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第13回せんがわ劇場演劇コンクール の感想

若手演劇人三冠と私が名付けた三つの若手向けの演劇コンクール。それのトリを飾るせんがわ劇場演劇コンクールが行われた。

ノンジャンル色が強いこのコンクールで五団体が優勝を争う。その感想を書く。
前回の感想はこちら


TeXi’s 『夢のナカのもくもく』(東京・神奈川)

作・演出/テヅカアヤノ
 ある女性には双子の妹がいる。双子はお互いの間だけでのコミュニケーションを取り合っていて女性はその輪に入れてほしい。盲目の妹のことをお師匠さまと呼んで献身をしているが。
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 妹に対しての献身のどこか歪な姿から谷崎潤一郎『春琴抄』を映し出す。ひたすら走る姉はコミュニケーションの徒労を現しているか。そして献身から推しという概念に転換。応援なのだ。でも、本人がどう思うかは・・・。モニターやペンライトといった装置・小道具の使い方、次々移り変わるシーンの多様なアイデア、鳥のさえずりの音響が魅力。終盤のノイズの中のオタ芸のなんと異様な物か。走るシーンで過去作「ロココ」を思い出す。要素を詰め込んで、見どころがたくさん。 家族ドラマという物語を持ちつつも現実から飛ぶ 。
 ただ、献身というテーマでまとめているが、姉妹・春琴抄・推しという要素が混ざりきらず分離していて内容が入っていかない、3つのパートをバラバラに見ているみたい。この劇団の特色は難解に陥りそうな抽象的な物語を圧巻の演出で作り上げ悲しみを浮かび上がらせるのだが、この演出も鈍り気味。せんがわの舞台を目一杯使った空間芸術を堪能できて、私は好きなんだけど。


さんらん『シャーピン』(東京)
作・演出/尾崎太郎

お祭りで中国のおやきシャーピンの屋台を出しているテキ屋の男。コロナでお預けを食らっていたが久しぶりの三社祭。やる気を出すが、シャーピンの屋台を出すなと言われてしまい。
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 お囃子から始まり落語調の語り口と大衆的な人情劇をそのまんまぶつけてきた。が、次第に浮かび上がるのは差別という不条理とそれに踏みつぶされる庶民の悲喜劇。中国だからという理論の差別が持つ愚かしさを徹底的に描くが、それを糾弾する人の中にもある別の差別。それを暴くのが亀井奈緒(studio ALMA)演じるテキ屋の妻。彼女のまっすぐで気の強い言葉が光りを射す。
 中心に畳を敷き、そこだけで展開しておりせんがわ劇場の広い空間が死んでいる。唐突に入るシャーピンの歌は笑いどころだが、そこさえも丁寧すぎる作りなので唐突がもたらすパワーが弱い。ラストも、不条理に屈する選択をした男への妻からの熱い言葉で締めくくられるのだが亀井の熱演でボルテージが上がっていき爆発するぞとおもったら終わる。男の結論が不明のまま終わるオープンエンドでそれ自体は良いのだが、せっかく上がった熱量への期待がスカされてしまった。あのラストは思いっきり長台詞にしてとどめの一言をしたら爆発したのではないか。と、思っていたらせんがわと同日の「THE SECOND」決勝でギャロップの3本目が理想の爆発をしていた(1ボケのために4分間全て前フリに使う)。こういう感じだったら私大興奮だった。

終のすみか『SUNRISE』(東京)
作・演出 坂本奈央
男が家にいると友人が訪ねてくる。終電を逃したので始発までそれまでいさせてほしいとのこと。中に入れると荒れた家の中に驚く友人。実は男は恋人に逃げられた直後で・・・。
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 シンプルな二人の会話劇。大きな物語がつづられるわけではない。終のすみかは前作「idk.」で、空間と人の配置における演出が面白かったため今作でもそれを期待したが、舞台中央に置かれたソファーを中心に展開しさんらんと同じでせんがわの広い空間を使いこなせておらず。カフェムリウイや三鷹SCOOLのような小さい会場なら良いがこの会場でやることではなかった。
 じゃあダメな芝居かというと、私これ結構好き。本当にただ二人がしゃべるだけ。でも、現代に生きる大人の抱える悩み、誰にでも起こりうるシチュエーションをユーモア溢れるタッチで描く。ただの会話で40分近く面白さを持続させるのは並大抵じゃない、役者の達者さもそうだけど間やテンポ等の演出技術が優れている。それに地味に凄いのが、ソファーが後ろ向きで観客に背中を見せるシーンが多い。でもこれが雰囲気づくりにいい影響を与えている。普通の劇団なら、背を向くな!なんでわざわざソファーを後ろに向ける!と言われそうだが、お客さんの感想見るまでこの背中を向ける芝居に違和感を抱かなかった。それほどまでの自然な溶け込み方。まだ未熟だけど、才能がある。

演劇ユニットせのび(岩手県)『リバー』 
作・演出 村田青葉
二つの幕に挟まれて女がいる。男は言う、これは 川底を映す幻燈。そこに映し出される記憶は女と友人たちとのたわいの無い会話、そして震災後も残り続ける痛み。
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公社的今回のベスト、完璧です。二枚の幕を使い川底を表現。しかし、そこからこの二枚の幕が次々と変化し震災によって荒らされた東北の地にも見えてくる。これが記憶の不定形さを見事に表現。舞台美術だけでなくシームレスにスとシーンが切り替わるのもより我々の中にある追憶らしい表現。記憶というのは物質では無い、だが演劇ユニットせのびは存在しないはずの“記憶の質感”を見事に表現。舞台表現として、幕を使った演出や舞台の下に潜ったり、観客へ喋りかけたり手数も十分でせんがわ劇場という空間を完璧に使いこなしていた。また、脚本も見事でせんがわ劇場へ向かうタクシーの中から始まり、東北の記憶の果てに再びタクシーの中へ舞い踊る。短い時間の中でも人は膨大な追憶をする。意識の流れを扱った文学の香りを漂わせながらしっかり演劇の楽しさを味わえる。
 せのびは今年の若手演劇人三冠全てのファイナリストに選ばれて全て別の作品で勝負している程の実力派。私は、せのび作品は過去いくつか見たがれそれらも見事な脚本と空間芸術を作り出そうとする意欲的な演出で素晴らしかった。しかし、『リバー』はそれらを超えて最高傑作。全て完璧に噛み合っている。

