソルという2階対称テンソルで一般化される。モーメントテンソルの特殊形のひとつが、ダブルカップルと呼ばれるもので、これは一点に集中した断層すべりに対応する。このダブルカップルの大きさが、地震モーメントである。これは、物理学的に意味が明確な地震の大きさとして、広く用いられている。等方均質媒質中のダブルカップルによる地震波動の表現式を導出することで、観測される地震波のP波とS波の特徴的な振動パターンを理解することができる。この章では、引き続きAki & Richards(1980; 2002)を参考にしつつ、これらの概念について説明する。

4-1 点すべりの等価体積力
4-1-1 「点すべり」の導入/4-1-2 等価体積力
4-2 ダブルカップルと地震モーメント
4-2-1 偶力/4-2-2 ダブルカップル/4-2-3 地震モーメント/4-2-4 モーメントマグニチュード/4-2-5 ダブルカップル、シングルカップル論争/4-2-6 回転する断層
4-3 モーメントテンソル
4-3-1 ダブルカップルの拡張/4-3-2 モーメントの主値と主軸
4-3-3 非ダブルカップル成分
4-4 さまざまなモーメントテンソル
4-4-1 点すべりとP軸、T軸/4-4-2 開口クラック/4-4-3 CLVD震源/4-4-4 モーメントテンソルダイアグラム
4-5 ダブルカップルによる変位場
4-5-1 ダブルカップルによる変位場の導出/4-5-2 遠地項と近地項/4-5-3 ダブルカップルの放射パターン

第5章 現実的な震源①——点震源

 ここまで、震源と地震動の数学的な表現について考えてきた。この章では、その表現と実際の自然現象としての地震を対応づける。地下の地震を定量化するために、まず地震を地理的な座標系に位置づける。観測点での地震波観測から、震源位置と大きさ、さらにどのような方向の運動が起きたか(震源メカニズム解、発震機構※1)がわかる。メカニズム解は、地下の断層運動の方向や大きさと関連する。断層運動の方向は、その地震の発生場所(たとえばプレート境界なのか、内陸の断層なのか)の判断や、地域的な応力場の状態を考察するのにも役立つ。さらに点震源という制約の中で、地震の破壊すべりの時間変化や地震波エネルギーの表現を導出する。

※1 広く震源の運動という意味で発震機構という用語が古くから使われてきた。現在ではこの用語はおもに発震機構解(focal mechanism solution)、もしくはメカニズム解として、ダブルカップル(もしくはモーメントテンソル)を用いた断層運動方向表示の意味で用いられる。

5-1 震源と観測点
5-1-1 観測方位と射出角/5-1-2 震源球と初動分布
5-2 断層運動の向きとパラメター
5-2-1 矩形断層の断層パラメター/5-2-2 3タイプの断層運動/5-2-3 断層面ベクトルとすべり方向ベクトル/5-2-4 初動極性によるメカニズム解推定
5-3 断層運動のビーチボール
5-3-1 ビーチボール表示/5-3-2 断層タイプとビーチボール/5-3-3 モーメントテンソルのビーチボール/5-3-4 ビーチボールとテクトニクス
5-4 モーメントテンソルインバージョン
5-4-1 波形を使ったメカニズム推定/5-4-2 モーメントテンソルの基底展開/5-4-3 MTインバージョン/5-4-4 CMTインバージョン
5-5 震源時間関数
5-5-1 地震波の例/5-5-2 遠地地震波パルスと地震モーメント/5-5-3 震源時間関数のカタログ
5-6 震源スペクトル
5-6-1 オメガ2乗モデル/5-6-2 オメガ2乗モデルの時間関数
5-7 地震波エネルギー
5-7-1 地震波エネルギーの定義/5-7-2 点震源の地震波エネルギー/5-7-3 地震波エネルギーマグニチュード/5-7-4 オメガ2乗モデルのエネルギー/5-7-5 地震モーメントと地震波エネルギー

