2020年に摂取したコンテンツまとめ
皆さん、摂取してますか。私はしています。生きています。
・対象は今年摂取したもの。必ずしも今年発表されたものではない。
・再読等は集計外。初見作品だけカウント。
・印象に残ったものをいくつか抜粋して紹介。順不同。
・触れるものにはなるべくリンク貼った。
興味があるとこだけ見ておくれ。(目を通すつもりならすぐ下のプレイリストを聴きながら読むのがいいらしいですよ。何故なら激長だから……。)
音楽(聴いた数:たくさん)
2020年のオススメ150曲はこれだ!!!
今年見つけることができて特に嬉しかったアーティスト
南波志帆、ベランダ、電音部、POLLYANNA、Maica_n、ORESAMA、Kitri
年間通して最も長い時間聴いたアーティスト
aiko
以下、一年の感想など。(あんま読まなくていいです)
今年は一言でいうと「開拓」の年だった。
去年の記事を書いて以降、音楽サブスクをAmazonからSpotifyへ乗り換えたのですが、その理由がサジェスト能力の違いだったんですよね。Spotifyはユーザーの履歴を機械学習して「これを聴いたアナタにはこちらもオススメです」を次々と提案してくる。まあ達人なら機械に頼らずとも発掘していけるのでしょうが、素人としてはありがたいわけです。
どうせなら1年ぐらいは試しに全力で乗っかってみるかと思って、今年はずっと以下のサイクルで過ごしていました。
①月曜にDiscover Weeklyを聴く
毎週Spotifyが自動生成するプレイリストで、ようは「お前こういうのも好きだろ?」を30曲詰め合わせてあるやつ。勿論全部が全部ドンピシャではないものの、毎週違うプレイリストが聴けるだけで単純に楽しいので聴き得。
②引っ掛かりを掘る
Discover Weeklyでピンときたアーティストについて、アルバム3枚ぐらいを上限に【あとできく】プレイリストに突っ込む。街中でたまたま聴いて耳に残ったやつとかも同じように全部突っ込む。
そのまま、ひたすら【あとできく】を聴く。一回聴いたやつはプレイリストから削除。改めて気に入ったアーティストは一度既存曲を聴いておきたいので、全曲【あたらしいやつ】に突っ込む。
あと特に追っているアーティストの新譜情報は知った時点でカレンダーに入れておいて、リリースされ次第【あたらしいやつ】に突っ込んでおく。
③整理する
【あとできく】が空っぽになったら、【あたらしいやつ】をひたすら聴いてお気に入りを探していく。これも一回聴いたやつは削除。ここで曲にハートつけたりアーティストのフォローしたりとか色々。【あたらしいやつ】も空っぽになったら、見つけたお気に入りを聴きながら次の月曜に備える。
おかげで今までにないほど色々な曲に出会えたのは良かったなぁ、というのが一年終えた感想です。spotifyへの引っ越しはそれなりに骨が折れましたが……その見返りは十二分に得られた気がする。
反省点としては、延々開拓してたのであんまり聴き込めなかったこと。来年どう付き合っていくかは要検討ですね……。
小説(読んだ数:4冊)
小説、読んでないです。君、こんな有様で恥ずかしくないの?
今まで主に電車に乗っている時間を充てていたのだが、それがSpotifyと漫画アプリにとられて全てが崩壊した。もう終わりだ。
来年はオタクらしくハルヒの新刊ぐらいは読もうと思います。
さよならの言い方なんて知らない。3-4(河野裕)
おそらく今現在で唯一買い続けていると言えるシリーズ物の最新刊。去年も挙げてるのでコメント省略。激推です。
漫画<商業>(読んだ数:697冊)
色んなものへ手を出しすぎて趣味が中途半端な男を自認していたのですが、今年は思ったより力の注ぎ具合に偏りがあったので、来年1年間は「去年漫画好きだった男」として生きても許されそう。
全然絞れなくて思いつくままに挙げた。冊数制限などない。
(○=単巻 ◎=完結済 ★=今年読み始めた)
花と頬(イトイ圭)○
去年本屋で表紙を見かけてから何となく気になり続けていた作品で、コミティアの会場で売っているのを偶然見つけた時に思わず買ってしまった物。
この作品を言葉で評するのは本当に難しいし怖いのだけど、話としては、少女と少年(そしてその周囲の人たち)の交流を静かな筆致で描いた作品、という説明になります。ただ、その本質は画や間によってもたらされる、何とも言語化できない叙情性にあります。心の機微の掬い方がひたすらに丁寧で、読み返す度により沁みてくるような味わい深さがあります。
誤解を恐れずに言うなら、この作品に対して何ら特別な感情を抱かない人も間違いなくいます。それでも、読むべき人が多くいる作品です。
これは、漫画という表現を使った純文学だと思います。
アンダーカレント(豊田徹也)○
村上春樹氏の新刊で装画を担当したことで俄に話題になった豊田徹也氏の作品。「花と頬」のイトイ圭先生が最も好きな漫画家として名前を挙げていたのをみて、読まないわけにはいかないだろうと即座に購入。
夫が失踪してから一人で銭湯を営む女と、流れ着いてきた男の話です。 読み終えて、その傑作ぶりに深く納得しました。過不足のない人物描写に、随所に挟まる軽妙なやり取り、良いところを挙げればキリがないです。
もう私なんかがごちゃごちゃ言うよりも、この作品を的確に捉えた素晴らしい公式紹介文があるので引用します。
映画一本よりなお深い、至福の漫画体験を約束します。
然りです。同作者の短編集「ゴーグル」に本作と関連する短編が収録されているので、そちらもオススメです。本当に。
バトルグラウンドワーカーズ(竹良実)★ 1~5巻
30歳にして失業中の冴えない男が、ある日届いたパイロット採用通知をきっかけに人造兵器「RIZE」へ乗り込み、人類の敵である未知の生命体「亜害体」との戦いに身を投じていくというSFアクション。
社会に虐げられていた持たざる者が、「不屈」の精神で少しずつ何者かへなっていく。竹良実先生は、過去作から一貫してそういう物語を描き続けてきました。本作のあらすじも一見すると華々しい道の始まりのようですが、パイロットは人類を救う勇者などではなく、消耗品の兵士でしかありません。主人公含め同僚も何らかの理由で社会から弾き出された人ばかりです。
努力をすれば必ず報われるなんてことはないし、大きな力の前では個人の正しさなんていとも容易く踏みにじられます。それでも、抗うことを諦めた人間には何も掴むことはできないのだと、強く訴えてくる作品です。
この戦いに選ばれし者は出てきません。いるのは、誰にでもできるような当たり前を愚直に積み重ねて泥臭くもがき続けている、凡人だけです。
加速度的に面白さが増すので、最低3巻まで一気読みを強く推奨します。
姉の友人(ばったん)○
主要登場人物は三人。中学生の少女るり子、その姉でフリーターのナツ、そして小説家の今日子。三人の視点それぞれから描かれる短編と、その後日譚によって構成された連作集です。
まず読んで驚かされるのは、形にして拾い上げるのが非常に難しい本当に微妙な感情を見事に表現しきる、その感情表現の巧みさです。言葉を最小限に間や表情で語る様が、むしろ文学的という印象を抱かせるのが面白い。
