社会が戦力外選手をいかに受け入れるか

 近年のプロ野球では、定期的に戦力外〇名!血の入れ替え!という言葉を目にするような気がします。プロの世界で選手の入れ替えが行われるのは至極当然のことですが、やはりファンの目線では応援していた選手が戦力外になるのは悲しいことです。
 球団の成長のためのいわば犠牲となってしまう戦力外選手。できることならば彼らのその後の人生が保障されてほしいものです。いや、保障しなければいけないと思います。

野球を続けるかやめるか

 
 戦力外になった選手の進路は大きく3つに分けられます。

野球を続ける 
 
 現在は、ただ野球を続けるといっても多くの選択肢が存在しています。他球団に契約をもらう(現ヤクルト嶋など)、独立リーグに入団しNPB復帰を目指す(現ロッテ三家など)、社会人野球チームに入団する(元横浜須田など)というほかに、海外に舞台を変えて挑戦する選手も出てきています(元横浜荒波など)。

球団に就職する 
 
 一部の実績のある選手は引退後コーチや監督、スカウトになり(現ロッテコーチ伊志嶺など)、球団職員になる選手や(元ソフトバンク城所など)、打撃投手やブルペンキャッチャーなどの裏方になる選手もいます(元西武小石など)。

その他 
 
 大学進学を目指したり(元ロッテ島など)、一般企業に就職したり(元ロッテ田中など)、解説者になったりする選手もいます。

 プロをやめてからが長いと言われる野球選手ですが、現在は非常にたくさんのセカンドステージの選択肢が用意されていることが分かります。しかし一方で、満足いかないセカンドキャリアを送る選手も少なくないと思います。彼らはプロ野球選手になるために必死の努力をしてきました。それなのに、プロで結果が残せないだけでなくその後の人生も狂わされてしまうのは残念で仕方がありません。仕方ない、で済ませていいのでしょうか。ここからは、戦力外選手がセカンドキャリアをどう生きるかについて書いていきます。

野球をやめるのはリスクが大きい

 
 素人が上から目線で語るようで申し訳ないですが、元NPB選手が野球をやめるのはかなりリスクが大きくなってきています。

②のパターン
 
 まず、コーチや監督、スカウトになるのはほんの一握りです。このようなポストにつけるのはほとんどが現役時代に実績を残した選手になります。もちろん実績とコーチング能力に相関性がないというのは正しいですが、論点がずれるので無視します。ようするに枠が狭すぎるということです。
 
 次に、球団職員ですが、ここも実は枠が狭まってきています。近年はパリーグを中心に球団事業に力を入れる球団が増えており、球団職員にも専門性が求められる時代になっています。具体的には、2018年にPLMとDELTAが共同で、球団職員の志望者をそのスペックと適性に合わせて球団に斡旋する、フィルタリング事業を開始するなど、有能な一般人を野球界に登用していく動きが起こっているのです。(https://toyokeizai.net/articles/-/242126
 元プロが球団職員として生き残る道は、ロッテ上野氏のような客寄せの役割、人気担当しか残っていないのかもしれません。
 
 最後に、裏方の役割です。この仕事は、先の2個と違ってある程度の需要がありますが、問題はその内容です。西武の打撃投手を務める山下氏によると、打撃投手はわずか10分ほどのキャッチボールで肩を作り、15分から20分で100球前後の球数を投げ、空いた時間も外野で打撃練習の球拾いをするなど、かなり過酷な内容です。さらには、心理的負担からイップスになる、ストライクがはいらなくなると契約がきられるといった不安とも戦う日々のようです。(https://dot.asahi.com/dot/2019082100091.html?page=2
 もちろんプロ野球に不可欠な仕事ですが安定しているとは言えません。また、現役に未練を残したまま裏方になる選手も少なくないようです。

③のパターン
 
 大学進学や一般企業に就職というのも選択肢ですが、今まで多くの時間を野球に割いてきた選手がまた一からスタートするのは非常にリスクが大きいし勇気のいることです。野球選手の中には学生時代のすべてを野球に注いできて勉強なんてしてこなかったという選手もいるでしょう。しかし、それでも新たな道に進もうとする選手には感動しますよね。
 解説者にも枠があることは言うまでもないでしょう。

 どうでしょうか。もちろん野球を離れても選択肢はあるのですが、そこで成功するのは難しいというのも事実だと思います。それよりは、プロになるくらいに努力してきた野球を生かせる場がもっとあるべきだ、というのが私の主張です。

