出ていったビート その4
大きいエンジン音に
外に出てみると、
車は思ったよりも小さかった。
「この車って二人乗りじゃないの?
しかも軽だし」
「うん、二人乗りの軽だよ」
軽はあぶないからと乗らないと言っていたのに。
「アルシオーネの代わり?」
「うん、良くなっても良くならなくっても
前から買おうと思っていたんだ」
「置く場所は?」
「ここ、置けるよ」
子供たちが大きくなっていたので
自転車のスペースが少し空いていた。
送り迎えをしなくて良くなるのは嬉しかった。
原因不明のご病気で長期入院されているアルシオーネは
ご老体でもあるので、
もうそのまま帰ってこないだろうと思っていた。
しかし、1ヶ月ほどたって
「今までの中で一番いいコンディションかも」
という状態で帰ってきたのだ。
自転車2台、原付1台、車3台。
いったいどうやって置くというのか。
なんとか詰め詰めで少しはみ出し気味でおくことになった。
私は自分の車を運転して帰ってきた時に
アルシオーネにフロントを近づける瞬間が
運転中で一番緊張をした。
もしぶつけたりしたら、
機嫌は悪くなるし、怒られるし、ずっと言われるだろうし
1年くらい針のむしろで暮らさなければならなくなる。
ビートが増えてアルシオーネが帰ってきたから
彼がお世話をする車が増えた。
部品や道具もさらに増えていった。
手間と時間をかけて磨き、ドレスアップさせてあげて上に乗る。
愛車が2台。
愛人二人並みにお金がかかっている。
「本妻にはかけないの?」
「家買ったし生活費もだいぶかかっているだろ。
本妻というのはそういうもんだ」
もしお金に困ることがあったら
とにかく1台売って貰えば
年間100万くらい浮くだろうな。
車をいじるのは目をつぶっても
リビングや息子の部屋だったところまで
ダンボールが積み重なっていくのは
なんとかして欲しい。
外の物置も屋根裏も、見ていないけれど
たぶんいっぱいなんだろう。
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