そして、連作集としての完成度の高さ。それぞれの短編は視点だけではなく、描かれるエピソード自体が微妙に異なります。別視点から同じ出来事を観測するだけではないので、単純な種明かしのようなものに終始してはいない。それなのに、短編を一つ読み終える度に、他の短編の味わいが明確に増してくるんですよ。やはり前述の感情表現の巧みさ、これによって主観人物が明確な像をもって浮かび上がってくるからなんですよね。すごい。
人間は所詮、自分の色眼鏡を通すことでしか世界を観測することはできません。自分の中の他者とその実像は避けようもなくズレを生じるし、人との人との繋がりも、突き詰めれば一方通行をすれ違わせているに過ぎません。そんなコミュニケーションの不完全性を突き付けながらも、それでも他者を求め、繋がろうとする人の姿をありのまま描く。本当に美しい作品です。
ムーンランド(山岸菜)◎★ 1~9巻
高校体操漫画。主人公ミツの性格は少年漫画然としておらず、勝敗よりも「自分の体を100%思い通りに動かせるようになりたい」という独自の哲学を掲げて体操を続ける少年。そんな彼が、勝利への強い執着を持つ朔良を始めとした体操部の面々と互いに影響し合いながら、インターハイへ挑む話。
個人的にミツの哲学には非常に共感できるところがあるんですよね。客観的な評価はあくまで付属物でしかなくて、自らの純粋な欲望を実現するための積み重ねを止めないことだけが重要だと信じて生きているので。
展開自体は王道ど真ん中なのだが、とにかく登場人物の掘り下げが上手く、読み終えた頃には全員好きになってしまうのが凄い。でも5巻以降は電子版しか発売がない。そんなバカな。もっと売れていいはずなのだが……。
葬送のフリーレン(山田鐘人×アベツカサ)★ 1~3巻
勇者一行が魔王を倒してから半世紀、勇者・ヒンメルが寿命で亡くなったことをきっかけに、エルフの魔法使い・フリーレンは旅に出る。既に死んだ勇者が何を想っていたのか知るため、「人間を知る」ための旅に。
正直、連載が始まった時はよくある「一捻り加えたRPGパロディ物」だと思って舐めてかかったので、少し読んでかなり衝撃を受けました。
全体に淡々としたトーンで進行し、作中時間もそれなりの速度で経過していきますが、それが長命さ故に人間と異なる時間感覚をもつエルフを主人公に据えていることマッチし、何とも言えない味を醸し出しています。ひとつ連想されるのは、井伏鱒二の名訳として有名な「勧酒」です。
この杯を受けてくれ どうぞなみなみ注がしておくれ
花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ
当然ながら、読者はフリーレンが勇者一行として旅をしていた時のことを知りません。そうした過去の旅の様子は回想という形で登場するのですが、その記憶を現在の旅とオーバーラップさせることで、ヒンメル達がフリーレンにどのような変化を与えたのかを示す構成になっています。変に感動を煽るような演出ではないのですが、それが妙に心に残る不思議な作品です。
宙に参る(肋骨凹助) 1
夫を亡くした主婦が、息子と一緒に義母の元へ夫の遺骨を届けにいく話。※主婦は現在宇宙に暮らしており、息子はロボットであるものとする。
ハードさとソフトさが絶妙なバランスで同居した、不思議な手触りの近未来SF。宇宙コロニーや高度な人工知能、長期渡航が可能な巨大宇宙船が実現されている一方で、メインストーリーは納骨のための里帰りという緩さ。
なにせ1話からして、ロボットとタブレットを用いて参列者が地球から焼香をあげる遠隔葬儀の話ですよ。このオフビート感がたまらなく愛おしい。
いかにもSF的な設定もきっちりと詰め込まれていて、雰囲気だけではないしっかりとした土台を感じさせてくれるので、かなりの安心感があります。その上、SFを読み慣れない方でも絵と直感で十分に楽しめる、説明的すぎないポップなテイストに仕上げられているのですから、舌を巻くばかりです。
連載が始まったのはもう2年以上前ですが、単行本は1巻で展開もまだまだこれからといったところ。めちゃくちゃワクワクしますね。読むなら今!
やわらかな命日(はにみ)○
全6編からなる短編集。どれも本当に素晴らしいのですが、ひとつ一つが完全に独立していて中々コメントが難しいのと、実際に読むのがなによりも雄弁に違いないので、作者さんが公開されていた作品を一つ貼ります。
収録作の中で、私が二番目に好きな作品です。
思い立って「百合」とカテゴライズされた短編集を読んでは、not for meで落胆するということを性懲りもなく繰り返しているのですが、久しぶりに
「俺……百合姫ちゃんのことまだ信じてていいのかな……?」という気持ちにになることができました。ありがとうございます。ちなみに、私が一番好きなのは「まだ春じゃないのに」という作品です。よろしくお願いします。
ぽんこつポン子(矢寺圭太)★ 1~8巻
「それ町」も「ヒナまつり」も終わってポッカリ空いた私の心の穴を埋めてくれたのは、ポン子でした。
妻に先立たれて独り身になった頑固ジジイ・吉岡の元に、突然メイドロボットが派遣されてくる。でも暮らしが楽になるどころか、そのポンコツぶりに振り回されるばかりで……というSF(すこしふしぎ)日常コメディです。
このあらすじ「どこかで聞いたことがあるような」という段階を超えて、もはや古典の域に入るようなコッテコテの代物ですが、その王道さがむしろ漫画としての完成度を際立たせています。
吉岡翁もポン子も、二人が暮らす海辺の田舎町も、全てが古ぼけていて、あとは緩やかに滅びへ向かうだけの存在です。そういう誰からも必要とされない存在たちが、肩を寄せあって暮らす。それも重苦しいものではない、楽しく騒がしい暮らしを。使い古された設定自体がこのテーマと響き合って、作品に込められた優しさをより強固にしているのがまた素晴らしいんです。
何かごちゃごちゃ言いましたけど、実際こんなんはどうでも良くて、単純にめちゃくちゃ笑えるし面白いんですよ。巻を追う毎に人物も世界もどんどん立体的になります。今一番オススメしているコメディ漫画なので、是非。
中野ブギウギ(研そうげん)◎★ 1~2巻
中野ブロードウェイを舞台に、美大を目指して二浪中の予備校生・みれいと、単眼の謎生物・オメメ(命名:みれい)が送るカオス日常漫画。
コメディといえばコメディだけど、真っ直ぐに熱くなるような衝動の話もあり、鬱屈とした感情の話もありで、これっていうジャンルに分類するのはちょっと難しい。本作自体が混沌としていて、でも面白いっていう、まさに中野ブロードウェイそのもののような作品になっているわけです。気づくと作者めちゃくちゃ中野好きじゃん……という気持ちで満たされてきます。
色々あるけども基本的には楽しく暮らしてる人たちの「生活そのもの」の漫画というのが一番しっくりくるかもしれない。マジでうまく説明できん。とりあえず読んで感じてくれ。めちゃ面白いから。
正直、これが売れずに打ち切られたという事実が未だに信じられない。めちゃ面白いのに。分かりやすいラベルがないからか??
