結局PKってどこが強いん?
こんにちは。ついにワールドカップが閉幕してしまいました。神の子メッシがキャリアの有終の美を飾る優勝を成し遂げたわけですが、今大会はPKの大会と言っても過言ではなかったのではないでしょうか。決勝も4大会ぶりのPK決着となりましたし、躍進を遂げたモロッコやクロアチアもPK戦での勝ち上がりを経験しました。そしてなにより日本も3大会ぶりにラウンド16でPK戦に挑み、またしても世界の厚い壁に阻まれ、ベスト8への挑戦は次回以降にお預けとなってしまいました。
日本国内ではPK戦による敗退を受けて議論が白熱。「PK戦は運だからしかたない」「PK戦は実力だ」「エミリアーノ・マルティネスはさすがにやりすぎだろ」「谷口彰悟を返せ」「優勝はさや香だろ」などとざっくばらんな意見交換が行われています。
そんななか、私の頭の中には、結局、PK戦が伝統的に強い国はどこなのか、弱い国はどこなのか、という素朴な疑問が浮かんできたわけです。こんな分析をしているとウエストランド井口に怒られてしまいそうですが、浮かんできた疑問は解消するほかないので仕方ありません。佐久間さぁ~ん。
レギュレーション
ということでどの国がPKに強いのかを検証していきたいんですが、当然レギュレーションを定める必要があります。まず、長いサッカーの歴史を踏まえると、流れのなかのPKをすべて集計するのは非常に無理があるので、PK戦の勝率に絞って考えます。リーグ戦でもPK決着を採用していたふざけたリーグがあるぐらいですから、どのPK戦までを範囲とするかは悩ましいところですが、今回は筆者の独断と偏見で以下のコンペティションに限定しました。
以上のコンペティションで合計5回以上のPK戦を経験している、かつ、ワールドカップで1回以上のPK戦を経験している国を集計の対象としました。対象となったのは以下の17ヵ国です。(カッコ内はPK戦の回数)
どうでしょうか。PKが弱いでおなじみのあの国から、今大会PK戦での活躍が目立ったあの国、そして我が国日本まで、各大陸の強豪国が勢ぞろいといった感じではないでしょうか。ちなみにコパアメリカが隔年開催であることが影響して南米勢はPK戦の回数が比較的多くなっています。これらの国々が対象の大会で行ったPK戦の勝率をランキング形式で紹介していきたいと思います。みなさんもどの国が強いのか、そして弱いのか予想しながらご覧ください。
ワースト3
まずは「PKが弱い国」について見ていきましょう。基本的に、同一大会内で複数回PK負けを喫することは出来ないので(3位決定戦を除く)、回数を多く重ねている国ほど勝率は低くなりにくい傾向にあるはずですが、そんななかでも衝撃的な勝率を記録している国々があります。今大会、PK戦での勝負弱さを露呈してしまった日本はランクインしているのでしょうか?
第3位
イングランド 勝率22.2%(9戦2勝7敗)
ワースト3位にはフットボールの母国イングランドがランクイン。「移動日にもPK負けした」「渋谷のJK100人に聞いたPKが弱そうな国第1位」「PKが弱すぎてカレー以外の大陸領土を失った」などの逸話を持つイングランドですから、最下位を予想した方も多かったと思いますが、なぜかロシア大会でコロンビアに勝利してしまったことで勝率が上昇、なんとか17カ国中15位で踏みとどまりました。J1なら残留です。でもたぶん来期は違う監督だと思います。
直近のPK戦は昨年のEURO決勝。初の決勝進出で初の優勝を狙いましたが、PK戦要員として投入されたサンチョとラッシュフォードがPKを失敗し、あえなく敗北、メジャートーナメントのPK戦で世界最多となる7敗目を喫しました。
第2位
コスタリカ 勝率20%(5戦1勝4敗)
