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ニュージーランド・バスキング・デイズ vol. 6

ロトルア芸人の生態  

オークランドを離れて早一週間が経過した。

今回のニュージーランド滞在では、一カ所の最長滞在がオークランドの40日間となっていて、その後は街を転々とバスキングしつつ南下していき、最終目的地である南島のクィーンズタウンに到達するという計画である。

外国の地理は地図を確認したりとややこしいと思われるので、その形状を比較対象にするにはあまりにも無理があり過ぎて個人的に好ましくはないと思ってはいるのだが、我々日本人にとって親しみがある分、手っ取り早いので訪れる予定の街を日本地図になぞらえて説明してみたいと思う。

まず、頭の中に日本地図を思い浮かべていただきたい。そこから九州、四国、中国地方を躊躇なく取り除いてもらいたい。

私がこれまで滞在していたオークランドは北海道は最北端の稚内である。そして、今いるロトルアは北島の真ん中に位置し、大体旭川市らへんだ。

次の火曜日にロトルアを発ち、一気に南下して、函館に該当するウェリントンに向かう。勿論このウェリントンが北島の最南端の街であり、この街から南島へとフェリーが出ていることは言うまでもない。

ウェリントンから出ているフェリーが到着するのは南島の最北端の街、ピクトンで、これは青森に該当する。

ここからさらに東海岸沿いを南下していくと、東京すなわち、クライストチャーチがある。仙台は、とお思いの方、あくまでも便宜上の例えなのであまり深く考えないように。

そして、そのまま海沿いに南下していくと、名古屋ダニーデンがある。

そこから、内陸部へ移動したところには私が学生時代を過ごした京都で、最終目的地のクィーンズタウンがあるわけだ。

このクィーンズタウンはバスカー仲間の情報によるとバスキング天国らしい。ここロトルアのバックパッカーのスタッフもロトルアでのバスキングには難色を示していたが、観光客の多いクィーンズタウンなら間違いないだろうとのことだ。

KJ soundの二人も今頃はクィーンズタウンで合流しているはずだ。こうやって他人からの情報を当てに、一つの街へ稼ぎを求めて向かっていくという図式は、なんともはやゴールドラッシュ時代に一攫千金を狙って東奔西走していた夢追い人たちを彷彿させなくもない。

残念なことにバスキングではあまりそういった逆転ホームランのような稼ぎは起こらないのだが。

それでも、このクィーンズタウンには三週間滞在の予定で、今のところトントンである私の収支を少しぐらいは大きめの黒字へと転じさせる可能性のある最後のチャンスというわけだ。

このクィーンズタウン戦が終わると、そこからは少し北上して、近畿の水瓶、琵琶湖に該当するレイクテカポに四日ほど滞在する。やはり、このロトルア滞在と同じく湖を見ながらひたすら太鼓を叩くだけの予定だ。

そこからはただただオークランドへ向け北上するのみだ。

しかし、このロトルア滞在、湖を眺めながらぼーっとのんびり過ごせるかと思っていたがそんなことはなかった。オークランドではバスキングのため午前中に起床して、昼にはバスキングに出るという、元来夜型生活の私にとっては大分酷な健康的生活スタイルを強いられていたが、その呪縛から解き放たれたバスキングしないこちらの生活では、昼頃に起床してゴロゴロして、ぼちぼち活動し始めるという生活だ。

その後、2時頃に自炊による昼食、3時頃からバッパー近くのカフェでコーヒー飲みながら文章を書いて、夕方の7時頃にロトルア湖の湖畔にてジャンベの練習、9時頃にはバッパーに帰宅して晩ご飯、その後また文章を考えて、日付が変わる頃に就寝という一日である。

何だか作家のような生活であるが、この文章を書く作業が思いの外、とてもエネルギーを消耗するのだ。プロの作家の方々はこの上を行くと想像するだけでも、驚きを禁じ得ない。

以前の怠惰さを極めた投稿頻度では、自分の調子が乗って来た時のみに書いていたが、ニュージーランドに来て以降、少しスタイルを変えてみようと思い、例の如く決して改行しない上に、Facebookにはあるまじき大長編投稿にしたところ、ごくごくわずかではあるが、「楽しみにしている」との反響があった。

もっと楽しいことは他にあるんじゃないだろうかと思いつつ、それでもバスキングという当事者でないと中々分かりづらい文化への理解の助けになれば、と毎日文章を推敲しているわけだが。

