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ママタルトで確かめる

「最近、ドタキャンが多いんだよねー」
友人は肩を落として嘆いていた。
タバコの煙と白い息が、冬の寒空に吸い込まれて行く。

彼はマッチングアプリで苦戦していた。

私と同い年で来年30歳。いいお年頃である。
周りの結婚ラッシュ、更にはベイビーラッシュと続き、彼を焦らせるには充分だった。というかオーバーキル状態だった。

彼が苦戦するのにも無理はない。
環境的に大きなハンディキャップを抱えていた。

田舎の農家である、ということだ。

私達の地元は、平成の大合併で吸収された小さな町で、当時でも少なかった子供は今や激減。小学校は閉校して、過疎地域にも認定された。
元はみかんの産地として栄えおり、みかん農家をしている家が多い。

彼の家もそうだった。
そして5年前に、父親の体調不良をきっかけに農家を継いでいた。

過疎地域のみかん農家に嫁ぐことは、今の時代リスクに近い。(当事者だからそう思うのかもしれないが。)

さらに彼の家系は元々このあたりの地主で、立派な家を構えていた。
石垣沿いに坂道を登ると大きな木の門があり、そこを抜けると広い庭。そして、古びながらも、時代を語るような威厳のある家。
築100年以上経っている。

なんと今年、この門と家が、重要文化財に指定された。自分の家が重要文化財だなんて想像できない。

想像出来ないから、
「マッチングアプリのプロフィールに、
『家は重要文化財です!』って書いちゃいなよー』と笑いながら言ったら、誰がそんな奴とマッチングするんだとキレられた。
配慮が欠けていた。

それにしても、ドタキャンとはおかしい。
マッチングしている時点で、顔写真は確認しているし、ある程度やり取りをした上で、会おうとなっているはずだ。

「いやー、2回目なのよ。2回目会う時に、店着いたって連絡したら返信なくて。LINEブロックされちゃってた。」
苦笑いに苦笑いで返すしかなかった。

相手が車で向かってる途中で事故をして、ドタキャンになったことがあるらしい。
友人は怪しいと思ったが、実際に事故した車の写真が送られてきたので、疑った自分を恥じながらリスケを提案したところ、LINEをブロックされたとのこと。

踏んだり蹴ったりだ。
そうなってくると、車の事故写真も、言い訳のために使い回されていると疑いたくなる。

ライブに行くために、嘘の身内の不幸を理由に会社を休んでいたことがバレて、「こいつ身内何人も殺してるんですよ」と、上司にイジられている若い女性をテレビで見たことがある。

同じように、ドタキャン女性に「こいつ何台も廃車にしてるんですよ」と言ってやりたい。


お笑いの話で盛り上がり、手応えがあった女性もいたらしい。
ちょうどM-1の決勝進出者が発表された直後で、誰が優勝するのかという話題に。

女性は「ダイタクさんですかね。」と答えると、
「今年1番似てますもんね!」と返す友人。
場も和んで、彼の内心はガッツポーズ。
「僕は、真空ジェシカを応援しています!」

次の日、LINEがブロックされていたそうだ。


聞いていて可哀想になった。


そもそも、自分がLINEをブロックされていることをどうやって確認するのだろうか。
普段そんな機会がなかったので尋ねると、
彼は丁寧に教えてくれた。

「LINEのスタンプをプレゼントする時に、残高が足りない場合、普通の友達は『残金が足りません』って表示されるの。でも、ブロックされてたら、『このスタンプは既に持っています』って表示に変わるんよ。だから怪しいと思ったら、既に持っている訳ない、ママタルトのスタンプをプレゼントして確認してる」

世界一哀しい説明だった。
大鶴肥満さんも「まーごめ」と言うに違いない。

「あの時、『ママタルト応援してます!』って言えば良かったのかなー」

また苦笑いする彼の口元から、タバコの煙が漏れ出て、冬の寒空へと消えていった。


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