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宇宙論☆講座 『発狂!鏡球地獄 ほか6編』の感想

作・演出/ 五十部祐明(会場:現代座ホール)

グダグダミュージカルで一部から熱狂的な評価を得る音楽劇団。今回は江戸川乱歩アレンジの表題作含めた短編集。

どんなグダグダがくるかと期待をしていると、

冒頭は、新成亜子演じるくたびれたシングルマザーから始まる。息子と娘とは関係が冷え切っている。いつ歌い出すかと思いきや、宇宙論らしいギャグもなくギスギスした展開。しかし、実は頑張る母親に温泉旅行をあげようと計画していた。子供達が頑張ってプレゼントしてくれた一人旅行を楽しむ母親。落武者の幽霊が現れる(この時も、宇宙論らしくない気合の入ったホラーシーン)も親子愛の強さで退ける。
面白い、がこんな真っ当に面白い宇宙論見たことないと驚いていると

幕が閉まり、落武者が軽快に喋り始める。仮面を取ると稲見和人。めくりを捲ると、そこでタイトル『陰惨!中年一人旅(シリアスミドルエイジウーマントラベリングアローン)』と出る。原作が、じみへんの中崎タツヤ「身から出た錆」よりと明かされ。ちゃんと真っ当に演出できるんだと改めて。

しかし、幕が開くとさっきまでから一転。楽器隊が演奏を開始
『撲殺!夢魔法鼠(ストライク!●ッ●ー●ウ●ス)』
は「蒸気船ウィリー」が原作。ということであの鼠が登場。無軌道で性欲に溺れているサイコパスという怒られそうな改変に。がタイタニックを再現するためだけに船を沈ませようとする。音楽隊もタイタニックよろしく運命を共にしようとする。このピンチを救うにはアイツしかいないと大谷翔平を召喚。しかし暴力沙汰で選手生命アウト。もうウィリーとタイタニックと野球が入り乱れていてラストのカオスでは、蒸気船ウィリーは権利が今年消滅したためパブリックドメインでパロディし放題と宣言される(でもあの鼠はね、まだ別の権利で・・・)。宇宙論らしい悪ふざけたっぷりの音楽劇。

続いては、
q3ンv-ンq39v-ンq839vー9q3ン4v893rゴリソfギjsロイ9fsジョfw3cン3wdフィジョイ 』
作/Ib5ン8Ib5ン89I 、演出/宇宙論☆講座
応募開始されるや否や高い注目を浴びたマジでクソみたいな演劇台本コンクールの大賞作品。まずは五十部さんから講評。クソみたいな台本は二種類あって、きちんと台本としての構成がされていて内容がクソ。そもそも台本として成立していないクソ。どっちのクソがいいかは迷ったんですが。困った結果、やっぱり台本として成立していない方が。と言って立ち上がった五十部さん。最後にボソッと呟く。
「要は意味のない文字の羅列」

眠るカップル、作業する会社員。神田伯山風の講談師が台を叩き叫ぶ。「q3ンv-ンq39v-ンq839vー」会社員達は謎の作業をしながら謎の言葉を叫ぶ。講談師は、冗談を続けるもその言語は何一つ理解できない。
異次元言語の群像劇。
シュールな内容だが、要は異次元講談師が謎の講談をするも、それは全て男の見てた夢で、しかしその男も異次元言語を喋っていたという上演になっており、かなりスタンダードな形であり、一本目と同様こんな上演もできるんだと驚き。

『発狂!鏡球地獄(マッドネス!ミラーボールインフェルノ)』
そして、やってきた表題作。江戸川乱歩『鏡地獄』をベースにした作品。学生時代に起きたこと。当時、学生劇団の演出家として周りに小馬鹿にされながらうだつの上がらない日々を過ごしていた。そこには金持ちの照明家がいたのだが、彼は照明に取り憑かれ狂気の実験を試みるのであった。
乱歩というより海野十三。Perfumeの登場や、立体の初音ミクが劇中隅でずっと踊り続けるなどくだらないアイデアが盛り込まれ、グダグダしたギャグもあるが、意外にも猟奇趣味の味が濃く怪奇短編として面白い新機軸。
終盤の改造人間の地獄。
ミラーボールに改造されたホームレス、照明と融合した劇団員、初音ミクにされ自我を失った男、強い照明で全身焼け爛れた男。特に最後の焼け爛れは「芋虫」オマージュで、落下死してしまうところなどゾッとした。救いようのない狂気。