でも、コロナの漫画はクソバズってる。あれもよかったけどさ。はい。
あさひなぐ(こざき亜衣)◎ 29~34巻
薙刀に打ち込む女子高生達の青春を鮮やかに描いた作品。単なるスポ根では終わらない。一言で表すなら、これは「成長」の物語です。
物語が始まった時点では何者でもない主人公の旭が、少しずつ強くなっていく。そういう少年漫画的な面白さも、たしかにある。でも、この作品の真に素晴らしい点は彼女以外の人物の成長、それも競技的な強さだけではなく、内面の変化までを丁寧に描いているところにあります。
報われるかも分からない日々を積み重ねた先で、何かを掴んだ瞬間がある。それが物語の"脇役"だったとしても、客観的には些細なものだったとしても、その一瞬にそっとスポットライトを当ててみせる。物語の主役ではなくとも、皆が自らの人生の"主役"として生きている。そんな作品です。
ニュクスの角灯(高浜寛)◎★ 1~6巻
19世紀末の長崎を舞台とする歴史ロマン漫画。美世という少女がとある骨董店に就職するところから始まり、フランス・パリにまで及ぶ壮大な、でも細やかな人間ドラマが展開していく。
まさしく彼女の人生におけるベル・エポックを鮮やかに描いた作品、といった感じ。史実に基づく歴史漫画的な側面もあるのだけど、人物描写に重点が置かれているので読み味は然程固くはないです。
実は完全無欠の大傑作!というわけではなく、途中の展開だったり終わらせ方ついて色々と思うところは……正直なくもない。それでも、物語の後半に訪れるタイトル回収のシーン、それがあまりにも美しすぎて、もう全てを許せてしまうんですよね。その瞬間だけで十分以上に読む価値があります。
あーとかうーしか言えない(近藤笑真)◎ 3~4巻
「あー」とか「うー」しか言えないという程ではないものの相当に口下手な新人エロ漫画家・戸田セーコと、成人漫画雑誌「X+C(エクスタシー)」の編集者・タナカが、より良いエロ漫画を創るために奮闘する話です。
題材自体は飛び道具ですが、仕事上の葛藤や苦しみ、業界のあるあるネタに、盛り上がる対決展開など、バディお仕事モノとしては実はかなり正統派な作品です。設定で抱いた期待が裏切られることはないと思います。
何より特筆すべきは、19話~21話の3話かけて戸田セーコの幼少期を描いた、いわゆる過去編です。戸田セーコがいかにしてエロ漫画家を目指すようになったかが語られているのですが、そこに注ぎ込まれた熱量が凄まじい。
最後に走り出した少女の叫び、その衝動。全てがここに込められています。創作物を愛する全ての人に届いて欲しい、傑作エピソードです。
BLUE GIANT(石塚真一)◎★ 1~10
ジャズに惚れ込んだ元バスケ部の高校3年生・宮本大が「世界一のジャズプレーヤーになる」ために全力で駆け抜けていく、青春漫画。
とにかく絵の力が凄まじい。奇をてらったことなんて何もないんですよ。話の展開自体も本当に素直で、ひたすら前へ前へと走っていく主人公たちの姿を追うだけ。それなのに、とんでもない引力でグイグイと物語に引き込まれていってしまう。気付くと「いいぞ! いけ!」と思わず声を上げたくなるような、熱い気持ちになっています。何というか、作品全体がものすごいエネルギーに満ちてるんですよね。
名作音楽漫画に対して、「音が聴こえる」という表現がしばしば使われます。私はそれらの漫画から実際に音が聴こえたことはありません。そして、本作から音が聴こえたこともありません。でも、本作の演奏シーンを見て、実際に演奏を聞いた時のように心揺さぶられ、興奮したことはあります。
本作の続編が連載中のようなので、来年はそちらも読んでいきます。
チェンソーマン(藤本タツキ)◎ 5~10巻 ※10巻は1/4発売
人生で初めてジャンプを定期購読することになった原因。
社会の底辺で荒み切った人生を送っていた少年は、とあるきっかけでチェンソーの悪魔に変身する能力を獲得する。これは、そんな少年が悪魔たちと熾烈な戦いを繰り広げていく、能力バトル漫画である!! ほんとうだよ。
全てがあまりにも美しい円環を描いていることを始めとして、とにかく色々と語りたいことがありすぎるのだけど、キリがなさすぎて何も言えないオタクと化してしまいました。4巻ぐらいから面白さがめちゃくちゃ加速してくるので、とりあえず何も言わずに6巻までは読んだ方がよいです。参考にチェンソーマンの面白さ推移グラフを貼っておきます。(100点満点)
一つだけ個人的な話していいですか?
私はデンジとマキマさんが二人で映画を観るだけの話が本当にたまらなく好きで、チェンソーマンが結末に辿り着いた時にその39話に物語的にも非常に大きな意味が付されていたことが示された瞬間、嬉しすぎて震えました。未読の人にはサッパリだと思いますが、知りたければ読んでください。
チェンソーマンは読むとおもしろい気持ちになるのでオススメです。
漫画<同人>(読んだ数:132冊)
今回からWeb公開版しか読んでないものも冊数に含むことにした。今年は29冊が該当。該当作は無料で読めるので気軽に読んでみて欲しい。
(☆=Webでも読める)
児玉さん(つらんとんてん玉子に目鼻/鷹行静)
新人OLのマキが、同僚の児玉さんを見つめる視線を切り取った物語です。
児玉さんは何か分かりやすい特徴があるような人ではありません。天気のいい日は向かいの公園のベンチで昼食をとるのが日課で、歩く時の姿勢がよくて、真面目で少し可愛げのある、同僚のおばさんです。
児玉さんが何故少し気になるのか、マキは自分でもよく分かっていません。でも、彼女が規則正しく一定のリズムで、まるで時計のように日々を刻んでいく姿をみては、ふと自分の生活を省みてみたりしている。
未来に対する漠然とした不安というか、淡々と日々が過ぎ去ってしまうことへの寂しさ。普遍的な感情ではありますが、これをマキも抱いている。そして、児玉さんに自分の未来の姿を重ねてもいるわけです。それが不満というわけでは決してないけれど、本当にそれで良いのかとは考えてしまう。
でも、実は「変わらないもの」なんて無かったということにマキが気づく瞬間があるわけです。子どもの頃に想像していた「普通」を手に入れるために実はどれ程の努力を要するのかとか、そういう話でもありますが。
変わらないためには変わり続けることが必要だと、児玉さんを内在化して進み始めたマキの背中の力強さ。これが読者へのエールにもなっていて。
本作自体が文字通りマキにとっての「児玉さん」のような存在となり得るものであって、あるいは実は誰の人生にも児玉さんがいたのではないか、自身を見つめるマキがいるのではないか、とそういう構造になっている。
本当に美しいし、心に余韻を残す物語です。
刃物のようなもの(史屋/史也)☆
「煙たい話」というシリーズの一編。女子高生の梨々子が、友人の環に好きな男が出来たことで、もやもやした気持ちに襲われる話です。
友達って 何なんかなぁ
一言でまとめると、こういう話。何の保証もない、互いが互いをそうと認めることでしか成立しない不確かな関係。恋愛における結婚のように唯一無二の存在になる手段もないし、生きるために必要不可欠なわけでもない。
でも、だったらその形って一つに決めなきゃいけないわけじゃないし、何を込めたって構わないでしょ?というところに展開していくのが本作。
形が決まっていないものだからこそ、それを保ち続けることって難しいんですよね。その正否を自分で判断するしかないから。曖昧なものをそのままにしておくことは逃げじゃなくて、むしろそっちの方が大変なんだという。
