アイスホッケーの首都(2)
ある人が言った。
「Toronto is the ice hockey capital of the world.」
(トロントは世界のアイスホッケーの首都である)
もう一人が遮る。
「No,」
「The ice hockey capital of the universe.」
(いや、宇宙のアイスホッケーの首都だよ)
僕は今、宇宙のアイスホッケーの首都の少し北に位置する町から、このnoteを書いている。
僕の家族がカナダに移住した経緯を書く前に、少し日本とカナダのアイスホッケー事情について説明をしたいと思う。もちろん、僕は「にわか」ホッケーダディなので、間違っていることや、事実と違うことを書いてしまうかも知れないが、あくまでも僕がこの数年で経験した内容として、ゆるく読んでほしい。
まず、アイスホッケーについて簡単に説明すると、ゴールキーパーを含めた1チーム6人で、パックと呼ばれるゴムの塊を、時間内に相手のゴールに何回入れるかを競うスポーツだ。ルールはサッカーやバスケットボールに近いが、最大の特徴は、すべてのプレーヤーがアイススケートを履いて氷上でプレイすることだろう。この特徴によって、プレイヤーの身体能力が拡張され、最大時速40kmとも言われる移動速度で、展開の早いゲームを行うことができる。
そして、その特徴によって練習や試合ができる場所が限られるデメリットもあるだろう。日本ではアイスホッケーに使えるリンクは少なく、競技人口が2万人程度と、サッカーや野球の100万人、200万人と比較してマイナースポーツの位置付けとなってしまっている。
一方で、アイスホッケーを国技とするカナダでは、登録選手だけで50万人以上の競技人口があり、多くの子どもたちが幼いころから地域の代表チームに所属してプレイしている。チーム数も、日本と比べて桁違いに多い。
カナダを含む北米には、アイスホッケーの最高峰リーグNHLがあり、そのうち7チームがカナダの都市を拠点としている。そして、前述のトロントは、NHLで最もアイコニックなチームの一つであるトロント・メープルリーフスの拠点であり、最も多くのNHL選手を排出しているマイナーリーグGTHLを擁する。トロントを、アイスホッケーの首都と言いたくなる所以である。
さて、子どものアイスホッケーの環境について見てみると、日本の、特に僕の息子がプレイしていた東京のホッケー環境はかなり厳しい。
練習は週1回、1時間(途中から週2回に増えた)、しかも夜の時間帯で、帰宅すると23時を過ぎているなんてことは当たり前であった。追加練習が他県であったりするので、2時間電車を乗り継いで通ったりだとか、成長期の子どもの育て方としてはNGだと思う。また練習は、低学年と高学年でリンクを分割して行うので、リンク全体を使ってのプレイは、試合になるまでお預けだ。
東京には小中学生のチームは5チームしかないので、都大会ではおなじみのチーム間で行うことになる。コロナ前は、他県への遠征があってそれなりに試合の機会があったが、息子が日本で最後にプレイしたシーズンでは、年間通して10試合ぐらいしかなかったと記憶している。
だが、カナダでは年間40試合、50試合は当たり前、しかも夕方や日中など、子どもの人権的にOKな時間帯にアイスタイムがある。そしてチームは基本的にゴーリーを含めて17名で構成され、それは原則すべてのプレイヤーが公平に出場機会を得られることを意味している。
また、リーグはU13、U14のように年齢ごとに分けられ、同じ年齢のプレイヤー同士で対戦する。それがどうした、と思われるかも知れないが、日本では、低学年、高学年、中学生、と3学年毎にリーグが分けられている。つまり、リーグの中では3学年が混在し、例えば、4年生は6年生に混じってプレイすることになる。この年齢の2学年の体格差は大きく、4年生が6年生の中で活躍するのは難しい。下手をすると、まともに試合に出られるのは3年に一度、ということもあり得るのだ。
カナダでは、このようにプレイヤーが選手のレベルや成長に合わせて、最適な環境でプレイできるシステムが整備され、またそれを可能にする豊富な競技人口とインフラが揃っている。さらに、リーグでプレイした成績は公式のスタッツとして残り、そのスタッツを元にチームのレベルを上げ、その延長線上にはNHLがあるという壮大なシステムがあるのだ。(たぶん)
そんな事情から、息子がアイスホッケーを本気で続けていくのであれば、やはりアイスホッケーの首都、トロントを目指すべきだと考えたのであった。