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よこはま動物園ズーラシアの、「のんびり」に会いに行く。
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「都心から車で1時間弱。そこで出会ったのは、快適な自然環境の中でゆったりと過ごす動物たち。彼らの生活をのぞき見させてもらっているうちに、のんびりもたまにはいいものだと思った。」
これは、コラムニスト中丸謙一朗さんの短いストーリーです。以前、会報誌に掲載されたものを抜粋しています。2006年の作品です。時代や施設の詳細などは変わりましたが、時を経ても変わらない、「気分」を味わってみてください。
冬の動物園と聞くと、人はいったいどんなイメージを思い浮かべるのだろうか。
寒風吹きすさぶ中、まばらな人垣に紛れ込むように佇んでいる物寂しく物悲しい動物たち。そして、その空間にある自らの姿に、微かな、そしてどこか心魅かれるかのようなペシミズムを感じる。おそらく、そんなところだろうか。
ふと、冬の動物園を訪れてみたくなった。きっと、楽しいはずだ。そう思った。
だが、ちょっと待てよ。余りあるはずの時が、何となくいとおしく思える。
英国の哲学者アラン・ド・ボトンの「旅する哲学」(集英社刊)は秀逸だ。旅の持つ「大いなる期待」の「哲学的落とし穴」について、彼はあんなにおもしろおかしく書いていたじゃないか。
「目指す列車に乗り込む瞬間が、ロンドンの夢を現実に変えるチャンスが近づいたとたん、だしぬけに無気力のとりことなった。じっさいにロンドンに行くなんて、何とも疲れる話ではないか。駅まで走らなきゃならないし、ポーターをつかまえるために争わなきゃならないし、汽車に乗っても慣れないベッドを我慢しなきゃならないし、列に並んで寒さに耐え、この弱い身体を運んで、ベデガー(ロンドンのガイドブック)がきびきび記している名所をめぐらなきゃならない。そんなことを考えているうちに……夢はべったり汚れてしまった」。
ほら、これだ。
ボトンはこんなセリフも残す。
「(想像すること以外に)これ以上、何を見つけられると言うんだ、新しい失望くらいなものじゃないのか?」
そうそう。それはソファの脇に転がる真新しいぬいぐるみではない。実際の動物たちは鼻がひん曲がりそうに臭いはずだし、寒空に陳列された自分の仲間たちをみるなんて、ペシミズムを通り越して、うらぶれた気持ちなるに決まっている。
「大いなる期待」の「哲学的落とし穴」を見出し、すこしほっとする。
晴れているとも曇っているとも言えない、そんな2月のある日。私は動物園に行った。
朝10時。千円札一枚でじゅうぶんにおつりのくるチケットを買う。
どうして、そんな大胆なことができたかって? ただ、少し歩いてみたい、ふと、そんな気がしたからだ。
横浜市郊外にある「よこはま動物園ズーラシア」は、1999年4月、横浜動物の森公園の中に開園し、その後続々とエリアを拡張している、自然一体型の動物園である。現在の面積は38.8ヘクタール、全面開園すると約53.3ヘクタールの日本最大級の動物園となる。
この「ズーラシア」という愛称、動物園(ZOO)と広大な自然をイメージするユーラシア(EURASIA)、へー、なかなかいい感じじゃないか。まだボンヤリとした頭の中に、大いなる期待が紡ぎ出した風景画がふんわりと広がる。
この動物園のウリは、その展示方法だ。「バイオーム展示」と呼ばれる、動物の生息環境を再現していく生態学的な展示方法をとっている。アジアの熱帯林、亜寒帯の森など、それぞれのゾーンの中に、それぞれの動物たちの住む自然環境をパノラマ風に再現しているのである。
そう、手っ取り早く言うならば、いくら時間に追われていようと、いくらヒマに呑み込まれようとしていても、人間が彼らの住居に「お邪魔する」という「筋立て」となる。
動物園側は、各ゾーンに、動物、植物、人の文化的痕跡などを織り込みながら、地域特有の雰囲気を体感させようと、さまざまな演出を施す。ホストである動物たちの生まれ故郷を思い起こさせる生息環境の展示やゾーン毎に変化する植物相で、まるで世界一周の動物旅行をしているかのような、雰囲気作りをする。
ともあれ、私は歩き出した。
オフシーズン、開園直後の園内にはまだ人は少ない。
やっとの思いで有給休暇を取ったパパス&ファミリー。子どもはまだ小さい。歩きにくそうなヒールとヒザを出したミニスカート姿が寒々しい若いカップル。時折どこからか外国語が聞こえてくる。
ゾーンの中、早足で次々と動物を見ていく。各種サル、バク、トラ、ライオン、ゾウにカンガルー。鬱蒼と茂った木々の間から、気持ちのいい静寂とまだ手探りするかのような冬の光を感じる。外套を着込んでいる男の、ほんの少しだけ汗ばみはじめているウォーキングは、意外なほどに心地よい。
見に行くそばから、彼らは寝ている。
おい、ホスト。ちょっとは起きろ。
少しずつ温かくなってきた日差しが気持ちいいのだろうか。シロクマはうれしそうに、水場で遊ぶ。おいおい。環境を強調するための水底の青がホモ・サピエンスには寒々しい。彼らに訪問者を気遣う気はない。時折気持ちの良さそうな重低音のうなり声が園内に微かに響く。
喫煙所での一服をはさみ、オオワシの勇姿を眺め、キンシコウのうたた寝をのぞき見る。
もうかなり歩いただろうか。
最終地点で、ふと感じる。ここには、感じるべきはずのペシミズムがない。約2時間の道程のクライマックス。オカピーの前に佇み、自然の中のウォーキングに少し高揚している自分に気づく。
帰路、スーベニアショップで、オカピーを形どったマクラ、オカぴろーを買った。
冬のある日、のんびりに会いに行った。
どうやら、ここの春は彼らの気持ちの分だけ、少し早かったようだ。
見よ、この悠然としたアカカンガルーの姿。まるでテレビを見ているおとっつあん
入出ゲートのいちばん近くに陣取っているのはインドゾウ。挨拶をして、のんびりを満喫した動物園に別れを告げる