ここでなんとコスタリカがランクイン。2014のワールドカップでの躍進が記憶に新しく、その際にナバスの大活躍でPK勝ちをおさめたという印象が強すぎてPKに強い印象がありましたが、よく考えると、その後のオランダ戦のPK負けで大会を去ってました(そのオランダもPK負けで敗退)。さらにゴールドカップではPK3戦全敗とふがいない結果になっています。
今大会唯一90分で日本から勝利を奪ったコスタリカ代表は、ぜひ試合結果にかかわらずPK戦をやるという奇天烈な方針を打ち出したキリンチャレンジカップに参戦して、日本とともにPK練習にいそしんではいかがでしょうか。ついでに今大会同様日本に完勝をおさめて、森保政権に引導を渡してもいいです。
第1位
ガーナ 勝率16.7%(6戦1勝5敗)
なんと栄えある最下位は、CAFから唯一参戦のガーナ。1982年のAFCONの決勝でリビアにPK勝ちしてから約40年間、国際大会におけるPK勝利がありません。それに加え、ガーナは1982年の決勝でPK勝ちして以来、AFCONを優勝することもできていません。おそらくなんらかの呪いにかかっています。なかでもコートジボワールに対しては2度AFCON決勝でPK負けしており、2度とも11人全員がキッカーを務めるというトンチキPK戦の末敗れています。もし私がガーナ国民だったらさすがにトラウマになります。そもそもAFCONはこういうイカれたPK戦が多すぎます。
そしてガーナとPK戦といえば外せないのが南アフリカ大会の準々決勝ウルグアイ戦でしょう。1-1で迎えた延長後半AT、ガーナの決定的なヘディングシュートをスアレスがゴールライン上で手を使ってブロック、当然ハンドで退場、PKとなります。しかしそのPKをエースのアサモア・ギャンが失敗。その後PK戦に突入して敗北、ガーナはアフリカ勢初のベスト4を逃しました。
今大会、そんな因縁の対決の再現がGL最終戦で実現しました。0-2で迎えた後半終了間際、他会場で韓国がポルトガルを逆転し、このまま行くとウルグアイ敗退という状況になります。そこでガーナは、同点に追いつけば突破の可能性が残されているのにもかかわらず、なんと時間稼ぎを敢行。12年前の雪辱を果たすために自分たちの突破ではなくウルグアイの敗退を目指すという奇策に打って出ました。試合終了後にはそのまま敗北したにもかかわらず、ガーナサポーターが祝福するという異様な光景が見られました。ベンチのスアレスがあと10分くらいで1点取れば突破できるのになぜか敗退を確信して泣いていたのは意味が分からなかった、あきらめるなよ。
番外編
ベスト3を見る前にランクインはしなかったもののピックアップしたい国をいくつか見てみましょう。
スペイン 勝率45.5% (11戦5勝6敗)
「PK1000本ノック」という史上最大級のフラグを見事に回収してしまい、WC史上最多となるPK戦4敗目を喫したスペインですが、EUROの成績込みで考えるとそこまで悪くない数字(17ヵ国中11位)です。しかし黄金世代がメジャートーナメント3連覇を達成しているのにもかかわらず、現状はメジャートーナメント3大会連続でPK戦敗退というのはなかなかに厳しいものがあります。
そこで、スペイン代表はこの重苦しい雰囲気から脱却するための気分転換として、日本代表とキャプテンを入れ替えるのがいいと思います。たぶん最初のボールタッチまではバレないと思うので、スペインサッカー協会のみなさん、田嶋会長へのご連絡お待ちしております。
日本 勝率42.9%(7戦3勝4敗)
さて、われらが日本代表ですが、3勝4敗で勝率42.9%で17ヵ国中12位というかなり中途半端な数字です。非常にコメントしづらい!