第6章 現実的な震源②——面的モデル

 点震源をより現実的な震源に近づけるために、本章では線状、および面状に広がる震源を考え、その震源から放出される地震波動の数学的表現を導く。広がりをもつ震源からの地震波動は、観察する方向によって異なる。この性質を地震波動の方位依存性と呼ぶ。本章では、面的な広がりをもつ2つの震源モデルを用いて、典型的な方位依存性を紹介する。面的な広がりを考慮することで、地震のすべり量や継続時間なども評価可能になり、大きな地震と小さな地震は何が違うか、という議論につながる。規模による現象の違いを説明することをスケーリングという。本章では地震のスケーリングの基本についても紹介する。

6-1 すべりの空間分布と遠地地震波
6-1-1 観測点に依存するモーメントレート関数/6-1-2 観測距離の線形近似
6-2 1次元震源モデル——ハスケルモデル
6-2-1 移動点震源/6-2-2 方位依存性/6-2-3 ライズタイムのあるハスケルモデル/6-2-4 ハスケルモデルのスペクトル/6-2-5 放射パターンと方位依存性
6-3 2次元断層モデル——佐藤・平澤モデル
6-3-1 点からの破壊進展/6-3-2 一斉に止まるときの地震波/6-3-3 地震波の立ち上がりとストッピングフェーズ
6-4 震源と地震波のスケーリング
6-4-1 震源面積と地震モーメントの関係/6-4-2 円形断層すべり(クラック)とスケーリング/6-4-3 Bruneの応力パラメター/6-4-4 幾何学的相似スケーリング/6-4-5 規格化エネルギーのスケーリング/6-4-6 マグニチュードの飽和/6-4-7 幾何学的スケーリングの限界

第7章 現実的な震源③——複雑な震源像

 現在、世界中で高品質の地震・地殻変動データが大量に得られている。大量のデータを用いて震源過程を分析する手法も発展してきた。過去約30年間、震源の複雑さを調べるために、断層すべりインバージョンをはじめとする、さまざまな分析法が提案されている。それらの分析によって得られた震源のイメージは、地震の物理プロセスにおいて、検討すべきいくつかの要素を明らかにしている。破壊の伝播速度や、断層破壊のエネルギーバランス、地震波の周波数依存性、複雑さのスケーリングなどである。本章では、震源の複雑さを調べるための代表的な手法を紹介し、現在の地震現象理解において重要な要素を検討する。

7-1 複合的な震源の表現
7-1-1 サブイベント/7-1-2 サブイベントMT解析/7-1-3 バックプロジェクション
7-2 断層すべりインバージョン①——問題設定
7-2-1 点震源から面へ/7-2-2 観測データ/7-2-3 面上のすべり分布の表現/7-2-4 グリーン関数の計算
7-3 断層すべりインバージョン②——解の推定
7-3-1 ベイズ推定と拘束条件/7-3-2 実際の解析例─ 1995年兵庫県南部地震/7-3-3 さまざまな解析例/7-3-4 すべり分布の意味するもの
7-4 破壊すべりプロセスの周波数依存性
7-4-1 高周波地震動の励起源/7-4-2 高周波地震動発生地域/7-4-3 高周波波形合成


第Ⅲ部 震源近傍の物理学

第8章 巨視的な破壊と摩擦

 第III部では、断層近傍の物理について説明する。地震は、脆性的な岩盤に大きな力がかかった結果、岩盤が破壊し摩擦をともなってすべることで発生する。第II部ではこれらをまとめて、破壊すべりとして説明していた。ここからは、破壊と摩擦すべりを別々に主要テーマとして扱う。そのうち本章では、巨視的(マクロ)に見た変形と破壊を考える。マクロなせん断破壊の条件のひとつ、クーロンの破壊基準は、破壊を摩擦則のように考えることで導かれる。その基準を理解するために、モール円がよく用いられる。クーロンの破壊基準をふまえて、地球内部で発生する地震のタイプを説明するアンダーソン理論、さらにマクロな破壊に関係する水や熱の問題にも簡単に触れる。