野球を続ける道

 
 野球をやめるのはリスクがでかいからみんな野球を続けよう!で終わるわけではないです笑。できるならみんなそうしてますよね。野球を続けたい選手がいるなら続けれる環境を作ろうという話です。そこで私は、戦力外選手が野球を続ける場に独立リーグを提案します(もちろん現状の独立リーグでは不十分ですが)。

独立リーグ
 
 今では10チームを超え、各地に点在する独立リーグですが、そのレベルは近年上がってきているように思います。2019年ドラフトでは西武2位の松岡を筆頭に計9人の選手が指名を受けました。独立球団側としても、NPBに選手を送り出すことを1つの目標としており、ドラフト指名選手の契約金の10%というのは球団の大事な収入源となっています。

 しかし、現在の独立リーグには重大な問題点があります。それは、その経営基盤の弱さ、そしてそれに起因する選手の給料の少なさです。実際、今の選手たちは平均月収15万ほどで、ほとんどの選手はアルバイトをしながら野球をしています。これが、戦力外選手が独立リーグ入りをしたがらない大きな理由でしょう。
 私は、NPBが独立リーグ選手の所得改善に取り組むことで、戦力外選手が独立リーグに入りやすくするべきだと思います。

NPBが独立リーグを支援する方法

 
 先ほども述べたように、独立リーグはすでにNPBへの人材供給の場として機能しています。もちろんドラフトもそうですが、外国人選手の仲介という機能も果たしているでしょう(元オリックス マエストリなど)。NPBは、独立リーグにその成果に見合う対価を支払うべきではないでしょうか。
 具体的には、①直接資金援助を行う②注目度向上を手助けするの2つが考えられます。

①直接資金援助を行う
 
 独立リーグには、スポンサーはいますが親会社はいません。なので赤字を補填してもらうということはできないのです。各チームは、経営に関して外部から有能な人を連れてくる、首脳陣が経営を勉強するなどしてかなり力を入れていますが、収入源がチケット収入やグッズ収入、県内のスポンサー、県・市町村区の支援だけでは限界があると思います。そこで、NPB球団からの資金援助があれば、経営基盤も強くなるのではないでしょうか。

②注目度向上を手助けする
 
 とはいっても、経営不振の球団もあるNPBが莫大な支援をするとは思えないのも事実です。しかし、直接資金を出さなくても支援する方法はあると思います。具体的には、地方開催試合を独立リーグと絡めるNPBからも人材を派遣するなど。例えば、地方開催試合を独立リーグの本拠地で開催すれば、独立リーグにも注目は集まるだろうし、ファンが地方まで足を運んでくれます。香川オリーブガイナーズの三野社長によると、巨人との三軍交流戦は毎年、観客動員数が最も多く見込める試合だそうです。
 
 また、同社長は、マニー・ラミレス(2017年シーズンまで高知でプレー)が在籍していた高知ファイティングドッグズとの試合も観客動員数が増えたと言っています。これは、元巨人の村田が栃木ゴールデンブレーブスでプレーし、大いに注目を集めたことにも通じるところです。NPBのスター選手が独立リーグでプレーすることは独立リーグに大きな利益をもたらすといえるでしょう。
 
 
 このように、NPBが独立リーグを援助することはそこまで難しいことではないと思います。近年は、地方開催試合を減らすNPB球団も増えていますが、独立リーグ支援のためにも地域振興事業は継続してほしいですね。NPBの協力のもと、独立選手が野球だけで生計を立てられる環境になってほしいものです。

NPB側のメリット

 
 とはいっても、NPBが改革に消極的なことは有名です。そこで、NPB側のメリットについても触れておきたいと思います。私は、NPB側のメリットは、地方にファンが増えること、よりレベルの高い選手が出てくることだと思います。

①地方にファンが増える
 
 独立リーグの最大の特徴は、その地域密着性にあります。それぞれの球団は、主にその県内のみの力で成立しています。そのため、地元スポンサー、地元ファンの獲得は試合に勝つこと並みに重要視されます。経営者自らスポンサー協力のために企業に働きかけることおめずらしくなく、ある球団では、社長自ら試合中にグッズの投げ込みを行っているほどです。
 もちろん選手には地域貢献が義務付けられています。選手は、小中学校や福祉施設への訪問を通して、地域にとけ込んでいきます。
 
 このようにして独立球団は地域と一体化した存在になっていくのです。その結果、独立リーグ出身のNPB選手は一生〇〇の選手として応援され続けます。

 これほど地域と一体化し、ファンと球団の距離が近い存在は独立リーグだけではないでしょうか。NPB側のメリットとして、独立リーグの支援をすることで地方のファンが増えるということは大きいでしょう。MLBは、オーストラリアのプロリーグを傘下に引き入れて現地での人材発掘とファン獲得を推し進めており、日本の独立リーグも同様にオファーを受けていたそうです。NPBも同じように、独立リーグを通じて地方のファン獲得が見込めるでしょう。
 