川口が覚醒したヨルダン戦、川島が覚醒した韓国戦などのようにGKが当たると勝てているのですが、それはGKが当たらなければキッカーの力不足で負けてしまうということの裏返しでもあります。まあPK戦はそもそもそういうものだと言われればそれまでですが。
やはりこの中でもっとも印象的なのは2004アジアカップのヨルダン戦ではないでしょうか。ペナルティスポットの右側の地面がえぐれていたことで、日本は1人目中村俊輔、2人目三都主と左利きのキッカーが連続で失敗。日本はこのあとにも左利きのキッカーが2人(中田浩二、玉田)が控えていたため、PKのエンドを変更するように主将宮本が主審に抗議、これがなんと受け入れられ、途中でエンドを変更するという異例のPK戦となりました。左利き多すぎるだろ(今大会クロアチア戦PK戦時点の左利きは0/11)。その後川口が神がかり的なセーブを連発したことで7人目までもつれたPK戦を制し日本が準決勝に進出。準決勝でもバーレーンに劇的な勝利を挙げ連覇を果たしました。このPK戦でエンド変更を主審に直訴し、自ら7人目としてPKを沈めた勝利の立役者宮本が今大会プチ炎上していたのは内緒です。
今大会は3人(南野、三笘、吉田)がPKを失敗してしまいましたが、南アフリカ大会では両チーム通じて駒野ただ1人のみが失敗するというなかなかに残酷なPKだったので、それに比べるとだいぶ(単純に観てる側のメンタル的には)マシだったのかなとは思います。PKという明確な弱点を洗い出せたという収穫もありますし。(だからといって特にプレッシャーのかからない親善試合でPK戦の練習をするのは意味がないことはスペイン代表の壮大なフラグ回収で証明されたはずなのだが…)
ベスト3
さあみなさんおまちかねPK最強国家の面々が登場です。日本が入っていないことがネタバレされたからといってブラウザバックしないでください。今、ブラウザバックしようと思った人は怒らないので正直に手を挙げてください。
第3位
アルゼンチン 勝率62.5%(16戦10勝6敗)
今大会PK戦で2勝を挙げて優勝を果たしたアルゼンチンが堂々の第3位。WCでは6勝1敗と最多勝利数を記録していますが逆にCAでは4勝5敗と振るいません。特に2015年、2016年となぜか2年連続で開催されたCAの決勝でともにチリにPK負けするという屈辱を味わっています。
実は1993年にブラジルに勝って以来、CAではコロンビア以外には勝てていません(逆にコロンビアに対しては全勝)。コロンビアはイングランドに対してもWCのPK戦初勝利を献上してしまっており、お願いしたらヤらせてくれる隣の高校の先輩みたいな立ち位置になっています。そもそもコロンビアは今回集計対象外になっただけで、主要大会のPK戦は過去4戦全敗なのでキリンチャレンジカップに参戦決定です。日本と一緒に仲良くPK練習しなさい。
第2位
クロアチア 勝率80%(5戦4勝1敗)
ここ2大会でPK戦において異常な強さを発揮しているクロアチアは2位にランクイン。2大会でPK4戦全勝ははっきり言って異常です。しかしEUROではPKを1度しか経験しておらず、そのトルコ戦では敗北しています。
ユーゴスラビアとしては何度も出場していたものの、「クロアチア代表」としてWCに初出場したのは日本と同じ1998フランス大会です。そこから7大会、日本がベスト16の壁に4度はじかれている間に、クロアチアはベスト4を3度経験、前回は準優勝に輝きました。ところが、WCでは強さを誇るクロアチアも、意外なことにEUROでは2008年にPK戦で敗れた準々決勝が最高到達点です。EUROのレベルの高さがうかがえます。おそらく共通テストはあんまりだけど2次試験には強い受験生と同じ感じです、違うけど。
第1位
ドイツ 勝率85.7%(7戦6勝1敗)
見事「PK最強」の称号を手にしたのは、ドイツ代表です!!!なんと現在メジャートーナメントにおいてPK6連勝中。途中でイングランドに連勝しているとか、WCではここ2大会ノックアウトラウンドに進んでいないことをセコいなどと言ってはいけません。
やはり強さの要因は優秀なGK陣にあるといって間違いないでしょう。ゼップ・マイヤー、ハラルト・シューマッハー、ボド・イルクナー、アンドレアス・ケプケ、オリバー・カーン、マヌエル・ノイアーと続く名GKの系譜がこのPK戦無双を支えていることは確実です。そんなドイツはいまノイアーの後継者不足に喘いでいるそう。そんな中ではありますが、世代別ではドイツ代表を選択している川崎出身で現在ブレーメン所属の長田澪選手が日本代表を選択してくれることを切に願います。(もちろん本人の意思が尊重されるべきですが)
ちなみに日本には長田以外にも将来有望なGKが多くいるので、彼らの台頭によってPK戦の問題は解決されるのではないかとひそかに期待しています。(逆にイングランドのPKの弱さもGKのタレント力の弱さと無縁ではないはず)
まとめ
PK戦は運だとかなんだとか論争になっていますが、勝率80%を超える国がある以上、実力要素も無視できないことは間違いないはずです。どこか冷徹なイメージのあるドイツ代表が強いとなるとやっぱりメンタル面の実力(というか国民性?)が重要なのかなと思ってしまいます。
ただ、いくらPK戦が弱いとしても圧倒的な実力を以てして90分で相手をねじ伏せてしまえば関係ないわけで、たった4年でPK戦に強いメンタルを構築するのは至難の業だと思うので、4年後の日本代表には90分ねじ伏せサッカーを期待したいところです。
(当記事の集計は普通に手で頑張って数えただけなので漏れがある可能性があります。)