すごく綺麗に物語へ昇華されているので、読むとすっきりします。
そして、ヘラたちはいなくなった(まばたき星雲/ばったん)
<商業>部門でも紹介したばったん先生の同人誌。姉の友人を読んで以降、旧作を含めて読み漁っていますが、これはその最新作。
期間限定で通販扱いがあったんだけど今もうないみたいです……。
とある街のカッフェでくだを巻きながら、出稼ぎに行くといって消えたまま戻ってこない男の帰りを待つ二人の女。一人は5年間待っている若い女、一人は50年以上待ち続けている老婆。同じカッフェの常連として同じように男を待ち続けている彼女らの、その関係性は何なのだろう、という話です。
彼女らは互いの名を呼ぶことすらありません。毎日のように同じカッフェのテーブルに向かい合い、互いに自分の男の話をしながら、「アンタ」「バアさん」と呼び合う二人の女。乱暴に言葉を交わし合いながらも、その間や表情で雄弁に語らせる巧みさは、流石のばったん先生といった手腕です。
新年を迎えたある日、物語が大きく動きます。その時、彼女らは誰を想い、何をしたのか。ばったん先生の持ち味である繊細な心理描写は今作も健在ですが、だからこそ終盤で形にされる言葉が凄まじく効いてくるわけですね。提示された答えと、その多幸感に震えました。
妖精公団の終わり(S curve/林麦)
民族学部に所属する高校生男女四人が、ある日突然みえるようになった妖精たちに請われて儀式を行うという、ゆるっとファンタジー団地漫画。肩の力が抜けた軽妙な会話劇が気持ちいい作品です。
基本はコメディテイストで進行していくのですが、少しずつ新しい事実が判明していったり、物語的にも絵的にも盛り上がる箇所があったり、ノスタルジックな余韻を残す終わりまで。とにかく物語としての起承転結がばっちしキマっていて、読んでいて気持ちがいい。
そして、絵が楽しい。団地に世界樹みたいなの生えてたら流石に笑っちゃうでしょ。妖精たちの姿も色々で、羽の生えた女の子からドワーフ、モグラ、ミツバチまで。ワクワク感がすごい。
うーん、ちょっと良さを言葉にするのが難しいのですが……この人の漫画本当にいつもめちゃくちゃ面白いんです。前作の「さよならロボットハニー」も、去年挙げようか散々迷った末に数の関係で泣く泣く割愛したので。
本当は他作者の名前を出すのはあんまりやりたくないんですけど、掛け合い自体は石黒正数さんに近い雰囲気で、世界観は九井諒子さんの「竜のかわいい七つの子」なんかが好きな人には刺さるかなと思いました。
呪いの解けた彼女は(たおやかハンバーグ/小野未練)☆
不老不死の女性・蒔絵さんと、彼女の特別になりたかった女の漫画。
他人に対して消えない跡を残したいというのは普遍的な欲望として存在してると思いますが、自分が座りたかった席が既に他人によって埋まってしまっていた時、それでもその人に対して何ができるのかという話です。
どれだけ相手を想っても、人が人に対してできることって結局エゴでしかないわけです。そうして最後に、その人がもう要らないといっても、後でその人が欲しくなった時に手渡せるように傍に控えていることぐらいは許してよ、というところに着地していく。すごく好きな温度感です。
「でも大丈夫かな 人生って長いよ?」
「あっという間ですよ きっと」
描き下ろし以外はTwitterで読めるから読んでおくれ。ただ、描き下ろしの蒔絵さん視点の回想、かなり重要だし激良なので是非読んで欲しいですね。
EVER GREEN GARDENⅠ(楽園崩壊/松崎夏未)☆
話としては作者キャプションの通り。
「あの子には自分しか知らない一面があるのだ」という特権意識、ある種の幼い独占欲ですが、これって時とともに失われがちなものだと思うんですよね。人は絶えず変化していくし、その意味は相対的に薄れていってしまうものだから。そのことに気付いてしまえば、維持することは簡単じゃない。でも、その脆さが作品全体の瑞々しさと絶妙にマッチしてるんですよね。
部名という概念がかなり"良さ"を出しています。互いが互いをどのように認識し、その名を呼んでいるのか。しびれますね。
めちゃ完成度高いのでオススメです。続き読みたいな…………。
春と東風(果野/ハテノ)☆
女子高生がネットの片隅で見つけた歌動画の投稿者を探す物語。
これ自体は歌、まあ創作物に関する物語なんですけど、それに限定されるようなメッセージでもなくて、つまり生き方についての話だと思いました。
誰かの心に届いたものはその人の中に永遠に残り続けるし、自分の存在がいつか消えたとしても、他者の中で内在化された自分は生き続けているのかもしれないという希望。人と人は究極そのようにして繋がっていくのだと。
何が人の心を打つかなんて分からないし、自分のやっていることに意味なんてないかもしれないけど、それでも誰かに届くと信じて何かを発信することを諦めるなと、そういう話でした。この作品自体そのメッセージを体現する存在としてネットに放たれているのだろうし、それが本当に美しい。
何故かスレッドだと一部非表示になっていますが、メディア欄から辿れば全部読めます。これ書籍版だと作中歌の歌詞が読めるんですが、それが本当に素晴らしいので、何とか入手して読んでみて欲しいですね……(無責任)
泥だらけのミザンセーヌ(我楽目喜/カリー缶)
夢見る若者が集う「帝都トウキョウ」を舞台に、作家志望と役者志望の二人の青年が劇団を立ち上げ、初公演に挑んだ顛末までを描いた話。
夢見ることの尊さを描いた作品は多くありますが、その中毒性や愚かさからも目を逸らすことなく、誠実に描き切っています。
一生懸命夢を追いかけているフリさえすれば
みんな応援してくれます 仲間だと言ってくれます
悲しいことに彼らは自らの愚かさに、街全体を薄く覆う欺瞞に気付いてしまっているのです。でも、それでも尚生きることは夢見ることなのだと描くその切実さ。主人公たちの叫びは圧巻で、ただ胸を打たれました。
物語は未来への希望を感じさせる、あまりにも綺麗すぎる結末を迎えます。その作為的な最後から、作者の祈りを感じずにはいられないのです。
秘密(改)(Sal Jiang)
女と女の感情を描いた、全5編からなる再録集。
内容自体はどれもよいのだけど、こんだけ完成度の高い短編がもりもり収録されていること自体に衝撃を受けて、印象に残った作品。後から調べたら商業連載をバリバリこなしてる方のようで、然りという感じでした。
収録作自体は全部買えるけど、再録集自体は通販での取り扱いがないみたい……。個人的なオススメは「All I Want for Christmas Is You」です。
漫画<Web読み切り>(読んだ数:115作)
商業・同人問わずWeb上の媒体で無料で全編が閲覧できる漫画で、単行本化を視野に入れての連載作ではなく、同人誌からのWeb再録でもないもの。具体的には、漫画賞の受賞作、Twitter漫画など。
こちらも全編無料で読めるので気軽に読んでみて欲しいです。
鹿の足(ほそや ゆきの)
期待の新体操選手として研鑽を続ける少女・鹿子と、その母の話。
親子という複雑な関係性を、真っ向から描き切った作品です。あまりの傑作ぶりに、読み終えて思わずため息が出てしまうほどでした。
最も近い他者ですから、色々なものを共有しすぎていると、その境目が曖昧に感じることもあります。でも、例え一塊のようになって生きていたとしても、やっぱり他者は他者でしかない。決して同じ存在ではないから、全てを分かち合うことはできないし、その必要もないのだと本作は示唆します。