8-1 破壊と摩擦
8-1-1 脆性と延性/8-1-2 破壊と地震/8-1-3 摩擦と地震/8-1-4 マクロな破壊強度
8-2 古典的摩擦則
8-2-1 クーロン摩擦/8-2-2 さまざまな物質の摩擦係数/8-2-3 凝着理論
8-3 モール円
8-3-1 モール円の描き方/8-3-2 最適角/8-3-3 ロックアップ角
8-4 断層の破壊と応力場
8-4-1 アンダーソン理論/8-4-2 背景応力場
8-5 天然断層の巨視的な破壊と水と熱
8-5-1 地下水と有効法線応力/8-5-2 その他の水の効果/8-5-3 注水人工地震/8-5-4 絶対応力レベルと発熱/8-5-5 断層加熱問題

第9章 クラックの破壊

 地震時には、破壊すべりによって岩石に変形が生じ、周辺の応力が変化する。応力の変化は、とくに破壊すべり領域の先端、破壊フロントに集中する。この変化を数学的に扱うには、断層を弾性体中の変位の食い違い=亀裂=クラック(crack)として表現するのが便利である。そして、クラック先端での変形方向によって3種類のモード(mode)に分け、2次元的な問題として取り扱う。本章では、クラック問題の構成と、応力拡大係数、エネルギー解放率、破壊エネルギーなど、古典的破壊力学の概念を紹介する。前章では、物質が破壊する条件を、マクロな強度を用いて記述したが、本章では弾性体のエネルギーバランスによって再定義することになる。まずは、地震波をともなわない、静的な問題を考える。

9-1 2次元クラックのモード
9-1-1 3種類のモード/9-1-2 モードIIIの問題設定/9-1-3 モードIとIIの問題設定
9-2 有限長クラック周辺の変位と応力
9-2-1 問題設定/9-2-2 複素関数を用いた解法/9-2-3 変位とせん断応力の分布
9-3 クラック先端での変位と応力
9-3-1 距離依存性/9-3-2 応力拡大係数/9-3-3 面内問題の解/9-3-4 ウイングクラック
9-4 グリフィスの破壊基準
9-4-1 大きなものは弱い/9-4-2 エネルギーバランスと破壊基準/9-4-3 エネルギー解放率/9-4-4 有限長クラックの臨界サイズ
9-5 破壊エネルギーと凝着力
9-5-1 クラック先端での最大応力/9-5-2 凝着力

第10章 破壊すべりの動的進展

 本章では、前章の静的なクラックの問題を発展させて、クラックが弾性体中を広がっていくプロセスを考える。動的に進展するクラック周辺での応力と変位の問題である。この場合、すべりによるクラック先端への応力集中と、すべりが生み出す地震波とをともに考慮する必要がある。両者がうまくカップリングすると、破壊や摩擦によるエネルギーロスが少ない状態で破壊すべりが伝わる。このカップリングが成立している状況で、地震波エネルギーをふくむ弾性体中のエネルギーバランスを考える。このエネルギー論を通じて、第II部と第III部の話がつながる。また、破壊すべりの動的進展プロセスの数値計算手法や、地震の破壊すべりに影響するさまざまな要素についても考察する。本章の結果は重要であるが、それぞれの結果にいたる計算は高度に発展的なので、以下ではおもに結果を示して説明する。

10-1 一定速度でのクラック進展
10-1-1 モードIIIの解/10-1-2 モードIIの解
10-2 動的破壊のエネルギー収支
10-2-1 弾性体中のエネルギーバランス/10-2-2 断層面における地震波エネルギー/10-2-3 佐藤・平澤モデルのエネルギー収支
10-3 動的破壊の数値的解法
10-3-1 モードIIIでの問題設定/10-3-2 有限差分法の例/10-3-3 境界積分法の例/10-3-4 2次元クラックの進展/10-3-5 円形クラックの進展/10-3-6 スーパーシア破壊
10-4 さまざまな断層破壊のシミュレーション
10-4-1 シミュレーションの例/10-4-2 断層面の配置と形状/10-4-3 背景応力場/10-4-4 摩擦則と非弾性変形/10-4-5 震源核と破壊開始/10-4-6 断層周囲の媒質の構造

