ティア泣き日記

 一昨日、初対面の人の目の前で真剣(マジ)泣きしてしまった。たぶん、物心がついてから初めて。

 楽しくて忙しい一日だった。朝からコミティアに行き、遅めのお昼でビリヤニを食べて、夕方からNOMELON NOLEMONのライブに参加し、夜は携行食をお供にaiko・井口のANNを聴いていた。もう体力も情緒もめちゃくちゃ。徐行運転で昨日今日を何とか凌いでいる。

 色々あって色々ありすぎたけど、一昨日という日を後から振り返った時に真っ先に思い出すだろう光景は一つしかなくて、それがつまり冒頭の話。

 コミティアは作家さんと直接交流できることも醍醐味の一つで、それを楽しみにしている作家さんも多いような気がする。私は申し訳ないとは思いつつ、作家さんへ話しかけることはほとんどしていない。一度でも話しかけたら、これから買いに行く度に何か話しかけなければいけないような強迫観念に駆られてしまうから。最悪の思考すぎる。そんなこと全く気にしなくていいはずなのだけど、昔から人の期待を裏切ることに対する恐れがすごく大きくて、何かを期待されるような可能性がある行動は最初からなるべく取りたくないな~と思ってしまう。
 それでも時折、どうしても何かを伝えなければいけないという衝動が躊躇を飛び越えていく瞬間があって、一昨日がまさにそうだった。

 前日の夜に作品を丁寧に読み返して、何を話したいのかを行きの電車で整理して、サークルスペースを遠巻きに眺めては素通りしてから周りを一周して戻ってくることを3回ぐらい繰り返して、何とか気持ちが整ったところで漸く声をかけた。自分で言うのも何だが、感想を言葉にしていくのはわりと得意な方だ。だから、いざ話し始めてしまえば何とかなるだろうと、口を開いて心に手を突っ込んでみたものの、一向に言葉が出てこない。あれ、と思った次の瞬間にはもう駄目で、代わりに涙が出てきてしまった。言葉を汲み出そうとしたのが、想定よりも随分深い場所だったのだと思う。偽物協会について語ることは、つまり自分について語ることなので。取り落した感情の手綱を拾い上げられないまま沈黙が流れて、それを埋めようとした言葉も形にならなくて、きっと困らせてしまっているだろう白井もも吉先生の顔を見ることもできなくて、何かもう今までの人生で上手くいかなかった全部のことが頭を通り過ぎていって、ただただ申し訳なさとやるせなさで消え去りたい気持ちでいっぱいになってしまった。本当なら直ぐにでもそこから立ち去りたかったけれど、偽物協会はそういう情けなさみたいなものをこそ、全部そっと包み込んで肯定してくれるような作品だったと思っていて。そのことに救われたからこそ、どうしても今この時に伝えなければならないような気がしていた。でも、やっぱり全く駄目で。息を吸って何とか声をひねり出したけど、嗚咽を抑えることができなくて、結局そのまま頭を下げて立ち去った。普段は完全に感情より理性が先行するタイプなので、自分で自分の姿に動揺してしまった。一人でいる時ならともかく、他人に対してこんな振る舞いをしてしまった経験があまりにもなさすぎて。

 それから、言えなかったことばかりが胸を巡っている。ずっと考えていたことがあった。「気にするな」とか「そんなことない」という言葉は、それ自体ありがたくはあるけれども、自らのままならなさに絶望している人間を救うものにはなり得ないのだということ。どうしたって気にしてしまうよ。だって、そうなんだから。本当に最悪だけど、どうして貴方にそれを否定することができるんだと思ってしまう。そんな風にできないから、いつまでも自分はこうなのだと思わされてしまう。だからこそ、最終話で綿子さんに届いた言葉を見た時、本当にぐちゃぐちゃになって泣いてしまった。甘えとしてではなく、その言葉に救われてしまってもいいのだと思えて。何気なくかけられたそういう言葉達を、必死に拾い集めては後生大事に心へしまい込んで、何度も繰り返し取り出しては自分を慰めている。そういう自分の気持ち悪さまでもが許されたような気がした。私にとっては、この偽物協会という作品が、まさしく綿子さんにとっての偽物協会そのものだった。今生を乗り切るために胸に抱く大切なお守りの一つになった。そういうことが伝えたかったんだよ本当は。ああ。

 読み終えてからずっと、白井もも吉先生は自身が必要としている言葉をいつか十分に受け取ることが出来たんだろうか、ということを考えてしまう。何様なんだろうと思う。でも、綿子さんへあの言葉を差し出せたバランス感覚は、やっぱり自らの経験からしか生み出せないもののように思えてしまって。この感情を素晴らしい作品として描き出してくれたことには感謝しかないのだけど、今の先生は心穏やかに過ごせているのということだけがどうしても気掛かりで。そんなこと気持ち悪すぎて直接言えるわけもないけれど、その日々が安らかであればいいと思うし、そう願うことしかできない……。

 めちゃめちゃに泣きながら書き散らかしていたら、二日経ってしまった。これは流石に書き残しておいた方がいいだろうなと思って……。
 頑張って生きようね。