結局、相手をどれだけ想っていたとしても、それを十全に伝えるというのは残念ながら不可能なわけです。でも、だからといってその気持ちが無かったことになるわけではない。だから、互いが互いを想って重ねてきた行動、その事実は記憶となって残り続けるのだとも、同時に示してみせる。
このバランス感覚が本当に素晴らしい。だからこそ、これだけ静謐な雰囲気をまといながらも、突き放したような冷たさではなく、優しい眼差しを感じさせる作品になっているのだと思います。是非とも読んでみてください。
ODD FUTURE(中島祐)
お笑い芸人を目指していた男・清水。芽が出ないまま夢を諦めた彼は今、アイドルオタクとしての日常を送っていた。
アイドル、そして夢というものに対して真摯に向き合った作品。
清水が推すアイドル・藤野すみれは、自らの夢を「観てくださっている方々のエネルギーに」なることだと語ります。そしてそれは、アイドルがステージを降りた後もファンの人生はずっと続いていくからだとも。
受け取ったエネルギーを自らの推進力にすること。エネルギー自体は目的ではなく手段で、あくまで進むべき道は自分自身のものだということ。
生きる理由は 自分で見つけなければいけない
これ私の信仰に完璧に一致しているんですよね。アイドルに限らず、オタクという在り方自体に対するスタンスとして。だから驚いたし、それをこうして物語に昇華してくれた存在がいたことが、本当に嬉しかったんです。
船場センタービルの漫画(町田洋)
寡作ながらも優れた作品を残す町田洋先生の、待望の新作読み切り。大阪にある複合商業施設「船場センタービル」の宣伝漫画、らしい。
自身を語り部とするエッセイ漫画で、自身が船場センタービルで感じたことを、独特の柔らかい筆致で描いた作品です。
……これを言葉で分解するのは、不可能じゃなかろうか。無理に書き起こしたとしても、それによって損なわれ、零れ落ちてしまうものが多すぎる。
みんな幸福になってくれ お願いだ
読み終えて感じる形容し難い多幸感。そして、切実に胸に迫る筆者の素朴な祈り。是非自分で読んで、確かめてみて欲しいです。
なお、本作を短編アニメーション映画化したものもYouTubeにて公開されており、そちらも大変素晴らしいので、是非とも視聴されたし。
西口賢ニ(47)(井上あかね)
平坦な生活を送っていた中年サラリーマンが、ある日おもちゃ屋で出会ったサルのぬいぐるみ「モンモン」に一目惚れ。家族にバレないように隠しながらも、そこに自らの生きる楽しみを見出していくという話。
一見すると笑ってしまうような導入ですが、本当に切実な人生の話です。自分の好きなものが周囲に受け入れられないかもしれないという不安。自分が好きなものは恥ずかしいものなのだという苦しみ。それでも自分はそれに救われているし、捨てることなんて出来ないのだということ。
自分の話にしか思えなくて、毎回ぼろぼろに泣いてしまう。自分で自分を肯定するのも大事だけど、そりゃ出来れば周りにも好きになって欲しいよ。
それはそれとして、フォロワーが多い人のこと「規模が大きい」って表現するの、マジで面白すぎるので今後使っていきたいです。
VRおじさんの初恋(暴力とも子)
VRでもぼっち遊びをしていたロスジェネおじさんがアバター相手に恋愛感情を抱く話です。
令和の銀河鉄道の夜、きましたね。ロスジェネおじさんであるナオキが、自分にとっての「ほんとうのさいわい」を探し、そして求める話なので。
(オタク、宇宙を走る列車が出てくると直ぐに銀河鉄道に絡めがち)
何がこんなに刺さったのかを潜って考えてみたんですけど、たぶん、自分の中にある少し前のインターネットの思い出に呼応したんですよね。
一時期まあ色々と思い詰めていた頃、ある寂れた匿名掲示板に入り浸っていたんですよ。そこは人が少なくなるにつれて次第に半匿名へ変化していって、最終的には8人ぐらいの小さなコミュニティになった。その交流は2年ほどで途切れましたが、ただ偶然が重なって出会っただけの、現実のどこで何をしているかも分からない誰かが救いになることって、確かにあるんです。
多くの共感を集めることが是とされる昨今のインターネット事情ですが、やっぱり届けたい人に届けられれば十分だよなと改めて思えた作品です。
御蚕様改良記録(光秀日量)
蚕に遺伝子改良を施すことで、人間の一方的な搾取から解放することを決意した、ある養蚕家の男の半生を描いた物語。
ある者の抱いた理想が、担い手が増えていくことによって段々と変質する話は、本当に辛い。でも、一人で出来ることなんてたかが知れているんですよね……。結局は全て個人のエゴと言ってしまえば、それまでですが。
話自体はテンポよく進んでいきますが、モノローグの量がかなり多いことが特徴的です。それもあってか、どこか小説のコミカライズのような印象も受けます。これがクライマックスをより印象的なものにするファクターとして上手く機能していて、読み終えたときの満足感がすごいです。
まくあけ(モジトガ)
星が見えなくなった世界を舞台に、「奪われたものを取り返す」ということをテーマにした六つの短編からなる、なんちゃってSF連作集。
作中では作品全体と同じ「奪われたものを取り返す」というメッセージを発する寓話めいた本が出回っており、作中人物らはその本から大小様々な影響を受けていきます。つまり、物語を読み進めていくことで、読者も作中人物と同じように、自らへ是非を問いかけていく構造となっているわけです。
加減次第では啓蒙的な内容に寄りすぎてしまう題材ですが、各編に多種多様な立場の人間を置きながら、その望みを個人のものとして描くことによって価値観が偏らないようにするバランス感覚が巧みだと思いました。
個人的には2話と5話が好き。好みがわかり易すぎる……。
渚(河野玲奈)
足を形成するためにお金を貯めて陸にやってきた人魚・渚と、成り行きで彼女を居候させることになった男・山村の同居生活を描いた漫画。
渚さんは人魚なので山村宅の浴槽で生活し始めるのですが、風呂場を自分が住みよい空間に作り変えていくので、絵面に笑っちゃうんですよね。冷蔵庫が風呂場に置かれるシチュエーションってこの世に存在するんだ……。
わりと引きの強い始まり方ですが、展開の仕方には独特のオフビート感があり、日常の中で積もっていくものを大切にしているのが伝わってきます。
余韻の残る結末も叙情的でかなり好みです。
こんな晴れた気持ちのいい日に宇宙の真理とか言ってくれ(ハミ山クリニカ)
中学2年生のかなこは、オカルト好きの同級生・ミオの唯一の理解者。しかし、ミオは男に恋をしたことをきっかけに言動が変化していき……。
タイトルがめちゃくちゃ好き。永遠も、真理も、理想化した他者も、全て幼い信仰でしかないのだという話だった。思春期ですね。
映画(観た数:72本)
映画館自体が一時閉館になったりとか、上映延期になったものも多くて、上半期はほとんど何も観られなかったですね。ジブリのリバイバル上映は、今後もうないかもしれない機会なので嬉しかったですが(千と千尋!)
パラサイト 半地下の家族(ポン・ジュノ)
半地下住宅で暮らし定職もない、貧しい四人家族。経歴を詐称した長男が家庭教師として金持ち一家へ首尾よく入り込んだことをきっかけに、彼らは身分を偽って次々と金持ち一家に潜り込んでいく、という話。
ちょっとネタバレに言及せずには語れないことが多すぎて、何も言えないですね……。これ以上、一切の情報を入れずに観て欲しい。エンタメ作品としての完成度、込められたメッセージ性、どの点を取り上げても文句なしに素晴らしい。紛れもない傑作であることだけは保証できます。
今年のベスト映画です!!!!
羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来(MTJJ)
中国のアニメーション映画、その日本語吹替版。下敷きというか、世界観の元はFlashのアニメで、本作はその前日譚にあたります。
時代設定は現代ですが、超常的な能力を行使できる「妖精」が存在している世界観。主人公である妖精の小黒(シャオヘイ)は、森林開発によって人間に住処を奪われ、新しい居場所を探して旅をしています。道中で同族の風息(フーシー)に助けられ、その仲間達と行動を共にするようになるも、そこに執行人と呼ばれる無限(ムゲン)という人間が現れて……。
とにかく作品としての完成度が高い! 文句のつけどころがないです。
まず第一に、アニメーションとしての動きの気持ちよさ。いわゆる能力バトルが作中で何度も行われるのですが、その作画やカメラワークが本当に凄まじい。観ているだけで脳がシビれてくるようなカッコよさがあります。それもストーリー上で重要な最終決戦のような場面だけではなく、序盤から終盤まで全てのバトルシーンがカッコいい。とんでもない。
次に、魅力的なキャラクター。シャオヘイが本当にとにかく可愛いですし、フーシーやムゲンといった主要人物だけでなく、本当にちょっとした脇役たちですら、もっと見てみたくなるような魅力に溢れています。描き方上手すぎか? それを次々と出し惜しみせず登場させる贅沢さといったら。
そして、テーマ性の描き方。種族間の対立や少数陣営の迫害といった要素も物語の柱として重要な地位を占めてはいますが、展開の主軸となっているのは主人公であるシャオヘイの成長、そのアイデンティティの確立です。本作はロードムービーでもあり、旅の中でシャオヘイが何を思い、どのように変化していくのかが丁寧に、でもテンポよく描かれていきます。そして、それが結末におけるシャオヘイのある選択へと綺麗に繋がっていくのです。
描きたい内容としては、ほとんど100点と言ってしまって差し支えない出来栄えなのではないか、と思っています。完璧な映画です。
窮鼠はチーズの夢を見る(行定勲)
https://www.amazon.co.jp/dp/B08QGKX4GH
漫画原作だが原作未読。行定勲監督作とのことで劇場へ。
異性愛者であり既婚者の大伴は、あることをきっかけに大学時代の後輩であるゲイの今ヶ瀬に強請られ、体の関係を要求されるようになる。そして、関係を続ける内に二人の関係性も次第に変化していく。
この導入では大伴が被害者で今ヶ瀬がただ強引な輩にしか見えませんが、実際に観ていくと印象は大きく変わっていきます。というのも、この大伴という男が本当にどうしようもない奴なんですよ。
自分から何かを求めることはせず、女性に迫られれば安易に浮気を繰り返す。言ってしまえば今ヶ瀬との関係もその延長でしかなく、つまり究極の流され人間なわけです。執着がない故に渇望を覚えることもありません。
一方の今ヶ瀬はというと、強引な手段で大伴との繋がりを手に入れたはいいものの、到底満たされているとはいえない。常に思い悩み、期待しては裏切られるようなことを繰り返している。その様は不憫ですらあります。
つまり、この映画は大伴がどのように変化し、何を思うようになるのかを見守る作品なわけです。これ、本当にすごいのですが、観ている内に段々と成田凌演じる今ヶ瀬が可愛く見えてくるんですよ、本当に……。
詳細は伏せますが、そうして物語の後半、大伴があることを確かめるために人生で初めてゲイバーに赴く場面があります。そのシーンが本当に、本当にとんでもなく素晴らしい、心震えるものとなってくるのです。
BLというジャンルで括られて敬遠する人もいるでしょうが、一切の思い込みを捨てて是非観ていただきたい。これは人と人の、愛の物語です。
はちどり(キム・ボラ)
1994年の韓国・ソウルを舞台に、家族や友人との関係に一人悩む14歳の少女・ウニを取り巻く世界と、その感情を描くヒューマンドラマ。
当時だからなのか今も続いているのか、韓国では強烈な家父長制が敷かれていて、ウニの家族も例外ではありません。当然ままならない現状に対する鬱屈した感情を抱えてはいるわけですが、社会的にそれが是とされる中で主張を貫くには、彼女の精神は様々な面で未成熟すぎる。そしてそれを導いてくれる大人もいない、という状態。このあたり、本当に息苦しいです。
大きな転機となるのは、ウニの通う漢文塾に若い女性教師であるヨンジ先生がやってくること。彼女はウニの話を聞き、助言を与え、声を上げることを肯定してくれます。ヨンジ先生はまさしく、ウニの世界に初めて現れた精神的なメンターなわけです。それがどれほど心強く、待ちわびた存在だったことか。彼女との交流を通して、ウニも世界を見つめ直すようになります。
話だけではなく画も演出も、映画を構成する全てが素晴らしいのですが、とても言及し切れないですね……。キム・ボラ監督はこれが初長編作品とのことですが、何かの冗談かと疑うような出来です。心温まるなんて生ぬるいものではない、本当に切実な少女の感情を鮮やかに描き出した傑作です。
パターソン(ジム・ジャームッシュ)
人に勧められたので、ジム・ジャームッシュを初体験。
詩作が趣味のバス運転手の男の暮らしを1週間追うだけの、言ってしまえば本当にそれだけの映画なんだけど、個人的にはかなり効きました。でも、自分でも何がそんなに好きなのかよく分からないんですよね。なんだこれ。
繰り返しながらも少しずつ変化していく男の生活そのものが韻を踏みながら少しずつ変化していく詩と同じ構成になっていて、映画全体で詩の形をとっているのだとか、そういう分かりやすく言葉にできる美しさも一応あるけど……この映画は何となくそういうものじゃない気がする。文字通りの愛すべき日常というか、何を受け取ってもいいような自由さがあるというか。
よく分からんですね。気になる人は実際に観て確かめてみてください。
朝が来る(河瀨直美)
不妊治療の末に特別養子縁組で子どもを引き取った夫婦と、止む無くその子どもを手放した実母を巡る話。個人的に大ファンである辻村深月作品の映画化ということで、観に行きました。
印象的なのは、画がとんでもなく美しい映画だったということ。ドキュメンタリー調の静かなタッチに、感情とオーバーラップしていく自然描写。 演者達の素晴らしい、本当に素晴らしい芝居も相まって、本当にドキュメンタリーを観ているような気持ちにさせられることもありました。想定していなかった方向だったこともあって、ちょっと圧倒されちゃいましたね……。
原作付きの映画は、ともすれば話の筋をなぞっただけの味気ないものになりかねませんが、本作は原作に込められたメッセージをきっちりと汲み取った上で、映像作品として昇華させることに見事成功していたと思います。
昨年上映されたかなり近いテーマ性の「夕陽のあと」、永作さんはあちらでも素晴らしい芝居をされてましたが、特別養子縁組をモチーフにした映像作品を観る際は、以降この2作品と比べ続けることになりそうです。
劇場版 SHIROBAKO(水島努/P.W.WORKS)
おそらく人生で一番繰り返し観ているTVアニメシリーズ「SHIROBAKO」の劇場版。これは本当に難しくて、私は内容に関して強めの言及をしないと良さについて一切語ることが出来ないのだけど、これは余計な言葉ではなく純粋に作品から良さを汲み取って欲しい……それで十分だと思うし……。
一つだけ言えるとすれば、クライマックスで流れる劇中作、そこに何もかもが込められているし、それだけで私は未来を信じられると思いました。
TVシリーズを観た人はもう全員観るべきだし、観ていない人もTVシリーズを履修してから観てください。よろしくお願いします。
佐々木、イン、マイマイン(内山拓哉)
ちょっと未だに感想がまとまりきっていない作品。というのも、本当に強烈に「これは俺の話だ」って思わされてしまったんですよね。だから、ちょっと簡潔に言語化できる段階にまで来ていないと言うか、でも衝撃の大きさだけは書き残しておこうと、そういうわけなんですけど。
高校の同級生だった佐々木という男は"お調子者"で、「佐々木! 佐々木!」と囃し立てられると所構わず全裸になり踊り出す。好き勝手に暴れているようでいて、実は繊細な気遣い屋でもある。家族は機能不全に陥っていて、半ば打ち捨てられた家で暮らしている。そして、青春に似ている。
鮮烈に焼き付いた彼と過ごした過去の時間と、鈍く冴えない現在の間を響き合うように往復しながら、何かが明らかになっていくと、そういう話。