第11章 全地震プロセスのモデル化

 地震の破壊すべりは、より大規模かつ長期間にわたる地球内部の変形の一部とみなせる。地震の原因となるエネルギーは、長期間のプレート運動によって蓄積される。その長期の運動から、なんらかのゆっくりした準備プロセスを経て、地震時の高速の破壊すべりがはじまる。高速のすべりが終了した後には、緩やかな変形プロセスを経て、再び長期間のエネルギー蓄積プロセスにいたる。この一連のプロセス、地震サイクル(earthquake cycle)は何度も繰り返す※2。地震サイクルをすべて理解することが、地震物理学の究極の目標といえる。そのためには、低速での変形を支配する法則についても知る必要がある。この章では、現実的な摩擦則として現在広く用いられる、速度および状態依存摩擦則をもとにした、地震サイクルモデルの基本的な考え方を説明する。

※2 まったく同じ現象が繰り返すわけではない。この話題は第13章にて。

11-1 現実的な摩擦
11-1-1 静止摩擦の時間的変化/11-1-2 真実接触面積の増加/11-1-3 動摩擦の速度依存性
11-2 速度および状態依存摩擦
11-2-1 法則の提案/11-2-2 時間と速度依存性/11-2-3 遷移プロセス/11-2-4 RSF則のさまざまな表現と問題点
11-3 摩擦すべりシステムの安定性
11-3-1 1次元ばねブロックの安定性/11-3-2 RSF則を用いた線形安定性解析
11-4 地震サイクルのモデリング
11-4-1 弾性反発説の現代的解釈/11-4-2 摩擦パラメターの深さ依存性/11-4-3 4つのステージ/11-4-4 複雑な地震サイクルシミュレーション
11-5 震源核形成過程
11-5-1 RSF則による予測/11-5-2 2次元での震源核進展


第Ⅳ部 地震現象の総合的理解

第12章 地震活動のモデル化

 第IV部では、地震現象の総合理解を目指す。まず本章では、「地震活動」を考える。大地震はまれにしか起こらないが、小地震は頻繁に起こる。また大地震が発生した後には、しばらく余震が続く。これらの現象の特徴はどのように定量化されるのか? また異なる地震の間には、なんらかの因果関係があるのか? 地震活動は、おもに地震の発生場所、時刻、大きさをデータとした情報によって記述され、統計学的に扱われる。地震活動の統計則の中でとくに重要な2つは、大きさと頻度に関するGutenberg—Richterの法則と、余震発生レートに関する大森法則である。ここでは、それらの法則を中心に、地震統計学といわれる分野の入門的な知識を扱う。また、このような地震活動を統計物理学的な臨界現象として扱うモデルの基本を紹介する。

12-1 さまざまな地震活動
12-1-1 前震/12-1-2 本震による応力変化と余震/12-1-3 遠方の誘発地震/12-1-4 群発地震
12-2 地震規模統計
12-2-1 Gutenberg–Richterの法則/12-2-2 b値の推定/12-2-3 大地震の重要性/12-2-4 応力パラメターとしてのb値
12-3 余震の統計
12-3-1 大森則の発見/12-3-2 大森・宇津法則/12-3-3 前震についての逆大森則/12-3-4 RSF則による大森則の説明
12-4 確率過程としての地震活動
12-4-1 地震はポアソン過程か?/12-4-2 イベント間隔統計/12-4-3 イベントの誘発/12-4-4 ETASモデル
12-5 自己組織臨界と地震活動
12-5-1 べき法則としての地震現象/12-5-2 BKモデル/12-5-3 自己組織臨界/12-5-4 地震的セルオートマトン/12-5-5 SOCモデルの限界

第13章 地震の固有性

 地震現象は確率論的に扱うべきランダムな現象である。たとえば点過程のETASモデルは、地震活動のさまざまな特徴を説明する。決定論的な方程式系は破壊すべりの進展を表現できるが、その進展をコントロールする要素はあまりに多く、ランダムな要素が無視できない。それでも地震現象は、完全にランダムではなく、ある程度の規則性ももつ。同じ場所で同じような地震が、同じような間隔で繰り返す例は多い。つまり地震発生様式には、地域的な固有性が認められる。この固有性は、大きな地震にも小さな地震にもみられる。したがって、地域ごとに幅広いスケールにわたる、階層的な固有性を考える必要がある。本章では、地震の階層的固有性と、それを用いた地震発生プロセスの理解の仕方について紹介する。