 NPBは独立リーグの価値を再考すべきだと思います。

②よりレベルの高い選手が出てくる

 これは当たり前のことですが、独立リーグの給与水準が上がれば、選手が野球に専念でき、選手の能力も上がるでしょう。
 
 また、NPB出身選手の加入はやはり効果が大きいようです。かつて日本ハムで新人王をとった正田樹は、現在愛媛マンダリンパイレーツでプレーしていますが、若手のいいお手本としてチームに欠かせない存在になっています。NPBでは活躍できなかったとしても、1ランク上の世界にいた選手の経験は、独立選手には大いに刺激になるようです。

独立リーグに入るメリット

 
 では、選手にとって独立リーグに入るメリットとは何でしょうか。それは野球を続けられること、そして野球を諦められることだと思います。

 独立リーグがあることで、戦力外選手はNPB復帰を目指してもう一度野球に向き合うことができます。中にはシーズン途中にNPBと契約を果たし、活躍する選手もいます。独立リーグは、戦力外通告を受けてもまだ野球を続けられる場所、まだ夢を追える場所なのです。しかし、ただ野球ができる場、野球を練習する場所というわけではありません。独立リーグには、NPBで学べないものを学ぶことができるという特徴もあります。
 
 広尾晃さんの書かれたコラム『【独立リーグとはなんだ?】 その5 こんなに違う 独立リーグとNPB』にこんな一文があります。(https://www.spportunity.com/column/12/column_detail/)

高校野球、大学野球、社会人野球は、「野球選手」を育てる場だったが、独立リーグは「野球ができる社会人」を育てる場になろうとしている。

 地域貢献の義務を負い、NPB選手よりも待遇の悪い独立選手たちは必然的に社会に触れる機会を多く持ちます。野球ばかりやってきたような選手にとってこのような経験は新鮮でしょう。独立リーグは野球が上達するだけでなく、社会勉強ができる場所でもあるのです。NPB復帰を目指す中で、社会に触れる経験は心理的に大きいのではないでしょうか。

 一方で、独立リーグは選手が野球を諦める場所でもあります。野球を続けたくて、NPBを目指したくて独立リーグに入っても、やはり自分の限界を悟り引退する選手はいます。しかし、自分の限界まで野球に打ち込めるのが独立リーグのいいところだと思います。自分の野球人生に納得できないまま戦力外、引退するのではなく、独立リーグで自分の野球人生の終え方を探す、というのもいい選択肢ではないでしょうか。元阪神の西岡剛選手などはまさにこの例でしょう。

 あるいは、野球をやめようと思ってもやりたいことが見つからない選手も多いと思います。そのような選手は、独立リーグで野球をしながら地域とふれあうことで、社会勉強を積み、「社会人」として自立して新たな道に進むことができるのではないかと私は考えます。これは、戦力外から即就職よりも理想的ではないでしょうか。

 選手がNPBから一瞬で追い出されてしまう戦力外通告、そこから次のキャリアを選択するまでの猶予として、つなぎとしての独立リーグは非常に価値のある存在だと思います。だからこそ、戦力外選手が独立リーグに入りやすくするためにNPBが補助をすべきではないでしょうか。

終わりに

 長々とお付き合いいただきありがとうございました。書いている間に何回もいいたいことが変わってきたり、結局大したことを書けていないのではと思ったりしてかなり時間がかかりました笑。最後になぜこんなことをnoteにしようと思ったのかについて書かせていただきます。
 
 冒頭にも触れたように、最近のプロ野球は戦力外選手が多いのが目につきます。戦力にならないから、育成にするから、ちゃんとセカンドキャリアを紹介しているからなどという主張もありますが、私はそれらにどうしても納得できませんでした。戦力外になった選手の多くが、プロの世界で成功しなかっただけでその後の人生に苦労を強いられているのは事実ではないでしょうか。高卒でプロに入れると思ったら2,3年後に戦力外、しかたなく野球をやめるというような選手がでるのは心苦しく思います。理想としては戦力外選手が減るのが一番ですが、難しいならばせめて選手のその後の人生を、本当にその選手がやりたいことを支えられるような野球界であってほしいです。

 最後が少し感情的な内容になってしまいた笑。私も書いていて悩むところもありましたので、反対意見や感想をたくさんいただきたいです。ぜひコメントお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?