誰しも内在化した「佐々木」がいるんじゃないかという話で、私は実際に特定の人物を想起してしまったりとか、主人公の悠ニにも少し重ねてしまうところがあったりで、もう感情がぐちゃぐちゃになってしまいました。
後半の展開では少し「プシュケの涙」を想起させられたりもして、でも読んだのだいぶ前だから今読み返したら全然違うかもなとか、うーん。芯は同じだったと思うんだけど。またちょっと近いうちに読んでみます。
全然まとまらないけど、すごい作品なので是非。
罪の声(土井裕泰)
あのグリコ・森永事件をモチーフとした小説の映画化。子供時代の自分の声が犯罪に使われていたことを知った男と、その事件を調べ直している記者の男が、次第に事件の真相へ迫っていくという話。
正直、エンタメとしてもメッセージ性の面でも中途半端で肩透かしな社会は気取り邦画も多いので不安ではあったのですが、脚本の野木亜紀子さんを信じて飛び込むつもりで観に行きました。
もう完全に杞憂でした。エンタメ作品としての完成度が高すぎてビビりました。細かいこと言わずとも単純にめちゃくちゃ面白いですし、ちょっと長めの尺も気にならないぐらい入り込まされましたね。
メッセージ性の面でも、メディアの役割を論じているという点で昨年話題になった「新聞記者」とは自然と比較してしまうところ(主張自体は全く別物)ですが、あちらはエンタメ性が主張に従属し過ぎてて個人的にはあんまり……だったので、こちらの方が処理は上手かなという印象でした。
土井裕泰監督は坂元裕二脚本の「花束みたいな恋をした」の公開も控えているので、引き続き頼むぞ!という気持ちです。
ジョジョ・ラビット(タイカ・ワイティティ)
末期のナチス・ドイツ下を舞台に、ナチスに傾倒する10歳の少年・ジョジョと、ユダヤ人の少女・エルサを描く、ボーイ・ミーツ・ガール。
現代の創作におけるナチスというのは、とにかく恐ろしく忌むべきものとして描かれることがほとんど。作品自体も重苦しい方向へ流れていく傾向にあります。そんな中、本作は明確に異なった視線をもっています。それは、徹底して「まだ幼い少年の視点からみたナチス」を貫いているから。
ジョジョはやや冴えない少年で友だちも少なく、髭面のおじさんの姿をした「アドルフ・ヒトラー」というイマジナリーフレンド(以下、IF)に日々励まされながら、かっこいい銃や制服を颯爽と身にまとうナチスの兵士に憧れる日々を送っています。この無邪気さというか、ある種の微笑ましさをもって、コメディ・タッチでナチスを描くというのが特徴なわけです。
勿論、いくらポップとはいえ、最終的にはナチスを明確に否定する必要があるわけですが、そこで効いてくるのがIFというモチーフ。成長とともに消えゆく運命であるIFに、外部から植え付けられた価値観であるナチズムを結合することで、少年の成長とナチス盲信からの脱却という両輪をIFとの決別一つで描くことができているんですよね。個人的にお気に入りの点です。
コンプリシティ 優しい共犯(近浦啓)
技能実習生として来日したものの、劣悪な労働環境から脱走した中国人の青年と、彼が身分を偽って潜り込んだ蕎麦屋の店主との交流を描いた作品。
出稼ぎ外国人の不法滞在や、技能実習生の搾取といったテーマを扱っていることから、一見すると堅苦しい「社会派映画」とカテゴライズされてしまいそうですが、実際に観た印象はだいぶ異なります。
家族や社会のしがらみに囚われた一人の青年が、自由や愛を求めてもがく様は、むしろ極めて普遍的な「青春映画」と評する方がしっくりきます。
何と言っても、蕎麦屋で徐々に交流を深めていく二人の仕草が巧みです。展開自体は素直といえますが、薄っぺらい感じはまるで無し。たっぷりと時間を使った誠実な描写で、二人の仲に極めて現実的かつ自然な説得力をもたせることに成功しています。画の美しさも必見です。
アニメ(観た数:0本)
アニメに向いてない……。観ている途中のものが2本あるので、とりあえずそれだけは頑張って完走します。
SHIROBAKO(P.A.WORKS)
劇場版に備えて再視聴。無限に観られる。
ドラマ(観た数:28本)
思った以上にコロナ的な文脈を取り込んだ作品が多く出てきました。創作におけるコロナの取り扱いって難しいですよね。以前・以後とするのか、完全になきものとして扱うのか。今後、何が主流になっていくんでしょうね。
コタキ兄弟と四苦八苦
野木亜紀子さんのオリジナル脚本となれば観ないわけにはいかない。
予備校講師をしていたが契約を更新されずに無職になった兄・古滝一路と、エターナル無職の弟・二路。二人の無職のおっさんがレンタルおやじとして様々な依頼に飛び込んでいく、人間讃歌コメディ。
とにかく主人公二人のキャラクターが魅力的で、会話劇が抜群に面白い。これは役者陣の力も大きいですね。素晴らしい雰囲気でした。
各話で一つの苦しみをテーマにするという縛りをクリアするためか、話によっては「これジャンル変わった?」と思うほどの別物に仕上がってる回もあり、かなり実験的な作品にも感じましたね。
小出しにしていた伏線を回収して終盤に繋げていく手腕もお見事で、連作としても間違いのない出来栄え。個人的にかなり好みな一作でした。
捨ててよ、安達さん。
「勝手にふるえてろ」の大九明子さんがオリジナルドラマの監督・脚本を一部担当すると聞いて視聴。安達祐実さんが安達祐実役を演じるという半ドキュメンタリー風の企画も面白そうだと思いました。
安達さんは女性誌で「毎号一つ私物を捨てる」連載企画を引き受けることになる。各話で色々なものを捨てていくのだけど、安達さんの夢の中に正体不明の少女と擬人化された「捨てる私物」が出てきて、彼らと会話することで過去を振り返りながら、安達さんの心を描き出していく断捨離ドラマ。
この捨てる物の選択というのが毎回とても面白いし、強いドラマ性を感じさせるものになっているんですよ。例えば、一話は安達さんを一躍スターダムに押し上げながらも、その存在自体が彼女を後年苦しませることになった「あの代表作」のDVDです。この生々しさ。もう、どう考えても何か始まるなって、そういう気配に満ちているじゃないですか。
なにより、本人役を演じる安達祐実さんの芝居の説得力が凄まじい。物を捨てるという日常の行為に過去の記憶が絡み合って、安達さんの生活そのもの、その人生が鮮やかに描き出されていくんですよね。そして最後には、アイデンティティに対する強烈なメッセージへ繋がっていくという。
安達祐実さんにピンときていない人にこそ、勧めたい作品です。
スイッチ
坂元裕二脚本の新作ドラマ! 情報公開からずっと楽しみにしてました。
検察官の駒月直と弁護士の蔦谷円の二人を主人公とする人間ドラマ。ある連続階段突き落とし事件の真相に迫っていくという、一応そういうのが話の流れとして存在はしているのだけど、そこは坂元裕二。本質というか、本当に描かれていくのは二人の心であり人生である、とそういう作品。
二人はかつての恋人で、現在は互いに恋人を紹介し合うという謎の会合を不定期に開く、不思議な関係を形成しています。
冒頭、その四人が中華料理屋で食事をするシーンがあります。その台詞回しがもう、本当に坂元裕二全開!といった感じで、もうそれだけで胸がいっぱいになってしまうんですが、直と円のピッタリと噛み合ったやり取りを見せ、何故二人が別れたのかという違和感をスッと提示してみせたりもする。
本作も氏がこれまで手掛けてきた作品と同様に、善悪というのは結論ではなく構成要素の一つに過ぎないと説く。相手の美しさも醜さも、存在の全てを肯定するように人と人が接続すること。その正しくはなく名前もない関係の愛おしさを描き続ける姿勢に、やっぱり胸を打たれてしまうんですよね。
今年最も観て欲しいドラマです。
おカネの切れ目が恋のはじまり
色々あったわけだけど、最後のシーンを安易に優しくしなかったことには強い誠意を感じたし、2話のラストで傘をもって歩いていく二人の背中から途方もない多幸感を感じさせられたことだけは覚えておきたいと思います。
腐女子、うっかりゲイに告る。
劇団ロロ主宰の三浦直之さんが脚本を手掛けていると知り、折よく再放送が始まったので視聴。原作は小説のようですが未読。
自身がゲイであることに悩む高校生・安藤純と、その同級生で腐女子の三浦紗枝の交流を主軸にした青春ドラマです。
タイトルのテイストはポップですが、実際にはかなり重めの作風。LGBTの悩みを扱う創作は、その性的指向の肯定が大きな柱として存在しているケースが多いですが、本作に関してはそれだけでは終わりません。