どの話をどの順番で書いて、などと全体の構成を考え出すと、どれが良いのか中々答えが出ない。

バッパーの部屋前のソファーに座りながら、集中するために顔を手で覆い、頭の回転が少しでも速くなるように小刻みに足踏みをして、考えにふけっていると、掃除中のスタッフの人に「大丈夫か?」と心配されてしまった。体調不良に見えたみたいだ。

いつもカフェに移動して文章を書き始めるのだが、書いている間にアドレナリンが分泌されているのであろうか、二時間も続けると同じ時間バーで演奏したような疲労感である。これではもはや本業がどちらか分からないではないか。

しかし、その執筆作業後の太鼓練習がとても楽しいのだ。

ギターだと音程を随時選ぶ必要があるが、太鼓は選択肢がもっとシンプルで、だからこそ奥深いリズムの世界が広がっている。

ロトルア湖を眺めながら太鼓を一心不乱に叩いていると私の脆弱なリズム感の中からでも色々とアイデアが湧いてくるのだ。

そして、ロトルア湖の夕焼けはとても素晴らしい。ぽつぽつと背の高い木々が並んでいるのが見える対岸の深い緑色の丘陵、中にはニュージーランドの特徴的な地形とも言うべき、急勾配であまり木々の見られない薄い緑色の肌の混じる丘が散見される。

その上方では、全体的に朱色に染まった空が少しずつ赤紫色へと変化していく。それに呼応して最初はうっすらと空に浮かんでいた月も輪郭がはっきりして、輝きが増していくのだ。

こういった日常の風景をあらためて眺めていると、地球は回っているんだという、もはや科学教育の行き届いた先進国では誰も疑問視しないであろう自明の理と化した現象を、今更ながらに再認識したからなのか、ビートルズの「フール・オン・ザ・ヒル」の一節がふと頭をよぎった。

丘の上の愚か者は日が沈むのを眺めている、彼の頭の中にある目は世界が回るのを眺めている。こういうのも悪くないなと、フール・オン・ザ・ヒルの世界観に浸りつつ、心地良く家路に着くが、よく考えてみればロトルア湖はロトルアシティの北側に面している。

つまり湖をどれだけ眺めていても、その視界に日の出、日の入りどころか太陽の姿はこれっぽっちも入ってきやしないのだ。まぁ、景色が綺麗なだけでもよしとするか。

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ロトルア芸人は観光しない。

ロトルアが有名な温泉地であろうと、間欠泉が有名な観光スポットであろうと、近くにマオリの村があろうと足を運ぶなんて野暮だ。

街の至る所で卵の腐ったような温泉特有の匂いがするし、それで十分だろう。

最初匂いに気づいた時は自分の体臭を疑ったが、少しばかり考えて安堵した。

ロトルア芸人は仕事しない。

でも、ナイトマーケットには出演した。

バッパーのロビーに「出演者求ム」の張り紙があったので、応募してみたのだ。バスキングとは書いてあったが、テントにスピーカーとマイクが用意してある少しはまともなステージで、一時間の演奏枠であった。

反応はやはりオークランドと一緒で、タッピングとアップテンポな曲が受けただけで、稼ぎは少し食費の足しになったぐらいだ。

ロトルア芸人は外食しない。

料理が下手なりに自炊する。

メルボルンでも売っていた日本米にほどなく近い、サンライスのミディアムグレインをスーパーで見つけ、バッパーのキッチンで、鍋を使って調理する。

最初の数分間は強火で、沸騰して来て吹きこぼれがあっても、慌てず弱火にして慎重に加熱し続ける。

しかし、ふと目を離した隙に、吹きこぼれを心配したフランス人らしき男性が勝手に鍋のふたを開けていた。

勝手に開けるなと諭すと、「でも、吹きこぼれが」とフランス人。あとでちゃんと掃除するから絶対に触らないように告げて調理を続行した。

まったく、油断も隙もあったもんじゃない。米を触っている時の日本人には決して逆らうな、と初等教育で教えるべきだろう。

そんな日々だが果たして休息になったのであろうか。

函館ウェリントンはバスキングのライセンスをもうすでに取得したし、青森ピクトンはマーケットでのバスキングしても良いと返事をもらった。

調子が良くなっているかどうかは蓋を開けてのお楽しみということだろう。

いざ南へ。

続く。

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