劇団野らぼう(長野県)『ロレンスの雲』 
作・演出/前田斜め
  雲を旅する老夫婦。彼らは一人の天使と出会い・・・。
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 演劇らしさを詰め込んだ、ダイナミックなファンタジー演劇。野外を専門で活動する劇団。ゼロカーボン活動を行っており、すべて太陽光発電によって生まれた電気を貯めたバッテリーで行いその説明をユーモア交えながら説明。そういった訳で劇場の設備を使わない関係上、バッテリーと音響照明のブースを舞台上に設置。コンクールはせんがわ劇場の空間をどう使うか大喜利みたいな物だが、野外のまま丸ごと持ってきますというのはとんでもない変化球だなぁと。
 この作品、『ロミオとジュリエット』がベースなのだがイマジネーションで見たことない姿に作り変える。人間による芝居と人形劇を挟み込んで、奇想天外な話をテンポよく作り上げる。舞台装置や小道具を使って、ワクワクするような世界を出現。愛の化石って発想は面白くて、あまりにも直接的過ぎる小道具はなんだかのほほんとした詩情を感じる。小技を多く使っているが、実のところ演技含めて結構オーソドックスな作品で、さんらんとはまた違った意味で演劇らしい演劇だった。


これら5作品を見ての私の受賞予想

グランプリ 演劇ユニットせのび
オーディエンス賞 終のすみか
劇作家賞 村田青葉(演劇ユニットせのび)
演出家賞 テヅカアヤノ(TeXi’s)
俳優賞 亀井奈緒@studio ALMA(さんらん)

野らぼうがはじけ飛んでしまった。野らぼうは良い演劇で全部のパラメーターが平均以上だが、特出した部分となると他の劇団に譲るかなとなる。せのびがずば抜けて良かったのでせのび一強も考えたが、やっぱり私はテヅカさんのセンスはやっぱり好きだし、終のすみかの会話劇は観客に好まれるだろうと思ってこうなった。亀井さんは、今回の俳優陣だとほぼ一強。さぁ、結果は


グランプリ 劇団野らぼう
オーディエンス賞 終のすみか
劇作家賞 前田斜め(劇団野らぼう)
演出家賞 前田斜め(劇団野らぼう)
俳優賞 武田知久@文学座(終のすみか)

野らぼう祭りじゃねぇか!

公社が5劇団で唯一無冠になるだろうと予想したけど結果は無双ということで、結局私は世間一般と感覚がずれてんのね。
今回の中で最も演劇のダイナミズムを実践していたのが野らぼうなのでグランプリなのは納得だし、物語らしい物語なので劇作家賞も納得。でも演出家賞は、欠点はあるが姉妹の軋轢をイマジネーションたっぷりに描いたTeXi’s、記憶という曖昧な物を可視化したせのび、を超えてオーソドックスな野らぼうというのはそうなのねって感じ。せのび、これで三冠全敗だが島田雅彦みたいに落選全集みたいなひとまとめした公演をやって元をとって欲しい。
 武田さんは確かに作品の要ではあるが、であるならば高橋あずさ(終のすみか)との同時受賞であるべきだ。あれは二人の抜群のコンビネーションによって作り出されているのだから単独受賞はちょっと違和感。
 ただ、オーディエンス賞は当たったので良かった。正直メインの賞をあげるには終のすみかはまだ他団体に及ばないが、観客に愛されるという意味では他団体に負けない魅力がある。

 実は公社、前田斜め氏は野らぼう旗揚げ前から知っている。というのもかつてクォータースターコンテストという映像演劇のコンテストがあり、公社が誕生するきっかけとなる大会なのだが、第6回の準グランプリが前田斜め氏の『僕は風になって君の家に入り込むから窓は開けておいてくれ。もし開いていなかったら上空で待機して君が家から出てきた瞬間に吹くよ。』である。

そういうこともあって、あの頃見ていた人が東京のコンクールで頂点に立つというのは感慨深いものである。
 そういえばこれで、4年連続で非東京劇団のグランプリである。
内訳は埼玉(公社流体力学)、埼玉(ほろびて)、大阪・兵庫(階)、野らぼう(長野)。
まぁ公社とほろびては公演自体は東京で行うので純粋な地方劇団だと2年連続となる。
 因みに今年の演劇人三冠だと、若手演出家コンクールを名古屋のニノキノコスター(オレンヂスタ)が獲っているので非東京が2冠。こういうコンテストは出場さえできれば地方と東京の溝関係なく同じ土俵に立てるので皆出るべきである。
是非とも今後の開催もしばらくの間アーカイブを残してほしい。(野らぼうがアーカイブ無しなのは同公演で全国ツアー中だから?)。
公演を一見さんに見てもらうのは大変だ。しかしコンクールのお墨付きででまとめて若い劇団を知ってもらうチャンスなので、地域の垣根を越えて知名度が上がる。また逆に地方劇団がこのコンクールを知るチャンスに繋がるということもある。

来年、野らぼうと終のすみかが舞い戻ってくる
そして去年の階、安住の地が今年舞い戻ってくる。見逃すな

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