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実務に引き寄せて分かりやすく言うと

『他人の頭を使って考える/4種類のアプローチ』で引用した私の考え方は、もっと実務に引き寄せて分かりやすく説明することができます。そのような説明の仕方の好例として、山田 晃義 さんの「建設的合意」に関する一連の記事を紹介します。

1.楠瀬の《私という物語》は、マネジメント論としては、非・標準的だった

『他人の頭を使って考える/4種類のアプローチ』の「3.カウンセリングからのアプローチ/楠瀬」での私の考え方は、マネジメントの論じ方としては、非・標準的です。

ここでお断わりしておかなければならないことがあります。それは、私が言う「標準的」・「非標準的」に決まった定義があるわけではなく、あくまで私の主観だということです。
ただし、まったくの印象評価というわけではありません。20年以上、企業人向け研修に携わり「人と組織」に迫る色々なアプローチを見てきた経験の裏づけはあると思っています。
ですから、「標準的な=(楠瀬が)企業人教育の場で多く見かける」くらいの意味でご理解いただければと思います。

私とは違う標準的なアプローチで「他人の頭を使って考える」ことを明解に説明しているのが、山田 晃義 さんの「建設的合意」に関する一連の記事です。


2.山田さんの考え方の核心を楠瀬なりに解釈すると


山田さんのキーワードは「建設的合意」です。これは山田さんの独自用語ですが、「建設的」と「合意」はマネジメント論でよく登場する言葉なので、その延長で分かりやすいという利点があります。
山田さんは、『「建設的合意」のnote始めます!』のなかで、「建設的合意」を次のように定義しています。

建設的な対話を通じて、相手の意見(A)、自分の意見(B)のどちらかを取るのではなく、統合されたアイディア(C)を生み出す、win-winな合意形成を生み出すこと〔太字部は、楠瀬が太字化〕

上の定義を、『他人の頭を使って考える/4種類のアプローチ』の中で私が用いた次の表現と比べてみます。

チームのメンバーが、それぞれの《私という物語》を開示し、意見を交わすなかから、メンバー全員が共有できる《私たちという物語》が創発してくる可能性があり、それがビジネスの場で行われるとイノベーションにつながると私は考えています。〔太字部は、原文のママ〕

「相手の意見(A)」を「相手の《私という物語》」に、「自分の意見(B)」を「私の《私という物語》」に、「統合されたアイディア(C)」を「メンバー全員が共有できる《私たちという物語》」に、それぞれ置き換えてみてください。ほぼ同じ話であることがお分かりいただけると思います。

日常のビジネス感覚からすると、山田さんの説明の方が、わかりやすい。私はnoteには会社の仕事を離れて趣味で投稿しているので、自分の思い入れを込めた含書き方をしています。
しかし、会社の仕事で研修用テキストを作るのであったら、山田さんの表現を採用すると思います。もちろん、山田さんのお許しを得て出典を明記した上で……ということになりますが。

上記の引用文では「建設的対話」が定義されていませんが、山田さんは、「建設的対話」に一つの記事を割いて丁寧に説明しています。『「建設的対話」とはなにか』が、それです。

この記事での「建設的対話」の定義は、次のとおりです〔太字部は、楠瀬が太字化〕

互いの意見や価値観は異なることを前提とし、その違いを受け入れあいながら目的に照らして、Win-Winとなる合意形成を紡ぎだそうとするコミュニケーション

非常に簡潔かつ明快な定義です。「目的に照らして」というのは対話から新しいアイディアを産み出す上で、とても重要な条件です。対話の参加者の間で目的が共有されていないと、対話は発散傾向が強くなり、なかなか収束しないからです。この重要なポイントが、私の説明では抜けていました


3.何が言いたいかというと


以上、山田さんの実務に引き寄せた簡潔で明解な説明と、私のやや実務離れしたクセの強い説明を比較してきましたが、別に、「あぁ、自分は至らないなぁ」と反省するために書いてきたわけでは、ありません。

大事なのは、マネジメントを論じる時、《本質さえ捉えていれば、表現にこだわる必要はない》ということです。著作Aと著作Bが異なった表現を使っていても、本質においてほぼ同じことを言っていると思ったら、著作Aと著作Bの表現のうち、自分が納得しやすい方を覚えておけば良いのです。

マネジメント書を読むのは、仕事に役立てるためです。本から読み取ったことが自分にとって納得しやすい表現で頭に残っていないと、実地に使うことができません。ですから、同じことを頭に入れるなら、より自分にとって分かりやすい表現を選んだ方がよいのです。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


『実務に引き寄せて分かりやすく言うと』おわり



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