13-1 巨大地震の繰り返し
13-1-1 沈み込み帯における巨大地震の繰り返し/13-1-2 南海トラフの巨大地震/13-1-3 日本海溝・千島海溝の巨大地震/13-1-4 Parkfield地震
13-2 繰り返し地震
13-2-1 規則的な繰り返し地震/13-2-2 繰り返し地震のスケール法則/13-2-3 クリープメーターとしての繰り返し地震
13-3 地震破壊の階層性
13-3-1 破壊すべりのスケーリング/13-3-2 地震のはじまりと最終サイズ/13-3-3 階層的固有性地震/13-3-4 階層性と断層の形状
13-4 階層震源モデル
13-4-1 階層震源モデルの動的破壊/13-4-2 階層的破壊の繰り返し/13-4-3 地震活動の階層震源モデル的理解/13-4-4 比較沈み込み帯学と階層的固有性

第14章 スロー地震とファスト地震

 地震現象の理解のためには、スロー地震についての知識も重要である。第1章で概観したように、スロー地震は地震波をほとんど出さない、地球内部の変形現象である。21世紀初頭に発見されて以来、観測される周波数帯によって、テクトニック微動、低周波地震(LFE)、超低周波地震(VLFE)、スロースリップイベント(SSE)などと呼ばれてきた。ただし、これらの区分は観測上の制約によって生まれたもので、より正確には、幅広い周波数帯にわたって同時に、振動・変動を生み出す現象といえる。スロー地震の多くはふつうの地震と同じように、地中のせん断すべり現象だと考えられるが、その性質は、ここまで見てきたふつうの地震の性質とは大きく異なる。本章では、スロー地震の現象論と、スケーリングに関する法則、いくつかの代表的な発生プロセスのモデルを紹介する。

14-1 スロー地震活動
14-1-1 繰り返しとセグメント構造/14-1-2 マイグレーション/14-1-3 スロー地震と潮汐/14-1-4 スロー地震のメカニズム
14-2 スロー地震のスケーリング
14-2-1 スロー地震の大きさ─地震モーメント/14-2-2 地震モーメントと継続時間/14-2-3 スロー地震とふつうの地震のギャップ/14-2-4 スロー地震の広帯域周波数特性/14-2-5 応力降下量と規格化エネルギー/14-2-6 頻度統計/14-2-7 繰り返し周期
14-3 スロースリップの物理モデル
14-3-1 震源核の破壊未遂/14-3-2 すべりの抑制メカニズム/14-3-3 粘性による応力拡散
14-4 広帯域スロー地震のモデル
14-4-1 脆性粘性パッチモデル/14-4-2 ブラウニアンスロー地震モデル/14-4-3 さまざまなスロー地震モデル

第15章 地震の予測

 地震研究の重要な目標は、将来の地震について予測することである。現在、大地震の直前に避難や警戒のための警報を発出することは、現実的ではない。これが「地震予知は不可能」という意味である。一方、地震活動や震源の時間空間的な広がりについての知識をもとに、定量的に将来の地震の発生確率を示すことはできる。そして地震の発生確率から地震動の予測へつなげるのも、地震学の役割である。また、破壊すべりが開始した直後には、緊急地震速報を発出することで災害軽減に貢献することもできる。最終章では、これらの将来の地震についての予測の現状と、震源に対する知識との関連についてみていく。

15-1 地震予知と前兆現象
15-1-1 地震の予測と地震予知/15-1-2 日本の地震予知小史/15-1-3 前兆現象のレビューとIASPEI決議/15-1-4 ダイラタンシーモデル/15-1-5 プレスリップモデル/15-1-6 地震活動の前兆/15-1-7 前兆と確率ゲイン
15-2 地震と地震動の確率予測
15-2-1 基本的考え方/15-2-2 震源についての仮定/15-2-3 固有地震の発生確率評価/15-2-4 有限の震源とすべりの分布/15-2-5 地震動予測式/15-2-6 震源近傍の地震波動の予測/15-2-7 サイト増幅/15-2-8 地震動予測地図
15-3 緊急地震速報
15-3-1 基本原理/15-3-2 震源を推定する緊急地震速報/15-3-3 震源を推定しない緊急地震速報/15-3-4 重力観測による地震速報


『地震学』の詳細目次は以上です。乞うご期待!

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