終わると、舞台上で酒を用意し始める出演者達。 全員お揃いの衣装に包み酒を飲んでいる。指揮者の五十部さんが登場すると
『酩酊!竜舌蘭相撲(デンジャラス!テキーラズモウ)』
のはじまり。でも聞いたことある歌。これは、オルギア視聴覚室で披露された『脳みそをほぐす合唱団』だ。筋は一緒。
疲れている観客のため癒しの歌コーナーだが、メンバーのズボンの尻が破けたため合唱ができなくなり、どうしようかと慌てる話。
宇宙論らしい大人数による合唱を軸に置いたわちゃわちゃしたコメディ。アイテムを撮りにいく新成さんを待つ間ストップモーションをするのだが、稲見さんだけ無理のある体勢でどんどん苦悶の表情に変わっていく稲見さんを見る。二回三回と繰り返されるたびに、体力は減っていき会場の笑いは増していく。そしてもういい加減長すぎる、タイミングで出演者自らツッコんで破壊していく笑いの作り方。
最終的には酒乱だらけになり、合唱は終わっていく。
オルギアの際は、五十部さんがかなりのガチ泥酔してしまったために作品として崩壊してしまったが、今回は冒頭で飲酒開始だったため酔い具合がちょうど良かった。飲酒をテーマとしたコメディミュージカルだったんだね。

『絶倒!劇中映像(マーベラス!エンゲキムービー)』
巨大な白い紙を出演者全員で持って、そこに映像を映す。しかし、機械トラブルで映像が映らずその間に紙が破けてしまう。終焉時間と強制退去時間がかなり近いらしく、ここまで来たのに最後にたどりつけない!と慌てる出演者たちだが、無事映像開始。
そこで、制作トラブルが発生したり、五十部さんがクソみたいな演劇大賞作品の演出に悩んだ結果集団演出になったり、あと到底ここでは書けないレベルの代物など、公演の裏側で起きた事件を倍速視聴でお送り。映像の脇から出演者のガヤ(主に新成さん)が飛び込みやんややんや。

そしてようやくたどり着いたラスト
『混沌!宇宙論☆講座(カオス!ウチュウロンコウザ)』
紙を破り現れた五十部さん。全身に多数の人形を付けた五十部さんが転がると客席から宇宙論☆講座名物が観れて感動したと登場。
お客さんなんだけど、予約の際に自分も出演したいと言っていたのでセリフを渡したという。そしてそのお客さんが五十部さんと合体し、やがて出演者全員が一つの肉塊となる。

終演後に元バスガイドの新成さん案内の元、楽屋ツアーをして終了。

宇宙論は元々、悲劇をグダグダミュージカルとして演出する劇団。演出はグダグダでも話の筋がしっかりしているため独自の面白さだったが『ミュージカルうなぎ』以降、宇宙論が公演しているという事実そのものを取り込んだメタ演劇に。
これによって、話の軸自体もグダグダしたものになり、悪ノリはアップしたもののかなり出来不出来が大きい。
元々短編ではこの路線は既にあって、オルギアで披露した「SMAPのカバーを中心に」は傑作。長編だと『稲見和人に彼女ができる公演』が出来がいい。どちらも、トラブル乗り越えて皆でSMAPを歌おうとする、最後に実際に稲見が好きな相手にガチ告白する、等の軸があったのでしっかりしていた。

グダグダ演出は最高なので、やはり物語を演出してほしいなと思っていた
そこにこれは嬉しい。

一人旅でのかなりまっとうな演出や、鏡球地獄のようなシリアスな作品で演出家五十部さんの魅力を味わう。特に鏡球では全盛期の悲劇を真面目な演出で上演したらどうなるかという想像を真正面から上演してくれた。
それでいて宇宙論らしい、撲殺や酩酊のようなギャグ作品でらしさを満喫。
最後にはグダグダメタ路線が顔を出す。でもこれくらいの塩梅ならちょうどいい。




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