友情とか恋愛とか、人の関係性は名前によって規定され、その形を限定されます。でも実際には明確な区分けができない、ラベリングのない関係性も存在するわけです。それも同時に模索していくという姿勢。それこそが本作の特徴であり、また真に素晴らしい点かなと思いました。
今にして思えば、三浦直之さんの書く高校生といえば「いつ高」シリーズと結び付けずにはいられない。ドラマ視聴時はまだいつ高に触れたことがなかったので、今観たらまた違うものを感じ取れるのかも、と少し思ったり。
舞台(観た数:12本)
この項目だけ例外的に全ての観劇作を記載。何故なら他に記録しておけるサービスがなく自分用の振り返り用メモを兼ねているから……。
残念ながら奇跡的な再演以外で今後観ることはできないと思われるので、各コメントは省略。来年は予め覚え書きを残しておくようにしよかな。
・四角い2つのさみしい窓(劇団ロロ)@こまばアゴラ劇場〈2/5〉
・今が、オールタイムベスト(玉田企画)@東京芸術劇場シアターイースト〈3/19〉
・TOHO MUSICAL LAB.「CALL」(作、演出:三浦直之)@自宅〈7/11〉
・TOHOMUSICAL LAB.「Happily Ever After」(作、演出:根本宗子)@自宅〈7/11〉
・君とならどんな夕暮れも怖くない(劇団かもめんたる)@駅前劇場〈7/26〉
・すれ違う、渡り廊下の距離って(劇団ロロ)@自宅〈9/8ぐらい〉
・心置きなく屋上で(劇団ロロ)@KAAT神奈川芸術劇場〈9/10〉
・いきしたい(五反田団)@こまばアゴラ劇場〈10/2〉
・恋を読む vol.3「秒速5センチメートル」(原作:新海誠/脚本、演出:三浦直之)@ヒューリックホール東京〈10/23〉
・君の街によなよな!(かるがも団地)@スタジオ空洞〈11/6〉
・もっとも大いなる愛へ(月刊「根本宗子」)@自宅〈11/8〉
・フリムンシスターズ(作、演出:松尾スズキ)@Bunkamuraシアターコクーン〈11/14〉
・HOT(劇団かもめんたる)@東京芸術劇場シアターウエスト〈12/4〉
ゲーム(やった数:6本)
去年、こんなことを言っていた。
来年は大量に積んでいるADVを崩すことを目標にしたい。手をつけるまでに結構な気合が必要なのだが、何とか向き合おう……。まずはやりかけのデイグラシアを完走、そのあとビフォー・アライビング・アット・ザ・ターミナル、Summer!。ここら辺を2月ぐらいまでに何とか……。
結果はご覧の通りである。(対戦ゲームはカウント外)
十三機兵防衛圏(アトラス×ヴァニラウェア)
大大大傑作ADV(+SLG)です。一切の情報を入れずに遊んで欲しいので本当は何も言いたくないのですが、流石にアレなので端的に魅力を。
でも、最初にこれだけは言わせて欲しい。これは他人の配信や動画を観るのではなく、絶対に自分でプレイすべきゲームです。
その名の通り、13人の主人公による群像劇です。彼らの視点を切り替えながら事件を追い、少しつづ開示されていく情報を集めることで、次第に物語の全貌が明らかになっていくという流れになっています。これ自体はそれほど珍しい構成でもないですが、本作の大きな特徴が2つあります。
1つ目は、各視点で時系列や時代がシャッフルされていること。これによって、例えば主人公Aの視点では主人公Bと敵対していたが、主人公Bの視点では主人公Aは登場する気配すらなく、主人公Cの視点では主人公AとBが仲間として行動している、というような事態が多発します。
結果として、プレイヤーは全ての主人公の視点を覗いているはずなのに、全ての主人公が謎に包まれた人物に見えてくるという構造なわけです。
2つ目は、どの主人公の視点を先に読み進めるのか、プレイヤー自身が任意に選択できるという点。前述のとおり、各視点で与えられる情報は錯綜していくため、どの順番で読むのかによって、プレイヤーが各人物に対して抱く印象は全く異なったものになります。同じシナリオをプレイしているはずなのに、もたらされるゲーム体験はプレイヤー毎に全く別物なのです。
最初は与えられる情報量の多さに圧倒されるかもしれません。やっと何かの見当がついたかと思えば新しい疑問や謎が提示され、進めれば進めるほど謎が増えていくようですらあります。それでも最後までプレイすれば、全てに意味があったのだと必ず理解できるはずです。それは紛れもなく、プレイヤーが自分自身で選び取った道を経て獲得した、唯一つの真実になります。
少しでも気になった人は、迷わず今すぐに体験版をDLしましょう。
ビフォー・アライビング・アット・ザ・ターミナル(人工くらげ)
シナリオ自体は何編かの短編を読み進める連作形式で、全体を通しても短編といっていい、ADVとしてはコンパクトなボリューム感だと思います。
人工くらげは前作の「アルティメット・ノベル・ゲーム・ギャラクティカ」をプレイして以来大ファンなのですが、いつまでも浸っていたくなるような日常シーンの描き方が本当に上手い。私の中の愛すべき「大学生感」そのものが表現された創作物に出会ったのは、後にも先にもアレだけです。
本作でもその筆致は遺憾なく発揮されており、日常に入り込めば入り込むほど、そこに潜む違和感が次第に恐怖の種として効いてくるんですよね。
ホラーと銘打たれていますが、いわゆるビックリ系ではなく、ミステリ的な要素もあるタイプです。私もジャンプスケアは大嫌いなので、苦手な方も安心して読み進めてください。とっても面白いですよ。しかもフリー!
BGMや挿入歌にはprhyzmicaという音楽ユニットの楽曲が採用されており、これが雰囲気にとんでもなくマッチしていて大変素晴らしい。多くはYouTubeチャンネルで聴けるようなので、これだけでも是非ぜひ聴いてみて欲しい。ちなみに本作のメインテーマは「monologue」という曲です。
また、公式サイトで本編と相互補完のサイドストーリーが読めるので、プレイ後には読んでみることを強くおすすめします。
クラッシュ・バンディクー4 とんでもマルチバース(Toys For Bob)
名作アクションゲーム「クラッシュ・バンディクー」シリーズの最新作にして、実に22年ぶりの正統ナンバリング作品。
初期三部作である1,2,3とは開発元が変わっている(元々はノーティドッグ)ものの、ゲームコンセプトから操作感からBGMまで随所に旧作へのリスペクトが感じられる、素晴らしい出来栄えでした。この時代にリブートされたクラッシュの新作が遊べている感動だけで興奮から泣きそうになったので……。
ただ、基本的にシリーズ既プレイ者向けの設計だと感じたので、これは良し悪しかもしれない。難易度も、個人的には初代を超えてシリーズ最難だと思います。単純にクリアするだけなら、アクションが苦手な人でなければ、問題ないとは思いますが。
Summer!(SEAWEST)
異文化交流をコンセプトに据えたADV。ドイツへ引っ越した旧友が、夏休みに現地の友人であるハンナを連れて日本へ帰ってきた。成り行きから三人で旅行に出かけることになるのだが……。(以下、公式サイトから引用)
ハンナ役の声優はドイツのテレビアニメ等で活躍されているANNE BALLHAUS様です。ネイティブなドイツ語音声をお届けしますが、主人公が聴取できないので作中テキストにセリフは表示されません。日本語訳もでません。何を言っているのかよくわかりません。それでもハンナの声は可愛いので安心してご期待ください。
めちゃくちゃ面白くないですか??
これ誇張ではなく、本当に何を言っているのか分からないんですよ。プレイヤーとしてはそんな状況へいきなり放り込まれることに笑っちゃうんですが、実際その場にいる主人公としては当然そうもいきません。言葉が通じないことによる不安やもどかしさ、苛立ちをリアルに感じることができます。
勿論単なる面白要素というわけではなく、このギミックがシナリオ展開としてもしっかり効いてくるわけです。多少はADVを遊んできたつもりなのですが、流石にちょっと唯一無二の体験でした。
前作である「春の日に道が続く」の続編という位置づけですが、本作から入っても大きな問題はないと思います。とはいえ、多少なりとも味わいが変わってくるのは事実なので、事前にプレイしておくことをオススメします。
まとめ
書くのに丸々3日かかったので、マジで疲れました。ほとんど勢いだけで書いたので推敲できてないけど許して欲しい。
(そして、ライブのことを書き忘れたのに気付いた……)
なんやかんや色々あった一年だし、本当は何か色々書こうとしてた気がするけど、疲労のあまり言葉が出てこないので終わります。
来年も頑張って摂取していきましょう。また一年後にやります。