建築環境の成り立ちを深く理解したい人へ/『人・建築・地球とエクセルギー 環境物理学入門』
人・建築・地球とエクセルギー 環境物理学入門
本書の内容
「建築環境学」を改めて根底から理解し直すために、地球環境システムや人間生物学を通して「自然の振る舞い」に学ぶ。エクセルギー概念を駆使し、自然を賢く模倣する、技術のあるべき姿を提示する。世界的研究者が一般向けに平易に叙述した、画期的な40講を収録。
参考
目次
はじめに
第0章 改めて何を問い、学ぶか?
§1. 前口上
§2. 求められる転換
第1章 環境と情報をどう読むか?
§3. 環境,そして系とは何だろうか?
系と環境の関係/開放系と閉鎖系/系に働く入力と二つの出力/熱力学の四つのキーワード
§4. 系と環境の大きさ
メートルという基本単位/系と環境空間の相対的な大きさ
§5. 環境の入れ子構造
生涯の90% 以上を過ごす建築環境/環境の入れ子構造と光・熱の流れ/小宇宙と大宇宙の間にある建築環境
§6. 情報の発現と環境の形成
建築環境と感覚情報/情報・環境の入れ子構造/情報と環境の相補的関係
§7. “エネルギー問題”は何が問題か?
日・英・米の「エネルギー使用速さ」の推移/エネルギー問題は速さの問題
第2章 技術と自然をどう読むか?
§8. パッシブとアクティブ
パッシブシステムとアクティブシステム/ニワトリの受精卵に見る「膜」の役割/ニワトリの受精卵に見る「管」の役割/自然の模倣
§9. 技術の型と建築の形
火の使用の変遷とアクティブ型技術/定住の始まりとパッシブ型技術/自然の多様性とパッシブ型技術/一様性を可能にするアクティブ型技術
§10. カタチの見方とカタの読み方
形(カタチ)と型(カタ)/形に潜む型を読み取る
§11. 微視的・巨視的描像と物質観
無味乾燥だった微視的世界/動き回る粒子の実験/微視的描像と巨視的描像をつなぐ
§12. 排熱があって可能な動力生成
ヤカンと羽根車を使った「思考実験」/持続可能の4条件
§13. 閉じられた自然とその利用の必然
核と微視的物質観/ガスコンロでの燃焼/核力と核分裂/生存に対する「原発」という負債
§14. 水飲み鳥と地球環境システム
水飲み鳥のお辞儀運動のしくみ/お辞儀運動のエネルギー収支/お辞儀運動のエクセルギー収支/水飲み鳥を用いた地球環境システム模型
第3章 つながる自然を読む
§15. 個体発生・系統発生と環境
細胞——生きものの最小単位/単細胞生物から多細胞生物へ/系統発生が生んだ大気の変化
§16. 寒冷・温暖化リズムと体温の恒常性
上昇・下降を繰り返した太古の地球表面温度/魚類・両生類の出現/環境温度の変動と恒温動物の出現/個体発生は系統発生を反復する/体温の恒常性と冷暖房技術
§17. 恒常性の維持と「感覚-行動」プロセス
ヒト体温の概日リズム/周囲環境とヒトの「感覚-行動」プロセス/アクティブ型技術の定向進化
§18. いわゆる五感は十三感
神経系の発達と建築環境・体内環境/全身に張り巡らされた神経系と十三感/神経細胞による情報伝達
§19. 情覚・意識と不快・快の評価
認知のプロセス/情動と情覚/系統進化した脳の3層構造/不快・快と二つの記憶
§20. 天動説・地動説と宇宙観
天球上の太陽の動き/天動説という精緻な数理モデル/太陽を中心にした地球の自転・公転
§21. 潮の満ち干と体内時計
月の満ち欠けと公転周期/潮の満ち干と太陰日/月と太陽が及ぼす起潮力/体内時計を司る重力と太陽光
第4章 改めて知る光と熱の振る舞い
§22. 波そして粒として振る舞う光
拡がり進む波の本性/見えない電場・磁場の存在を確かめる簡単な実験/光子たちの桁違いな質量
§23. ほどよい明るさと人工照明
眼と視覚のしくみ/空疎な所要照度基準/明るさ知覚の実験
§24. 自然光源と人工光源
変動する室内の昼光照度/自然光・人工光の必要とするエクセルギーを比較する/白熱灯・蛍光灯・LED 灯のエクセルギー収支を比較する
§25. ロウソクの振る舞いと伝熱四態
