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赤いロンT
昨日は友達の友達の結婚パーティー的な催しがあって大井町に行った
友達の友達、つまり僕に取っては知らん人だ
会ったこともない
会場に行く直前に友達から「けいすけ、友達が結婚すっから花を買ってきてほしい!仕事で間に合わねぇ!」と頼まれた
僕にとって結婚するその人(女の子なのだが)は一回も会ったことのないまぁ他人だ
自分の友達の結婚祝いの花を、面識のない別の友達に買ってこさせようとする神経の尊さに僕は胸を躍らせていた
彼の名前はけいじろう
まぁだらしなくて発言と行動にパラドックスが生じまくるタイプの人間なのだが
めちゃめちゃ良いやつではあるから仲はいい
初めて会った時に「初めましてKjです!」となんの悪びれもなくクソダサい格好で言ってきた時は顔面をグーで殴りそうになったのを今でも鮮明に覚えている
(Kjは僕が大好きなDragon Ashのボーカルの愛称)
そんな彼は正真正銘のコドナ(こどものままの大人の略)
大好きなものに真っ直ぐ!みたいなポジ方面な比喩ではなく
精神的にガキでちっちゃくてしょうもない様を表している
昨日は本当に小学生に戻ったかのような体験を彼にさせて頂いた
パーティー会場は古着や雑貨を売っているラウンジみたいな感じのオシャレな空間だった
僕は酒は飲まないので、みんながカンパーイとよろしくやっているときに
一人古着をディグっていた
すると左胸と左腕にTOYOTAのロゴがプリントされたいい感じのロンTを見つけた
100%ブート品だがそれもまたかわええなぁーと思って値段を見るとなんと1000円!
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お値段まで可愛いじゃんかよと思ってハンガーを自分の頭より上にかざして購入までの滑走路を走っていると
「そのロンTどっちが買うか決めへん?」という彼の声がした
コンセプチュアルなアート展を眺めているようなフレグランスな時間に包み込まれ僕の頭は真っ白になった。
意味がわからなかった。
彼の顔を見ると、ギャグではなく正真正銘のマジだということが秒で理解できた
「そのロンTどっちが買うか決めへん?」
すでに薄れかけていた言葉の輪郭を書き直すように彼はもう一度そう言った
。。。。。
僕が見つけたロンTである
今、僕が手に取っているし、今体に当てて鏡を見ているのも僕である
しかし後からその様を見ているだけ彼が何故か「一緒に探して一緒に見つけた」かのような幻想的な権利を主張してくる
トリッピーすぎて僕はキマってきてしまった
彼がマジだということがわかった瞬間から僕はそのロンTのことはどうでもよくなっていた
ロンT欲しさよりも「彼の欲望を抑圧したい。」という欲望が僕の中に湧き起こっていた
「俺は赤大好きやねん。そしてサイズな。XLてマジで俺のサイズやねん。」
彼は何やら自分がそのロンTの購入者に相応しいということをプレゼンしている
理由にならなすぎてどうでも良すぎてむしろ輝かしかった
他人を気にせず欲しいものを主張する
それ恥ずかしいことであると疑ってやまない僕の偏見に塗れた心が
伝説の海底都市を発見したかのように喜んでいた
幼い時におもちゃの取り合いをしたあのお伽話のような感覚を
35歳になった今味わわせてくれている
ありがとう。あぁ本当に、ありがとう。
僕は感動しながら彼の必死のプレゼンを眺めていた
音声はミュートしてそのソウルだけを表情から読み取り味わっていた
たくさんの言い分を聞いた上で僕は最終的に「NO」と彼に伝えた
彼はとても悔しそうにしていた
とてもとても悲しそうだった
もっとこっちから彼に勧めたくなるようなプレゼンをしてたら譲っていたけど
ロンTに触れてもいないのに「俺が先に見つけた」と言わんばかりのパワープレイをされては
それをいじりたくなる僕の好奇心も黙ってはいない
自分のガキさを思い知ってなんだか嬉しくなると同時に
言い方、伝え方、とは人生の全てであるなぁと感じたりした
結局、そのロンTが自分のものにできないとだんだんと理解した彼は
肩を落とし現場から去っていった
僕は悲しげな彼の後ろ姿を見つめながら
静かにそのTシャツを元あった棚に戻しその場を後にした