エクセルギーのほとんどが熱となるロウソク/ロウソクに見る伝熱四態/ロウソクと可視光
第5章 エネルギー・エントロピー・エクセルギー
§26. 熱容量の発見と熱量保存則
熱と温度/ブラックの功績——熱容量と熱量保存則/水量収支で考える熱伝導
§27. 仕事・熱とエネルギー保存則
「力」と「仕事」/「仕事」と発熱/「 エネルギー保存則」の発見
§28. 拡がり散りとエントロピー・絶対温度
エネルギー・物質の拡がり散り/拡がり散りは元には戻らない/エントロピーは熱に比例する/熱・エントロピーから絶対温度を定義する
§29. 拡散能力・エクセルギーそして消費
資源性を決定する環境温度/エクセルギーとは拡散能力/消費を「見える化」するエクセルギー
第6章 拡散・凝集の振る舞いを読む
§30. 真空の発見と水蒸気圧
真空の存在を証明するパスカルの実験/水蒸気濃度を決めている化学ポテンシャル
§31. 膨張・圧縮と冷却・加熱
エアコンの構造・仕組み/冷・温エクセルギーを振り分けるエアコン/室外機を地中につなげれば……
§32. 湿潤・乾燥と湿り空気
外気温と水蒸気濃度/大気と共に変動する水蒸気濃度/相対湿度で大きく変わる乾・湿エクセルギー
§33. 光水合成する植物たち
葉緑体で行なわれる物質循環/葉はなぜ熱くならないのか?
第7章 人体の振る舞いとエクセルギー
§34. 体温調節と適応・行動
ミトコンドリアは体内のコジェネレーションシステム/体温の動的平衡と人体の振る舞い
§35. 温もりの創出と放調
太陽の6000 倍に及ぶ人体の発熱密度/人体のエクセルギー消費速さに大きく関係する周壁温度/壁体の高断熱化と「温」放射エクセルギー
§36. 涼しさの創出と放調・通風
必要な周壁面からの程よい冷エクセルギー/断熱と「冷」放射エクセルギーの創出/日除けの位置と放射エクセルギー/「強冷」から「涼房」へ
第8章 流れ・循環を成す自然と技術
§37. 換気と四つの力
流体と高圧・低圧エクセルギー/風力換気と浮力換気/空気の流れと圧力減退/パッシブ型換気に要するエクセルギーはアクティブ型換気の1/1000
§38. 共生・持続する生命系
体内環境に共生する細菌/開放系として機能する血管系/人体を構成する原子たち/生命系が保有・持続してきたリン(P)/物質循環と生命系
§39. 動的平衡する地球環境システム
地球大気の雲量と太陽活動・銀河宇宙線の相関関係/地球を取り巻く入れ子構造——大気圏・磁気圏・太陽圏/天空放射温度と天空「冷」放射エクセルギー/地球環境システムのエクセルギー収支
§40. 自然にならう技術とは何だろうか?
見事な地球の設え/自然にならう技術を求めて
補講 諸量把握のための処方
あとがき/引用・参考文献/索引
書籍概要
書 名:『人・建築・地球をエクセルギー 環境物理学入門』
著 者:宿谷昌則
発売日:2024年10月28日
価 格:3,300円(税込)
著者プロフィール
宿谷昌則
東京都市大学名誉教授。LEXS design 研究室主宰。
専門は、建築環境学・環境物理学。
自然のポテンシャルを活かす照明・暖房・冷房・換気などの建築環境システムを、エクセルギー概念を基礎に据えて長年研究。これまでの研究を総括した本書の内容の元となる英文著書『Bio-Climatology for Built Environment』で、2022年度日本建築学会著作賞を受賞。
著者の関連雑誌
『住宅建築 No.460』(2016年12月号)
対談 放調で実現する心地良い環境 宿谷昌則×眞田大輔
本書の担当から一言!
「内容紹介」で「一般向けに平易に叙述した」と書きましたが、実はそんなに易しくはなく、すんなりとは読めません。私のような、高校時代に物理が20点だった文系人間からすると、これを最後まで読み通すのは結構大変でした。ちゃんと理解できたか?と問われると、全く心許ないです。しかし苦労したからこその、充実した読書体験ができたというべきでしょう。ちなみに編集者は、物理学科出身です。